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2 殺意無き殺人の代償

お試しの予行練習が、つい白熱しているのです。もう少し続く予定です。メインの書き溜めも進行中!



4/1 行間、段落、誤字を訂正、修正致しました。


 夏休みも終わり、秋の風の匂いが鼻を刺激する。なんて格好のいいモノでは無く、ともこ先生が『栗』を焼いてくれている匂いで、先程から腹の虫が鳴き止まないでいた。


 カブト虫採取中の事件の後、つよし君には他言無用の約束をしてもらった。しかし、友達が多い彼が、ついポロッと漏らしてしまうのは、時間の問題だと感じていた。

 授業の間中チラチラ見ている彼の態度からして、もう誰かに話したのかもしれない。もしそうならば、好奇の目に晒されて、実験台の様な事にならないか?


 この間、ともこ先生の家にお泊りした時、テレビでそんな映画を観ていたからか、ボクの不安は増すばかりだった。その不安に押し潰されそうになり、ともこ先生に相談するべくここに来ていた。


 ともこ先生の答えは、極めて単純明解なモノだった。


「もし、そんな不思議な事が出来たとして、子供の稜君や、お友達の言う事を、周りの大人が信用するかしら?きっと笑われて終わりって事になると思うよ。私は稜君を信じちゃうけどね。」


 少しイタズラな顔をしながら、先生はそう言ってくれた。それでもまだ少し、不安に思っていたボクの気持ちが顔に出ていたのか、心配ないよと一言添えながら頭を撫でてくれた。

 こういう時の先生が一番好きだ。母に甘えた記憶はないが、きっとこんな感じで、慰めてくれたり、頭を撫でてくれたり。普通の家庭が羨ましいと思う。




 それからしばらく後、あの夢の事を思い出してしまった。


 頻繁に夢を見ていた頃は、昼間活動している時間に、思い出す事なんてほぼ無かった。原因は、目の前にある光景だった。


 昼休みに、学校の敷地内にある『アスレチック』の、綱渡りの箇所で、下に張られた安全ネットの上では無く、全く張られていない場所に彼女が横たわっていた。


 周りの話では、安全の為に、滑車の付いたロープを、腰に巻いた安全帯という大きなベルトに、装着して渡るのだが、彼女は格好がいいと思ったのか、それらを装着しなかった。


 しかも、張られたロープにぶら下がり、大車輪とまではいかないものの、それに近い動作をとっていたらしい。


 落下してしまったのは、鉄棒と違いロープは(しな)る為、勢いが止まらず、反動が増し飛ばされた。という事らしい。


 地面に横たわる彼女の頭の辺りに、血が流れ出しているのが見える。


 ボクは迷っている。


 今ここで能力を使えば、間違いなく多くの目撃者を作ってしまう。いくら大人でも、これだけの大量の血と、たくさんの子供達の証言があれば、信じるに値する。


 知らない何処かに連れて行かれ、実験台にされて、最後は……。

しかし、こんな事を考えている間にも、彼女の血は流れ出している。


 我が身に降りかかるかもしれないおぞましい実験、目の前にある大量の血。どちらも恐怖である事には違いない。まだ小学生のボクには荷が重い。


 そんな葛藤に身震いしているボクに、何かを訴えてくるような視線。彼女とボクを交互に見ている。明らかに、何を訴えているのか理解できる仕草だ。しかし……。



 放課後。校舎から少し離れた場所にある、『飼育小屋』にボクは来ていた。正しくは『呼び出された』のだ。相手はつよし君だ。あの時の、訴える視線の主でもある。話の内容はほぼ確定している。あの時の事を責めているに違いない。


 だいぶ日が傾き、午後十六時二十五分を知らせるチャイムが鳴り響く。

それにタイミングを合わせたかのように、つよし君が姿を見せる。話があると言われたが、どうやら話ではないらしい。彼の他に五人いる。


 ボクを囲む六人の中に、名前くらいしか知らない子もいたが、別のクラスの男の子だろう。


 罵声と共に、一方的な暴力が開始された。暴力行為の間も、怒号混じりの罵声は続く。内容からして、つよし君が彼らに、ボクの能力の事を話し、それを信じた他の五人が、好意を寄せていたあの彼女の仇を取りにきた。という感じに受け取れた。


