21 残酷な真実
和枝が告げる真実とは!?
月明かりが差し込む薄暗い和式の部屋。庭にある小さな池に、チョロチョロと流れ込む水の音が少しだけ開かれた障子戸の方から聞こえる。畳の上に布団を敷いて寝るのはいつ以来だろうか。
隣で同じ様に布団を敷いて寝ていたはずの洋子さんは、寝ぼけての事なのか、故意にかは分からないが、今はボクの布団に潜り込み、しがみついたまま眠っている。これまで随分と助けられてきた事を思うと、邪険にも出来ず、そのまま寝かせている。
今日の昼間の……、喫茶店での事を思い出して眠れないでいた。
「……貴方には、真実をお教えした方がいいですね。私には『奈々子』という双子の姉がいます。その姉の子供が『奈美恵』です。更に、『奈緒子』という双子の妹にあたる子がいます。双子である姉が、双子を産んだという事ですね。そして、ご存知とは思いますが、奈美恵は重い病気で苦しんでいました。双子だから当然なのかもしれませんが、妹の奈緒子も同じ病気でした。奈緒子の方は、能力者という事もあり、組織の施設で治療に当たっていると、聞いた事がありました。それに対し奈美恵の方は、普通の女の子であった為、外部の病院を転々としていた記憶があります。何度かお見舞いにも行きました。彼女は組織とは無関係でしたから。」
詰まる事なく話していた奥さんだが、テーブルに視線を落とし、少しして、続きを語り始めた。
「これは……主人が日頃から気がけて、集めてくれた情報からなんですが、あの夜、貴方が治したのは、『奈美恵』ではなく……、妹の『奈緒子』で……す。」
そこまで話して泣き崩れる奥さんに代わり、マスターが続きを話してくれる。
「これは、内部協力者からの確かな情報です。組織は、能力者である『奈緒子』と入院していた『奈美恵』を、担当医師の『青木 よしひこ』の協力を得て、『入れ替え』たのです。容姿は見分けがつかない程でしたからね。当時担当看護師であった、松田さんも気付かない程に……です。そして人が少ない夜中を狙い、貴方に連絡を入れ、病院に来て治すように仕向けた。という事です。妻が伝えたかったのは……。姉である『奈美恵』は、もうこの世にはいない……。という事です。」
一瞬にして全てが真っ白になった。そこからは、この温泉宿にどうやって来たのかさえ覚えていない。
あの温かな笑顔を目にする事はもうない……。ずっとボクを見ていたと……、ボクのチカラは彼女に届かなかった……。入れ替わった事を見抜けなかった……。
クソッ……クソッ……クソクソクソ!なんで……。
そのまま明け方まで眠れず、何度も何度も、自分を戒めるように責め続けた。
泣き疲れてそのまま眠ってしまっていた。途中、洋子さんが気付いて、ボクの頭を優しく抱きしめてくれたのを覚えている。彼女には本当に色々な意味で救われている。今ボクが、こうして壊れないでいられるのは、彼女のおかげだ。感謝の気持ちが絶えない。
まだ思うところはあるが、支えてくれる洋子さんの為にも、元気な姿を見せないといけない。そう自分に言い聞かせ、布団から出る……!!!!!
