19 南へ
またしても隠れ家は安息の地ならず!
「稜くん、聞いたよ、奈美恵さんといい仲になったんだって?笑わせないでくれよ〜、可笑しくて死ぬよ〜。あの時見殺しにしといてさ〜、どんな思考回路してたらそうなるのさ?ここにいる仲間も許さないから。あれだけ痛みつけられたの忘れたのか?って言ってるよ?出てきて詫び入れろよ?」
つよし達はドアの向こうに集まっているようだ。あの飼育小屋に呼び出して、散々ボクを痛めつけた奴らのようだ。そうだった、あの女の子はナミちゃんだったのだ。最初から知っていたら、付き合う事はおろか、近付こうともしなかった筈だ。
しかし、このままこうしていてもラチがあかない。やはり、退路は窓しかないのだが。そう考えて、チラリと洋子さんを見る。頷いてくれるが、何か分かり易い行動も言葉も伝えていないのだが?
「稜くん、じゃあ覚悟して下さいね。出来る限り守ります!」
そう言い放ち、バリケードを倒して、ドアを蹴破る洋子さん。
え!?ちょっと!違ぁぁぁう!!
まさかの勘違い!?玉砕アタックだとは予想もしてなかった。よ、洋子さん……。
道は開かれた。とは言えないが、一応ドアは開いた。敵も、まさか!と思ったに違いない。その証拠に、勢いよく開いたドアに跳ね飛ばされ、失神しているのが見える。
ひぃ、ふぅ、みぃ……!凄い!ドアの一撃で失神したのが四人も!洋子さんバンザイ!!あ、つよしが起き上がってきた……。
全く参戦していないボクがアホな事を考えている間に、つよしが起き上がる。もう一人失神していない男がいたが、洋子さんの強烈な膝を顔面で受け止めて、失神サークルに仲間入りをしていた。残すはつよしだけだ。洋子さんの隙をついて、ボク目掛けて飛び掛かってくるつよし。
受けてやる!因縁の対決だ!!
さすがにボールペンは剣に負けた。つよしが武器に持つ両刃の長剣で、半分がどこかに飛んでいってしまった。剣がペンを超えた瞬間だった!口にすると、洋子さんがツッコミそうなので、無口な男を決めこみ、つよしの剣を身体で受ける。あの時と同じように。そしてトドメは!
「洋子さん!!」
ボクが叫ぶと同時に、洋子さんがつよしに手刀を入れ、意識を刈り取る。洋子さんの勘違いのお陰で、何とか切り抜けられた。
洋子さんが駆け寄り、まだ刺さったままだった両刃の剣を、ゆっくり抜いてくれる。自分で抜くには、ちょっと長すぎて、どうする事も出来なかったのだ。今回は、フラついたりしない。痛いのは変わらないが。
失神サークルの連中をロープで拘束した後、ボク達は、ともこ先生の思い出が詰まった家を後にした。あれだけ騒いでいたので、誰かが警察に通報したようだ。
指紋とかで捕まったりしないか心配していたら、組織が黙らせる筈だから心配ないと洋子さんに言われた。
だが、警察を使えば、ボク達の確保も簡単だと思うが?
それに関しては、組織にも限界があるとの事で、警察を使役出来る程、世の中甘くない!と断言されてしまった。
えぇ、どうせボクは子供ですから。どうせ……
どうやら洋子さんといると、ボクは壊れてしまうらしい。次の目的地でメンテナンスが必要だ。
またオートバイの旅が始まる。このポジションにも慣れてきた。計画通り、南に向けて出発だ!
オートバイが止まった場所は、塩の香りがする、海沿いの休憩所だ。文字通り止まった。のである。かなり無理した為に、エンジンが悲鳴を上げたのだろう。と、洋子さんが教えてくれたが、今はオートバイの脇で『私はバイク乗り失格だ!』と嘆いている様なので、ソッとしておく事にした。
それよりも、ずっと我慢していて漏れそうなので、急いでトイレへと駆け出す。順番待ちの列が出来ていたが、意外と早く用を足す事が出来た。手もキチンと洗いましょう!
