48 変化
大敗した組織の街の事情。主人公達は、これからここで、生活していくと心に決めたのであった。
マツバコーポレーションの拠点に帰って来ているのだが、ほとんどの組織員がいなくなり、街全体が閑散としていた。
橋本の組織に大敗した影響は、生活面にもかなり影響を及ぼしている。職場の人出不足が原因だ。
この問題は、智さんが不在の今、川上さんが指導者代理である為、彼女に大きくのしかかっていた。その為、生活の立て直しが最優先事項となり、智さん捜索の情報収集どころではなくなっている様子だ。
ボク達は、いつまでもこの街で、オンブにダッコという訳にもいかないので、仕事をする事にした。川上さんの許可を貰い、ゆうこさんには中央指令センターでの、情報収集をやってもらう事にした。ボクはこの街で、一番不足していると教えて貰った病院の医師として、臨時で入る事にした。元看護師の洋子さんは助手だ。
幼少の頃に授かったこのチカラ。当時は嫌な事ばかりで、他人の為にしていた事が、結局自己満足の結果となり、二度と使わないと封印した時があった。
ナミちゃんや洋子さん、ゆうこさんと出会い、ボクの生き方は随分と変わった。嘆いてばかりの後ろ向きのボクじゃなくなってきた。現に今、病院でチカラを使い、他人の病気や怪我を治している。
しばらくこの街で、治癒のチカラを使いながら、洋子さんとゆうこさんプラス一匹とで、強く生きていこうと思う。
いずれ洋子さんと正式に結婚したいし、母にも会ってみたい。勿論、義父の事も忘れていない。
『善』さん、自己満足は、他人の為になる事があるんだね。
え?いやいや、終わらないし!まだ智さん助けてないから!そんな中途半端な事しません!!
うぅ、また誰かに語りかけていた。気をつけないと。
「ちょっと〜、稜くん?患者さん待ってるよ?疲れたの?大丈夫?」
相変わらずボク優先で心配してくれる洋子さんは、やっぱりボクの側にいてくれないとね。そう思いながら、洋子さんを見つめてしまっていた。
「ちょ、ちょっと稜くん、どうしたの?帰ってデートする?」
いやいや不謹慎な!そりゃ洋子さん見てニヤニヤしてたけど。仕事しないとね。
街が閑散としている割に、患者さんが多いと感じた午前中の診察が終わり、ボクと洋子さんの二人で、病院の屋上に来ていた。手には缶コーヒーがある。
二人で屋上に来て缶コーヒーという組み合わせが、出会った頃の事を思い出させる。ナミちゃんの事も忘れてはいない。こんなボクに好きだと言ってくれた。未練とかそういう感情では無く、素直に寂しいと感じる。ただそれだけの事だ。
「洋子さん、覚えてる?出会った時の事。」
缶コーヒーを傾けながら、眼下の街を見渡していた洋子さんは、視線をそのままにして答えてくれる。
「勿論だよ。バザー、楽しかったよね。あの時ね、本当はもう監視なんてどうでもいいや!って思ってたの。他人の為に、一生懸命な稜くん見てたら、そう思えたの。」
「そうだったの?でも、その為に組織に逆らって、大怪我させてしまったんだよね、ごめんね。」
あの時は、疑心暗鬼に陥っていて、洋子さんが敵ではないかと、不安に思っていた。あの日屋敷に行かなければ、洋子さんを助ける事も、こうやって愛される事も無かった。自分でも何故屋敷に行ったのか、分からないのだ。しかし、あれは運命だったと今は思う。そうなるべくしてなったのだ。
「稜くんが謝る事ないよ。死にそうだった私を、助けてくれたじゃない。あの時にね……、私あの時に稜くんの事、いっぺんに好きになったの。えへへ。バレてしまった。」
いや、バラしたのは洋子さんですよ…。う〜可愛い。
「そ、そうだったんだ!」
しまった!動揺して声が上ずった!
「あははは!稜くん照れてる〜、可愛い!」
せ、せめてカッコいいと言って下さいな。
「でもさ、あの後ゆうこ来る前は焦ったよね〜。組織で一緒だったのは覚えて無かったからなぁ。まさか暗殺者だなんて。あ、今は記憶戻ったから薄っすら分かるよ。」
「ボクも驚いたよ。洋子さんがゆうこさんと敵対するのか不安にたったしね。」
ピロロロロロロロ ピロロロロロロロ ピロロロロロロロ…
そこまで話して、ポケットの中の携帯が鳴り出した。電話を受けると、相手はゆうこさんだった。
「稜くん?あ、ちょっと大変な事が分かったの、病院で待ってて、少ししたら行くから。じゃ……」
少し慌てた感じがしたが、一方的に電話が切れた。大変な事と言っていたが、いったい何が?と言っても、午後からの診察があるのだが、帰ってからにしてもらえるかな?