前言撤回だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
あろう事か下着のみの姿で、しかもコチラにお尻を向けて寝転がりながらテレビを観ている洋子さんに、慌てて布団を被せた。感謝の気持ちは吹っ飛んだ。
臭いダジャレでごめんなさい……。
本当に軸がブレない困った人だ。ブツブツ言いながら、最後にもう一度と、温泉へと行ってしまった。ボクもせっかくだから入っておこうと温泉に向かう。下着以外の着替えを持っていなかったので、お土産売り場で、シャツを買った。下着もあったので買っておいた。ライオンのプリントに躊躇ったのは内緒だ。
竹を編み込んだ造りの囲いにグルリと覆われた露天風呂。浴槽は公園の砂場程の広さで、敷き詰められた天然石の様に見える、岩のタイルが露天の雰囲気を盛り立ててくれる。周りには、手入れされた、南天に竹や熊笹が、程よい感覚で植え込まれている。人工的ではあるが、自宅のお風呂とは比べものにならないから、満足している。後で聞いたのだが、お湯だけは天然らしい。
温泉を堪能し、チェックアウトを済ませたボク達は、サイクルショップに行く前に、手持ちのキャッシュが少なくなってきたので、宿の近くにある銀行に向かった。この辺りは、現金を扱う機械は置いてないそうだ。不便なところだと思ったが、街自体が小さいから、必要性が無いのだと銀行員さんに教えてもらった。
タクシーを使い、サイクルショップに来てみたのだが、エンジン交換するか、中古を買った方がいいと勧められた。結局のところ、ここで修理出来ないらしく、近くに修理専門の店があるから、紹介してくれる事になった。有り難い事に、オートバイも運んでくれるらしい。
またしても三人乗りのトラックで、しかも狭いときてる。車酔いするボクを気遣い、洋子さんが先に乗ろうとしたが、他の男の隣に、密着して座らせるのが嫌だったので、大丈夫!と言って、ボクが真ん中、洋子さんが窓際に座り、修理屋に出発した。配送専門の運転手のオッさんは、残念そうだったが、洋子さんは嬉しそうに外を眺めていた。
十分程走ったところに修理屋はあった。『佐々木オート』と看板が上がっていた。修理途中の車が、何台か外に出されたままになっていた。その内一台のワゴン車の下から、無精髭を生やした、五十くらいの男性が顔を出した。
「よう!なんだ?修理かそれ?」
髭男がトラックを指差して、ぶっきらぼうな口調で運転手に尋ねる。
「いや、コイツじゃなくて、ホレ!上の!」
シートを剥ぐり、オートバイを見せる運転手が、返事も聞かないうちから荷ほどきを始める。
「オートバイか!久しぶりだな。腕がなるぜ!」
どうやら二人はいつもこんな感じだとみた。髭男が断らないのが、運転手には分かっていたらしい。長い付き合いなのだろう。オートバイを手際よく一人で降ろす運転手を見て、さすがプロだと感心した。
オートバイを作業場の中に運んだ後、運転手は軽く挨拶をして帰っていった。帰りはどうするんだ……。
「とりあえず、一週間くれ!部品が足りねぇ。エンジンはコイツがいいんだろ?」
修理途中のワゴン車を放ったらかして、忙しくオートバイを見ていた髭男が声をかけてきた。洋子さんはそれに頷いて答えていた。
これで一週間はこの街に足止めされる事になる。当面の宿と、食事をどうするかだな。洋子さんに相談しようとしたら、髭男が車を入り口まで移動させて、代車だから自由に使えと言って、そのままワゴン車に潜り、作業を始めてしまった。
全く一方的な対応をする男だが、悪い人ではないようだ。ボク達は代車であるワゴン車に乗り込み、佐々木オートを後にした。
オートバイと違い、車は乗り心地が良かった。洋子さんもリラックスした様子で運転していたし、ボクも楽な姿勢で窓の外を見ていた。
同じスピードでも、車だとゆっくり感じる。オートバイと違い、オートマチックのワゴン車は、片手が暇に思えたみたいで、洋子さんが手を握ってとワガママを言っていたが、両手でハンドルを握る様に、必死でお願いした。
手を握るのが嫌なのではない。片手ハンドルにハラハラしたからだ。前にも言ったように、免許を取っていないボクには、横着な運転が、怖くて仕方がないのだ。
言うことをきく代わりに、後で手を繋いでデートする約束をさせられてしまった。いつまた組織に見つかるか分からないので、なるべく目立つ事は避けたいのだが。
危険運転はハラハラするから仕方ない、と諦めた。
しばらく足止めを余儀なくされた二人は、組織から逃げ続ける為にも、早く南の地に行きたいところだが……。




