54 ハプニング
出だしから何やら大変な事が起きたかの様な会話だが!?
「ゆうこさん!…善さん!」
「分かっています、先にお二人には飛んでもらいますよ!シャクシ、頼みましたよ!」
「承知しました。では参ります!」
何処からか再度現れたシャクシさんが、善さんから出された指示に従い、ボクと洋子さんを巻き込むようにつむじ風で包んだ。その瞬間、風の壁の向こうに、親指を立てニコリと微笑むゆうこさんが見えた。
そして、世界がグニャリと歪み、風の壁が弾ける様に無くなると、ボク達は先程とは異なる場所に立っていた。しかし、その場所は……。 「これは!いったい…。」
〜 数時間前 〜
また善さんから罰を与えられたゆうこさんが、今度は滝が見える丘の草刈りをしている。善さんの楽しみを邪魔したとして。罰を与える基準がズレていると感じるが、最初にゆうこさんが、『婆さん呼ばわり』した事が原因に思えてならない。こちらが『悪』なのか!?と思ってしまった。
洋子さんは善さんの処置を適切だと言っていた。こちらも怖い。この地で唯一何も言えないボクは、触らぬ神に祟りなしの精神をモットーに、健気にカマドの掃除をセッセと頑張っている。
洋子さんはボクの助手…。は、やりたくない!と言って、善さんと食事の下ごしらえをしている。何でも、カマドの掃除はスス臭くなるかららしい。多分ボクの顔も、昔の炭鉱夫みたいに、真っ黒な顔に違いない。趣味の悪い笑い声が二人の方から聞こえる。
シャクシさんが消えた後、こんな調子で穏やかな時間を過ごしていたのだが、突然の轟音でそれも壊されてしまう事に。滝の方からだ。
ボクが確認しようと、外に飛び出した途端、ゆうこさんの後ろ姿が、こちらに迫ってきていた。
「わわわ、わっ!!」 ザザザザッ!ズザッ!
後ろ向きのまま、地面を滑る様にこちらに迫っていたゆうこさんが、途中後方に宙返りして、着地と同時に地面をえぐりながら、ボクの目前で止まった。
「稜くん、逃げろ!!こいつはマズイ!はやくっっ!!」
ゆうこさんの突然の指示に理解が追いつかず、一瞬ボーっとしてしまったが、ゆうこさんの肩の向こうにいる人物を見て、脳が事態を把握した。
丘にはあの『真咲 奈々子』が立っていた。
どうやら、あそこからゆうこさんを吹き飛ばしたのか、と考えている時、奈々子の声が飛んできた。
「へえ〜ぇ、お前なかなかやるぅ〜。でもさぁ〜あ、指一本弾いただけでそこまでぶっ飛ぶ〜ッハハハ!ウケるんだけど〜ぉ、ヒャハハハ!後ろの稜く〜ん、出てきな〜んふふふ。」
そう言って、丘からこちらに向かって来ている奈々子が見えた。ゆうこさんが指一本でここまで弾かれる程の強敵だ。因みに、ここから丘まで、二十メートル程あるはずだ。
「あらあら、シャクシを気取ったのはお前ですね。アタシの子供達に手を出すとは愚かですよ。」
そう言って前に滑り出るのは善さんだ。洋子さんもボクの前に来て、戦闘の構えに入っている。その洋子さんと交代とでも言うように、ゆうこさんは飛び出して、善さんの傍に立った。
「ゆうこさん!…善さん!」
という事があり、シャクシさんにこの場所に連れてこられたのだが、まるで焼け野原だ。ここは間違いなく、『松林半島』の街だった所だ。
ビルなどの建物が消し飛び、瓦礫すら消滅したかの様に、地面は真っ平らだ。間違いなくこの場所に、街はあったのだ。
所々から立ち昇る黒煙と、街路樹だったはずの木の根が、剥き出しになり燃えているのが、その証拠である。
ボク達が今いる場所は、どうやら中央指令センターの近くのようだ。ドーム型の建物があったであろう所に、大きな円を描く瓦礫の跡が、ここから確認出来る。
洋子さんもどこだか理解出来ている様子だ。シャクシさんは表情を変えないので、心境を察する事が出来ないが、深い緑の髪が、燃え盛る炎の様に風でユラユラとなびいている。その様が彼女の心境に思えてしまうのだった。
「稜くん…、街が……。ね、これどういう事!川上さんは?」
そうだ、洋子さんの言葉で、不安で心が一気に染められていく。幾ら何でもこの状況で助かる人間なんていない。そう思えるのは、実際に所々から人間の『ソレ』と分かる一部が、先程から視界に映っているからだ。
まるで一瞬で消し飛んだかの様だ。おそらく思考が追いつく前に、死が人々を飲み込んだに違いない。ボクは心の中で、不本意に旅立たされた人々のご冥福をお祈りした。
こんな事が出来るのは、ボクの知る限りでは奈々子しかいない。ボクが夢の中で身をもって経験した、『爆裂』が思い出されてならない。
そんな思考を巡らせているボクに、洋子さんが尋ねてきた。
「ねね、稜くん、何か聞こえない?……。ホラ、今の…。ほらほら!」
ワンワン!……、ワン、ワン…ワンワン!
