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51 襲撃、逃走。

前回からの様子と違うが、ここは?川上はあの後どうなった!?



 「稜くん、気になるのは分かるけど、何も出来る事はないよ。」


 懐かしい街を歩きながら、未だに落ち込むボクにそう言ってくれたのは、ゆうこさんだ。そう、落ち込んでいるのだ。


 洋子さんとの愛情を深めたあのキスの後、川上さんが泣きながら、走ってどこかへ行ってしまったのだ。夜まで探したけど、結局見つからなかった。今朝出発する時も、とうとう姿を見せてくれなかったのだ。


 洋子さんに気持ちを分かってもらう為、した事だけど、川上さんには酷い仕打ちにしか思えなかった事だろう。ボクは最低な男だ。しかし、ゆうこさんの言う通り、ボクに何か出来る事なんてない。洋子さんを愛しているから、川上さんの気持ちには応えられない。


「だから、男だろ?川上さんだって、時間が解決するんだって!経験者が言うんだから間違いないよ!」


 そう慰めてくれる、彼氏いない歴二十年のゆうこさん。妙に説得力がある。そのゆうこさんが、ボクの肩を突いて、洋子さんの方に目配せしていた。


「洋子にはアンタしかいないんだから、どうにかしなよ。男らしくさぁ。」


 ボクは自分の事ばかりで、悲しそうに俯いて歩く洋子さんを、放ったらかしてしまっていた。ボクは慌てて駆け寄り、手を握り声をかけた。


「洋子さん、心配させてごめんね。」


 落ち込むボクに声をかけ辛かったのだろうと思い、申し訳ない気持ちで謝罪した。その言葉に、ゆっくり顔を上げて、ボクを見る洋子さんの目に、涙が溜まっていた。


「稜くんが、後悔してないかなぁって…。無理してるなら嫌だから。」


「ち、違うよ!洋子さんを愛してるのは本当だよ!他に興味ないよ!」


 つい大きな声で、洋子さんの勘違いを否定してしまい、道行く人が驚きの目を向けてくる。


「りょ、稜くん…嬉しいけど、恥ずかしいよ…。ありがとう。」


 恥ずかしそうな顔をしてそう言う洋子さんは、ボクの手をギュッと握り返してくれた。後ろからゆうこさんの声が聞こえてくる。シャツの胸元をパタパタさせながら、『あーあちぃあちぃ。』と言っていた。


 男だろ!って言ってたよね!?ひどいよ〜…。


 それから、洋子さんの心配も無くなったようで、ボクの腕を抱きしめてはしゃいでいた。川上さんには、いずれキチンと謝っておこうと、心の奥にしまった。



 久し振りに見る病院は、相変わらず人々の出入りが多かった。ボク達も、その流れに身を任せ病院の中へと入っていった。目指すは青木がいる診察室だ。


 シャァァ…ダン!!  「な!お前達は!?なんだ一体!」


 勢いよくスライドドアを開け中に入ると、椅子から転げ落ち、腰を抜かした様に床でバタバタする青木医師。顔を見るなりこれだから、どうやらボク達が、これまでどうしていたかも知っている様子だ。