 確かにあの時、助ける事が出来るのはボクしかいなかった。だが、常識で考えてみると、普通の子供なら、そんな事は不可能であり、彼女の事故はボクのせいじゃない。


 そもそも危険を顧みなかった、彼女の自業自得ではないか……。

しかしそこには、自己嫌悪も確かに存在していた。


 『彼女を見殺しにした』


 彼らは、怒りと恨みを言葉にしながら、散々ボクを痛めつけた後、唾を吐きかけ帰って行った。普通の小学生なら、起き上がる事も叶わない程の暴力行為に、ボクは寒気を覚えた。


 暴力行為の最中に、痛む箇所を押さえて『治癒』を行なっていたからこそ、今こうして立ち上がる事が出来ている。本来は警察沙汰にもなり兼ねない所業だ。


 だが、不思議と恨みはない。込み上げる自己嫌悪の方が勝っていたからだ。助けられたのに助けなかった。重くのしかかる後悔である。



 今日の放課後にあった事を全て話し、少し気持ちが楽になる。今はともこ先生の腕の中で、幸せを噛みしめている。


 ちょっと気になったのは、先生の旦那さんが、落ち着かない様子でウロウロしている事だ。五分置き程度に掛かってくる電話が原因らしいが、何が彼をこうも苛立たせているのかは解らない。


 そんな旦那さんをよそに、先生は台所へと、夕飯の支度に向かった。何だか本当の家族になれたみたいで、胸の奥が少しむず痒い。

 照れ隠しに、いや、隠せてなかったと思うが、今日出された宿題を広げ、少し知的になった雰囲気を演出しながら、ニヤニヤと緩む顔が見えない様に、ノートに突っ伏した。


 またリビングの電話が鳴り出した。旦那さんの怒鳴り声と、悲痛を感じさせる小さな悲鳴が聞こえた。

普段はニコニコと笑顔を絶やさない彼が、こんなに怒り悲しむ姿を見せるのは、始めてだった。


 壁に両手をつき、自分の頭を数回打ち付けた後、彼は(きびす)を返し、こちらに向かって歩いてくる。その目は、リビング中央のソファに座るボクを見ていなかった。まるでそこには何も無い、と言わんばかりの態度で、ズカズカと台所の方へと歩いて行く。先生とケンカとかしたら嫌だなと、何も起きない事を祈った。


 ボクの祈りほど当てにならないモノはない。先程から旦那さんのわめき散らす声が聞こえる。たまに先生の嗚咽混じりの言葉も聞こえていた。そして、一層わめき声が高くなり、先生の悲鳴を合図にソレはおさまった。


 しばらくして、旦那さんが台所から飛び出して、玄関に向かうのを目で追った。


 聞いた事も無い先生の悲鳴が、頭の中で、危険だと警鐘を鳴らしている。ある程度の想像と覚悟は出来ていた。が、自分が最も大切に思う人が、血だらけで横たわる姿は、痛みを伴い、心臓を貫くような衝撃が走る。


 何が起きているのか、何をしているのか……。理解はしている。が、まるで肝が据わった看護師さんのように、こんなに大胆な行動がボクに出来たのか……。

 不思議だが、その思考とは裏腹に、ボク自身驚き(すく)んではいなかった。


 それは『皮肉』としか言いようが無かった。


 学校で起きた落下死亡事故で、恐怖したボクが助けられなかった命。その恐怖を既に体験した事によって、今こうしてともこ先生に救いの手を差し伸べる事が出来ているからだ。


 結果、今、目の前にあるともこ先生の状態に、衝撃を受けながらも『対処』する事が出来ている。あの時の彼女を恐怖で助けられなかったのに、先生は躊躇(ちゅうちょ)無く助ける。これが皮肉ではなくなんだと言うのだ。流れ出た血が、元に戻る事は無かったが、先生は一命をとりとめた。



 あの後、先生の傷は癒えたのだが、流れ出た血の量からして、危ない事に変わりないと判断し、救急車を呼んだ。


 かなり抵抗があったが、場所を移し、身体を拭き、服を着替えさせた後に通報したのだ。傷が無いのに、大量の血痕を見たら、大騒ぎになり兼ねないと判断したからだ。


 事情を色々聞かれたが、ボクが行った時には倒れていた、と、適当に答えておいた。相手が子供だったからなのか、すんなり信じてくれた。


 先生をあんな目に合わせた旦那さんは、この日を境に、姿を見せる事は無かった。



少し長くなりました。くどくどなってしまった部分があると感じますが、流れを保ったまま直す事が、私には難易度が高い為、そのままの投稿となりました。読んで下さり、ありがとうございます。

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