38 温もりと狙撃手
ヘリを砂浜に乗り捨て、逃走する主人公達!無事逃げ切れるのか!?
道路沿いの休憩所から、徒歩で半時間ほど歩いたところで、右手の林に登る階段を見つけた。道路沿いはパトカーが頻繁に行き来していて、何も無いこんなところを歩いていると、職務質問され兼ねない為、ボク達は、そこを上ってみる事にした。
しばらく誰も通っていないのか、落ち葉がコンクリートの階段を覆い隠している。階段はかなり上まで続いており、木々に日差しを遮られて、少し薄暗く感じる。両脇を、腰の高さ程のコンクリート壁に挟まれており、洋子さんと並ぶとギリギリ当たらない程の幅がある。
この長く辛い登り階段も、手を繋いで話しながら登ると、意外にも早く登ってきた感じがした。因みに、話しながら、の会話の内容は、洋子さんと結婚した後、自分の名前が『伊町 洋子』になるのよ。とか、子供が出来たら名前は……とかだ。気が早いと思うが、洋子さんはとても嬉しそうに語っていた。
階段の雰囲気からうって変わり、頂上に当たるこの場所は、広大な海を見渡せる開けた展望所だった。望遠鏡こそないが、石で出来た案内板に、ここから見える景色の各箇所の名前が記されていた。肌寒くはあるが、緑の香りを抱き込んで流れてくる風が気持ちいい。
ボクは、リュックから薄手のジャンパーを取り出し、洋子さんの肩に掛けた。
「ありがとう、稜くん。…ねぇ、ここから見てると、何も問題がない世界に見えるのにね。」
洋子さんの言う通り、ここは時間の流れが違って思えるほど、のんびりとした雰囲気がある。出来ればこのままここで…。とか言いたくなりそうな場所だ。
「うん、でも、洋子さんと一緒なら、問題があっても無くても、ボクは幸せだといつも思っているよ。」
少しクサくなったが、洋子さんの『えへへ。』の可愛い仕草が見たかったのだ。期待通りだった。
余は満足ぢゃ!
パトカーの姿が目立たなくなるまで、ここでしばらく時間を潰す事にした。ここから道路を行き交う車が見えている。その流れの中に、ポツリポツリとパトカーが混じっていたのだ。
切り株をモチーフにした石の椅子。外周をグルリと囲い込む様に据えられた、細い木の幹をモチーフにした石の柵。その椅子に座り、柵に両腕を乗せ手を組み、更に顎もちょこんとそこに乗せて、海を眺めている洋子さん。その横顔を見ている時、尖らせたり引っ込めたりしている唇に、目を奪われた。そして、その唇に、ボクからキスした時の事を思い出していた。
あの時の洋子さんの唇は冷たかったが、今はきっと温かいはずだ。唇も心もだ。残念ながら、洋子さんにその記憶はないだろう。初めてボクからしたキス。
「洋子さん…」
ボクの呼ぶ声に、海を眺めていた洋子さんが顔をこちらに向ける。そうしてくれるのを待って、ボクは両手をそっと洋子さんの頬に当て、目を閉じて軽く唇を重ねる。
長く感じたが、そうしていたのは少しの間だったと思う。あの時とは違い、洋子さんの温もりが、離れた今も残っている。温かい洋子さんとのファーストキスだ。
その後、洋子さんは、今まで以上に顔を真っ赤に染めて、『大好きだよ』と伝えてくれ、ボクの胸にゆっくりと頬を押し当ててきた。ボクにこんなに幸せな時間が流れるなんて、思ってもみなかったが、考えてみたら、洋子さんといる時のボクは、いつも笑ってた。子供の頃とは大違いの幸せな時間を過ごしている。
いつまでも洋子さんと、こうしていたいのだが、今は身を隠せる場所を探さないといけない。『もう少し!』とワガママを言う洋子さんだったが、二度目のキスで手を打ってくれた。今は、ボクの首に、後ろから抱きついてきて、一緒に階段を下りているところだ。
実際、オンブして下りているのと大差ない。少し重いと感じるが、洋子さんのスタイルは、モデルになってもおかしくないプロポーションだ。よって、重いのは、背中に押し付けられた破壊力がある胸のせいだ。
そんな、苦しくもあり、幸せでもある感覚に……、いや、感情に耐え、先程の道路へと戻った。かなり太陽が傾き、道行く車もヘッドライトを点灯していた。パトカーの姿がないのは確認済みだが、一応警戒はしておこう。
あれから直ぐに太陽が沈み、辺りが暗くなってしまう。道路沿いには、一段上がった歩道が整備されているが、街灯が少なく足元がよく見えない。先程と比べ、ヘッドライトの灯りもまばらになっている為、それもあてに出来なくなっていた。
シュョパッッッッッ!!ガッ…
突然何かが勢いよく、目の前に落ちてきた様な音がした。辺りをキョロキョロして確かめるが何も落ちていなかった。しかし、洋子さんの視線が、ボクに事実を教えてくれる。
「ゆうこ……。」
歯が軋むような音を交えて、そう口を開いた洋子さんの視線は、歩道に落とされている。勿論、先程からボクも見ている。抉れたアスファルト。弾痕だ。
シュョパッッッッッ…ヒュン! シュョパッッッッッ…キン!
