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52 心配の種

洋子の手放し運転で、絶体絶命!?いやいや、彼らは無敵だ…。



 ズダダダダ!ゴロンゴロン…ベコン…。カラカラカラ……


「う、う〜ん…。稜くん…平気?…アイタタ。」


 ボクの上に乗っかっている洋子さんが心配してくれる。『治癒』があるから大丈夫だ。しかし!顔面が胸で圧迫されているから声が出せない。ある意味大丈夫ではないと言える。


「洋子、足どけなさいよ!う…イタタ〜。」


 ゆうこさんも無事の様だ。ボクは何とか洋子さんのプレス(ブレス)を掻き分けながら脱出に成功した。どうやら、あのまま地面に激突して、車がひっくり返った状態にあるようだ。

フロントガラスが大破していたので、そこから外に出る。


 出た時、思わず声が漏れた。『ここは!』目の前にある滝を知っている。ボクに続き、二人共車から這い出してきた。出て直ぐに立ち上がった洋子さんは、ボクと同じ反応を見せた。ゆうこさんは、初めてだろう。ポカンと口を開け、言葉を失ってしまった様子だ。


「稜くん、ここ善さんの創った世界よね?」


「あらあら、アタシのお庭をこんなに汚して。困りますよ。」


 ボクに問いかけた洋子さんの言葉に続いて聞こえてきたのは、おっとりとした善さんの声だ。相変わらず古びた感じの着物が似合う女性だ。百歳チョイだが気品がある。


「善さんが助けてくれたんですね!?助かりましたよ!」


 こんな事出来るのは、善さんしかいない。確か、『空間転移』だったと思う。


「それは何よりですよ。洋子に貸しが出来ましたね。さぁ洋子、お気に入りさ」


「ダメ!!善さんの頼みでも、稜くんはダメ!」


 言いかける善さんの言葉を遮り、強い口調で言い放つ洋子さん。そして、直ぐに駆け寄り、ボクを荷物でも抱えるかの様に持ち上げて、善さんから少し離れる。

 その様子を見て、善さんが少し拗ねた様子だ。手を後ろで組んで、石ころでも蹴っているかの様な、仕草をして見せている。


 善さん…。それは常に宙に浮いてる貴女には似合わない…。


「もぅ、またなの?いい加減にしてよね〜。ここどこよ?」


 実に良いタイミングで、二人の間に生じた、不穏な空気を引き裂くゆうこさん。いきなり見知らぬ場所に飛ばされたからだろう、キョロキョロ辺りを見回している。


「ここは善さんの創った世界なんだ。『空間転移』でここに保護してくれたんだ。」


 そのボクの言葉に、ゆうこさんが善さんの方へと歩み寄り、右手を差し出し、握手を求めているようだ。善さんも理解した様子で、ゆうこさんの手を取った。


「ありがとう!婆さん!やるじゃない!凄いんだね!」


 な!善さんを婆さん呼ばわりしたよ!?しかも助けてもらった分際で…。


 その言葉に、善さんも少し顔が引きつっている様に見えた。ボクを抱きかかえたままの洋子さんの喉が、『ゴクリ』と音をたてていた。それがボクの緊張を、更に増幅させていく。


「ふ、ふふふ。ちゃんとお礼を言える方は好ましいのですよ。しかし、目上の者には敬意を示さないといけませんよ。」


 一瞬、空気が凍りついたと思ったが、善さんの心はどんな海より広かった!洋子さんも安心したと分かる。抱き上げる両腕に、全身の骨が折れそうな程、込められていた力が緩んだからだ。


「ところで皆さん、何故あの様な事に?」


 ずっと見てて助けてくれたと思っていたが、善さんは何も知らない様子でボク達に尋ねてきた。そこで、情報収集に長けているゆうこさんが、今度は『丁寧な言葉』で善さんに、先程起きた、事のあらましを説明してくれた。


