26 愛しの人最強伝説
お帰りなさい!
嬉しすぎる気持ちと安心感が、止めどなく心の中に溢れて、影の正体である『洋子さん』めがけて駆け出していた。
「洋子さん!!」
何度も名前を叫んだと思う。ボクはそのままの勢いで、洋子さんの首元に手を伸ばし、シッカリと抱きしめた。二度と離したくないという気持ちからだった。
以前は洋子さんがこうやって抱きしめてくれたのだが、今回はボクがその大役を担った。いつもとは逆だが、ゆるしてくれ!こうせずにいられなかったのだ。
抱きしめたまま涙しているボクの頭を、洋子さんが優しく抱き返し、撫でてくれた。久しぶりの感覚に嬉しくなる。
「稜くん。嬉しいよ。心配かけてごめんね。」
そう言ってくれる洋子さんの言葉にも、涙を感じさせた。お互いに、成し得ない筈の再会を喜び、しばらく抱きしめ合ったたまま泣いた。
「もう生きていけないと思っていたよ。洋子さんがいないのがこんなに辛いとは……、改めてそう思ったよ。」
少し気持ちが落ち着き、抱きしめた手を緩めながら気持ちを伝えた。
「ごめん。私も、足が……もう稜くんといられないって思ってたよ。」
自分が酷い目にあっても、常にボクを最優先に考えてくれる、洋子さんの言葉が身にしみる。今は愛おしいとハッキリ感じる。気付かなかった自分の気持ちだ。
「でも、今は脚、大丈夫じゃないか。ちゃんとある。」
そうなのだ。驚いた事に、洋子さんの脚は、元通りちゃんとあるのだ。
「うん、自分でもびっくりだよ。でもね、身体は何だか重いの。」
そう言いながら洋子さんがボクの胸に頭を預けて寄りかかる。ボクはその頭から綺麗に伸び揃う、サラサラの髪を何度も撫でながら、洋子さんの影が、壁に寄りかかっていた様子を思い出していた。
何らかの方法で生き返って直ぐだから、身体が上手く動かせないのだと考えられる。
「洋子さん、ボクがついてる。一緒にここから出よう!」
先程までの脱出の意味とは、まるで違うボクの心境が、言葉に乗って出たのが分かる。『希望』だ。
フラつく洋子さんの腕をボクの首に抱え上げ、右手でシッカリと洋子さんの腰を抱きとめた。そしてゆっくりお互いの歩幅を合わせて歩き出す。壁には洋子さんの手が触れて、進路をシッカリ定めてくれている。
「稜くん、声で私だと気付いてくれたの?私は直ぐに分かったよ。」
身体を支えられて近くなった、洋子さんの顔がボクに寄せられた。
「声でハッキリしたのはボクも同じだよ。でも影みて洋子さんかも?と思った」
これは嘘ではない。壁に寄りかかって、身体の向きを変えたあの時、胸元の影の膨らみでほぼ確定していたが、もしかしたら別の誰か。という事もあり得ると思い、警戒しただけだ。まぁ、洋子さんほどの破壊力は、誰しも持っているとは思えないが。
「そうなんだ!うふふ、嬉しい。稜くんもしかして……。」
そこまで言って俯いて顔を赤くする洋子さん。その可愛らしさに気絶しそうだ。顔が近いから!
