23 頼もしき味方プラス一台
意気込んで洋子救出に向かう主人公だが、またまたトラブルが!
ダメだ、ビクともしない!急いでる時になんだよ!
普通倒れる事は考えられない様な大木が、タクシーの行く手を阻んでいた。運転手さんと力を合わせてみたが、全く動かす事が出来ないでいた。一か八かでタクシーで動かそうと考えたが、積んであった牽引用のワイヤーを大木に巻いた時点で絶望的な気分になった。まるで届かないのだ。大木をグルリと一周巻いたところで、タクシーまでの長さも必要となる。二本あっても無理だ。
「兄ちゃん!仕方ねぇ。おしっ!急いでんだろ!理由は知らねぇが、男してる!って顔だぜ兄ちゃん!運が良かったぜ兄ちゃんは!普段オレはこんなまともな道走らねぇからな!ハハッ!行くぜ、乗りな!」
言っている意味が理解出来ないが、何か策があるのだろう。ここは運転手さんに任せるしかない。制服の上着を脱ぎ捨て腕まくりをしている運転手さん。その気合いに先程までの焦りと絶望感が掻き消される様で、頼もしく思えた。後ろでベルトを締めろという指示に従い、急いで準備する。なぜベルトを?
「おっしゃ!気合いだー!!」
掛け声と共に、アクセル全開を容易に想像出来る急発進!二秒程後輪がキュルキュルと空回りして、車体の進行方向を、道外れの林の中に向けた。その時初めて運転手さんの意図が分かった。
だーーーっっっ!!!イカレてる!!!!
心が叫びを上げるのとほぼ同時に、気合いに包まれた『スーパータクシー』が、白煙を残し林の中に飛び入る。そして正に飛んだ!
凄いスピードで突っ込んで、あっという間に林の切れ間が、フロントガラス越しに広がった!
空ってあんなに高いんだ〜……。じゃないだろーーーー!!!
切れ間が一瞬で、タクシーに覆い被さるようにして後方に流れていった後、先にも述べた様に、読んで字の如し、飛んだ!!
「こっからだ!!大事ない!任せろっ!!」
な、なんだと!!想定内なのかぁ!!!し、死ぬ〜……
情けない話だが、レール無きジェットコースターの初体験で失神してしまい、その後の記憶がない。こんな初体験……いらない……。
本当の意味での『スーパータクシー』は、予想通りの外観にはなったが、意思は固く、決して速度は緩めていなかった。今、運転手と『スーパータクシー』は、固い絆で結ばれていた!!
そんなアホを考える余裕が、少し出てきた。一時はどうなる事かと心配したが、この運転手さんには不可能がないと知り、今は信頼感が芽生えてきている。どうかしてるが……。
本来指す意味ではない『山越え』の後、お陰で随分と早く見慣れた街が見えてきた。タクシー運転手は、近道のプロだと、聞き知っていたが、本当だなと感心した。この人は特別だろうが。
『スーパータクシー』が凄く目立つので、街近くのバス停で止まってもらう。料金メーターは……表示されていない。壊れたのかと思いきや、『メーター忘れてたわ〜』と、間の抜けた答えが返ってきた。どこまでも規格外の運転手さんだ。
『スーパータクシー』の見た目も考慮して、最初にチラつかせた十万円を渡した。そんなに貰えねぇよ!と、言う事は無かった。ボクは感謝の言葉とお礼を言って、バス停に歩み寄った。帰っていく『スーパータクシー』が『こっからはお前の番だ!』と応援してくれた様に見えた。ありがとう!
さて!と息を吐きながら発し、気合いを入れ直し、先ずは喫茶店へと向かう事にした。しかし、喫茶店の前は人だりが出来ていて、救急車とパトカーが来ていた。マスターが心配だが、組織の事もある。今は警察も信用出来ない。次は洋子さんの屋敷に行ってみる事にした。タクシーをまた探す。別のタクシーだ!
