45 新たな家族、作戦。
おおお!?大胆なゆうこ、いったいどうした!?
「ちょっと、ゆうこさん?」
誤解であってもこんなとこ洋子さんにでも見られたら大変だ。そう思い囁く様に声を出す。それにしても凄い力だ。
「シッ!……。手前の部屋に誰かいます。」
ゆうこさんも囁く様な声だが、直ぐ右にある部屋に誰かの気配を感じ、ボクを留める為に抱きとめた様だ。そういえば、音が聞こえたと言っていたな…。と、ゆうこさんの言葉を思い出した。
耳を澄ませてその部屋に神経を集中させる。ボクに物音は聞こえない。少しの静寂な時間の後、ゆうこさんが静かに動く。左手はドアノブに、右手は腰の後ろに位置する、ナイフが納まったホルダーに掛けられていた。
ゆうこさんがこちらを見て、突入の気配を匂わせてきた。小さくそれに頷いて答える。
ダダ!バンッ! 「誰だ!!」
開けると同時に、素早くナイフを抜き出し威嚇の姿勢と声を同時に、何者かに向けるゆうこさん。その声にボクがビクッとしたのは内緒だ。
少しして、ゆうこさんが部屋から出て来た。その手には、白い子犬が抱かれていた。
「ホント、人騒がせよね。いったいどこから入ったのかしら?」
ドアに鍵は掛けて出た筈なのだが、ここにいるという事は、何者かが侵入して犬を置いていった??もしくは、何者かが侵入した時に、たまたま入ってきた?どう考えても侵入者の可能性を疑わざるをえないが。
とにかく外に放り出すのも可愛そうだと思い、ゆうこさんに頼んで、そのままその部屋に閉じ込めておくことにした。迷い犬ならば、明日探してみるのも良いだろう。ボク達はお互いに『おやすみ』の挨拶を交わし、それぞれの部屋へと戻った。
翌朝、洋子さんのはしゃぐ声で目が覚めた。だが、寝室にその姿は見当たらない。嬉しそうにはしゃぐ、その声を辿ってみると、昨夜、子犬を閉じ込めておいた部屋の中にいるみたいだ。何故はしゃぐのか理由が分かった。
ボクは一応ノックしてドアを開けてみた。
「あ、稜くんおはよ。みてみて!もう子犬来たんだよ〜!昨日頼んでおいた子犬、もう来た〜。えへへ。」
今なんと?……。昨日頼んだ!?いつの間に……。
洋子さんの行動力に驚くボクは、足元にカタログが置いてある事に気付き、ペットのページを開いてみた。結構な種類がいると感心してしまう。
目の前にいる子犬とカタログを見比べていくと、角が折り曲げられているページに目が止まる。『マルチーズ』と犬種名が記載された写真と、よく似ているようだ。しかも、その犬種名の横に、小さな丸印が書かれていた。間違いないだろうが、洋子さんに確認してみる。
「うんうん、それだよ。ふふふ、本物はもっと可愛いでちね〜」
洋子さん、その赤ちゃん言葉みたいのやめなさい…。
やはり間違いなかった。それにしても、どうやって家の中に入ってきたのだろう。他人が合鍵でも持ってて、勝手に出入りする事が出来るのなら、少し気味が悪い。
そう思い、カタログに記載されていた電話番号に掛けて聞いてみた。ノリの良さそうな男の声が、電話の向こうから、疑問に答えてくれた。
「あぁ、それは裏のドアのペット専用入口から、オレが入れたっすよ?直ぐ届けますって言ったんスけど〜、誰もいなかったスから!」
当たり前の事だと言わんばかりの男に、一応お礼を添えて電話を切る。そして、男が言っていた、裏のドアとやらの確認に行ってみた。確かに、キッチンから裏に出るドアの下の方に、ペットが出入り出来る専用の入口があった。
わざわざ二階の部屋に行った理由は分からないが、とにかくこれで、侵入者の可能性が消えたと安心出来た。
その後、ゆうこさんも起きてきて、昨夜の事を、洋子さんに散々愚痴っていたが、子犬に夢中な洋子さんの耳には届いていなかったようだ。怒るゆうこさんと笑う洋子さん。おかしな光景だった。
朝食を食べた後、洋子さんが子犬の名前を皆んなで決めようと、提案してきた。ボクは一所懸命考えていたのだが、ゆうこさんは、昨夜の件を引きずっているのか、『うるさいから、ノイジー』と、関心なさそうに答えていた。
ところが、洋子さんが何を気に入ったのか知らないが、じゃあ決定!と簡単に決めてしまっていた。実に可哀想な子犬だと、同情してしまう。
以後、子犬は『ノイジー』と呼ぶ事にする。そのまんまじゃないか…。
来て早々に『ノイジー』と名付けられるなんて、ボクと同じ女難の相があるとみて、仲間意識を強く持ったのだが、洋子さんにメスだと聞かされ、疎外感でいっぱいになった午後を過ごす事になる。
もぅイヤダ。
その日の夜、寝室にノイジーの姿がなかったので、洋子さんに尋ねたら、最初に見つけた部屋が、ノイジーの部屋になったと聞かされた。それからこうも言っていた。
「家族の一員だけど、夫婦の時間は二人だけで過ごさないとダメなの!」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、まだ夫婦じゃないから…。しかも意味有りげに聞こえる言い方はやめましょうよ洋子さん?