 ゆうこさんの説明に、思い当たる事でもあったのか?と取れる仕草で、善さんは聞き返してくる。勿論、ゆうこさんにだ。


「確かに、『種を植える』と言ったのですね?」


 善さんの問いに、ボク達の頷く様子を確認したゆうこさんが、善さんに頷いて答える。


「まさかとは思いますが……。確認するしかありませんね。『対象捕捉』……、『空間転移』。」


 いつも善さんが現れる時と同じ、つむじ風が目の前で躍り出した。転移させられた人物の姿が徐々に足元から運ばれてくる。早送りでビルの出来上がりを見ているような光景だ。

 やがて、積み上げられ完成した人物の姿が露わになる。目をハッと見張る様な、真っ白な肌が印象的な女性で、まつ毛が長く、その下の深い青色の瞳は、真っ直ぐ善さんに向けられている。


「急に呼び立ててしまい、ごめんなさいね。」


 そう言って、甲を向けたままの手を女性に差し出す善さん。それが合図だったかの様に、女性が善さんの手前で片膝を着いた。そして、差し出された手を取り、白い肌に良く映えた紅色の唇を甲に軽く押し当てた。


 その姿は、それを見ているボク達に、善さんがこの女性よりも、格上の存在だという事を知らしめている様にも見えた。


「わたくし如きにその様な言葉は不要です御前様。いつでもこの『昔姿(シャクシ)』に、御用を何なりとお申し付けくださいませ。」


 やはり、善さんに対する言葉使いに、騎士で言うところの『忠誠心』の様なものを感じる。善さんの手下というところだろう。


「あら、お気に入りさん、どう?この娘綺麗でしょ?アタシが二十五歳の時の姿よ。今で言うコピーですよ。その当時に創造したのですよ。一人は寂しいものですよね。」


「えええええ!!」(ボク達)


 善さんの過去の姿って事!?確かに気品が似ているけど、瞳の色が…。


「ふふふ、瞳の色はアタシの憧れた色にしたのですよ。」


 しまった、心で会話してしまった…。


 善さんは他人の思考が読めると分かっている為、つい、口に出さずに思考で会話してしまうのだ。この楽するクセは治さないと。洋子さん達が、毎回会話についていけず、拗ねてしまうからだ。


「あら、そうでした。シャクシ、頼みがあるのです。『悪』が後継者を選んだのか調べてきてもらえますか?『種を植える』と聞きましたので、心配しているのですよ。」


「はい。かしこまりました。しかし、それが誠であれば…。その時は御前様、どうされますか?」


「シャクシ…。いつも苦労をかけますが、その時は『受け継ぐ者』から、『種子』を取り除いてくれますか?」


「承知しました。命に代えましても必ずや!」


 時代劇を見ている様なやりとりをする、善さんとシャクシさん。あ、どちらも善さんだろうが…。

善さんに強い意志を感じられる返答をしたシャクシさんは、一瞬で姿を消して、いなくなった。


 善さん達のやりとりを見てても、状況が全く把握できなかったので説明を求めると、藁葺き屋根の家へと案内された。手慣れた手つきで洋子さんがお茶を用意してくれていた。

 それを待たずして、善さんに説明を催促する。


「善さん、『種』がそんなに重要なんですか?」


 焦りを隠せないボクの問いに、善さんが驚いた顔をして答える。


「まぁ!珍しくお気に入りさんが感情的になって!洋子の教育が足りていないのですよ。」


「ち、違います!稜くんはお母さんの事が…!ご、ごめんなさい稜くん!」


 母親の事を気にはしているが、普段口に出さないせいか、洋子さんがボクに気を使って謝ってくれる。ボクが我慢をしてると思わせてしまった様だ。


「洋子さん、ありがとう。気を使ってくれてるんだね。いつも優しいね洋子さん。でも今は、智さんや義父の無事が心配なんだよ。」


 少し思い詰めた顔をした洋子さんだが、微笑みながら頷いてくれた。


「善さん、いつも頼ってごめんなさい。でも、今回は時間が無いんです。」


 改めて自分の心境を口にしてみたが、心の在り様を相手に伝えるのは、意外と難しいものだ。ただの、焦る無作法男みたいな感じになってしまった。

 礼儀を重んじる善さんには逆効果だ。


「そんなに自分を責めないでも良いのですよ。お気に入りさんは優しいから、お気に入りさんなのですよ。ふふふ。……、『種』ですが……」


 それから善さんの話しがしばらく続いたのだが、頭が混乱したので、まとめてみようと思う。



善が使いを出してまで心配する『種』とは!?次回、主人公が上手く纏めてくれるのを待つしかない!我々は礼儀を重んじているのだ!待てる!

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