28 対の存在と真実
母親が語る真実とは!?
隣で眠る洋子さんが、いつの間にかボクを抱き枕にしていた。携帯を開き、時間を確認すると、わずか十分程度しか夢の中にいなかった事が分かった。長く感じたのだが、時間の流れが違うのかもしれない。だとしたら、あれも創り出された空間だったのか?
しかし、やけに強引に夢から覚めた感じがした。洋子さんの事もまだ未解決だ。
今は先ず、分かった事だけでも整理してみよう。覚えている内にそうしないと、母の話は少々複雑で、何度も確認しながら聞いていたからだ。混乱しないようにしないと。
母が説明してくれたのは、この世に必ず二人しか存在しない能力者がいる事だ。これ無くして、洋子さんの事は勿論、ボクの事も説明がつかなかった筈だ。
一人は『善』、もう一人は『悪』という能力者だ。名前だけだと、何だか胡散臭いが、結構重要な人物だったりする。先ずは『悪』からだ。この能力者は、その名の通り、悪い能力者で、チカラを軽んじているところがある。その為、人が苦しむ様を見るのが大好きときてる。そして、厄介なのは、『善』もそうなのだが、『悪』も同様に、他人に、能力を与える事が本来の存在理由らしい。
『悪』は、能力を他者に与え、その能力者がチカラを使い、他者を苦しめる事を、自分の楽しみとしている。そういう悪い人間がたくさんいれば、『悪』は満足する。らしいのだ。
与えられるチカラで、ボクが見てきたモノで言うと、『絶対服従』、筋肉爺さんの『身体増強』辺りだ。相手を傷つける可能性が高いチカラが主だ。それと、『悪』から与えられた能力を使う人間は、その大半が攻撃的な人格へと変化しているらしい。調べている段階らしく、確信はないと母が言っていた。
『善』は、他者にほとんど能力を与えないという。『悪』とは対照的な能力者で、人を助ける事が『善』にとっての喜びだ。与えた人間が良い行いにチカラを使う事が、目的らしい。与えられるチカラは、『治癒』、『再生』、『蘇生』、『音壁』など、人助けをする事が目的となるチカラが主だ。
なぜ与えたがらないのか尋ねてみたところ、『善』として生まれた能力者は、歴代からそうらしく、人の前に出たがらないのだそうだ。
目立ちたがりと引っ込み思案という事か?と自分の解釈で納得してしまう。
ここからが本題なのだが、子供の頃に夢の中に現れ、ボクにチカラを与えたのは、母だと思っていたが、実は『善』だったという事だ。義父が創り出した世界に、『善』がずっと干渉していたらしく、そのせいで、母も義父も、ボクとの対話に至らなかったという。
母が言うには、『善』は、ボクに興味を示し、ずっと見守っていて、義父が創り出す世界に悪意がないか、ボクの身の安全確認の為に、干渉してきたのではないか?と、いうことだ。
付け加えて、母達が会話出来なかったのは、『善』はかなり強力な『障壁』というチカラを、常に身に纏っているらしく、こちらからの干渉はおろか、発動している能力さえ無効にしてしまうからとの事。『善』がチカラを抑えていたのか、義父のチカラが強かったからかは分からないが、会話が不可能だっただけで、創り出した世界が無効になるまでには至らなかったと、母が教えてくれた。
因みに、母に聞いて、初めて知ったボクの能力がある。『増幅』だ。もの凄い集中力が必要らしく、日常生活では、ほぼ発動しないとの事だ。筋肉爺さんの『身体増強』より遥かに上をいくチカラらしい。思い通りにならないから不便だが。
そして、洋子さんの事だが、母も憶測でしか語れないらしく、確信があると言っていたので、話を聞いてみる事にしたのだが。そこで夢から覚めてしまったのだ。そして、洋子さんの抱き枕になっている現実へと戻った。という訳だ。
しかし、憶測でもいいから聞いておきたかったと悔む自分がいた。
眠る前にもう一度、用を足しておこうと思い、喫茶店のトイレへと向かう。洋子さんには悪いが、少々強引に引き剥がしてベッドから出てきた。
さすがに疲れる一日だったと思い返しながら、薄暗い店内を手探りしながら進み、トイレのドアを開けて息をのんだ。
滝!?トイレに滝あったっけ?……じゃないだろ!ここはトイレじゃない!
