99 新たな条件
死んだと思われた主人公だが…、そんなわけないさ。
意識が飛んでどれくらい経ったのだろうか。ボクは死を覚悟していたはずだ。しかし、この感覚は『再生』が発動中である事を教えてくれている。今度は邪魔される事無く『治癒』も発動し出した様だ。その感覚を生きている実感として捉え、しばらくボクは目を閉じた。
攻撃を受けていたところまでは記憶がある。あの耳を劈く様な咆哮が今は聞こえてこない。少しの油断が命取りになると良く耳にするが、本当に自分が経験する事になるとは、思ってもみなかった。ボクは自分が最強だと勘違いしていたのだ。
どんなに強くても相手を侮っていると、こうやって痛い目をみる。死んでいないのが奇跡だが、どうやって助かったのか分からない。そんな事を考えている間に、ようやく身体の治療が済んだみたいだ。指、腕、足、首、全身の可動箇所をそれぞれ動かしながら、正常か異常かを確かめる。
うん、身体は大丈夫みたいだ。随分とやられたなぁ。治療にこれだけ時間がかかったのは初めてだよ。
そう心で呟きながら、ゆっくりと地面から這い出た。そこには青木の姿があった。いや、青木だった姿と言った方がいいだろう。緑の髪以外は面影すら残っていない。
あれだけ筋肉を強調した様な腫れも、大きな身体も、今は干からびた大根の様に横たわっている。何が起きたのかは分かり得ないが、とにかく青木は死んでいる様子だ。そして、青木の側に転がっている、梅干しの種に似た『種子』に目が止まった。
タネと言って求めている様子だったので、まだ手に入れていないと思っていたが、これでコイツが『悪』を殺した犯人だった事が分かった。ボクはゆっくり歩み寄り、ソレを手に取ろうとしゃがみ込む。
「待った!い、伊町くん、待ちたまえ!それが、それがあれば世界が思うままになるんだ!金やちっぽけな権力どころじゃないんだよ!世界の頂点だよ!」
「智さん、申し訳ないですが、それに賛成は出来ませんよ。いったいどうしたんですか…。元の智さんに戻って下さいよ。あ、誰かに脅されているんですか!?」
「…、フハハハハっ!めでたいヤツだなお前は!気付かなかったのか!?バァカが!組織を昔から大金で動かしていたのはオレなんだよぉ!お前達はなぁ、オレ様のコマなんだよ!フハハハハ!」
どこかネジが飛んだ様に、狂った笑いを見せながらそう話す智さん。昔見た姿が、既に幻影にしか思えなくなっていった。あれは演技だったのだ。初めからこういう男だったのだろう。
川上さんの家族を人質に取ったのも、コイツの指示だったに違いない。信じたく無かったのだが、本人が昔からこうだと言うのだ。信じるしかないだろう。
「お前達にはオレの苦労が分かるまい!さぁソレは私の物だ!こっちに渡すん……!グッ、ゲボッ、ウグェ…カハッ。」
智さんがまだ話している途中で、その胸から腕が生えてきた。いや、後ろから手刀で貫かれたのだ。そして、その腕の主が声を発した。
「コマを作っていいのは我々だけだよ。目障りな勘違い生物は取り除かないと。」
そう言いながら智さんから腕を引き抜くソイツは、赤く染まった腕をブンブン振り回した。そして本来の青い腕が露わになった。そう、ソイツとは『最善』と『最悪』だ。
「ちょうどいいところに来たな。ほら、お前らが言ってた『種子』だ。取り戻したぞ。」
そう言って、ボクは拾い上げた『種子』をヤツらに投げて渡した。ソレを手に取り眺めるヤツら。そしてボクに視線を移すと、どちらの表情の口もニヤリと笑った様に見せ、言葉を発してきた。
「コイツが『種子』を奪ったヤツだな。ふん、身体が保たずに死んだのだな。確かに受け取った。…、だが、約束は、お前がコイツを殺す事だ。勝手に死んだ事は、条件に含まれない。よって我々は享楽の続きを楽しむとするよ。」
「おい、『種子』は取り戻せただろ!それじゃダメなのか?何ならもう一つもお前らに返すから。この世界を見逃してくれよ。」
戦って勝てる相手ではないと分かっている。だから情けなく聞こえても構わない。とにかく頼み込むしか方法がないのだ。
「ふん。『種子』などどうでもいいよ。お前も死ぬから心配はいらない。…、待て『最悪』よ。コイツと戦うのも暇つぶし程にはならないか?…、そうだな『最善』。楽しませてくれるなら遊んでも構わないよ。…、という事で、お前が戦って我々に勝てたら見逃そう。」
