43 『松林半島』
マツバコーポレーション第二の拠点、『松林半島』へと 足を向けた主人公達。莫大な資金を元に築き上げられたそこにはいったい何が!?
窓の外を流れる景色を二人で見ていた。こうやって洋子さんと向かい合わせで、外の景色を眺めて一時間になる。これまで乗り物を使っての移動手段といえば、洋子さんが運転して、オマケでボクが付いてます!みたいな構図だったが、今回は二人ともオマケのポジションだ。
今、ボク達は電車で更に南へ向かっている。智さんの指示だ。
ギャンブル街で出会った智さんのイトコ、『銀河』さんから渡されたメモ。そこには智さんの連絡先が書かれていたのだが、少しばかり忘れていて、連絡を取ったのが次の日になってしまった。もう一度言う。少しだ。
電話をかけた時の事を少し簡単にまとめておく。
島の居住区が倒壊した後、そこにいた組織のメンバー全員が、予め用意しておいた、緊急避難用の潜水艇で脱出していた。そして、組織の新たな拠点となる、
『松林半島』と呼ばれる地に移住したとの事だ。
この『松林半島』だが、智さんが経営する表の組織の顔、『マツバコーポレーション』が、血と汗と努力で稼ぎ出した(智さん談)収入を資金とし、今は隣接する『市』から払い下げてもらった土地らしい。
いったいどんな商売してたんだ?悪徳商法じゃない事を祈ろう。
そこに、わずか五年で街を築き上げたらしい。ボク達が島に行ったあの日から、丁度ひと月前に完成したらしく、移住の準備も進んでいたらしい。
居住区の面々が外に出ていなかったのは、この移住計画に伴う、大掛かりな引っ越しの準備をしていたらしい。
許される事ではないが、洋子さんが暴れて全壊した幾つかの家は、どの道捨て置かれる予定だったので、島の住人は全く気にしていないとの事だ。
そして、その『松林半島』に、ボク達は呼ばれているのだ。勿論、組織の協力者としてだ。
さて、話しに出てこないゆうこさんだが、すっかり身体も心も元気に戻ったので、オートバイを取りに行きたいと言って、ホテルの街に一人で行ってしまった。
洋子さんをお供に連れて行く様に言ったのだが、ゆうこさんではなく、洋子さんがガンとして譲らず、ボクと一緒じゃないと嫌だ!と、拗ねてしまい、結局ゆうこさん一人で行かせる事になった。
拗ねた洋子さんは、手が付けられないから、仕方がない。
『松林半島』に隣接する『市』に着き、智さんが言っていた、迎えとやらを待っている。まさかとは思うが、また派手にヘリとかで来ないか、少し心配している。さすがにこんな大都市では目立ってしょうがないだろう。組織もだが、常識で考えてだ。
「稜くん、ここで合ってるんだよね?」
さすがに半時間も待たされると痺れを切らしたのか、洋子さんが少々苛立ちを見せ始めた。なだめてみようと洋子さんの手を握ると、照れて俯いてしまうが、その手が少し強く握り返してきた。機嫌は良くなった様子だ。
しかし、この街は車が異常に多い。駅前という事でもあるのだろうが、かなりのスピードで連なって走っている。よくぶつからないなぁ、と感心する程の速さだ。その道行く車の帯の中から、見知ったオートバイがこちらに寄ってきた。ゆうこさんだ。
電車でここまで来たボク達に、もう追いついたのかと驚いてしまったが、待たされている時間を考えると、当然かもしれない。
「ゆうこ、早かったね!オートバイの調子どうだった?」
そう話しかける洋子さんは、余分に買っておいた缶コーヒーをゆうこさんに差し出していた。
オートバイのスタンドを下ろし、ヘルメットをシートの上に置いて、それを受け取るゆうこさん。
よほど喉が乾いていたのか、その缶コーヒーを一気に飲み干し、一息吐いてやっと口を開いた。
「ふぅ〜。あんたね、洋子!エンジン弄ったでしょ?それと、熊どうしたのよ?熊!」
