17.5 逃走、犠牲、束の間の休息
※少し短めですが、緊張を緩和したくて書いた感じです。肩の力を抜きましょう。
主人公達が逃げる時間を作る為、自ら志願したゆうこ。無事合流出来るのか!!
『火の見櫓』コレも、過去にこの住宅地や、隣接する作業現場に、火事を知らせたり、災害警報を知らせたりと、役に立っていたのだろが、今は見るも無残な有様だ。備え付けのハシゴは、中程で折れてしまい、下から手が届きそうにない。全体的に錆びているのだから無理もない。本体諸共、いつ倒れても不思議ではないだろう。
その脇に停められたオートバイを、先程から洋子さんが、手際よく点検を入れている。ゆうこさんから預かったキーを差し込み回し、低い唸り声を上げる様にエンジン音が響くと、コッチに!と取れる合図をボクに送る。
ゆうこさんの事が、まだ気にかかるが、洋子さんのあの表情を見てからは、ソレを行動に移さないように決めた。今は洋子さんの指示に身を任せよう。男としては情け無いかもしれないが、洋子さん程、色々な事に長けた『人間』はそういない。ボクは、『人』として従うのだ。決して優柔不断などではない……ないよ。
一つしかないヘルメットを、ボクに被せて、勇ましくアクセルを捻る洋子さん。凄いスピードだ。ヘルメットを被るボクでさえ、隙間から流れ込んでくる風が、息苦しくさせるのに、洋子さんはモノともしない様子で、更にスピードを上げる。流れる景色を楽しむどころか、横を見る余裕すらない。
改めて、この人は何でも出来る凄い人だ!と心の中で称賛の声を送る。
火の見櫓から、裏手を目指し、フェンスの途切れ目を抜けて、林の中を突っ切ると、細い小道に出た。そこからは、アクセル全開でこの状態だ。
ダダァァン!!ダァァン!!
洋子さんが握るアクセルが、少し緩まり、微かにエンジンブレーキが掛かった。振り落とされ無いようにしがみつくボクにも解る程、『慣性の法則』が働いた。
さっきのは、銃声か!もしや……。
ヘルメット越しでも聞こえる程の、空気を引き裂く乾いた音。前にも聞いた事がある。しかもあの時、撃たれたのはボクだ!聞き間違えたりしない。あれは数発の銃声だった。
アクセルを一瞬緩めた洋子さんも、同じことを考えているのだろうか……。聞こえていたはずだ。勘のいい洋子さんも、銃声だと気付いているだろう。
ゆうこさん、無事であってくれ……。
それ以上緩まる事のないスピードの中、ボクは洋子さんと一緒に祈るかの様に、頭をその背中に押し当てて、ゆうこさんの無事を祈った。
涼やかに流れる小さな小川を眺め、缶コーヒーを一口。腰掛けた川沿いの岩が、ヒンヤリとしているが、バイクに跨って痛めたお尻に丁度いい。隣に座り、ボクにもたれ掛かる洋子さんも、目を細めて缶コーヒーを傾けている。その目の端に涙が真横に流れた跡があった。
ハンカチなど持っていなかったボクは、シャツの袖口を指で手繰り、摘む様に持って洋子さんの目元を拭う。少し驚いたように、こちらを振り向きかけた洋子さんだが、ボクの意図が解ると、そのまま動かないでいてくれた。
「ありがとう稜くん。」
拭い終わったボクの頬に、頭を寄せ、もたれる様にしてそう言ってくれる。病院で缶コーヒーを奢らされた時の事を思い出す。今の洋子さんの様に、ここまで積極的な感じはなかったが。不思議と今は、嫌な気分になったりしない。むしろ温かい感じだ。
缶コーヒーか。かなり走ってきたと思うんだが、ここはどの辺になるのか見当がつかない。荒れた山道をグルグル走って来た様だが、さすがに疲れたのだろう、途中見つけた自販機が動いていたので、缶コーヒーを購入し、少し林を分け入ったこの場所に来た。
少し考え込んでいる間に、洋子さんがそのままの姿勢で寝てしまった様だ。起こさない様に、優しく頭を片手で抱きかかえ、膝の上にゆっくり下ろした。大丈夫みたいだ。寝息が聞こえてくる。
ゆうこさんの事を考えてしまう。ボク達を逃す為に、犠牲になってしまったんじゃないだろうか?洋子さんのあの時の表情、苦渋の決断をしないといけない状況。洋子さんとゆうこさん、この二人がいたら、大抵の事は大丈夫だと思うが、二人のあの慌てぶりからして、相手は二人以上の手練れだったのか?だとしたら、ゆうこさんをたった一人で行かせるべきでは……。
洋子さんの表情か。一緒には逃げ切れない事が解っていると言わんばかりの二人の行動に、ボクはやるせない気持ちでいっぱいになった。
何も出来ない非力さを嘆いている時、下から声が掛けられた。
「稜くん、ごめんね。ゆうこと二人でも無理だったの。戦えば間違いなく全滅……。ゆうこが作ってくれた時間のお陰で、私達生きてる。稜くんには不本意なんだろうけど、ゆうこと決めていた事なの。」
ゆうこさんとの会話を思い出しているのだろうか?その視線はボクを掠め、空に向けられていた。
「洋子さん、きっと大丈夫だよ!ゆうこさんならきっと……」
自分で吐いた言葉に、これほど虚しさを感じた試しがない。何の根拠もない大丈夫が、どれほど無意味かお互いに解っているはずだが、考えたくもない、言葉に出したくもない、『死』という呪いにも似た言葉から、心を遠ざけておきたいという気持ちから、その言葉が生まれる。
「稜くん、お互い、今は生きる術を考えていこう。他は後からゆっくりと、二人で考えようよ。ね。忘れちゃう訳じゃないよ。しまっておくの。二人で開けられるその時まで。」
洋子さんに励まされ、まだ危険が去った訳じゃない事を思い出す。
「うん、そうだね!きっと二人でいつか!」
洋子さんと二人、きっと思い出し真剣に向き合う事を誓って、ゆうこさんを思い出と共に胸の奥にしまった。
主人公の周りで、次々と起こる出来事。仲間が取った行動が、今を作ってくれた事実。この先二人で向き合う事が出来るのか!?舞台は次なる目的地へと移る事になる。