コイツらは遊び感覚で世界を滅ぼすと言う事を忘れていた。そんなヤツらに何かを差し出したり、約束させたり等は意味がない。自分達の享楽の為にまた何かの条件を出し、遊び感覚でボク達の恐怖する姿を楽しむに決まっている。退屈しなければそれでいいのだから。
「ん?何か言いたい事があるなら言うがいい。…、まぁ焦るな『最悪』よ、キミは少し黙っててくれ。キミが話すと最悪の事になるからね。私が最善の案を提示してやろう。お前達は群れで戦うといい。我々は二人だけで構わない。そうだな…、明日までここで待っている。現れなければ、明日この世界は崩壊する。」
「断る事も出来ないという事だな。正直に言うと、勝てる気が全くしないよ。他に方法はないのか?分かり合えないだろうか?」
「それは愚問というもの。我々がお前達下等な生物と馴れ合う事はない。楽しければいいのだから。…、『最善』よ、私も一言言わせてもらう。…、いいとも。…、お前達は勝てない。我々が楽しみなのは、お前達の恐怖する姿だ。お前のあのメスを目の前で引き裂いたら、お前がどれだけ我々を楽しませてくれる事だろうか、これから楽しみだ。足掻いてみせよ。」
「くっ!お前達には、洋子さんに指一本触れさせない!いいか覚えておけ、蟻でも像に勝てる!!」
洋子さんの事を言われて頭に血が上ったぼくは、この戦いを受けて立つ事になった。勢いで啖呵を切ったボクだが、それはどこかの国のジャンケンの話だ。ただの言い回しとして吐いただけだ。
やっちまったよ〜…。どうすんのさ。…、ま、どのみち死ぬかもしれないなら、戦ってみるのもいいか。
ボクの頭の中で、何かが弾ける音がした。様な気がする。
〜 斎場 〜
あれ以上交渉の余地も無かった為、ボクは諦めて街の斎場へと転移で戻った。仲間達は斎場で葬儀が出来る様にと支度を進めていた。洋子さんもそこに加わっていたが、ボクの姿を見つけて、こちらに駆けて来た。
「もーっ!心配するじゃない…。どこに行ってたの?追いかけて来たらいないから…。」
「洋子さん、ちょっとあっちで話そう?マズい事になったんだ。」
「ええええーーっ!!!ホントなの!?」
「いやいや、まだ何も言ってないよね?声が大きいよ〜。」
ボクはまだ何も説明していないのだが、洋子さんが大きい声で驚くので、仲間達がボクのところへ集まってしまった。どのみち仲間達にも降りかかる災難だと諦めて、今話す事に決めた。
洋子さんと南の島に行って、『最善』と『最悪』に出会ったところから話を始め、先程の条件を掲示されたところまでを全て話した。皆んな深刻な面持ちで下を向き言葉を失っている様子だ。
「どうする?ゆうこちゃんが行くなら、おいらも行くよ。死ぬ時は一緒だよ。」
寺ッチの声がしたのでそちらを見てみると、ゆうこさんと手を取り合って、良い雰囲気の二人がいた。
今、ゆうこちゃんって?言ってたよね!?おぉぉ!付き合ってるのか!?うひゃうひゃ…。
「稜くん〜っ、目がなんかイヤラシイよ!ソッとしておいてあげようよ。ねっ?」
ボクのゲスな詮索を見破ってそう言ってきた洋子さん。そういう彼女も目を細めて口元が緩み、何やら企んでいる様子なのだが。
「よし、ゴウがこう言ってるんだ、私も腹をくくったよ!お前らも男ならついて来な!」
そのゆうこさんの周りには、寺ッチの仲間数十名が集まっていた。そして口々に『姐さん!ついていきやす!』と賛同の声を上げている。その彼らの胸元に、黒マジックで『ゆ』と書かれた缶バッジが輝いていた。
おいおい…、ゆうこさん?何の組織を作ってくれてんの?仁義とか人情だとか言いださないで下さいね…。怖いから…。
こうしてボク達は、最強と言っても過言ではない敵と、戦う羽目になってしまった。潔い皆んなには驚いてしまった。
あの時の逃げ腰のボクの事は内緒にしておこう…。
やはり退屈凌ぎは終わらなかった。『最善』『最悪』を倒さない限り、世界の終わりは避けられない!次回いよいよクライマックス!!
猿 「いや、ホントに。その日暮らしみたいに考えて書いてたから、疲れちゃったよ。せめて力強い文章でもかけたら…。自己満足だからいいけどさ…ハハハ…。」