ゆうこさんの言う『熊』とは、多分、洋子さんがオートバイのキーから外した、熊の顔のキーホルダーの事だろう。洋子さんがリュックのサイドポケットから、それを出している。
「あー!やっぱり洋子だったのね!?もぅ、それないと私調子出ないのよね〜。」
そう言いながら、洋子さんから受け取った『熊』を、キーに繋ぎ止めているゆうこさん。
「で?何してんのここで?タクシーでも待ってた〜?あ、そう言えば、さっきパトカーがタクシーと揉めてたみたいよ?」
タクシーという言葉に、まさかね?と思ってしまう。洋子さんと目が合う。同じ事を考えていた様だ。
「いやいや、申し訳ない!兄ちゃん!あ?ベッピンさん二人も連れて!やるなぁ。て……、あんた、あん時の姉ちゃんか!?」
洋子さんとボクの予想は当たってしまった。迎えは『工藤」さんだった。そして、来るなりいつもの口調で喋り出したのだが、若返った洋子さんを見て、口を開けて驚いている。
その後、ボク達を乗せて走り出したタクシーの車内では、ずっと喋り続ける工藤さんに、洋子さんもボクも頷くだけで、彼のマシンガントークの前では、一言も喋る事が許されなかった。
『松林半島』と隣接する『市』とを繋ぐ、長い一本道を進んだ先にある、半島との境界には、十メートルはあるかと思われる、高い壁が立ち塞がっていた。かなりの長さだ。
そのほぼ中央に設けられた『ゲート』と呼ばれる場所に行くと、『半島守備隊』と称された部隊が配備されていた。
そこの隊長さんが説明してくれたのだが、この壁は、高さ十メートル、幅十キロに及ぶ『防壁』なんだそうだ。
そう得意げに説明してくれた彼が、よく手入れされている顎髭を摩っていた。
他人を見ていると、緊張したり、照れたりといった、様々な感情の変化で起こしたと思われる仕草、『癖』というのをよく目にする事があるが、隊長さんのそれも、多分癖なのだろう。その後彼を見て、洋子さんが『強そう!』と言ったあと、顎髭を摩るのを見てそう感じた。
そのゲートから、指導者である智さんに連絡を入れてもらい。迎えの車がやってきた。ここまで運転手を務めてくれた工藤さんは、本来の情報屋の仕事に戻ると言っていた。
豪快な運転の印象が強かった為、彼がマスターと同じ、情報屋だという事を、すっかり忘れていた。
工藤さんが引き返していくのを見送った後、迎えに来た高級そうな車に乗り込む。運転手は川上さんだった。その姿を見るなり、洋子さんが謝罪の言葉を伝えていた。
やはり川上さんはクールな姿勢を崩さない女性だ。洋子さんの謝罪を受け入れた時の彼女の返答は『別に気にしておりません。』と、実に端的で冷ややかな口調だった。
落ち込む洋子さんを慰める意味で、川上さんに話しかけてみたが、表情を変える事なく答え、そのまま運転に集中していた。その姿が、笑顔は任務の邪魔よ!と言っている様に思えてならなかった。
『松林半島』の街並みは、ボクの予想を遥かに上回っていた。島の居住区のイメージがあった為、それに近い箱型の住居を想像していたのだが、屋敷と呼べるクラスの家が立ち並んでいた。居住区の家を全壊されても、怒らない理由がみえた気がした。
その居住区を過ぎると、隣街の『市』にも負けない程の広い道路があり、両サイドには高層ビルがひしめき合っていた。大都市と言っても過言ではないだろう。ボクと洋子さんは、只々驚くばかりで、開いた口から言葉が出る事は無かった。
車内が静まり返った車が、街の中央部と思われる大きなドーム型の建物の前で止まった。どうやら目的地に着いたようだ。そのドーム型の建物の入り口上部には、大きな看板が掲げられていた。
『マツバコーポレーション 中央指令センター』
組織の心臓部だ。
待ちぼうけをくらいながらも、いよいよマツバコーポレーションの心臓部へ!