「い、伊町さん!……こ、こちらに。」
タクシーを探すボクに、何処からか声が。辺りを見回すと、バス停の側にある自販機の陰に、マスターがいた。怪我をしているようだ。モヤが肩や足から出ていた。
自販機に寄りかかるマスターの元に、素早く駆け寄り、チカラを使った。
傷が塞がり、元気を取り戻したマスターに、何があったのかを尋ねた。
「組織の奴らが、また来たんです。恐らく監視されていたのでしょう。伊町さんに電話を繋いで間も無くでしたから。娘は奴らに連れていかれました。母親を庇って能力を使ってしまい、それを組織の奴らが見逃す訳もなく、連れ去られてしまいました。私も先程のような有様で、助ける事が……」
そこまで言うと、押し黙ってしまうマスター。自販機に当てた拳が小刻みに震えている。守れなかった悔しさが伝わってくる。今のボクも似たような気持ちだから、よく分かる。
これで助け出す対象が二人になった。マスターも協力を申し出た。対象も増えたが、仲間も増えた事が今は心強い。
「それで奥さんは?」
救急車が来ていたので、おおよその事は分かっているつもりだが、心配だったのだ。
「娘のお陰で大丈夫です。今は中で事情を聞かれていると思います。」
無事なら問題ない。チカラで助けるべきか迷っていたので好都合だ。マスターに、組織の場所を教えてもらったが、先の目的地と相違なかった。奥さんには申し訳ないが、一刻も早く二人を助けたいので、マスターと目的地へと急いだ。
移動する道すがら、マスターが話してくれたのが、かずちゃんの『能力』の事だ。特殊らしくて、緊張した時などの気の高ぶりで発動するらしい。超音波で壁を作り、それを飛ばす事も出来るらしい。ずっと隠してきたので、よく分かっていないと言うマスターは、それを『音壁と呼んでいるらしい。
洋子さんの屋敷の近くまで来たが、見張りや警備といった輩は見当たらない。無防備だが好都合だと思い、屋敷へ近付こうとしたら、マスターに引き止められた。電柱の上の方を指差している。よく見ると、『監視カメラ』が設置してある。不用意なボクに代わり、マスターが先導することになった。
屋敷の中に侵入し、何台もの監視カメラを、マスターの指示で移動しながら巧みに躱す。情報屋もなかなかやるものだと、失礼な事を思った。
移動しながら思ったのだが、この屋敷の廊下は、銅像がいくつもあり、家具らしき物が一切無かった。花瓶も絵も飾られていない。アンティークが飾ってある、西洋の館というイメージが出来そうな雰囲気なのだが。
更に奥へ進むと、下へと続く階段が見えた。地下があるようだ。予想はしていたが。秘密の研究室とか、いつも地下にあるものだ。階段を下りると、上の階と同じ創りだが、通路の左右には、先程予想していた、アンティーク調の家具が一定間隔で並んでいた。監視カメラは無いようだ。マスターは来た事があるらしく、この地下も迷わず進めると言っていた。
マスターの言葉にウソは無かった。グルグルと迷路の様に入り組んだ通路を、マスターが先導してくれたお陰で、ボク達は研究所だと思われる大きな部屋にたどり着いた。周りには、大きな水槽が四つあり、自販機サイズのボックスが、数えきれない程並んでいる。水槽の中は、赤い色の液体が入っている様だ。時折、底の方から、ボコッと聞こえてきそうな気泡が噴き出すのが見えた。
「ほお〜、許可無くここまで侵入してくるとは……ん?なるほど、木本、情報屋の手引きか。」
いつの間に後ろに!!
声に驚き振り向くと、通ってきた通路の出口に、白髪混じりの、体格のいい老人が立っていた。顔が見えなければ、誰も老人だと分からないだろう。その割には尋常ではない筋肉が、着込んだスーツ越しにもよく分かる。力を入れたら破れ散りそうだ。
「思った通りだ、少し計画とは違ったが、娘を、いや、洋子を使えばお前が釣れると思っていた。オレの人形部隊に加えてやるから、大人しく従え!」
やはりコイツが洋子さんの父親!洋子さんは?
「だ、黙れっ!洋子さんはどこだ!会わせるまで従わないぞ。」
くだらないセリフを吐いてしまったと後悔する。この筋肉爺さん相手に、勝てる気がしない……。無理矢理従わされるのがオチだ。
「ふん、いいだろう。逆らうとどうなるか学ぶといい。連れてこい。歩けんだろうからな。」
引っかかる言い方をしやがる!早く会わせろ!
世の中には、凄いタクシーがいれば、凄い筋肉爺さんもいる!!意味有りげな爺さんの言葉に、主人公の不安が煽られる!一体洋子は!?




