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20 真咲 和枝の告白

オートバイを修理する事となり、時間を持て余す主人公達を、喫茶店へと誘うマスター。そこでの会話に……


 オートバイの修理に明日まで掛かるらしく、ボク達はまた、トラックの荷台に乗せて貰い、ちょっとした繁華街の喫茶店にいる。喫茶店親子も一緒だ。仕入れの為に店を閉めてきた為、時間があるから、他所の店の勉強もしたいとか何とか。娘を助けたお礼のつもりなのかもしれない。


「しかし、偶然とはいえ、同じ街の方に助けていただくとは、本当にありがとうございます。」


 マスターの言う通りだ。それからはマスターの独壇場で、娘の自慢話や奥さんとの馴れ初めやらで、気が付いたらコーヒーを三杯も飲んでいた。洋子さんだけは真剣に耳を傾けていたが、筆記用具を持ってないのに、何かをメモする仕草はどうかと思うが。


 マスターと奥さんは再婚同士で、娘さんは『木本 和美』と、自分で元気よく自己紹介してくれたので、今後『かずちゃん』と呼ぶ事にした。それに習い、ボク達はそれぞれ自己紹介をする事になった。


 マスターは『木本 (たかし)』奥さんは『木本 和枝』と続けて自己紹介をしてくれた。ボクは勿論、休憩所で自己紹介した洋子さんも、同じ様に名乗り、軽く会釈をかわした。かずちゃんの名前は、お母さんの名前を一文字取ったらしい。その話で、ボクは何か引っかかる感覚を覚える。かずちゃんが、買ってもらった新しい鉛筆で、お店の紙ナプキンに名前を書いて、見せてくれる。漢字で書かれて初めて気付く。


 ナミちゃんを探して、ある廃屋に行った時の事を思い出していた。名前が書かれた封書があった。たしか、『真咲 和枝』だった。名前が同じだから引っかかっていたのだと理解出来た。洋子さんも、書かれた名前を見て、ボクを見ていた。同じ事考えていた様子だった。しかし、良くある事だ。ボク達は色々あり過ぎて、少し過敏になっているのだろう。


 あまり気にしない様にと、洋子さんの手を握り、何度か頷いて見せた。直ぐに理解してくれた様子で、かずちゃんに『上手だねー』と、書いてくれた字を褒めだした。得意げなポーズをとるかずちゃんは、更にもう一枚紙ナプキンを取り、また書き出した。これくらいの年頃は、褒められるとお調子者に変身し易いのだ。


 微笑ましくその様子を見ていたが、かずちゃんが書いてくれた文字を見て、洋子さんと二人、前のめりの姿勢で、同時に紙ナプキンを手に取る。


 『真咲 和枝』その下に『真咲 和美』と書かれていた。そこに、マスターが説明を入れてきた。


「それは妻の旧姓ですね。娘は妻の連れ子で、その名前も旧姓ですよ。妻と再婚したのは二年前です。」


 なるほど、それで二人は旧姓が同じだったのか。しかし、同性同名というのも、何だか引っかかる。偶然かもしれないと、あれこれ考えるより、聞いた方が早い。


「真咲さんですか……。ボクの知り合いにも同じ性の方がいましたよ。たしか、真咲 奈美恵さんと仰います。」


 少しトボけた感じで、誤魔化(ごまか)す様に言ってみた。その名前に夫婦で顔を見合わせている。奥さんの表情が、硬くなるのが見てとれる。


「あの、どういうお知り合いなのですか?」


 黙り込んだ奥さんを気遣っての事か、マスターが尋ねてきた。今度は、向かいの席に並んで座る、ボク達が顔を見合わせる。どう説明したものかと思案するボクの様子を感じ取ったのか、洋子さんが先に口を開いた。


