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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
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【約束された爆発】

イベント事に疎い男達が今目覚める。

Aは一仕事を終え、赤い汚れをアジトのシャワーで洗い流し、半裸でカウンターに突っ伏した。

ちなみに一度全裸でシャワー室から出て来たら恵麻(エマ)の手によってある部分を重点的に再起不能にされそうになった為、パンツの上にもう一枚、すなわちズボンは必ず身に付ける様にしている。

恵麻はAの手元に缶ビールを置き、Aが持って来た遺品に含まれるデジタル系のデータ解析を始めた。


「あーあ。よりにもよって何で今日、帰って来るんだか。」


「あー?納期は三日後だろ?余裕じゃねえか。」


「そうよ。だから三日後まで残業は無いと思ってたわ。」


「はあ?納期ギリだとぎゃあぎゃあ喚くくせに何言ってやがる。」


「そのやる気は普段に発揮して、今日発揮すんじゃないわよ。」


「回りくどい。テメエの住所を今まで振って来た男共に流されたくなかったら何が言いたいかはっきり言え。」


恵麻とAの雰囲気が悪くなり、Cは恵麻を応援しながらとばっちりはごめんだとソファに身を縮めた。

恵麻はAの頭の近くに拳を打ち下ろし、答える。


「今日は乙女の一大イベント、バレンタインデーなのよ。テメエ等みたいに女泣かせてばっかの糞野郎どもには関係ないでしょうけど、私にはデートの約束があったのよ。」


「んだよ、そんな事かよ。」


「そんな事ですって!?」


「どうせその男も長く続きゃしねえだろ。男泣かせてばっかの女に何も言われたかねえな。」


恵麻はスーツの内ポケットに入れていたボールペンを取り出し、Aの頭に狙いを付ける。

Aは何が迫っても動くのが億劫で突っ伏したままだったが、恵麻の言葉を反芻して覚醒した。


「そうか。バレンタインか。」


勢い良く起き上がったAに、恵麻は吃驚してボールペンを慌ててお尻の後ろに隠した。


「何、急に何なわけ?」


「俺、帰る。」


「可愛くないわよ、アラサー髭天パ。」


「テメエもな。」


Aは恵麻が再びボールペンを振り被るのを尻目に、素肌にいつものミリタリーコートを羽織った。


「チョコレートが俺を待っている。」


「いつ現れるかもわからないあんたの為に、あんたの女がチョコレートを用意してると思わないけど?」


「あいつが用意してない訳が無い。俺を怒らせるとどうなるか、身に沁みてわかってる筈だ。」


「あいつってまさかB君の事?」


「ああん?俺にチョコレート用意する奴なんざ、あいつの他に誰がいんだよ。」


今日も寒いのでフードを被ったAは、ポケットに両手を突っ込んでいそいそと出口へ向かう。

その背に恵麻では無くCが吠える。


「リア充木端微塵になりやがれ!!」


Aは少し振り返って勝ち組の微笑みを見せて扉を閉めた。


「あんた、甘い物嫌いでしょうよ。」


「そうやけど!そうなんやけど!俺かてB君とバレンタイン過ごしたいーッ!」


「はいはい。スマホの分析お願いね。」


恵麻はデート相手の為に用意していたチョコレートを開け、それを夜食に残業に励んだ。



―*―*―



Bは風呂から上がり、洗面室まで漂う甘い匂いに笑った。

時間は深夜二時。

クリスマスは後れを取ったからバレンタインデーこそはと誰よりも先に休みをもぎ取ったは良いが、相手を見つけるのをすっかり忘れていた。

ここ最近は頭を悩ませる事が多くてそれどころでは無かったのだが、それは言い訳に過ぎないと己を叱咤し、今年は男に磨きを掛けて素晴らしい夏を迎えようと心に誓った。


「(今日こそは帰って来ると思ったんだけどなあ。)」


Bはチョコレートブラウニーに手を翳し、荒熱が取れた事を確認し、少し離れて頭を拭いた。

甘い物は美味しいが、好きと言えばそうでも無く、自分は少しで充分だ。

どうしようか困っていたら、制服を着た彼女居る組の恐ろしい形相が頭を過ぎり、湯冷めでなく身体を震わせた。


「(お詫びにあげようにも鈴木君は甘い物食べられないし、渡辺さんは前の彼女さんに浮気って間違えられてから僕のお菓子がトラウマになってるからなあ。)」


ふと佐藤の顔が浮かび、その顔は嬉しそうに笑っていた。

ブラウニーの里親が決定した時、玄関の扉が深夜にも関わらず荒々しく開いた。

廊下に顔を出して確認するまでも無い。


「うわあ、凄い嗅覚。」


「野郎を食わしてやってるのはこの為だと言っても過言じゃねえ。」


「…うん、僕もそのつもりで作ったよ。不本意だがいつも世話になってるからね。」


靴のままで上がって来た阿呆を蹴りと、柄の長いフローリング掃除道具で突いて玄関まで巻き戻し、「ただいま」からやり直させた。

そしてAがやっぱり手ぶらで帰って来た事に驚いた。


「あれ?遊んで貰ってる女の人達に貰わなかったの?それともまさかもう食べた後?」


「もし貰ったとしても毒が入ってる可能性が高い。」


「…あんた、どんな生き方してんだ。」


「どんなって、フツー?」


「不通、ね。」


Aがコートを脱ぎ、鍛えられた傷だらけの肌が露出する。

Bはこの糞寒い中、Aが素肌にコートという変質者の様な格好で帰って来た事に ぎょっ としたが、もう慣れたもので華麗にスルーし、ブラウニーを食べやすい大きさにカットした。


