13 他意無き隠れ宿にて
疑心暗鬼だった主人公に信頼おける協力者となる洋子。敵対すべく相手とは!?
あれからボク達は、市街地から遠く離れた『ラブホテル』に身を置いていた。
助けたボクに洋子さんが惚れて、それを受け入れたボク。とか想像してるなら、それは破廉恥病だ。気をつけ給え。
一体ボクは誰に話しかけて?
そんな疑問が浮かんだが、細かいことは気にしない事にした。ここに洋子さんはいない。正確には、ボクのいるこの場所にいないという事だ。傷があった場所の確認の為にもと言ってたが、今はシャワーを浴びているところだろう。
戻ったら、聞きたい事が山ほどあるが、質問責めにしても、洋子さんを疲れさせてしまうだけになる。あれだけの手傷を負っていたんだ。傷は治っているはずだが、体力までは戻っていないだろう。
先ずは、ここに来る途中で買った弁当でも食べてもらい、それからゆっくり話してもらえればいい。その為にも、聞いておきたい事を整理しておかないと。
それからしばらく脳内整理を行った。
シャワーを終えて、洋子さんがボクの隣に腰を下ろす。洗いたての濡れた髪をタオルで簀巻き状態にして、クルクルと器用に頭上で巻き上げる。そんな事より、目のやり場に困るボク。
「洋子さん……、いくら何でもバスタオル姿で出て来ないで下さい。」
全く在らぬ方向を見ながらお願いをしてみた。
「ごめんなさい、でも、下着着けてないから心配しないで!うふっ」
「だぁー!!もう!何か着なさい!!うふっ!じゃないです全くもう!」
反射的に跳びのきながら、軸がブレる事のない洋子さんに、備え付けのガウンを投げ渡す。これじゃ食事どころか、話もまともに出来ない。
渋々ガウンを身に纏う洋子さんを、チラ見したのはバレてない。ボクも随分成長したものだと、心の中で自分に称賛を贈った。
「それで?どこから話したらいいのかな?というか、どこまで理解出来てる?」
意外にも洋子さんからそんな言葉が投げかけられた。理解と言われると、殆どが理解出来ていないのだが。先ずは病院での担当医師の話から始めよう。あの屋上での事を説明してみた。
「多分、話してた電話の相手は、稜くんが前に通ってた病院の先生ね。今の担当医師、えっと『青木 よしひこ』って言うんだけど、その青木を紹介した先生が、電話の相手って事。」
どういう事なんだ?なぜ洋子さんがボクの前の事……あ、病院で調べたのか。
「そうよね、やっぱり最初から話さないと疑問だらけだよね?」
洋子さんが、天井を仰ぎ見る姿勢で、何かを考える仕草を見せながら、覚悟を決めたという表情でボクを見て釘をさす。
「少し長くなるから覚悟してね。それから、私の事、嫌わないでね。」
何だか意味不明だが、今は洋子さんしか信じられる人はいないから、嫌う事なんて無いと思うが。ボクは大丈夫という意味で頷いて見せた。
「わかった。では、先ずは。稜くんが前の街にいた時から、私は稜くんの監視役として、ある組織からの命令を受けていたの。稜くんと会った事もあるのよ。それでね、稜くんの監視と同時に、能力の使用を促す様に、誘導する事が命令内容。分かり易く言うと……その、言いにくい事なんだけど……」
さっき気にしていた『嫌わないで』に関わる事なのだろうか?軽快に話していた洋子さんが、いきなり口籠もってしまう。悲しそうな顔の洋子さんにボクが決意の程を語りかける。
「洋子さん、大丈夫です。ボクはもう、誰も信じる事が出来ないと諦めていました。だけど、洋子さん、あんなに涙流して、ボクの事心配してくれて、ボク……凄く嬉しかったんです!あれは唯一信じられる涙だったと、ボク自身そう思ってます。だからどんなに酷い事を洋子さんが過去にしてても、絶対に嫌ったりしません!」
しまった!ボクが泣いてどうする!
