50 残された綻び(ほころび)
いちいちカンに触る女の言葉が気になる主人公。コントロールルームで手掛かりは見つかるのか!?
昨夜の夢で『奈々子』が言っていた事が頭から離れない。義父は大丈夫だろうか?と、あれから何度も考える。勿論、母の事も考えない日はない。今はその所在が分からない。
今日は病院での仕事が無くなったので、中央指令センターに来ている。無くなったと言っても、クビになった訳ではない。この街の患者さんがほとんど健康になったので、やる事が無いだけだ。
勿論、今日も病院は他の患者さんを受け付けている。妊婦さんだ。何かあれば、携帯に連絡が入るようになっているから大丈夫。
今はゆうこさんの作業を後ろで見ている。昨夜の夢の話しを二人にも聞かせたので、洋子さんもここで作業を手伝っている。島でも見たような、コントロールルームだ。
何かに反応して鳴る電子音や、データを紙に打ち込む機械の音。二人が弾くコンピュータのキーボードの音等が、心地よいリズムを刻んでいる様に聞こえる。かと言って踊ったりしないし、踊れない。
真剣な顔の洋子さんも素敵だなぁと、また見惚れてしまった。ゆうこさんは…普通。
二人が頑張っているというのに、つい不謹慎な事を考えてしまう。そう言えば、洋子さんはいつもボクにイタズラするよね?と自分に問いかけ、後ろから洋子さんの目を覆い、『だ〜れだ』をしてみた。
「ん〜とね〜、ノイジー!」
ノリが良い洋子さんだが、ノイジーは喋らない。
「ちょっと!!アンタ達!イチャつくなら出て行け!!」
ゆうこさんが怒った…。ボク達は、息抜きと称してコントロールルームから席を外した。
「うふふ、怒られたね!稜くんがイタズラするからだよ〜。」
「洋子さんだってノってきたじゃない。でもごめん。」
イタズラは、時と場所を選びましょう。と、良い感じの標語が出来た時、自販機を見つけた。二人で缶コーヒーを買って、フカフカのベンチに腰を下ろす。
「大丈夫だよ稜くん。今日はゆうこアレだからね。いつもああなるの。ふふふ」
アレ?どれだろう?いつもって…、ああ!毎月のアレか!怒りっぽくなるのかな?
男には分からん!と心で叫びながら、缶コーヒーをグイッと一口。少し横から溢れたコーヒーを、洋子さんが拭き取ってくれる。身の回りの事を、こうやってお世話してくれるので、いつも助かっている。
ボクは昔からそうだが、自分の服や髪型、汚れる事など、あまり気にしない性格だ。鏡も朝から見ないから、たまに自分の顔を忘れてしまう。という事はない。『我を忘れる』という事は何度かあるが、洋子さんが危険な時だけだ。
「稜くん?また何か考えてた?わ、私の事なら、…その、イイなぁ…なんて。」
「あ、良く分かったね。不謹慎かもだけど、落ち込むよりいいよね。」
いつも何気なく大胆な洋子さんは、こういう時は、恥ずかしがり屋さんなのだ。嬉しそうな顔をしながら、缶コーヒーを飲む洋子さん。
「あ、そうだ稜くん。いつもね、洋子さんって言ってくれるのは嬉しいんだけどね、私は、若くなったでしょ。だから、その、よ、洋子でいいよ!」
恥ずかしくても頑張って伝えてくれたのだろう。洋子さんの顔が赤くなっているし、最後の方が、気合い入っていた感じがする。
「う、うん。分かった。じゃあボクも稜でいいよ。よ、ようこ。」
二十二歳にもなって、名前呼ぶだけでこんなに緊張するとか!!顔が熱い!!
「あ、ありが…と稜くん。あ、…と、り、りょう。」
そう言った洋子さん…、おっと、洋子も顔が真っ赤だ。お互いその後会話は出来なかった。洋子も緊張していたに違いない。その内自然に呼び合う日が来る事だろう。
その後、ちょとした幸せを胸の奥にしまい、コントロールルームへと戻った。
「アンタ達が自販機の前で、イチャイチャしてた間に、面白いモノ見つけたわよ。」
見てたのかっ!と、ツッコミたくなる気持ちを抑えて、ゆうこさんの弾くコンピュータを覗き込んだ。洋子も同じ様に見ている。
「ほら、ここよ。」と、ゆうこさんが指し示す箇所に『青木 よしひこ』とあった。
青木よしひこは、ナミちゃんとボクの担当医だ。何故?