何とか気絶を気合いで防ぎ(どうやってだ!?)洋子さんに言葉を返す。
「もしかして?どうしたの、洋子さん?辛い?」
いや、さっきまで辛かったのはボクだろう。何せ気絶しそうだったからな。
「ううん、大丈夫だよ、ありがとう。えと…ね。その……好きに…なってくれたの…なぁなんて。」
少し聴き取りにくかったが、内容は理解していた。が、今、黙ってしまってるのは、突然聞かれてなんと答えようか考えているからだ。というか、言葉にするのが恥ずかしいかも。
そう思った時、先程聞いてきた洋子さんも、こんな風な気持ちだったと気付かされる。洋子さんが頑張って口にしてくれたんだ!と、気合いを入れて口を開きかけた時だ。
「稜くん、ここ。出口じゃないかな?」
タイミング悪し……。いや、出口らしき扉が見つかって嬉しいのけど…。むぅ。
生きて帰れば、チャンスはまた来る!そう自分に言い聞かせ、頷いて見せて、扉を開く。
「稜くん、ありがとう。少し楽になったよ。えへへ。」
先程の質問の余韻が残っているのか、洋子さんは照れる仕草を見せながら、ボクの首から、腕を離した。少し寂しい気分になる。もう少しくっついていたい!と思ったのは内緒だ。
さて、今は脱出に集中だ!洋子さんが帰ってきたとはいえ、心身共に疲れているだろうから、戦わせる訳にはいかない。出来れば敵がいない事を祈ろう。気合いを入れ通路に踏み出した。
いつもと違い、今回はボクが先頭に立っている。洋子さんを守る為にだ。たまにはカッコつけないとね!
しばらく進むと、通路が先で左右に別れている場所が見えてきた。どちらかに敵が潜んでいるかもしれない。ここは、ボクが先に様子を見に行く!という合図を洋子さんに送った。ニコリと笑顔を返してくれたが、また勘違いしてるかもしれない。
「洋子さん、ここにいて。様子見て来る」
結局合図は意味を成さなかった。言葉で告げて、洋子さんが頷くのを確認してから、通路の角へと向かった。合図の通り伝えようとして、カタコトの日本語口調になったのは恥ずかしい限りだ。
通路の左壁を肩が当たるくらい寄りながら進む。角に着いた時、右の通路が、ある程度見える。幸いにも誰かの影は無かった。
あとは左通路だけだ。先手必勝!と言わんばかりに飛び出す。敵がいた場合、驚いて隙が出来ると思ったからだ。
!!!うわっ!!ドンッ!
お互い同じ事を考えていたようだ。あちらも同時に飛び出して、お互いぶつかった。すぐさま起き上がり、構えてみたところで、拍子抜けしてしまう。
「マスター、それに、かずちゃん!無事だったんだね!」
そうだ、ぶつかった相手はマスターだったのだ。
「そちらもご無事でなによ……。」
ボクの様子に驚いて駆け寄る洋子さんを見て、マスターが驚いて言葉を切った。
ガキィィィィン!!
マスターの後ろにいる、かずちゃんの方から、刀による金属音だと分かる音が通路に響く。
「かずちゃん!!」 ズバン!!
ボクが叫ぶのとほぼ同時に、後方からもの凄い風切り音が、かずちゃんの方へ吹き抜けた。
ズドォォン!!
敵の男が、かずちゃんに刀を振り下ろし、『音壁』に弾かれ、構え直したところに、もの凄い音速の『蹴り』が突き刺さり、通路のかなり奥まで吹っ飛んでいって、見えなくなった。その『蹴り』を繰り出したのは、洋子さんだ!本人も驚いている様子だ。勿論、ボクを含めた全員が、口を開けたまま驚いていた。
「わぁ…稜くん、私…どうなってるの?」
いやいや、こっちが聞きたいのですが。
完全復活!というより、パワーアップ!が正しいかもしれない。生き返った洋子さんは恐ろしく強いと分かった瞬間だった。
その後も、絶好調の規格外パワーで暴れまくった洋子さん。まるでこれまでの憂さを晴らすかのように、その戦う姿は嬉々として見えた。
洋子さんはボクが守る!と息巻いていたボクは、シッカリ洋子さんに守られていました。マスターも足手まといになると言って、全く手が出せずにいた。屋敷の玄関に着いた時、既に屋敷内はボロボロになり、住める状態ではなくなっていた。
そういえば、洋子さんと再会して、脱出するまでの間に、『橋本』『奈緒子』『男の子』は、姿を見なかった。既に逃げた後だったのだろう。とにかく、無事脱出が出来た事に感謝だ。ありがとう洋子さん!
生き返った洋子の規格外のパワー。謎が多い洋子の復活の秘密はいったい!?




