25 能力無効 再会
打ちひしがれる主人公。そこに新たな刺客が……
もう、どれくらい……こうしているのだろうか?この場を離れられない。
離れたくない……。失う事が、こんなに辛いのは初めてだ……。
洋子さん……ボクは……貴女に少しでも、恩返しできたかなぁ……。
一緒に……向き合おうって…約束……。あ、必要…ないのか……。
「今更で…ごめん…ね、洋子さん…。」
ずっと前からせがまれていた洋子さん待望の、ボクからのキス……、
こんなに冷たいとは…思わなかったよ…。
戦意喪失どころでは無かった。これからこの女性のいないこれからを、どう生きていけば良いのかさえ分からないでいる。こんなに情けない姿であり、気持ちであるのだが、そんな自分を、どう責めたらいいのかさえ分からない。
いつの間にか雨が止んでいた。いい加減、洋子さんを連れていかないといけない。きちんとしたお別れをしないといけない。たとえそれがボク一人であったとしてもだ。
「稜くん、ここにいた。探したよ。大丈夫?」
振り向かずともその言葉の主が誰であるか分かる。『奈緒子』だ。声までソックリだとは……。
「こんな時に、何の用だ。ナミちゃんを見殺しにしたお前に用はない。大丈夫?だと?この腕の中のこの人は……もぅ、帰らないんだぞ!!」
「あら、知ってたのね。でも同罪でしょ〜、奈美恵を見殺しにしたのは、私だけでは無くってよ?まぁ、お陰で私はピンピンしてるけどね。そのお礼にって言うか、貴方を私の下僕として加えてあげるわ!ウフ、素敵でしょう〜」
いい加減うんざりだ。組織の連中は、こんなのしかいないのだろうか。今は二人にしておいてもらいたいのだが。その後でなら、いくらでも好きにしてくれたらいい。もう生きている意味が分からないならば、下僕として生きるも、実験材料として生死を繰り返すのも、大差ない。物理的に死ねないのだから。
その思いを伝えようと振り向くが、奈緒子一人ではなかった。
まだ幼さが残る顔立ちで、奈緒子の横に立ち、光を失った様な目をしてボクを見ている男の子がいた。その子が、両方の手のひらがこちらに見えるように構え、一言放つ。
「『絶対服従』」
声は女の子の様な甲高い声だが、先程見たゆうこさんみたいに、感情のカケラさえ感じさせない。その言葉の少し後に、頭がガクンとした衝撃に襲われたが、それ以上の事は何も感じなかった。
「うふふ、これで貴方も私の下僕に仲間入」
「何ともないぞ!」
確かに『絶対服従』をかけられたみたいだが、自分の意思があるので、こんなモノなのかな?と思い、奈緒子が皆まで喋る前に、試しに口を開いてみたのだ。
「なっ!どういう事!おい!木偶人形!もう一度よ!」
「『絶対服従』」
驚く奈緒子が男の子に命令して、再度能力が使われたみたいだが、ガクンとしただけで、まだ意思があるのが分かる。
「いいわ、木偶人形、下がりなさい。」
黙ったままのボクを見て、成功したと思っているのだろう。男の子を下がらせてしまった。本来なら、『絶対服従』で操られてしまうのだろうが、そうならないのはボクの能力のせいだろう。という事は、あの能力は、身体のどこかを異常状態にしている。という事が予測される。思考出来ないと聞いていたので、恐らく異常状態に陥るのは、頭部だ。
そこで、先程のゆうこさんが頭に浮かぶ。『薄いモヤ』それがゆうこさんの頭に間違いなく纏わりついていた。憶測ではあるが、ゆうこさんは『絶対服従』を行使されているはずだ。
「さすがだわ、よく効くわね。さぁこれから、オモチャとして遊んであげるわ〜。うふふ、切り刻んでも治るのよね〜、見てみたいなぁ〜。」
そう言いながら、懐からナイフを取り出し、ボクの胸元にソレを突き刺し始めた。ナイフの半分程を刺して、口を開く奈緒子。
「ここ?心臓も治せちゃう〜?ここにしようか〜?うふふふ……なんっ!ぐはっ!」
油断していた奈緒子のナイフを取り上げ、肩に突き立てた。よろめいて崩れる奈緒子が、震える唇で何かを呟いた。
その瞬間、姿が一瞬にして消えてしまった。そこには奈緒子のモノである血痕だけが残されていた。
ボクの胸の刺し傷は塞がっていたが、流れ出た血はまだ滴っていた。
「ごめんね洋子さん、待たせたね。一緒に行こう…。」
邪魔が入り、放ったらかしにしてしまった事を詫びて、まだ残っている洋子さんの髪を、優しく撫でていく。その右手でそのまま顔に触れていく。返り血で汚してしまった顔を、指で優しく拭った。綺麗な顔が台無しになるのは、洋子さんが可愛そうに思えたからだ。
物言わぬ洋子さんに、少し待ってて。と言いおき、出口を探しに少しその場から離れる。あまり洋子さんから離れたくない気持ちが、自分でもよく分かる。
円を描く様に、洋子さんの周りをぐるっと回る。薄暗くて、先がハッキリ見えない。雨が降っていた事から、ここが外であると思うのだが、見上げても、月明かりはおろか、雲の影さえ見えないとは…。
本当に外なのか疑わしくなってきた。
キィ…ガタン! ドサッ!…ドサッ!