「ね、ゆうこだったの?智さん見つかった?」
「あ、ごめん、後で来るって言ってた。何だか慌ててたみたい。大変な事が分かったって。」
洋子さん放って考え事をしてしまっていた。
「何だろうね。でも午後から診察がまだあるよ?…、あ、来たら私伝えておくね!帰ってからがいいよね?」
「うん、お願いしていいかな?頼もうかと迷ってたんだ。」
そのお願いに、オッケーの合図をして答えてくれた洋子さんと二人、午後の診察へと向かった。
せっかく良い雰囲気だったのだが、仕事しないとね!
滞り無く仕事を終えたボク達は、一家に一台付いているというマイカーに乗り、帰路についた。タクシーによく似た車だ。
マイホームの脇に、既にゆうこさんのオートバイがあった。先に帰っているようだ。
玄関を開けると、ノイジーが出迎えに来ていた。
実は、相当頭が良い犬だったのだ。排泄は教えなくても、ちゃんと自分で外の専用トイレで済ませるし、仕事に出掛ける時の見送りと、帰りの出迎え。更に、洋子さんのお願いを色々とこなす事から、言葉を理解していると思われる。今日も洋子さんの後を追って、二階へと一緒に上がっていくノイジー。
しばらくして、洋子さんとノイジーが下りて来たので、入れ替わりで二階へと上がる。婚約してはいるが、まだ一緒に着替えたりするのは、ボクが危険なので、こうやって待つ事にしているのだ。
ゆうこさんの話が気になるので、急いで着替え、一階のリビングへと急ぐ。もう二人とも座って待っていたようだ。
「遅くなってごめんね。それで、大変な事って言ってたけど、どうしたの?」
待たせた事に謝罪しながら、洋子さんの隣の椅子に座る。ボクの問いに、テーブルを挟んで座るゆうこさんが話し出す。
「ええ、大変なのよ。実は、奈美恵さんが入院してた病院の、データベースにアクセス出来たの。以前からのパスコードが変えられて無かったわ。洋子のパスコードもだろうね。で、病院が纏めたファイルに『橋本 一樹』てのがあり、アクセスして見つけたの!彼は、既に死んでいるのよ!」
「ええええ!!?」(洋子さんとボク)
死んでいるとはどういう事なのだろうか。間違いなく、ボクが最近見た橋本は、ともこ先生の家で見た旦那だ。真咲家みたいな双子とか?それは話しが出来過ぎてる。
驚くボク達に、ゆうこさんが話を付け足す。
「驚いたでしょ?私もよ。橋本は十三年前に、自宅近くの大通りに飛び出して、トラックに跳ねられた。その後、あの病院に搬送されたけど、処置の最中に死亡。と記録されてた。妻の名前が『橋本 ともこ』となっていたから、間違いなく、今のは偽物って事だわ!」
十三年前?確か、ともこ先生が刺された年だ。そういえば、ともこ先生を刺した後、逃げるように走って出て行ったな……あの後跳ねられたとか?でも日付まで覚えてないな…。
そんな事を思い出している間に、話しが進んでいたようだ。
「………と思うけど、じゃああの男は誰なのかな?稜くんとともこ先生の事を知ってたわよ?」
洋子さんが言っているのは、屋敷の地下で、橋本とボクが話していた時の事だろう。しかし、その質問に答える事が出来るのは、ここにはいない。質問されたゆうこさんも、首を傾げて考え込んでしまった。
こういう時は、憶測で物を見がちだが、固定観念になり真実が見えなくなるので、慎重にいかないと。
「橋本が死んでるって事が分かった。とりあえず一歩前進だね!後は、分からない事で意見を出し合っても、ラチがあかないから、そこはゆうこさん?引き続きお願い出来ますか?」
やはりここは、確実に情報を仕入れてもらうのが最善だ。
「へぇ〜…。アンタにしては言うじゃない。了解よ!任せて!」
一言余計な、彼氏いない歴二十年のゆうこさん。あ!一言余計になっちった!
橋本が既に死んでいたと知らされる主人公達。しかし、実際に生きている橋本。どうなってるの!?




