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18 招かれざる客

主人公にとってこの地は……。


 ただ乗っているだけで、こんなに疲れるとは思ってもみなかった。運転している洋子さんは相当疲れているはずだ。しかし、随分と走った様な気がするが、運転していないのでよく分からない。

 山道から抜けた後は、かなりスピードも緩やかに感じられた。


 徐々に街灯が目立ちだし、街のネオンも近付いている。今はすっかり暗くなり、オートバイのライトも目立つ様になってきた。山道は、対向車がこちらを見落とす可能性があるからと、オートバイのライトは点灯したままだ。洋子さん説である。ボクは免許を持っていない為、運転の事に関しては何も知らない。


 ネオンに向けて走らせていたバイクが、洋子さんの合図と共に右に傾く。この合図は、山道途中で洋子さんが決めたもので、カーブでは、車体を倒さないと、上手くカーブ出来ないらしく、二人乗りだと更に危険が増すと聞かされた。倒す時は、その方向に、洋子さんが少し身体を傾けてみせるという、合図らしからぬ合図だ。分かり易く頭を真横に倒してくれるから、ボクにもさほど難しい事では無かった。


 てっきりネオン街で、食事でも取るのかと思っていたのだが。先程右へと大きく曲がって、ネオン街からは遠ざかってしまっている。そのまま道なりにしばらく走るオートバイ。流れる景色も、薄暗くはあるが、緩やかに流れていく様子が見える。

 次第に道も(せば)まり、民家の灯りがチラホラと見えだした。『○○タバコ店』??


 あれ?知っているお店のような看板だったなぁ……。


 何だかデジャヴでも起きた感覚だったが、何だったか思い出せなくて、直ぐに興味は他に移ってしまった。流れる景色に見入って、遠くを見ている時の様に、思考が少しだけ麻痺したようになってきた。


 街灯、ゴミ箱、電柱、ポスト、神社……。あぁ、あそこ、虫捕りによく行ったなぁ……、あ、いつも買い食いした駄菓子屋さんだ……、あ〜、あの畑、トマト盗んで怒られたとこだ。あ〜……!?


 ボーっとしていた脳が、いきなり覚醒した。オートバイが走るこの場所は、子供の頃にボクが住んでいた街だった。この辺りはよく覚えている。


 懐かしいなぁ……、そうそう、そこの角を曲がると、え?


 洋子さんの合図に反応しきれず、傾いたオートバイの動きに、首がガクンと後からついてきた。慌てて洋子さんにしがみつく。少し後ろに首を回し、ボクの無事を確かめてくれる洋子さん。


 曲がってから直ぐに、オートバイが停まる。更にキーを捻りエンジンも止まる。先程まで走り続けたオートバイのエンジンが、カンカン、カン、と弾ける様に金属音を鳴らす。

 先に降りたボクは、ずっと同じ姿勢で乗っていた為か、よろけて片膝をついてしまった。サイドスタンドを下ろし、心配そうに駆け寄る洋子さんに、腕を取られながら立ち上がる。

 目の前の家が、懐かしくもあり、不安にもさせる。表札は外されていた。そう、ここはボクが過去に、家族と慕っていた人達の家だ。『ともこ先生』が思い出されて辛くなる。


「ごめんね稜くん。今は他にあてがないの。」


 そう言って玄関の鍵を開けて中に入る洋子さん。ボクも少し遅れて、複雑な思いで後に続いた。玄関の踊り場に、腰を落として座る。その肩に、洋子さんの手が軽く添えられた。


「ここはね、組織が……、父が用意した家なの。橋本夫妻の為にね。どんな命令で動いてたかは知らないけど、稜くんに関する事というのは、間違い無いと思う。それと、この家は、私が買い取ったものなの。組織はそれを知らないはずよ。偽名使ったからね。だから、今日はここで疲れを取りましょう。」


 そう言って、ボクの腕を取り、家の中へと引っ張る洋子さん。ボクは渋々中へと入る。


 先にボクがお風呂を済ませた。その間に、洋子さんが近くのコンビニに、食料を買いに行ってくれていた。お弁当にカップ麺、お菓子に惣菜パン等、勿論、缶コーヒーにお茶といった飲み物もある。

 ボクが食事を済ませる間、洋子さんは先にお風呂にする!と、バスルームへと行ってしまった。ボクは真っ先に弁当の封を開け、久々にまともな食事を取った。至福の時だった。


 食事を終え、ソファーでボンヤリしているところに、お風呂上がりの洋子さんが入ってきた。大丈夫!ちゃんと新しい洋服に着替えて、露出はしていない模様!全国のお父さん!すまん!


