98 自身の驕り
とうとう事を起こした張本人と出会った主人公達。災いを止める条件をのんだ主人公だが…
勢い余って『最善』と『最悪』に約束してしまったのだが、『種子』を奪ったヤツがどこにいて、どんな姿なのかも分からない。アイツらが言うには、感覚を使えば分かるはずだ、とか言っていたけど、ボクに善さんみたいな事は出来ない。
以前洋子さんを見つけた時は、洋子さんから語りかけてくれていた。今回も敵がそうしてくれるなら有り難い事だが、そんな都合の良い事はない。
とりあえず一週間の時間をもらったので、それまでに感覚の使い方を色々試そうと思っている。明日は善さんの葬儀があるので、まだ動きたくない気持ちもある。なので今は、疑問が多い、ヤツらとの会話を、憶測を交えながら整理してみる事にしよう。
『最善』『最悪』が生まれたのは、今より数十億年前になる。最善と最悪の二人は、一つの生命体として、宇宙の果ての惑星で生を受けた。生まれながらに持つ能力で、彼らはあらゆる惑星を脅かしてきた。
そしてボク達の惑星にもやって来て、自分達と似た様なタイプの、思考する事が出来る『人間』の存在を知った。そこで退屈凌ぎの為に『人間』のコマを作り、その様子を見て楽しむ事にした。
そのコマ作りに『種子』を使う。『人間』に干渉した事も含め、ヤツらは自分達と似た様な存在に、興味を示す傾向があり、その『種子』も『対の存在』に与えられた。この世界の『双子』だ。
だが『人間』には自分達と違い寿命があった為、次なるコマが必要になる。そこでヤツらが『決まり事』と称して、初代『善』にあの『口伝』を書物として残させた。
そこに書かれた、自分達と違う存在が『種子』を受け継いだ場合は、気に入らないと言う理由のみで、この世界を滅ぼす事に決めていた。それが今回の主要都市大爆発だ。それもまだ序の口らしい。
因みに、ヤツらの言う『無界』は、何かを作ろうとした時の失敗の副産物で、自分達の生まれた場所と似た様なものだと言う。ここで憶測になるが、その領域に足を踏み入れた者が、ある条件を満たす事によって、ヤツらに最も近い存在になるのではないだろうか?
これまで数多くの変異体が生み出された方法から推測すると、そこでの死からの再生段階で、ヤツらの世界の『遺物』の様なモノを体内に取り込み、ヤツらと似たチカラが備わる仕組みだと予想される。
更にボクの場合は、ヤツらの更なる退屈凌ぎの為のコマとして、自身の身体の一部を使用し、ボクを蘇らせている。ヤツらが言うには、この世界で最もボクが自分達に近いらしい。このコマと言うのは、今回の災いの元凶となった、『約束を違えし者』を殺させる為の道具の事みたいだ。その道具に選ばれたのがボクだ。
これは最早、敵とか味方とか言っている場合ではない。ヤツらが退屈凌ぎにボク達を利用するみたいに、ボクもヤツらが与えたこのチカラを利用して、これから更に激化するであろう災いを止めなくては。
と、格好良く聞こえるだろうが、それがヤツらの目的だったりもする。と、ここまでが、今分かっている事と、ボクの勝手な考えを融合させた結果だ。そこまで外れた考えではないと思っているが。
それに考えてみてくれ、ボク達にチカラを与えて遊んでる様なヤツらだ。下手に戦いを挑んで、そんなヤツらの真のチカラを引き出す事になったらどうする?考えただけでゾッとする。
今のところはボクに興味を持っているみたいなので、こちらが刺激しない限り、敵対する事は無いと思う。その証拠に、ボクのフラつく原因を、ヤツらの持つチカラで解消してくれたのだ。融合が上手く出来て無かったとかなんとか言っていた。つまりボクは不良品だったわけだ。
それと余談になるが、ヤツらが歴代の『善』『悪』を女性の双子に限定していた事が分かった。ただの女好きな生命体だ。洋子さんにも興味を持ち、死なない様にとボクと変わらない能力を与えていた。そう出来るなら、ボクが死ぬ思いをする前にそうして欲しいところだ。
やけに洋子さんと親しい感じで話していたが、二度と近寄らないで頂きたい。それに洋子さんの嬉しい気持ちも分からないでもないが、あんなバケモノの手を取って握手する事も無いだろうに。少し自重してほしいものだ。
〜 翌日 〜
「稜くんってばほら、これに着替えて。善さんを送る日にそんな普段着はダメだよ?用意してたのにもぅ。」
今日は朝からご機嫌斜めの洋子さんが、珍しくボクに突っかかってくる。ボクのあのヤキモチが原因なのだが。つい洋子さんに愚痴をこぼしてしまった。『信用してないのね!』と言われて、それからずっとこんな調子だ。ボクもまだ謝っていない。
「その…、洋子さん。昨日の事なんだけど…、ボクが言いすぎ」
コンコン! 「洋子!早くしないと、皆んなバスに乗って待ってるわよ!?」