用を済ませて外に出ると、人だかりが出来ていた。露店の叩き売りショーとか?大昔ならありえるだろうが、実際にボクは見た事がない。洋子さんの様子も気にかかるし、そろそろ戻ろうと、人だかりの横を通ると、小さな女の子が倒れているのが見えた。お腹の辺りからモヤが出ている様だ。やじ馬をかき分け、女の子の側に行くと、洋子さんがそこにいた。
「り、稜くん!この子を助けて!」
そう言って女の子のシャツの裾を少し捲り、脇腹に刺さった鉛筆を見せる。刺さった鉛筆なんて初めて見た。即座に頷き、女の子の側でしゃがむ。今度は、鉛筆の先を摘む洋子さんが頷く。一気に引き抜かれた鉛筆は、かなり深く刺さっていたようだと分かる程、その大半を赤く染めていた。すかさず手を当てて、チカラを使う。一瞬で終わった。何事も無かったかの様に立ち上がる女の子を、洋子さんが抱きしめている。傍で困った様に立っているのが、多分お母さんだろう。ボクは洋子さんの肩を叩き、お母さんに返してあげる様に促した。やじ馬から、歓声が上がった。チカラを使って、こんな体験は初めてだった。
嬉しい気持ちと恥ずかしさで、その場から足早に立ち去る。息を上げたオートバイのところまで戻ってみたが、動かないので立ち往生する事になった。
しばらくして、さっきの女の子が、両親を連れてお礼を言いにきた。お母さんが深々と頭を下げて、娘を見る目に涙を浮かべていた。凄く律儀な方だと素直に感じた。先程も、遅れて到着した救急隊員の方々に、深々と頭を下げていたのを見ていた。
女の子も、お礼を言ってくれた。今はジッとボクを見ている。そこにお父さんが前に出て尋ねてきた。
「あの、ひょっとしてホームセンターの?前にウチの喫茶店にいらした方。」
お父さんの言葉を聞いて、女の子も口を開く。
「あーっ!思い出したよ!凄く美味しそうにサンドイッチ食べるお兄ちゃん!」
そう言われて、ボクも思い出す。では、この子はあの時の店員さん?頭の中で着せ替え人形モードが起動する。チーン!と絵柄がピッタリ揃った様な音はしないが、容姿が一致した。
「あー!あの喫茶店の!いや、本当に美味しかったです。」
思わず小学生に丁寧に言葉を返してしまう。笑われてしまったが、知り合いにこんな場所で会えて、少し嬉しかった。喫茶店親子との会話で、うっかり洋子さんを放ったらかしてしまった。ボクの腕を肘で突いてきてた。紹介しなくては。
「あ、こちらは…」
「婚約者の松田 洋子です!初めまして!」
ええ!?もしもーーし!?いつ婚約したんだ!
「主人の稜くんがお世話になりました〜ウフフ」
いやいや、一瞬で結婚してしまってるし……ウフフじゃないよ……。
このまま洋子さんに話をさせると、羽ムーンとか言い出し飛んでしまいそうなので、今度またお邪魔しますと、早々に話を切り上げた。少しスネた様子でオートバイとまた語り出す洋子さん。
「あの、もしお困りでしたら、載せます?オートバイ。」
後ろからの声に振り向くと、先程の喫茶店のマスターが立っていた。その後ろには、荷台がカラになったトラックが停まっていた。洋子さんに伝えたところ、有り難いとの事だったので、マスターにお願いしてオートバイを載せてもらった。
トラックは三人しか乗れなかったので、ボク達は、荷台にシートをかけて貰い、そこに隠れる様に乗り込んでいる。近くのサイクルショップまで行ってくれるそうだ。
マスターの話だが、今日は仕入れで遠出してて、品物が揃って無かった為、帰る事になり、あの休憩所で娘が大怪我して、そこをボク達が助けた。偶然とは凄く不思議なものだ。
オートバイから、オイルの匂いが漏れているが、ボクは意外とこの匂いが好きだ。ホームセンターにいた時も、草刈機やチェーンソーを点検したりすると、似た様な匂いがして好きだった。
ボクがそんな事を考えている間中もずっと、隣で密着して座る洋子さんが、イタズラをしてくる。子供みたいな人だ。危機迫る時のカッコいい姿からは、絶対想像出来ない。だが、やはり不思議と嫌だとか鬱陶しいだとか思わない。最近は特にそうだが、姿が見えていないと不安で仕方ない。
まぁ、分からない事を考えても仕方ない。オートバイが動くまでの辛抱だ。
今までと違い、チカラが他人の為になったと安堵する主人公。徐々にエスカレートする洋子!自分の気持ちにさえ鈍感な主人公は、いつになったら……。




