29 スーパータクシーと協力者!?
『善』が教えてくれた真実。まだまだ謎が多いが、時間は気にせず流れ行く。
『善』さんがトイレへと送り返してくれた後、ちょっとした騒動になった。ボクがいなかったからではなく、トイレにかずちゃんがいたからだ。マスター夫妻の誤解は何とか解けたのだが、かずちゃんと洋子さんに、散々お説教をくらいました。
未だにブツブツ言っている洋子さんが、母の会話の内容を尋ねてきたので、『善』さんの話の内容をアレンジしながら、母が語ってくれた事にして伝えた。
『善』さんから、あの場所の事や自分の事は、内緒よ!と釘をさされていたからだ。少し苦しい説明になったが、洋子さんはそれ程気にしている様子も無く、なるほどね。と言って納得してくれたようだ。
あれから数日が過ぎたが、その間に、ボク達は安いアパートを借りて、そこに二人で引っ越してきている。ボクのアパートでも良かったのだが、洋子さんのお金で借りる事になるので、それに従ったまでだ。
『スーパータクシー』の運転手さんに十万円渡したし、手持ちは勿論、貯金もないからだ。
「あなた、朝御飯よ〜。」
朝食をつくっていた洋子さんが、手料理の乗った皿を、次々と台の上に並べていく。まだ結婚したつもりはないのだが、ツッコミを入れると、拗ねて一日中口を聞いてくれなくなるので、今は何も言わない事にしている。
それにしても、雰囲気を出したいのだろうが、その大げさなフリフリが付いた『エプロン姿』はちょっとどうかと思う。いや、普通に服の上から着ているなら問題はないのだ。後はご想像にお任せするとしよう。
今日はこれから、少し遠出をする予定だ。オートバイを取りに行く事になっている。佐々木オートから、修理の連絡が携帯に入ったのだが、すっかり忘れていた。
洋子さんも忘れていた様子だったが、それを聞いた後に、『ゆうこの形見だもんね』と、言っていた。ゆうこさんの事、覚えていないのだろうか?
『善』さんが言っていた、覚えていないというのは、記憶が失われた、という事なのだろうか?ゆうこさんの記憶だけが?色々考えていたらこんがらがってきたので、ゆうこさんの件は、まだ言わないでおく事にした。
朝食を終えたボク達は、マスターのいる喫茶店へと向かった。引っ越しの時も散々お世話になったのだが、今回もまたお世話になる事に決まった。
オートバイを取りに行くなら、自分が運転して連れて行く、と、申し出てくれたからだ。喫茶店に着いた時は、既にマスターが、トラックで待っていてくれた。
ボクが先に乗り込み、洋子さんが窓際だ。例えマスターでも、洋子さんとの密着は許さない。そう決めているのだ。
マスターの運転は、安全第一を優先に考えた、かなりゆっくりな運転だった。そう感じたのは、間違いなくあの『スーパータクシー』のせいだ。気合いが入った運転手さんは、元気にしてるだろうか?
ゆっくり安全運転でも、お昼前には街に入った。しかし、道に迷ってしまった。最初にサイクルショップに行き、道を尋ねるべきだった。と後悔しているところに、前から一台の『タクシー』が来た。
トラックと離合するには、少し道幅が足りない気がするが、『タクシー』はお構い無しに突っ込んでくる。
「ちょっと急いでんだ、すまねぇが下がってくれー!」
この口調と声には聞き覚えがあった。『スーパータクシー』だ。あ、いや、『の運転手さん』だ。
ボクは、洋子さんに降りたいと伝えて、二人で『スーパータクシー』の方へ歩いていく。
「おっ!誰かと思えば、兄ちゃんじゃねぇかー!久しぶりだな!」
やはり間違いなかった。あの時のお礼も兼ねて、佐々木オートの場所を聞いてみた。
「あん?なんだ、そんなら今行くとこだよ!乗ってくか?」
気さくに答えてくれる運転手さんだが、ちょっとそこまでのつもりが、林の中を走られても困るし。見えていたはずだが、トラックで来ている事を説明したら、先導してくれると言ってもらえたので、ついていく事になった。マスターには申し訳無かったが、随分とバックしてもらい、『スーパータクシー』の後をついて行ってもらった。
『スーパータクシー』を呼んだのは、あの髭男だった。髭男は、キーは挿さってるから、持っていけ!と、慌てて『スーパータクシー』に乗り込んで行ってしまった。