せっかくボクが謝ろうとしたのに、ゆうこさんのその声に邪魔されてしまった。
「ごめん!直ぐに行くから!…、稜くん、急いで。ほら、手伝うよ。」
ご機嫌斜めでも優しい洋子さん。ボクの身支度を手早く済ませてくれた。ボクは立ってただけだ。そして引きずられる様にして、自宅の前に待っていたバスに乗り込んだ。
「よう!兄ちゃん、久しぶりだな!今日は安全運転で行くぜ。安心して乗ってな。」
「あ、工藤さんじゃないですか!お久しぶりです。今日はよろしくお願いしますね。」
今会うまで存在を忘れてしまっていたが、彼こそ『スーパータクシー』の名ドライバー工藤さんだ。相変わらず元気そうで良かった。ボクは工藤さんと挨拶を交わした後、待っていた皆んなに謝罪しながら、一番後ろの席に座った。それを工藤さんが確認した後、バスは斎場へと向かった。
先程ゆうこさんの声に邪魔されて、洋子さんに言い損ねた謝罪の言葉を、そのバスの席で伝えた。その甲斐あって、洋子さんはボクを快く許してくれた。一安心だ。
ところが、ここでまた災難が起きる事になった。斎場に着いたボク達は、そこから逃げ惑う人達の姿を見た。ただ事では無い様子なので、ボクは窓から飛び降りて、斎場の中へと確認に向かった。
「ガァァァァッッ!!チカラ!……チカラガタリナイ…、タネヲヨコセ…、タネ…、ガァァァァッッ!」
善さんの遺影がかかった祭壇の前で、既に人の姿とは言い難い怪物の様な変異体が咆哮を上げていた。髪は緑色で赤い瞳、身体中の筋肉が、至るところで破裂しそうな程腫れ上がった様に見えた。その影響と見られる右肩が、痛々しい程腫れ上がっていた。正に怪物だ。
しかもボクはその顔に見覚えがある。原型を失いかけたその顔は、医師の青木のモノだった。青木もこちらに気付いた様子だ。
「お前、青木だな?生きていたのか!藤永の実験で死んだと思っていたよ…。お前が『悪』を殺したのか?」
「ガァァァァッッ!…イマチ…、タネヨコセ…ガァァァァッッ!ガァァァァッッ!」
ダメだ…、話しにならん!タネを求めてるって事は、まだ『種子』を手に入れてないようだな…。とにかく、ここで暴れられても困るな。ならばっ!
ボクは『瞬足』で青木に接触すると同時に、暴れても平気な場所へと転移した。あのすり鉢状の谷の施設だ。着くなり青木が唸りだす。
「ガッ!?ガァァァァッッ!ゴルルルルル…、ガァァァァッッ!」
「青木…、すまん…、何言ってんのか理解できない…。」
最早、青木と呼んでいいのか分からない程に、変異を遂げた怪物になっていた。いったい何が彼をこんな姿に変えたのだろうか?と考えていると、いつもの様に答えが降ってきた。うん、良いシステムだ。
「あ、青木ぃっ!?お前どうやって戻ったぁ!…え?…い、伊町くん!?ど、どうしてお前…、いやキミがここに。」
ほら、智発見!今、お前って言ったよね?キミって言い直したよね?
「あ、そ、そうだよ!キミ達の安全のために青木を改造したんだよ!だが、コイツはもう使えん様だ、おま…、伊町くん!コイツを倒したまえ!」
明らかに言い訳でごまかしているのがバレているのに、この後に及んで青木を倒せと言う智。もっと気概のある男だと思っていたが、あの時感じた感情を返せ。と言いたくなる程情けない男だ。面倒くさいので、先に黙らせておく事にした。
「松林智。黙ってて下さい。行きますよ。」 ドンッ!
ただの人間だった様だ。ボクの『瞬足』に気付く事なく、意識を手放している。
「ガァァァァッッ!ガァァァァッッ!」
智を床に置こうとした時、後ろで唸っていた青木が、咆哮を上げながら突っ込んできた。その巨体からは想像出来ない程の速さでだ。ボクは油断していた。
ズドンッ!ドガラガラガラ…ドゴォォン!!
どれだけ転がるんだ?という程飛ばされて、壁に埋まってしまうボク。
「ガァァァァッッ!ゴルルルルル…、ガァァァァッッ!」
マズイ事に、ボクの身体はまだ『再生』発動中だ。そこに追撃しに青木が突進してくる姿が見えた。まるで熊そのものだ。数倍デカいが。
ズドォォォォン!!グヮラガラガラ…
やっと足が再生したところで、青木の追撃をまともに受けてしまう。お陰で右腕と右脇腹を持っていかれてしまった。また『再生』が発動し始めた。
しかし、ヤツは容赦なく、異常に肥大した左右の拳を叩きつけてくる。壁を突き破り、その先の地面に身体がめり込んでいく。既に全身の骨が砕けて『再生』が追いつかない事態に陥ってしまった。
自分に驕りがあった事は間違いない。身体が少しも動かせない。最早これまでかもしれない。
「洋子…、さ、ん…、ごめ、ん…、なさ…い。」
ボクは意識を手放した。
※4/29 感覚の使用不可の説明の矛盾点を加筆しました。
恐るべき超変異体青木!主人公が死ぬとこれ終わるんじゃないか!?災いはどうした?




