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49 新たな脅威の影

今回は、善、再び登場!


 あまり気乗りはしなかったのだが、試しに『善』さんを心の声で呼んでみた。風がツムジを起こし、その中に人影を落とす。ゆっくり下から色付く影は、『善』さんの姿を徐々に運んできている様に見えた。


「ずっと待ってましたよ。ふふ、久しぶりでしたね、お気に入りさん。」


 風に乗って現れた『善』さんは、相変わらずのおっとりとした口調だ。


「お久しぶりです。まさか、本当に呼べるとは思っていませんでしたよ。」


 今いる場所には誰もいないので、再開を喜び、軽くスキンシップを試みる。


「あらあら、嬉しいですよ。殿方に抱きしめられたのは、いつ以来でしょうか。」


 いやいや、軽いハグだから…。昔の人には、さほど変わらないのかな?


 『抱きしめられた』の言葉に、今更ながら恥ずかしく思えた。その気持ちを悟られまいと、軽く咳払いをして、心を落ち着けてから、気になっている事の話しを切り出した。


「呼び出して早々に(せわ)しい男だとお思いかもしれませんが、質問があるんです。」


 お茶も出さずに本当に失礼なボク。こちらに視線を向ける『善』さんに、続けて言う。


「ゆうこさんの件で、『善』さんが連れてきた男の事です。彼を調べてみたのですが、過去に亡くなっていました。生き返ったと考えるなら、『善』さんがそうしたのかと。」


 こういう事は、直球投げた方が分かりやすい。ストレートに聞いてみたが、『善』さんは動じる事なく答えてくれた。


「前にも言いましたが、アタシはお気に入りさんにしか、興味ありません。貴方にゆかりある者は別ですが、あの方とは、あれが初めての面合わせでしたよ。」


 普通に知らんと言ってくれたら…。あはは…、これじゃ、妻の浮気を疑う夫だ…。


「あら、違いましたか?ふふふ。浮気しませんよアタシ。それより、たまにはアタシも誘って頂きたいですよ?洋子との婚姻は認めますが、アタシを放っておくのはだめですよ。」


 あぁ。思考を読んで、更に保護者口調で、ひいひい孫程のボクを誘うのやめましょうよ『善』さん。


「ぷぅ〜!失礼ですね。まだ百…チョイですよ。」


 あ、サバ読もうとした!読むのは思考だけにして下さい。


「ふん!ですよ。お気に入りさんの事はもう知りませんよ。」


 そう言って、拗ねてしまったのか、『善」さんは消えてしまった。


 バンッ!  「稜くん!…いたー!!」


 『善』さんが消えたと思ったら、勢いよくドアを開けて、洋子さんがボクに飛び込んできた。何も伝えてなかったから、心配をかけたと反省した。ボクは洋子さんに謝り、先程の事を伝えた。


「私もそう考えていたんだけど、じゃあ別人かな?」


 固定観念が、とか言っておきながら、ボクが真っ先に行動を起こしてしまった。しかし、洋子さんも、考える事はしてたみたいで、少し罪悪感が薄らいだ。


「それも考えてみた。双子とかね。でもさ…。」


 ここまで言いかけた時、頭の後ろ辺りから声がした。


「洋子とは結婚出来ないよ。他をさがしてくれ…ですよ」


「ぶーーっ!稜くんの声に似てるけど、稜くんじゃない!出てきなさい!」


 聞こえた声に、急に怒り出す洋子さん。その声に不覚にも驚いた。


「あらあら、気付くとは思いませんでしたよ。」


 『さがしてくれ…ですよ。』って気付くわ!!あんたの口調だっ!


 『善』さんに心を読まれる事は承知の上でツッコんでみた。


「アタシとしたことが…ですよ。…、洋子、アタシに貸しなさいね」


 何しに戻ったんだ…『善』さん。もはや主語として存在しないボク。


「ぜ、『善』さんでもダメです!稜くんは私がいいの!」


 だれかー止めてくれー!ノイジー、カモーン…。しかしノイジーは来なかった……。


「ちょっと!?何騒いでるの!!うるさい!!!」


 その時のゆうこさんが、天使に見えた事は、皆んなには内緒にした。



 とんだトラブルに巻き込まれそうになったが、ゆうこさんのおかげで、『善』さんは帰り、洋子さんも部屋に戻った。ボクは、『一人で考える』と洋子さんに伝えて、一人、リビングで腰掛けていた。


