14 捕捉!隠れ宿からの脱出
どんな困難な状況でもブレない洋子。そんな彼女に困惑しつつも信頼をよせる主人公。このコンビで大丈夫なのか?
あれから洋子さんのオモチャにされ、散々んな目に遭いながらも、ボクは自分を守り切った!暗殺者と互角に渡り合える洋子さんだが、今はボクの必殺チョップ(ただの手刀)と、説教の前に、膝を屈している。勝ち誇り、仁王立ちで見下ろす最低なボク。気分は最高なんだが……。
ダッ! 「伏せて!」
おふざけモードのボクに、反省ポーズを取っていた洋子さんが、なるべく押し殺したような声をかけてきた。即座に理解出来ず、訝しげな視線で立つボクを、組み伏せる様にベッドに押し付ける洋子さん。その目は、このホテルの一室の至るところに向けられ、何かを探しているようだった。
ゆっくり引きずる様にして、ベッドの横の隙間にボクを伴い、後退しながら身を隠す。そして小声で、
「稜くん。見つかったみたい。多分、あの暗殺者達よ。ここから出ないと……。」
そう言って、バスルームを指差し、移動するように促してきた。立ち上がろうとすると頭を優しく押さえつけて、低く!とジェスチャーして、行って!とまた手振りで指示される。四つん這いで電車ごっこしている気分になり、背徳感で気落ちしそうになりかける。
前進意欲が無くなりかけたところに、急かすようにして、後ろから禁じ手の一撃を放つ洋子さん!効果は抜群だ!
だが、洋子さん……カ◯チョーは勘弁して下さいよ……。
バスルームに入ると、素早く行動しだす洋子さん。普段見せない真剣な表情で、天井の換気口にはまった蓋を簡単に外した。本来なら、しっかりとネジで留められているその蓋は、先程シャワーを浴びた際に、簡単に外せる様に細工しておいたらしい。
ボクの知らない洋子さんが、また垣間見えた。さすがは監視役をしていただけある。ボクが知る姿からは、本来の洋子さんが全く見えていなかった。きっと組織でも優秀な人だったのだろう。
換気口にボクを押し上げた後、荷物を持って戻る彼女を引き上げる。力仕事は任せなさい!
換気口の中は、四つん這いで移動出来る程の通路みたいになっていて、各部屋の上を通る構造になっているようだ。先の方に、下から差し込む灯りがみえている。因みにここは、換気ダクトの終点らしく、灯りが見える方向にしか進めない。
上がってきた彼女は、身体の向きをクルリと反転させ、開いたままの換気口で何かを手繰る動作を始めた。作業が終わるのを見て、その行動の意図を知る。換気口開いたままじゃ、ここから逃げたのがバレバレだからだ。器用な人だとまた関心するボクに、声を出さないようにと、人差し指を立てて指示をしてきた。
息を潜めジッとしていると、下の方から、扉の蝶番が、小さく鳴くのが聴こえた。その音は二回続けて起こった。二回目は、最初の音から五秒後だった。大方、侵入してきた人間が、バスルームを覗いていたのだろう。誰もいなかったから直ぐに閉めた。というところだろう。
洋子さんは、蓋の隙間から様子を見てるから、何があったのか見えたはずだ。それでもまだ、彼女が微動だにしないから、ここは彼女に習い、静かに待つのが得策だと感じる。このままやり過ごせるか?時間が経つにつれ、緊張感は増していく。
やがて、洋子さんは静かにゆっくり向きを変え、私が先に行く!と取れるゼスチャーをして、強引にボクの四つん這い姿の下側に潜り込んでくる。体制を変えたら横をすれ違える筈だが、何故そうしないのか疑問だ。
しかし!全く懲りない人だ……。ボクの股間の辺りで、立ち止まって、頭を『わざと』ぶつけてくる洋子さん。そこまでするぅ!?……。これは最早、病気だと諦めるしかないのだろうか……。
ダクト内を洋子さんに付き従い進んで行くと、先程から見えていた灯りの射す場所に差し掛かる。覗きの趣味はないので、下を見ない様に跨ぎ越えていく。
その後も幾つかの換気口を通り過ぎ、垂直に取り付けられた換気口に辿り着いた。ブラインド加工された蓋の隙間から、換気口の向こう側を覗き見る洋子さん。その後ろ手は、ボクに『待て!』の合図を送り続けたままだ。
