表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/102

55 生存の理由

ノイジーが教えてくれた場所には、見慣れた人物が!生きているのか!?



 ワンワン!ワン…クゥンクゥン……ペロペロペロ


 洋子さんが地面の穴から助け出したかずちゃんの顔を、ノイジーが舐め回す。その隣にマスター、川上さんが横たわる。脈があるので大丈夫だ。モヤも出てない事から、気絶しているだけだと判断出来る。


 小さなマルチーズのノイジーでは、引き上げる事が出来なかったのだろう。穴はそれ程深くなく、一部が滑り台の様に削れているから、大型犬なら引き上げる事も可能だろう。


 ノイジーが悲しそうな鳴き声を出しながら、かずちゃんの顔をまだペロペロしている。まだ起きる気配はないようだ。しかし、なぜ二人がここに?しかも川上さんと一緒に。マスターの奥さんはどうしたのだろうか?そんな事を考えながら、辺りを見渡してみる。


「稜くん、ノイジーは凄いよね。…川上さんが生きてて良かった。」


 ボクもそうだが、洋子さんにも思うところがある様に聞こえた。街を出発するまで顔も見せてくれなかった川上さん。その原因であるボクは、彼女に許してもらえていないままだ。謝罪すらさせて貰えていないから、死なれては困る。何より一緒に組織と戦う仲間だから。


「う……ぅう…。あ、あぁ、い、伊町さん?私は、生きている…そうか…和美が…」


 先にマスターが目を覚まして、ボク達を見て安心したのか、独り言みたいにそう呟いた。その無事な様子を見て、焼け野原になったこの街で、よく助かったものだと、改めて感じた。


「マスター、傷は治しましたが、疲れまでは癒えませんので、無理しないで下さいね。…ところで、奥さんはどうされたのですか?」


 ボクには、一つだけ懸念している事があった。『種子』の受け継ぎ条件である『双子』というキーワードだ。


 『真咲 奈々子』とマスターの奥さん、木本和枝、旧姓『真咲 和枝』、この二人は双子であったからだ。


 この地の惨状はおそらく奈々子の仕業と思われる。その奈々子が、この地に来ていたマスターの奥さんを連れ去り、世代交代の儀式を目論んでいるのではないかと、ボクは考えている。


 善さんが言っていた様に、奈々子は『悪』から『傀儡芽』を貰い受ける事に成功している。通常、善さんや『悪』は、チカラの付与以外で人に関わる事をしないと聞いている。


 これらの事を踏まえて、奈々子はそのチカラだけでなく、『悪』をたぶらかす狡猾さも持ち合わせている。世代交代の儀式を、自分か、あるいはマスターの奥さんに仕向けさせるのも容易い事だろう。


 考え込んでしまうボクを他所に、何かを確かめる感じで、マスターがかずちゃんの手足に触れていた。無事を確認している様に見える。それが終わると一つ息を吐いて、ボクを見上げた。


「また助けてもらいましたね。ありがとうございます。…ぁ、妻は亡くなりました…。」


 そう言って、マスターは、堪えていたであろう涙を溢れさせ、俯いたまま声を殺して泣き出した。


「ごめんなさい!我々がお呼びした事で巻き込んで!…。本当に…。」


 いつの間に目覚めたのか、マスターのその様子を見たであろう川上さんが、謝罪の言葉を投げかけた。その最後は嗚咽で聞き取れなかった。

謝罪に添えられた言葉で、彼女がマスター達をこの街に呼び、その後悔の念が彼女に覆い被さっているのだろうと、容易に想像できる。そう考えていた時、かずちゃんの目がゆっくり開いた。


「うん…?お父さん?……、お母さんは?……ねぇえ、お父さぁん…私頑張ったよ?ねぇお母さんは〜ねぇぇぇえ……わぁぁぁぁん…おかぁさぁーん……」


 かずちゃんの母親を思って涙する姿に、ボクも胸が痛くなり、一緒に涙していた。その場にいた全員がしばらく泣き崩れてしまった。



 あれからボク達は、街中心部からかなり離れた場所に来ている。この辺りの被害は少ない様だ。家もまばらに残っているが、中心部から飛んできたと思われる瓦礫が刺さったり、風穴が空いたりした家が多い。


 その更に奥へ行くと、ボク達の家が残っていた。川上さんの自宅は、二回部分に街路樹が突き刺さっていた。改めて、中心部で起きたであろう爆発の凄まじさを思い知る。因みに、ボク達の家は無傷だ。