「うん……ありがとう稜くん。信じるよ。」
お互いの気持ちが治まるまで少し時間を要したが、洋子さんがボクの手を握り、続きを語り出す。
ここからは、洋子さんが語ってくれた事をまとめていこうと思う。
洋子さんが所属する組織には、ボクと同じくチカラを持つ人間が数人いるらしく、正確な人数までは洋子さんには知らされていないとの事。
小学校で起きた、女の子の事故。あれは、あらかじめ洋子さんが連れてきた能力者のチカラを使っての事故だった。チカラの効果は『絶対服従』というもので、女の子に、ボクが近くにいるタイミングで、細かく指示した通りに落ちて事故を起こせと命令していた。
そこでボクがチカラを使って能力者だと証明できれば、洋子さんが受けた命令は終わっていた。
だがボクが使わなかった為、事故を起こした女の子は、緊急保護となる。
この女の子も、あらかじめ洋子さんが手配した組織の子供だった。
その女の子の名前が『真咲 奈美恵』ナミちゃんだった。洋子さんが言うには、ナミちゃんのお母さんを見たのは、この街の病院に来てからだそうだ。組織に所属しているが、知らされない事の方が多いらしい。
それから、ボクにとっての最初の大切な人『ともこ先生』の事だが、夫婦で組織に所属していたのは知っていたとの事。だが一切関わっていなかったらしい。
先生が自殺して、ボクがショックを受けてチカラを封印したのは、洋子さんにとっても予想外の事だったらしい。凄く驚かされたのが、病院でのバザーに連れ出してくれた、あの時の看護師さんが、なんと!洋子さんだったという事だ。だから会った事があると言っていたのかと納得した。
それと、ナミちゃんの事は、洋子さんにも解らない事があり、組織からの指令で移動してきたら、同じ病院に患者としてナミちゃんが来たとの事。これは前にも聞いていた。お互いに、再会するとは思ってなかったらしい。そこを、知り合いだと思ったボクの担当医師青木が、洋子さんをナミちゃんの担当看護師にしたらしい。ついでに言うと、ボクがこの病院に通う事も知らされていなかったらしい。
その後、ナミちゃんに頼まれて、ボクを屋上に行くように促したとの事。
洋子さんが言うには、ナミちゃんは、ボクの話ばかりしていたらしい。好きだと言ってくれたのは、嘘じゃ無かったと解って嬉しくなる。
そして洋子さんが怪我して瀕死になった理由。
組織は、ボクの『治癒能力』が、ノドから手が出る程欲しいらしく、洋子さんが過去に連れていた、『絶対服従」の能力者を使って、捕縛しろとの命令が出たそうだ。ボクを奴隷の様に服従させ続ける為に。
そこで、モラルに反している事を止めるよう組織に嘆願したところ、暗殺者が洋子さんの元に放たれ、最初は洋子さんも善戦していたらしいが、そこに二人目の暗殺者が放たれたそうだ。
自分と同格か、それ以上とも言える暗殺の手練れを前に、洋子さんは逃げる事も敵わず、深い傷を負わされたらしい。
暗殺者と善戦したという事は、洋子さんもかなりの手練れなのだと思う。しかし、暗殺者とは物騒な話だ。そんな危ない人材を抱える組織というのはいったい……。
ここまで色々話してくれた洋子さんに、改めてお礼と信頼の言葉を贈らせてもらった。ボクは、最後にもう一つだけと約束して、洋子さんに尋ねた。
「組織は何が目的で存在しているの?」
その言葉に、洋子さんが困惑の表情を見せる。まだ何か隠してる事があるみたいだ。しかし、無理に聞き出すのは、今後蟠りとなり兼ねない。洋子さんと話し難くなるのは避けたい。
「あ、ごめんなさい洋子さん。無理にはな」
「違うの!謝らないといけないのは私だね……。ごめんなさい。稜くんが信用してくれているのに、私が信じないでどうするって感じだね。」
まだ無理してるみたいにも受け取れるが、洋子さんはそのまま続けて口を開く。
「組織を指揮しているのは、一人じゃないの。私も全員は知らないけど、二人知ってる。一人は稜くんが知っている人物だよ。前の病院でともこ先生を担当していた医者『藤永 護』。稜くんを青木に紹介した男でもあるよね。そしてもう一人が、私の父……『松田 貴文』なの……。」
父親が組織を指揮している人間側であるならば、洋子さんがボクの為に嘆願した相手って……。ボクの考えんとしている事を察したかの様に、洋子さんの目が伏せられた。
「そう……。暗殺者を差し向けたのは父なの。実の娘を殺す事も厭わないのが組織よ。稜くん、私を信じてね。何があっても貴方は私が守るから!」
そう言ってボクを抱きしめてくれる洋子さんだが。色々な意味でボクは既に死んだ!
「洋子さん!!ま、ま、ま、前が!前が!ガウン、ガウン〜!!!!」
主人公の不可抗力破廉恥病はさて置き、複雑な思いに揺れる二人。次回もまた急展開!!