洋子さんがボクの前に立ちはだかり、弾丸から守ってくれている。治癒してしまうから、死ぬ事はないのだが、痛みは当たり前の様に感じるから、当たりたくはない。
先程の弾丸は、洋子さんに当たり、弾き飛ばされていった。『鉄壁』を使っているようだ。また暴走の引き金にならないか心配してしまう。
「オ…オ、オマエ……コロ、ス…コロス…」
しばらく撃って来ないと思っていたら、ゆうこさんが目前まで移動してきていた。発せられた言葉がかなりおかしい感じだ。
うわっ!! ジャキィィィ!! ドッ!!
何の予備動作も無く、急激にボク達に迫ったゆうこさんに、驚きの声を上げて後ろに転びそうになった。しかし、同時に洋子さんが前に出て、素手でナイフ攻撃を弾き、更に高速の蹴りを放った。ゆうこさんは、壊れた人形のように、手足をブラブラ揺らし、転がりながら吹っ飛んだ。
「稜くん、やっぱり無理だよ。ゆうこ…。あれはゆうこじゃないよ!」
そう言いながら、ゆうこさん目掛けて光速で移動する洋子さんの腕を、ボクは既の所で掴み損ねた。今の洋子さんの力では、ゆうこさんを殺し兼ねない。
「洋子さん!!試したい事が!あるんだ!!」
間に合うか分からなかったが、ボクはチカラの限り叫んでみた。すると、ゆうこさんの直前まで迫っていた洋子さんが、その横をギリギリで通過していった。ボクの声が届いたのだ。そしてその場所から、踵を返し、間髪置かずに戻ってくる洋子さんの姿がみえた。
「洋子さん、聞いて。数秒でいいから、ゆうこさんの手足を押さえておいてほしいんだ。大丈夫かな?」
何をするか分かっていないはずだが、大きく頷いてくれた。その洋子さんの背後に、立ち上がり、こちらを見ているゆうこさんが見えた。
「洋子さん!くるよ!」
ボクの言葉と同時に、ゆうこさんが、先程より更に速度を上げて迫ってきた。洋子さんは、ボクの方を向いたままだったが、襲いかかるゆうこさんの右手首を、頭上に構えた手で掴む。間髪置かず、その勢いを利用したかの様に、ゆうこさんの身体ごと、頭の上から地面に叩きつけた。そのまま仰向けに倒された、ゆうこさんの両腕を掴んで馬乗りになった。
「稜くん!」
一瞬の出来事だったが、洋子さんに予めお願いしてたので、即、行動に移れた。
ゆうこさんの頭に手を当て、意識を集中させる。普通の病気と違い、少し時間がかかった。たが、成功したようだ。後は、ゆうこさんの様子を見ないと何とも言えない。
ここで説明しておくと、洋子さんを救出に行った時、死んだと思っていたゆうこさんがいた。そのゆうこさんの様子がおかしかった。理由を考えてみたのだが、頭から薄いモヤが出ていたので、そこに原因があるからだと思った。そして今襲われた時にも、モヤは出ていたのだ。以前より濃いモヤだったが、今は消えてしまっている。『治癒』を使ったからだ。
温もりを感じ、幸せを噛みしめる主人公達。隠れ家確保に向かう二人を襲ったゆうこ!とんだ二度目の再会となったが、主人公はゆうこを助ける事が出来たのか!?