自分にそうツッコミを入れた時、滝が一気に近付いてきた感覚に襲われた。
いや、ボクが滝に近付いたのだ。振り返ると、通過したはずの、トイレのドアが見当たらない代わりに、小さな家が建っていた。普通の家ではなく、絵本でしか見た事がない『藁葺き屋根』の家だ。
まさか本物を見れるとは、思いもしなかった。しかしよく見ると、本当に絵本の世界に入り込んだ様に思えてならない。家の横には、細い小川があり、その流れが、家の外壁に組み込まれた水車を回している。また、水車とは対極にある畑には、野菜と思われる作物が植えられていた。畑の番人『カカシ君』が、これまた絵本ならではの演出をしてくれている。
その光景に見入っていたボクを、家の入り口から手招きする老婆の姿が見えた。食べられたり…しないよね?と、毎度お馴染みのアホな事を考えながら、老婆の方へと歩み寄る。
《いらっしゃい。中にお入り。》
!?頭の中から響いた声に驚いた。老婆は口を動かしていないのだが、声は聞こえた。いや、頭の中に響いた。不思議に思いながらも、勧められるまま、家の中へと入っていく。
予想を裏切らない部屋だった。入り口から部屋の上がり口までは、土間が広がり、左手には、石を積み上げたカマドが見える。
上がり口から床にかけては、勿論、板張りの造りになっていた。そして欠かせないのが、部屋の中央にある『囲炉裏』だ。火はついていない。
老婆に勧められ、囲炉裏の前に腰を下ろす。上等とは言い難い『着物姿』の老婆は、白髪が多いが、生え際が薄っすらと茶色に染まり、腰元まで伸びたその髪は、先を束ねて結ってあり、少し丸みを帯びたその顔は、シワこそ老人のそれだが、目元や鼻筋が気品を感じさせて、若い頃は美女であった事を思わせる。
「こんなに見つめられるのは久しぶりですよ。百を超えてからは、久しく人に会っていませんからねぇ。」
今度は唇を動かし話していた。腹話術ならボクも少し。あ、いや。嘘です。
「突然だったから、驚くかと思いましたが。さすがはアタシのお気に入り。チカラは正しく使えていますか?」
え?なぜその事を……!?もしかして、『善』さん!?
「ふふふ、やっと驚いてもらえました。」
そう言って、場違いな電気ポットでお茶を淹れてくれる『善』さん。
どこから出した!それの方がよっぽど驚いたよ!
「お母様から、ご自分の事は聞いたのでしょう。ですが、あの子の事が気にかかる。そう感じたのでここに招いてみたのですよ。」
なるほど、母の憶測は、あながち間違ってはいないみたいだ。ずっとボクを見てくれているのだろう。母といい、『善』さんといい、ありがたい事だ。
「たまたま見てたのです。ご迷惑でしたら、あちらにお返ししますよ。」
たまたまかい!?前言撤回だ!うぅ……。しかし気になるし。
「いえ、仰る通り、気にかかっています。分かるのであれば是非!」
「あらあら、丁寧な言葉遣いはいりませんよ。ふふふ。分かると言いますか、あの子が望んで、アタシがそうしたのですから、知っている。という事ですね。」
望んで?洋子さんが望んで?という事は、洋子さんは『善』さんを知っている?
「あの子自身は覚えていない筈です。意識と会話したのですから。私の能力は、人助けであれば、如何なる事も可能とし得るのです。あの子は、『稜くんと共にありたい』と望んでいましたから、アタシが能力で再生して蘇生させ、貴方を護れるチカラを与えたのです。」
なんだって!?そんな……ボクの仮説は無駄に!?いやいや、それはいい!
自問自答するボクの脳内会話は、実は『善』さんにまる聞こえだったと後で知った。
「しかし、母から聞いたのですが、貴女は人助けの為になるチカラしかないと……。」
疑問を真っ直ぐぶつけてみた。
「いえ、それは誤解です。アタシもですが、『悪』もまた、全ての能力を使えます。ただ、与える事をしないだけです。人が苦しむのを好む『悪』が、人助けの能力を与えたりするでしょうか?答えは否です。アタシもまた逆に、人が苦しむのは好ましくありません。ですが、あの子には、貴方を護るという目的が、人助けのそれに当たる為、チカラを与えました。『縦横無尽』『瞬足』『強襲』『増幅』『鉄壁』です。」
与えられたチカラの数に驚いた。人に会いたがらない『善』さんが、何故洋子さんにそこまでしてくれたのだろうか?そう考えていると、『善』さんが答えてくれた。
『だって、貴方はアタシの『お気に入り』なのですよ。ふふふ。それを護ってくれるあの子は、アタシの代わりに打ってつけの存在ですよ。貴方も慕ってらっしゃるし。アタシも祝福を送ります。」
なんだか、『善』さんの気まぐれにも思えたが、そのお陰で洋子さんは帰ってきたのだから、気まぐれであっても、感謝するべき事に変わりはない。
本当はもっと色々聞きたかったのだが、時間まで止めていないから、早く帰らないと、騒動になる。と諭されて、またいつか会える機会に、と、約束して、トイレへと戻った。
意外な事実と、知らなかった存在。今後それらがどう影響していくのか!そして未だ影で暗躍している組織との絡みは!次回、新たな協力者現る!?