「ええ、彼女は私が務めていた病院の患者さんでしたから、私に会いに来てくれた主人とも、話をするようになったんですよ。」


 そう言い終わった顔が得意げに見えたが、まだ主人だと言い続けるか!と、ツッコミたくなった。


「どうやら、貴方がたは大丈夫な様ですね。もう芝居がかった話は必要ないですよ。私達は貴方の素性を知っていますから。」


 そのマスターの言葉に驚いてしまい、飲みかけていたコーヒーを吹き出しそうになった。洋子さんは落ち着いている様子だ。ボクの口元を、紙ナプキンで健気に拭いてくれている。そして、つい慌てた様子を露わにしてしまった自分が、恥ずかしくなった。ポーカーフェイスを使う場面だったからだ。


「随分と正直なのですね。比べてそちらは大したお方です。さすがは組織が誇る精鋭部隊のお一人だけありますね。」


 ボクのせいで確信を与えてしまったと思っていたが、今のマスターの言葉で、最初から全てを承知での事だと理解出来た。隣で平然とコーヒーに口をつけている洋子さんが、カップを持ったまま話し出す。


「私も貴方の事は知っていましたので、最初から小芝居をしてみましたが、やはり知っていらしたのですね。でも、そちらのお二方は記憶にありませんが、組織とは?」


 なに!!と、この場で驚いているのはボクだけしかいない様だ。かずちゃんは絵を描いて遊んでいるので論外だ。洋子さんも人が悪い!と言いたいが、ここは静観するのがいいだろう。洋子さんの先程の問いに、マスターが答える。


「ご存知の通り、私は組織の情報屋として一応、席を置いてますが、彼女達は無関係です。いや、妻に限っては、今は、と言った方が正しいかもしれません。」


 そう言って、他のオーダーを終えて通りすがるウェイトレスを呼び止め、コーヒーのお代わりを頼むマスター。その様子に、焦れたように先を促す洋子さん。


「それで、今は?とは?」


 やはり焦れている様だ。促す言葉が短い。


「あ、申し訳ありません。妻の事ですよね。じつ」


「それは、私から話させていただきます。」


 焦れた洋子さんに対する、マスターの会話に割り込んだのは、先程まで沈黙していた奥さんだ。


 奥さんの話を聞いて、彼らが今の組織と、距離を置いている事を知った。


 以前の組織は、能力者が中心となって、『人助け』を基本とした少人数の集まりで、そこに一般からの協力者が加わり、ちょっとした『慈善団体』になったそうだ。その一般協力者というのが、後々問題になっていったそうだ。

 権力や財力を使い、研究設備や、そこに従事する研究者と作業員など、それらは次第に、能力者を(おびや)かす存在となったそうだ。

 並外れた能力者が、何故?組織に逆らわないのか気になり尋ねてみたところ、研究者達の開発した『あるモノ』で、思考や行動を抑制(よくせい)されているらしい。これは、洋子さん情報だ。

 ボクも捕まれば、他の能力者達と同じ措置(そち)(ほどこ)され、ただの人形として組織に利用される事になる。それを知っていたからこそ、洋子さんが、指導者の一人である父親に反発したのだと、改めて知らされる。

 ボクは、能力者の『絶対服従』かと思っていたのだか、洋子さんが言うには、永久的なチカラじゃないとの事だ。


 そして、奥さんも昔は組織に入っていたそうだ。以前の結婚相手と二人で。

 その相手とは『能力者』であり、組織に利用され、ボロボロになった後、実験材料として処理されてしまったらしい。それを聞いた洋子さんが顔を伏せてしまった。反発して離反したとはいえ、父親がやっている事に変わりない。思うところがあるのだろう。後で慰めておこう。

 話を戻すと、組織にご主人の命を奪われた奥さんは、自殺まで考えたが、妊娠している事がわかり、亡くなったご主人が残してくれた、唯一の宝物だ!と、生きる希望が湧いたそうだ。そして数年後、マスターと再婚したそうだ。

 肝心の、ナミちゃんとの関係について聞いたのだが、とんでもない事実が発覚した。洋子さんも知らなかった事だと後で聞かされた。

 聞いた後は、驚きのあまりしばらくの間、動く事はおろか、話す事も出来なくなってしまった。


 

懐にしまいこまれていた『真咲 和枝』の謎が、こんな形で解けるとは、思ってもみなかった主人公達。しかも、その和枝が語る真実が、驚愕する事を意味する、今回の結末。その真実とは!?

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