「何が面白いかだけど、橋本は病院で死んだって言ったわよね。搬送先の病院は、奥さんであるともこさんが入院してた病院で、彼女の精神状態が酷かった為、死亡報告はしていないの。本来なら家族に引き取ってもらうんだけど、さっき言った様に、彼女じゃ無理。で、基本そういう時は、役所に相談してどうにかなるのだけど、役所が関与していないのよ。」
そこまで話し喉が渇いたのだろう。彼女は缶コーヒーを一口飲み、話しを続ける。
「これはその病院のデータなんだけど、パスコードに手間取ってね。ま、いいや、でね、橋本の遺体を、青木が引き取りに来ているの。ここにサインがあったでしょ。おそらく遺体を青木に渡したのは、『藤永』よ。稜くんに青木を紹介した男。」
そう、藤永医師は、ボクが越した街の病院を世話した人だ。以前青木が、屋上で話しているのを洋子に相談したら、その電話の相手が藤永医師だろうと、教えてくれた事があった。この医師も組織の人間だ。これはずっと後になって、洋子に教えてもらった事だ。
「ゆうこ、青木が橋本の居場所を知っている可能性は無いかな?」
「おそらく青木は何か知っているはずよ。それがダメなら藤永に聞くしかない。」
ゆうこさんの面白い事の発見で、今後の行動に目処がついた。この二人の会話はその後も続いた。特に大した事ではない。自販機での事をゆうこさんがアレコレ洋子に尋ねていただけだ。
今後の事も兼ねて、川上さんに報告しようと提案したら、ゆうこさんはもう少し調べると言って、コントロールルームに残った。狙撃や戦闘もそうだが、情報収集も長けた人だと改めて感心した。
「よ、よ、洋子、その、ごめん、まだ慣れなくて。えっと、川上さんのとこ行くけど、大丈夫?」
「え、ええ、大丈夫だよ。り、稜くん!やっぱりこれが呼びやすい…ごめん。」
「洋子さんも!?あ、ハハハ…ボクもまだ洋子さんと呼ぶのがいいかも。」
何なのだろうかこの会話?と自分で思いながらも、改めて呼びなおす。
「洋子さん!」 「稜くん!」 「アハハハハ!」(二人)
「やっぱりまだこれでいいね!稜くんごめんね。えへへ。」
うんうん、可愛いからいいよ〜。えへへをありがとう!
その後、洋子さんと手を繋いで川上さんがいる『臨時司令本部』と書かれた看板が立つ、テントへと向かった。向かったと言ったが、中央司令センターの真ん前だ。しかもテント。
「こんにちは川上さん!お疲れ様です。少しお時間良いですか?」
テントだが、意外と人が詰めかけて来ていた。その列に並んで川上さんに話しかけたのだ。クールな川上さんが、何だかやつれて見えた。
「あっ!い、伊町さん。お疲れ様です。時間ですか?…少しなら。」
驚いた様に挨拶を返してくれたが、髪をササッと指で掻き分けるようにして整え、恥ずかしそうに俯いてしまった。その様子が、身なりを気にする間もなく、押し寄せてくる人の対応を頑張っていたと感じさせた。
少しテントの後ろで待つ様に言われ、洋子さんと一緒に腰を下ろして待つ事にした。やけに洋子さんが密着してくるが、顔が不安そうだ。
「洋子さん、どうしたの?心配事でもある?」
「あ、ううん……、稜くん…本当に川上さんの事、何とも思ってないの?」
やっぱりそれか。と確信した。人質の川上さんを助けた時、彼女が抱きついてきたから、それをまだ気にしてるのかもしれない。何度も洋子さんが好きだと伝えているのだが。
以前と同じ様に、気持ちを伝えようとした時、川上さんがこちらに歩いてくるのが見えた。もし、川上さんが、ボクの事を思ってくれていたら、酷いと思われるかもしれないが、洋子さんが一番大切だし、それを伝えるには……
「洋子さん、愛してます…」
ありったけの気持ちを込めてのキス。
洋子さんにしてあげられる、ボクの精一杯。
「り、稜くん…。私も愛しています。」
洋子さんからも、お返しのキスをもらった。川上さんごめんなさい。ボクの勘違いであってほしいと思いながらも、そう心で謝罪した。
ようやく橋本の謎を解く糸口を見つけた主人公達。この後川上さんは!?