 ハッ!また誰に投げかけているんだボクは!


 細かい事は気にせず、洋子さんに食事のお礼を言って、今後の計画を聞いてみた。


「計画?そうね、以前立てた計画は、ゆう……、あ、ごめん。」


 そこまで言いかけて謝る洋子さんに、隣に座ってもらうように、横にズレて行動で示す。俯きながらも素直に横に座ってくれる。


「名前くらい大丈夫だよ。ちゃんと向き合う時は、二人で思い出す事にしよう。約束した様にね。」


 そう(なだ)めるボクの手を握って、頷いてくれていた。落ち着いたところで、これからの事を、二人で考える事にした。

 それから、色々話し合った結果、このまま組織の手が回っていない、南方に行き、二人で様子を見ながら暮らす事に決定した。決定したのは洋子さんだ。『嫌なの?』と言う彼女に、反対する理由がないのだ。



 朝、チャイムの音で目が覚めた。ソファでそのまま寝てたみたいだ。洋子さんが、ここで待て、の合図を送り、玄関の様子を見に行った。確かに!ここは誰も住んでいない筈だ。表札だってはずしてある。セールスマンなら問題ないが、組織の人間なら……。


 玄関の様子を見に行っていた洋子さんが、リビングの入り口で、手招きしているのが見えた。静かに彼女の側に歩み寄る。玄関の方を指差し、何かを訴えている。


「稜くん!稜くん!いるんだろ?街に帰って来たの知ってるよ!おーい。」


 ボクの名前を呼ぶ男の声。聴く限りでは若い感じがする。玄関の扉まで近付いてみる。相変わらずさっきと同じ事を言っている男の声。

扉に覗き穴があったので、息を止めて覗き込む。子供の頃の面影が残るその男は、『荒川 つよし』だった。成長して、少し頬骨が目立つが、間違いなく彼だ。

 ゆうこさんが言っていた事を思い出す。『この二人の息子も暗殺者よ』そう、ホテルに侵入した暗殺者夫婦は、つよしの両親だった。ならば彼も組織の一員であり、暗殺者だ。


 扉を開けるのは得策ではない。リビングまで戻り、洋子さんに男の正体を告げる。洋子さんは、二階を指差し、ボクの手を引き静かに移動しだす。それに習い、後に続いて二階へと上がる。


 二階廊下の突き当たりにある部屋にボク達は入った。ドアを閉めた洋子さんが、脱出方法を探しているように思えた。部屋をキョロキョロ見回している。窓からどうか?と提案したが却下された。


 そうこうしている内に、階下で勢いよく、玄関ドアが開く音がした。どうやら強引に蹴破ったみたいだ。ダァン!という音と共にバン!と扉が壁にぶつかる音がした。しかも、廊下を靴のまま歩く音が、一人ではない事を知らしめる。複数人侵入してきたようだ。


 ボク達は、ドアの前に、机や棚を移動させ、バリケードを作った。勿論、気休めである事は理解している。洋子さんがナイフを構えて備えている。


 階段を駆け上がる音に、緊張感が走る。ボクも一応武器を手にしている。机にあったボールペンだが。洋子さんが、ボールペンを見て、えーそれ!?と驚いていたが、大丈夫だ。ペンは剣より強しって言うだろ?と説明したら、物理的な意味じゃないとかなんとか……?ないよりはマシだ!


組織の暗殺者であるつよしの訪問!やはり組織の包囲網は計り知れない!立て籠もる二人の勝算は!?

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