 それにしても…ボクの女難の相って、『善』さんが能力として授けてないよね?『女難の相』みたいな…。そんな能力いらない…。


 いや、こんな事を考える為に、一人になったわけではない!と気付く。少し気持ちを落ち着ける為に、ボクはお酒を飲んだ。歓迎会で川上さんにいただいたブランデーだ。ストレートで飲むと、少し喉が焼けるようでキツイ。六対四で割って飲むのが自分に合っている。


 グラスを傾けながら、天井のファンを眺める。ゆっくり静かなヘリのプロペラを見ている気分になる。しばらく眺めていると、心の中もゆっくり流れ出す感覚にとらわれた。そのままで思考を凝らしてみる。


 橋本は過去に死んでいる。だがボク達の前に現れた。更にともこ先生とボクの過去も知っていた。別人ならあり得ない。ともこ先生の傷を癒したのはボクだし、それを見ていた者はいない。


 病院のファイルが嘘なら?いや、何が目的で嘘を記録する。死んだと思わせるなら現れたりしないだろ。遺体を治癒?いや、それも不可能だ。やはり情報が足りない。


 思考を巡らせたがさっぱりだった為、ボクは切り上げて、洋子さんが待つ部屋へ戻った。



 程よくお酒を飲んだせいなのか、またあの夢を見ている。ぼやけたままだし、夢だろう。しかし、色々と認識して、今、感じている。と分かる。義父が創りだした世界なのだろうか?


 今回は湖もボンヤリとしてハッキリ見えない。しかし、足元の感覚はある。地面をしっかり踏んでる。『善』さんも見てるのかな?と、そんな考えを巡らせている時、湖の向こうに影が現れた。


 やっぱりお母さん達だったんだ。また不安定なのかな?とにかく近くへ行こう。


 そう確信に近いモノを持って近付いた。が、しかし、影が近付くにつれて、母ではない事が分かる。女性ではあるが。前と同じく、少し離れた位置で影は止まった。


「ようこそ!お前に挨拶をと思ってね。そうそう、礼もまだだったねぇ。娘を助けてくれて〜ありがとう!私が『真咲 奈々子』だ!お前、探していたんだろ?」


 そう名乗りをあげる影だが、病院で会ったナミちゃんの母親とは、違う気がしてならない。


「ナミちゃんの母親は知っているけど、あんたは違うと分かる。どうでもいいが。それより、なぜボクの夢に入ってこれたんだ?」


 顔がハッキリしないので、確信は無いのだが、思った事を言ってみたのだ。


「あ〜、そうだったねぇ。お前知らないんだ〜。私のチカラ『鏡面附与(ふよ)』を。鏡に映された姿を私に移した〜ハハハ!他にもあるぞ。チカラが山ほどな〜!ヒャハハ!まだまだこれからだよ。コイツもいただくからねぇ。」


 そう言って隣の影を持ち上げる様にして、ボクに見せる。ボンヤリしてるが義父だ。既にこの女は、能力者を犠牲にしてチカラをいくつか得た様な言い方をした。同じ様に、義父のチカラも奪うというのか?


「その人は、ボクの義父(ちち)だな!くだらない事は止めろ!母はどうした?まさかお前!」


「はぁ〜?楽しいに決まってるじゃな〜い。バカじゃ?お前の母親なら〜、コイツが逃したよぉ。だからコイツのチカラ奪って、ゴミクズみたいにー!捨ててやる〜、ヒャハハハ!母親もいつかなぁ〜っハハハ!」


 いちいちカンに触る言い方に、いい加減腹が立ってきた。義父を助けないといけない。ボクは湖に入ろうともがくが、見えない壁みたいなモノが、行く手を遮っている。叩いても、音がしない見えない壁。


「やっぱバカ〜ハハハ!挨拶は済んだからさ〜ぁ、私…帰るわぁ。…あ、そうそう、お前達のチカラもいつか、ちょ〜だいね〜ッハハハハハハ!」


 「 『爆裂』 」  女が去り際にそう言った。


 カッ!!!ドドドドドドォォォォォオオオオンン!!!!!


 凄く熱い炎がボクの周りで渦巻き、一気に夢全体に膨れ上がった。そして、爆発音が聞こえると同時に、ボクの記憶はそこで途絶えた。おそらく、大規模な爆発が起きたと思う。記憶が戻った時は、ベッドの上で汗だくになっていた。


 しかし、着ていたパジャマが灰に変わっていた。夢の中の事が、現実に影響を及ぼす『奈々子』のチカラ。という事は、ボクが無事なのは能力のおかげだ。あのチカラはマズイ。


 もし、現実世界で使われたら、どうなる?核爆発にも劣らないチカラかもしれない。『爆裂』か。使わせない方法を考えないといけない。


また夢の中に入り込む主人公だが、そこに新たな脅威が待ち構えていた!?

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