そう思いながらも、幸せを感じつつ、抱き枕のボクは、眠りについた。
翌朝、ようやく組織が動き出す事になった。歓迎会の時の雰囲気は消え、迷彩柄の戦闘服に身を包んだ川上さんが、ボク達の家にやってきて、今後の動きを説明してくれた。
「橋本率いる組織が動きをみせました。現地の情報屋が動きを追っています。橋本は、一箇所に能力者を集めているようです。恐らくそこが組織の本拠地かと。」
そう言いながら、川上さんが地図を広げる。そして、続けて説明しだす。
「ココが我々の拠点です。そして、ココ。各地から能力者が集まっている場所です。そこで、我々は、各方面から一気にここを落とす為、百名を一個中隊とし二十箇所に分けて配置。その中から更に十名ずつの各班で隊列を組み、敵の退路を塞ぎながら前進します。」
「という事は、え!?総勢二千って事ですか!?それはいくら何でも多いのでは?…。」
川上さんの説明通りなら、マツバコーポレーションの組織はいったいどれくらいのメンバーがいるのだろうか?少なくとも、島の居住区にいた人間では、到底その数には満たない。そんな事を考えていると、先程の問いかけに対し、川上さんが理由を話してくれた。
「既にご存知とは思いますが、我々のほとんどは普通の人間です。ですが橋本の組織は、ほとんどが能力者で構成されています。特に攻撃する事に長けた能力者達です。我々にとってそれは、計り知れない脅威となり、この数を持ってしても足らないと、我々は考えているのです。」
確かに、今の説明通り、橋本達の組織には、能力者が多い。しかも攻撃専門であり、その性格もまた攻撃的だ。何が起きるか分からない以上、不測の事態に備えておいた方がいいだろう。そこで先程の疑問も含めた質問をしてみた。
「作戦内容は理解しました。ですがこれだけの人数をどうやって集めたのですか?一般人を雇うとしても、命がけの作戦になるでしょうし、元々関わりの無い人間が、いくら金の為とはいえ、命を賭けて戦うとは到底思えないのですが。」
「はい、仰る通りだと思います。この計画を立てた当初は、一般人を雇う事も視野に入れて、募集をしました。が、先程、伊町さんが仰った通り、本作戦の概要を聞いた者は、一人残らず去りました。そして、困っていたところに、伊町さんのお母様が協力を申し出てくれたのです。」
驚いた事に、協力者はボク達だけではなく、他にもいた。しかも、ボクの母親だ。しかし、母は…。
「協力と言いましたが、お母様は加わっておられません。お知り合いを紹介していただいたのです。その方が、本作戦にかかる人員の大半を投入されています。え〜、確か『佐々木 誠吾』と名乗られていました。伊町さんと初めてお会いした街の方ですよ。何でも、過去に抜けた組織員を集めて作った部隊だとか。自らを『義勇軍』だと仰っていました。こちらとしては、人員さえ揃えば問題ないですからね。」
あぁ何だかいつもの勘が働いた…。うわぁ、やっぱり洋子さんと目が合った。
その名前に勘が働き、洋子さんへ視線をやると、洋子さんもこちらを見ていた。知り合う人は、何故こうも組織に関わりがあるのだろうか?女難の相以外にも、何か良からぬ相が出ているのではないか?
『佐々木オート』が関係ない事を祈ろう。
新たに加わった女性メンバー!作戦実行段階にある組織と共闘するのか!?