 落ち着く為にも、とりあえず家で、かずちゃんを休ませる事にする。母親を失ったショックで、また気を失ってしまったからだ。

背中におぶさる、かずちゃんの為にも、マスターが『私がしっかりしなくては』と、強がりにも聞こえる決意を口にしていた。



 家に入ると、街の惨劇が感じられない程に、ボク達が出発した時のままの雰囲気を残していた。

今は洋子さんがキッチンに入り、お茶の用意をしてくれている。ボクは黙り込んだままの川上さんの肩を掴み、テーブルにつかせた。その背中は重い雰囲気を纏ったままだ。


 何も言えずテーブルにつくボクの後ろから、足音が近付いてきた。かずちゃんを二階の部屋に寝かせて下りてきたマスターだった。しばらく沈黙が続いたが、洋子さんがお茶を持ってきてくれたので、ボクから口を開く事にした。


「二人とも大変な目にあったのでしょう、まずは今後の事を考えていきましょう。亡くなった方々の為にも。」


 そう、打ちひしがれている時では無い。非道にも聞こえるかもしれないが、奈々子が動き出した以上、悠長に構えている時間は無いのだ。下手をすると、国が滅びる結果になり兼ねない。それどころか、世界規模かもしれない。


「改めて、伊町さん、ありがとうございます。まだ妻がいないという実感がないのですが、現実は受け入れてるつもりです。大丈夫です。」


「私も…、個人的な感情で、色々と見失ってしまいましたが、これからの事に身を引き締めて取り組みたいと考えています。ですが…。」


 心配しないでくれ!と言わんばかりのマスターの言葉に続き、口を開いた川上さんが、そこまで話して言葉を切った。思いつめた顔をしているが、その目はしっかりボクを見ていた。


「自分に…ケジメをつけてから…にしたいと思います。」


 決意を感じられるその言葉を口にするも、その視線はボクから外れていない。そして息を小さく吸い込み言葉を続けた。


「伊町さんが好きです。でも洋子さんという素敵な女性に敵う事はありませんでした!この気持ちだけでも、覚えていて下さい!」


 飲みかけていたお茶が、ボクの口まで届かずに、テーブルの上へとした溜まっていた。突然の告白で驚かない筈がない。薄々気付いていたが。


「稜くん、ほらもう。……えぇぇぇぇん…。」


 ボクがこぼしたお茶を、そう言いながら健気に拭いてくれていた洋子さんが、突然泣きながら抱きついてきた。


 あわわ…えとえと?…どうしよ…。


 二人の突然の言動にオタオタするボクがいる。その様子をジトーっとした感じのマスターの冷めた目がボクを見ている。助けていただきたいものだ。


「洋子さん、私も頑張ったと自負しています!正々堂々と戦い負けました!えへ。」


 川上さんの潔い敗北宣言に、更に泣き出す洋子さん。最初に川上さんに会った時から気にしていたから、やっと緊張の糸が切れたのだろう。


 ボクが言ってはダメだと分かるけど、この目でしっかり見せて頂きました!女の戦いってものを!


 全く話が進まない事は誰も気にしていない様子。ノイジーだけが、餌の催促行動を進めていた。



 ようやく洋子さんが落ち着いたところで、マスターに事の経緯を話してもらう事にした。


「あの女、妻の双子の姉妹『奈々子』が喫茶店に来るという情報が入り、以前から知っていたマツバコーポレーションに助けを求めたのです。すると、こちらの川上さんも私達を探してたとお聞きして、私達の保護を条件に、迎えに来て頂いたのですが、この街で奈々子が待ち構えていたのです。そして…。」


 端的に説明してくれたマスターは、そこまで話して口を(つぐ)んでしまったが、そこから先はこの街の中心部を見たので大体分かる。


「では、どうやってあの状態に?しかもほぼ無傷でしたね。」


「あぁ、それは和美の『音壁』で。ですが……。」


 ボクの質問にそこまで答えたマスターが、またも言葉を失って黙り込む。


「その時、逃げ遅れた私を、奥様が和美ちゃんの方へ突き飛ばして、それで…私の代わりに…。」


 言葉が続かないマスターに代わり、川上さんが後を話してくれたが、その彼女もまた同じ様にふさいでしまった。


 逃げ遅れた川上さんを奥さんが犠牲となる事で助けた。その方法がかずちゃんの『音壁』だったという事みたいだ。しかし、全員が気絶する程の威力だった…と。

奈々子はなぜトドメを刺さなかったのか?そこが少しひっかかるところだ。



悲報に胸を痛める主人公、これからの事を考えると、泣いてばかりもいられない!打倒奈々子を果たせるのか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