本当だ、確かに聞こえる。これ…犬の?もしかして!?
「ノーイーーージィィィィィィッ!!」
洋子さんが指令センターの方へ向かって、突然叫んだ。び、びっくりなんてしてないのだ。平気なのだ。本当だ。
そんな事よりも、姿も見えていないのだが、洋子さんは鳴き声で分かるのか?と少し疑問と感心が入り混じった、不思議な感覚に捉われる。
ワンワンワンワン!!ワンワンワウン!
かなり鳴き声が近くなった。ノイジーかもしれない。さすが洋子さんだ。少しセンターの方へと歩み寄っている姿を見て、洋子さんにはノイジーが見えていると確信する。
ワンワンワンワン!ワワン、クゥンクゥン…ワン!
あれ?…ボクの足元にいるよノイジー…。洋子さんやーい…。
全くもって適当な洋子さんだった。叫ぶ貴女の後ろからキマシタガ?
「ノイジー!ここにいたんだ!良かった!」
おい!少しはいい加減さに気付いてくれっ!
「どうしたの?稜くん。ね、ノイジーいたでしょ!」
少し横になりたい気分だが、人生谷あり谷ありの連続だ。ここは何事も無かったフリでいこう。そう思い、シャクシさんの方へと視線を向けると、笑顔でノイジーを見てた!が、ボクに気付くと、一瞬で元の無表情になる。
「し、シャクシさん?今、笑ってましたよね?ボクが…気に触る事でも…。」
「い、いえ。御前様のお気に入り様に、不満などございません。ただ…。御前様に申しつかっているのです。お気に入り様に笑顔を見せてはいけませんよと。笑顔を見せていいのは御前様だけだと仰いましたので。不満はございません。」
そ、それは…、個人的なエゴが命令として受理されておいでで?善さん…何を…。
「いや、ボクが不満に思うから、シャクシさんは笑顔でお願いします。」
「は、はい…かしこまりました。」
そう言って笑顔を見せてくれるシャクシさんは、とても素敵な笑顔の持ち主だと分かった。
「や!ダメダメダメぇ!稜くんは私のよ!シャクシは分かってる?」
「はい。洋子様はお気に入り様の下僕だとお聞きしております。」
「げ、げ、下僕ぅ!?」
洋子さんが怒るのも無理ない。善さん、アンタ何やってくれてんだ…。
まだブツブツ愚痴をこぼす洋子さんと、笑顔でノイジーを見つめるシャクシさん。そのノイジーが、ボクのズボンの裾を引っ張ってくる。
イタズラ好きだな、と思っていたら、今度は離れてワンワンと吠える。それを何回か繰り返す姿を見て、ついて来い!と伝えている様な気がして、ノイジーに歩み寄った。
やっぱりだ、連れて行きたい場所があるんだな?よし!行ってみるか。
洋子さんとシャクシさんにも、ノイジーの意図を伝えて、一緒に行ってみる事にした。歩きながらもまだブツブツ言ってる洋子さんの手を握り、ボクの横に引き寄せると、直ぐに機嫌が良くなる洋子さん。
こんな状況なのに、平常心とまではいかないが落ち着いて行動出来るのは、こんな素敵な洋子さんがいてくれるからだ。
ワンワンワンワン!ワンワン!ワン!クゥン…。
ノイジーが足を止め、地面に空いた穴の周りをグルグル回りながら鳴き出した。そこに何かあるのは間違いないようだ。ボク達は急いで駆け寄り、ノイジーが見ている穴の中を覗き込む。
「あ!マスター!?かずちゃん!?川上さん!!」
突然の奈々子の襲撃で、先に脱出させられた主人公達が、ノイジーと再会。そのノイジーが連れて行く先には、マスター親子と川上がいた!何があったんだ!?