「そのままで良かったのに。」


「まさか全部一気に食べるつもり?」


「余裕。」


「阿呆、あんたは阿呆だ。デブまっしぐらだ。」


「そんな軟な鍛え方してねえよ。」


「…。」


Bは切り分ける手を止め、Aの半裸を改めて見た。

見事だ。

見事過ぎる。

映画の主人公の巌の様な筋肉では無く、実用的で無駄の無いバランスの良い筋肉だ。

鍛えるだけではなく、何の仕事をしているのかは知らないが、きちんと使い込まれているのが何となくわかる。


「うーん、良いなあ。」


「あんま見んな、エッチ。」


「うっさい。僕が包丁持ってる時に妙な事口走るな。」


「ハッ!テメエが包丁持ってようが俺に勝てるか。」


「畜生、いつか絶対勝ってやるし。」


「ほう、それは志が高くて良いこった。」


「言い訳されたくないから、絶対にそれまで不摂生を拗らせて衰えてないでよね、おっさん。」


「おまえが俺より弱い内は衰えたりしねえよ。」


「は?…ああ、成る程。それはAにしては良い心掛けだ。」


Bは左拳でAの腹筋を軽く小突き、AはBの尻を軽く叩いて大皿を差し出した。

珍しく手伝うAに、Bの表情も緩んで行った。

少し甘さを控えて珈琲を淹れて来たBを、Aは口一杯にブラウニーを詰め込んで見上げた。


「ふまい。」


「それはようございましたね。」


Bがテーブルに珈琲を置けば、Aは ごっくん とブラウニーを飲み込んで珈琲を啜った。

猫舌のAの為に牛乳で少し冷まして正解だったと、Bはブラック珈琲を片手にAの隣に座った。


「ほんと、美味しそうに食べるよね。作者冥利に尽きるよ。」


Aは ちらり と呆れるBを見たが、会話する意欲よりも食欲が圧倒的に勝り、咬んだ分を飲み込んで直ぐにまたブラウニーを頬張った。

そして咀嚼する間、小さく切り分けたブラウニーをフォークに乗せて、Bに差し出した。

Bは少し驚き、眉を下げて首を振った。


「僕は良いよ。Aが全部食べて。チョコブラウニーもAに食べて貰った方がきっと幸せだから。」


「ふぉれもふぉうふぁ(それもそうか)。」


Aはそのフォークを さっ と戻し、黙々と食べ続けた。


「げっぷ。おー、食った。食った。」


空の更にフォークを投げる様に置き、少し出た腹を撫でながらソファの背凭れに豪快に倒れた。

その衝撃で隣のBは体勢を崩し、Aの逞しい肩に頭を預けた。


「あー、何だっけ。」


AはBの頭を逆手に撫でた。


「そうだ。ゴチソウサマデシタ、だ。」


頭を下げるつもりでBの頭に頭を倒し、笑う。

長らくニコチンを摂取していない事にだいぶ前から気付いていたが、今、この時は気にならなかった。

普段なら確実にキレている頃だが、Bが気を利かせて煙草をテーブルに乗せてくれていても、それに手を伸ばす気も起きない。

口と胃と肺と、頭の中に広がっている折角の幸せを、無粋な苦みで侵したくは無い自覚はある。

目を閉じて反芻し、甘い余韻に浸った。



―*―*―



翌朝、温もりを求めて擦り寄った物が硬い事に気付き目を開けたBは、ズレた眼鏡を掛け直して短い悲鳴を上げた。


「おはよう、A。」


気配に敏いAは、近くで誰かが起きているだけで目が覚めてしまう。

それを知っているBは朝に優しい声量に努める。


「いくら阿呆でも風邪引くよ。まだ寝るなら布団に行きなよ。」


「ん。」


やっぱり起きていたAはBと額を合わせ、熱の有無を確認してから立ち上がった。

Bの頭を撫でて欠伸を漏らす。

その吐息はまだ甘ったるい。


「来年も何か作んのか?」


「まあ、気が向いたらね。」


「向け。」


「僕の気じゃないよ。当日必ず帰って来てくれるなら、作って待っててあげても良い。」


「何が何でも帰って来る。だから今年の倍は用意しとけ。」


「そう言って忘れそう。」


「食って欲しけりゃ数日前に催促しろ。」


「何でそうなる。食いたきゃ忘れずに帰って来い。」


お互いに歯磨きの必要性を感じたが、睡魔の方が勝った。


「(その前に甘いもんが腹一杯食える機会、クリスマスがあったな。)」


「(今日の倍作るとなると割に合わないから、どうやらホワイトデーの存在を教える時が来た様だ。)」


いつの間にか来年が当たり前になった事に二人は気付かず、BはAが脱いだままのコートを布団にソファで、Aは自室に戻って“次”を楽しみに二度寝した。

同じ頃、ブラインド越しに朝日を睨んでいた恵麻は表情を一変させ、柏手を打った。


「そうよ。あんたがB君にチョコあげれば良かったんじゃない?」


「…姐さん、思い付くならもっと早よ思い付いてや。」


その手があったかと、貰う事ばかりを考えていたCは反省し、ソファに沈んだ。


「こういうのはどうかしら?B君ならバレンタイン当日は予定があるだろうから遠慮して、一日ずらして食事に誘う大人の男って言うのは。」


「姐さん、天才やな。」


恵麻の助言を受けて即行で復活した。


「美味しいチョコレートの手配なら私に任せなさい。」


「ほな俺は洒落た店の検索や。」


「「(アキラ)一人にリア充満喫させてたまるか!」」


だいぶ前から残業に嫌気が差していた二人は活き活きと別窓を開き、本業そっちのけで検索に精を出した。



すみません><今週はバイトがあるので無理ですT_T by B

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