あー、お金は?運転手さんにお礼もいってないよ……。
いつ帰るか分からないので、佐々木オートの事務所に手紙を書いて置いておく。金額が分かり次第、振り込みます。と書いてだ。その間、洋子さんがオートバイのエンジンをかけて、調子をみていた。
「じゃあ、伊町さん、私はこれから仕入れをして帰りますね。」
そう言って仕入れに向かうマスターとトラックの後ろ姿に、お礼の意味を込めて、深く頭を下げた。
「稜くん、帰る前に、宿の方に顔出していいかな?迷惑かけちゃったから。」
そう言って、オートバイに跨る洋子さんに、ボクは頷き、後部座席に飛び乗った。
宿は相変わらずの大繁盛で、女将さんも手が開かないらしく、『気にしないでいいから、また泊まっておくれよ』と言って、パタパタと宿の奥へと消えていってしまった。
まだ気にしている洋子さんに、今からここでデートしようと誘ってみたら、満面の笑顔を見せてくれた。こういう洋子さんの可愛らしいところが、最近、どちらが年上なのかを麻痺させていた。
あの日の時の様に、二人で散々遊んで回った。日が傾きだしたところで、暗くなる前に帰る事にした。宿に止めておいたオートバイを取りに戻る。
「こんにちは、伊町さんですね?」
オートバイの前にいた女性が、ボクの名前を呼び、本人かの確認を求めてきた。並んで歩いていた洋子さんが、すかさずボクの前に出て構える。
「伊町 稜ですが、そちらも名乗ってはいかがですか?で、ボクに何かご用ですか?」
洋子さんと目で確認しあって、名乗ってみた。
「失礼しました、私は『川上 ミホ』と申します。組織の一員です。」
組織と聞いて、反応を示した洋子さんが、飛びかかろうと腰を落とした時、慌てて洋子さんを止めた。ボクも、その言葉を聞いて驚いたが、会話がまともそうなので、聞いてみる事にしたのだ。
「組織の人間が、またボク達をどうにかしようと?」
我ながら落ち着いた口調だ。色々あったから、少々の事で怯えなくなっている。
「いえ、伊町さんが仰っている、組織とは別の組織です。敵対している、と言いますか……」
そう言いながら、彼女が名刺を差し出してきた。洋子さんが受け取り、ボクに渡す。
『マツバコーポレーション』 特別企画部部長 川上 ミホ
聞いた事がない会社だが、どこにあるのだろうか。名刺をつまみ上げ、その説明を彼女に促す。
「会社は実在しますが、それは表向きで、実態は能力者達が集う組織です。ここから南方にある街に、会社があります。一度いらして下さい。お母様の事も分かるかと思います。」
ここで母の事が出てくるとは思いもしなかった。こう言われると、気になるので、行かないとは言えなくなる。そうする事が分かっての罠、という事もあり得るが、今までの組織の連中と違い、まとも過ぎる。いや、洋子さんも組織の一員だったのだが……。
洋子さんやゆうこさん、組織を離反してしまう人間は、いずれもまともな人達だ。組織はどうあれ、この女性はまともだと感じる。
洋子さんに、ボクが感じている事を伝えて、行ってみるかを相談してみた。洋子さんは、『あの女性を好きにならないと約束して』と、何だか話の趣旨と、違った事を言ってきたので、そのつもりは無かったし、固く誓う、と約束して、同意にこじつけた。母の事というのが引っかかっていたので、行って確かめてみたかったのだ。
「いらっしゃるという事で?では、これが待ち合わせの場所と日時になります。会社には直接ご案内する訳にいきませんので、ご了承を。街は、ここから一時間もあれば着けますが、よろしければ、あちらでホテルでもご用意しましょうか?」
ここから一旦帰り、再度向かうとなると、結構時間がかかる。街に入っておき、待ち合わせの場所に行った方が、楽ではある。洋子さんにも聞いてみたが、一緒ならどこでもいいと言ってくれた。幸せな気持ちに顔を緩ませながら、お願いしますと彼女に伝えた。彼女はそれを見て、気持ち悪そうな顔をしながらも、電話でホテルを押さえてくれた。
協力者!?洋子が主人公を取られないかとハラハラする女性の容姿が気になるが、主人公が気にするのはそこじゃない!!母だ!