安全が確認出来たのか、彼女が垂直に取り付けられた蓋を外しにかかる。
ここの蓋は、六角形をした『ナット』で固定されているようで、専用工具の『スパナ』を使い作業を進めているみたいだ。
最後のナットが外れ、蓋に手を掛けた洋子さんの動きが止まる。両手は、蓋が落下しないように、辛うじて掴めている状態みたいだ。蓋の僅に突き出た部分を摘む指が、震えているのが見て取れた。彼女は塞がった両手の代わりに、こちらを見て首を横に振り、『動くな』と言っているみたいだ。
侵入者はどうやら三人の様だ。微かに聞こえた会話からして、奴らは、各部屋を手分けして探し、目標が見つからなかった為、換気口の向こう側にある場所で落ち合ったようだ。会話から判ったのはそれだけではなかった。男が一人、女が二人のようだ。無言の仲間がいるのなら、その限りではないが。
もっと何か情報がほしくて、音を立てない様に気を付けながら、洋子さんの直ぐ後ろまで顔を近付けてみる。
まだ話している最中みたいだ。男の声が少し、怒鳴った様な口調になっているが小声だ。
「絶対にここにいるはずだ!わざと見逃してないだろうな!組織の命令だから仕方ないが、オレはお前を信じないからな!」
おいおい……仲間割れでもしてるのか?だったら好都合なのだが、さすがに殺し合いでも始めて、全員が同士討ちで結果オーライな展開はないだろう。諦めて帰れよ……。
「待ってアナタ、彼女だって組織を裏切ればどうなるかくらい解っているはずよ。」
ほうほう……今の口調からして、こっちは男の妻?夫婦という事か?
「大丈夫です奥さん。あなた方御夫婦の邪魔は致しませんので。私は外で待ちます。」
どうやら、男に邪険にされていた女は、外に出て行ったようだ。諦める気は無いみたいだと判断できる。後は、残った二人も出てくれれば……。必死に耐えているであろう洋子さんの両手に目をやる。そろそろ限界かもしれない気がしてならない。落とせばここに隠れている事がバレてしまう。ナットでまた固定するにも、二人並ぶには無理がある。そう考えながら、ボクの脳裏に、身体の位置を入れ替えた時の、洋子さんの行動が浮かんだ。
!!そうか!それならいけるかもしれない!!
いつもは鈍いボクにとって、凄い閃きだ!と称賛……しようとしたが、頭の中で、破廉恥病が懸念される。いや、今は命が掛かっているかもしれない事態だ!迷っている暇はない!
ボクは洋子さんの腰の辺りを軽く叩き、『ナット』を見せながら、『ボクが下からナットで固定する』のゼスチャーを、力の限り頑張ってみた。理解してくれたのか、彼女は頷き同意してくれたみたいだ。
音を立ててはいけない。という『プレッシャー』と、爆発的破壊力を誇る『双球』にたじろぎながらも、やっとの事で、蓋まで届く所まで来れた。それもこれも無駄にデカいあの双球のせいだ。時折重くなったりしてたのは、間違いなく洋子さんの故意的なものだろう。そんな余裕があるなら、あのまま放っておくのだったと、少しやる気を無くさせる。
後少し……。危ない! これで三度目だ。小さな『ナット』がコロコロしてて、ネジ山に押し付けるのだが、回そうと力を入れるとポロッと落ちそうになる。不器用なボクには難易度が高い。洋子さんも本当に限界なのだろう、蓋の位置が少しずつ下がってきている。近くで見て初めて気付いたが、この蓋は内側と外側の二枚あり、厚さ五ミリはある鉄板でできている。
仕組みを分かり易く言うと、壁の向こうの蓋から突き出た『ボルト』を、換気口内部からあてがう蓋の穴に差し込み、『ナット』で締め込んで、蓋と蓋で壁を挟むという仕組みだ。洋子さんが摘んでるのは、ナットがハマっていないボルトの部分だ。外と内の二枚分だから、かなり重いはずだ。
こうしている間も奴らは退散する様子も無く、組織に報告する内容を話し合っているのが聞こえた。
!!ガラァン!ドッ!ドッ!ドサドサ!!……しまった!!!
ボクがモタモタしていたせいで、とうとう洋子さんが限界に達して、外側の蓋を落としてしまった。
居場所がバレてしまい、主人公を守る洋子だが……。