 逃げようともがく青木を、ゆうこさんが右膝を青木の喉に落とし、右手で髪を乱暴に掴み上げ、自由を奪った上で口を開いた。


「橋本の遺体を引き取ったのは、お前だな?ウソつくとマトモに喋れん身体になんぞ。」


 ゆうこさんがいつもの口調ではない。普段から口が悪いと思っていたが、今の殺気が感じられる様な口調と比べたら、普段の方が優しい。お友達で良かったです。はい。


「ひっ…。そ、そ、そうだよ!藤永さんがこ、困ってたんだから、仕方ないだろうが!」


「そんな事ど〜でもいい、理由を言え!このクサレ野郎が!!」


 ゆうこさん…彼氏がいない理由が…分かる。 怖い。


 真面に答えない青木に苛立っているのだろうが、左手で『みぞおち』をあんなに殴れば、普通は話せないほど苦しいとおもうが。


「わ、わがっ、わがったがら、やめ…」


 話しかける青木を他所に、更に続けるゆうこさん。キレすぎている様子だ。


「ゆうこ、何か言おうとしてる…。」


 洋子さんの言葉も耳に入らないのか、まだ続けるゆうこさんに、洋子さんが低い声でこう告げた。


「ゆうこ?…、止めろっつってんのよワタシ…。無視してんの?…あ?」


 よよよ、洋子さん!?こ、怖いよ〜…。この場でビビりは青木とボクの男衆だけだよ〜。


 洋子さんのその声に反応した様に、ゆうこさんの手が止まり、その手で頭を掻きながら口を開く。


「ちょ、冗談だよ〜!よ、洋子?ご、ごめん。悪かったよ…つい…。」


 ボクは忘れていた。いつもボクに優しい洋子さん。口の悪いゆうこさんは喧嘩っ早い性格だけど、昔から洋子さんには、敵わないと、ゆうこさんが言っていた事を。

その洋子さんがキレかかって、ゆうこさんを見下ろす姿勢で立っている。調子悪そうに答えたゆうこさんに加え、青木までアワアワしていた。


「青木医師、理由…、教えて下さい。」


 洋子さんが纏う雰囲気は架空の存在『鬼』をイメージさせるが、その口から出た言葉は優しい感じがした。その正反対のギャップが更に恐怖心を煽っていたりする。


「はい…。藤永さんが、お、女が取りに来るって…ま、ま、真咲奈々子って、女です。その通り女がき、来ました。どうするのか、き、聞いたら、『種』を植えるとか…わ、私にも意味は分かりません。それだけ言うと、遺体を持って、き、消えました。」


 やけにおとなしくなった青木が、声を震わせながらも答えてくれた。少し気の毒だが、組織の一員である以上、まだ聞かないとならない事は、いくつかある。


「青木さん、ボクの質問にも答えてもらいます。橋本の居場所です。松林智さんを連れ去って、隠れている場所です。」


「稜くん、ここまでよ、行かないとマズイ。」


 ここまで辿り着いたのだが、昼間から診察室を襲ったのだ、通報されるのが当たり前だ。その他大勢の民衆にとって、悪者は我々なのだから。洋子さんの言葉に従い、急いで診察室から逃げ出した。



 シツコイ追跡を振り切り、元の職場である、ホームセンター裏駐車場まで来ていた。逃げる事に夢中で走っていたのだが、通い慣れた職場だ、習慣とは恐ろしいものだ。

 走り過ぎて肩で息をするボク達に、後ろから声をかけられた。


「伊町さん?…。あ、やっぱり!どうしたのよ!大変よ貴方達。テレビでニュースやってて、指名手配されてるわよ!?」


「えええ!?」(洋子さんとボク)


 そう教えてくれたのは、入社当時、ボクの教育係だった、松田さんというベテランパートの女性だ。その言葉に驚いたのは、ボクと洋子さんだけだった。ゆうこさんは、『だから何よ』と言わんばかりの顔で、こちらを見ていた。肝っ玉の大きさはゆうこさんに軍配が上がる。


「ありがとう松田さん!元気そうで良かったよ。」


「それより伊町さん!逃げないと!ほらこれ。壊れても気にしないのよ。保険で何とかなるから。頑張って!」


 そう逃げる様に勧めて、マイカーのキーをボクに預ける松田さん。昔から面倒見も恰幅もいい女性だ。ボク達はお礼を言って、ありがたく車を使わせてもらった。


 自分の足で走るより、遥かに速いのだが、車は走れる場所が限られてる。洋子さんのドライビングテクニックで、何とか逃げ切れてるが、後ろにはパトカーの行列が出来ている。


「洋子!前からも来るわよ!?」


「ちゃんと見えてるってば!それより、稜くんしっかり守ってよ!」


「分かってる、ちゃんと強く抱きしめてるから心配すんな!」


 少し意地悪そうに洋子さんにウソを伝えるゆうこさん。抱きしめられていないのだ。足で背中を押さえ付けられてはいるが。


「ええ!?稜くんは私が守るー!」


「だーっ!!洋子さん!?前、前ー!」


 ゆうこさんのウソを真に受けて、運転放棄をしてまで、ボクの奪還行動に移る洋子さん。それはボクにとって幸せなのだろうが、車には不幸が訪れようとしているのだ。つまり、ボク達全員危ないのだ!


 またもや空飛ぶ車の中か…。スーパータクシー…懐かしい…。じゃないだろー!!わあー!


 運転放棄され、安定性を失った車は、道路を左斜めに突っ切り、見事にガードレールの合間を縫って、宙に舞った。おそらく『松田カー』にとって、初のジャンプになるだろう。これも経験だと思って堪えてくれ。スマン!『松田カー』。


青木から聞き出せた情報は、たった一つだが、また耳にしたあの女の名前。そして『種』とは!?

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