確かに見えた!かなり上の方だと思うが、空に扉が現れた様に見えた。そして、そこから『何か』が放り投げられたのだ。
『何か』が落ちた場所へ駆け寄ってみる。ソレを見て、もしや!と思っていた事が、確信に変わる。ここは、外ではなく、部屋だったのだ。上から放り投げられた『何か』は、周りのそれと同じ、実験材料の『ゴミ』だった。という事は、さっきの空に現れた扉は、屋敷の施設のいずれかだろうと理解出来る。
よく見ると、大きな丸柱が立っていた。薄暗いせいか、最初いた場所辺りからは見えなかったのだが、かなり大きな柱だ。よじ登るのは無理だろう。
しばらくそこで、柱を見上げながら、脱出方法を思案してみるが、洋子さんから離れた気持ちが、思考を掻き乱してしまう。そういう状態を解消する為に、洋子さんをこちらに連れてくる事にした。
場所を覚えていたつもりなのに、洋子さんがいる場所を見失ってしまったようだ。泣き出しそうになる気持ちを抑え込みながら、範囲を広げて駆けながら探す。だが、見失ったのでは無いと知る。奈緒子の血痕がそれを教えてくれた。確かにここに洋子さんがいたはずなのに、そこには何も残っていなかった。
誰かが連れ去った!?そう思えなくもない。とすれば、どこかに出口があり、そこから連れ去ったと考えられる。かなり広そうだが、洋子さんがいない今、血痕が残るこの場所に未練はない。
あの場からかなり走って、この『ゴミ捨て場』の端を目指す。薄暗さで先が見えない事と、洋子さんがいない事実に焦りと苛立ちが募る。
しばらく走ると、やっとゴミ捨て場の端にある壁際に到着した。この壁に手をつきながら進めば、必ず出口が見つかる!と、自分に言い聞かせ、左手方向へと歩を進めた。
五分程歩いたところで、速度を緩め、少し腰を落としながら、そのままゆっくり進む。先の方で何かが揺れる様に動いた気がしたからだ。見間違いかもしれないが、慎重にぬかりなくが最善だ。洋子さんの姿勢から教わった事が、身についていた。
判断は正解だった。先の方で、壁に寄りかかる影が見える。人の後ろ姿だと分かり、更に注意深く行動を見張る。進行方向が同じ様だ。少しずつ遠ざかっている。ゆっくり後を追う事にする。組織の人間であれば、出口に導いてくれる筈だ。
影の動きが止まった。また壁に寄りかかった様だ。片手をついて、頭を壁に預けている様な感じに見えた影が、壁を背にした姿勢に変わったのが分かった。あれって……と思わず口に出てしまった。
しまった!と思ったが遅かった様だ。影に気付かれた。ビクッと反応して更に腰を落としながら後ずさる。
「待って!その声…稜くんなの?ね!待って!」
名前を呼ばれ、一瞬たじろいだが、その声に迷わず駆け出していた!
「洋子さん!!!!!」
主人公が叫んだ衝撃の言葉は!?まさか!?まさか!?のドンデン返し!?




