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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
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【BマイナスA】

Bはバイト仲間に動物園に誘われ…

今年のクリスマスは皆でスノボに行く事になった。

コンビニバイト以外が主な収入源であり元営業で顔の広い渡辺の全面協力により、移動手段に行き先も宿泊施設もとんとん拍子に決まった。

しかし、Bの表情は浮かない。


「(そういえば、最近A帰って来ないな。)」


Cは奇跡的に休みが取れたと言っていたが、割とコンビニに顔を出しているから様子が知れる。

Aが長期間居ないのは今に始まった事では無い。

Aは、短期間でも長期間でも外から帰って来ればまずジャイアンよろしく土管改めソファに踏ん反り返り、それまで一人きりで広過ぎる空間を埋め尽くす様な莫大な存在感を主張し、いつもの様に好物と煙草と酒を所望するから、つまりはそれが当たり前でどうせ今回もそういう事なのだろうが、“今回は”という事もある。

何か遭ればCが黙ってはいないだろうから“今回も”だろうが、結果が出るまではやはりわからない。


「(別に、心配なんかじゃないし。むしろちょっと痛い目見て大人しくなれば良いし。)」


少し荒めに現金ボタンを押し、客に釣りを返してレシートを不要箱に入れた。

ふわりと飛んで行ったそれを、渡辺が拾い入れ直してやる。


「田中さんって動物とか好きッスよね?」


「好きですけど、もう一匹好きでも無い猛獣飼ってるんで里親なら他当たって下さい。」


「好きでも無いのに何年も一緒に住めねえッスよ。それより、」


渡辺はBに反撃を許さず、ポケットから紙片を取り出した。

動物園の名前が書いてある。


「株主優待券の期限が今年まででさ。彼女は今一人だし、余っちゃう訳ッスよ。」


「ナベさんて何でコンビニでバイトしてるんですか?」


「へえ?聞いちゃう?」


「いや、良いです。」


聞かれて困るBは黙ってラインでコンビニ仲間の動物好きを募った。



当日、コンビニ前。

選ばれし動物好きが渡辺の他に、鈴木、小林、中村、Bの四人が集結した。

渡辺の車に乗り、暫くすれば目的地の動物園に着いた。


「うえーい!動物園とか小学生ぶりッスよ!」


「僕もです。」


「おまえは割と最近じゃねえか。」


大学生の中村が、高校生の小林を軽く絞める。

その隣でBはぼんやりとしていた。


「(家主が働いてるのに遊んでて良いのかな。)」


過ぎて行く景色の中に、金色モップお化けを探してみる。

渡辺はバックミラー越しに後部座席とコミュニケーションを取る。


「田中さんのテンションが低いのは、最近彼女と来たから珍しくも無いからッスよね?」


「何!?裏切り者!」


大学進学後も彼女いない歴が長い中村の矛先がBに向く。

Bは漸く車内に目を戻し、割と本気の中村の攻撃を拒んだ。


「彼女が居たらチケット分けて貰うだけで、こんなむさ苦しいメンバーで来ないよ!」


「悪かったッスね!佐藤さんや田中さんみたいにイケメンじゃなくてむさ苦しくて!」


「こいつうぜえ!」


「おーい中村、俺が前者に入ってねえけどー?」なんて呑気な渡辺の隣、助手席で鈴木は柏手を打った。


「成る程、その手があったか。」


「おまえら遠慮って言葉知ってる?」


「中村と一緒にしないで下さい。」


渡辺は、いつもより幼く見える鈴木に苦笑う。


「おまえは三度の飯より動物が好きだよなー。」


「格闘技も好きッス。」


「思い出して貰えなかった彼女が可哀想だわ。」


「失礼な。発想が無かっただけッス。」


「彼女の居ない田中さんでも思い付く様な事なのに?」


「…確かに。」


「はいはい、遠慮って言葉を知ってるからだよな。冗談にマジ凹みすんなって。」


今の彼女も長くは続かねえな。

渡辺はこのメンバーで水族館の株主優待券も使えそうだと、一人頷いた。




動物園に着いてからも浮かないBに、流石の中村も異変に気付いた。

パンダを見ている様で見ていないBの死角ですすす…と渡辺に近付き、手の甲を頬に添えて耳打ちした。


「何か遭ったんスか?田中さん。」


「悩みとか言わねえ人だからなあ。」


「ナベさんは田中さんを元気付けようと動物園に連れて来たんスね。」


「基本、明るい人だから簡単に行くと思ったんだよ。」


「田中さん、皆ではしゃぐの好きスからね。彼女居るとか最近聞いてねえし、珍しく告る段階で振られでもしたんスかね?」


「それだったら愚痴るべ、田中さんは。」


「そうスよねえ。」


二人の視線の先、一番若い小林がパンフレットを見て楽しそうにBに話しかけた。

Bも楽しそうに応じ、渡辺と中村に振り返った。


「次、シロサイ見に行きましょうって。」


「「うぃーす。」」


ちなみに鈴木は入園直後にはぐれたまま、連絡も着かない。

どうせ一人で満喫しているのだろうと、誰もわざわざ探そうとはしない。

帰る頃に迷子アナウンスでも流して貰おうと、言葉にはしていないが全員の意思は共通している。


「ごめん、僕ちょっと疲れたからここで座ってく。先行ってて。」


Bはライオンの檻の前のベンチに腰掛け、皆に手を振った。

渡辺はBの頭を撫で、中村の背を押して小林に続いた。

見送ったBは深く溜め息を吐く。


「(畜生、あのおっさんの事が頭から離れなくなっちゃった。)」


しかも目の前は金髪モップお化けに見た目も存在も類似した、都会に住んでる百獣の王、ライオンだ。

飼育員に撫で繰り回されて腹を見せている。

Bはなんだか無性に苛っとした。


「(ライオン展示してるんだろ?動物園ならライオンのライオンらしい所見せてよね。)」


「どんな飼育員だ」「戸愚呂弟120%系なら許す」と、ベンチを尻で拭きながら目線を下げ、飼育員が目深に被った帽子の下を覗き込んで固まった。

無表情に加え目が死に、全体的にBの影が濃くなった。


「(野生思い出せ、この駄猫が。やれ、今だ、その締まりのねえ顔を噛み砕け。)」


世話そっちのけでライオンをふるもっふしている飼育員は、鼻の下を伸ばして今まで見た事も無い程幸せそうだ。

その手がライオンのたてがみに隠された、Cが欲しがっていた情報が入っているというICチップを回収していた事を知る由も無いBは、眼鏡を掛け直して立ち上がった。

スマホを操作し、直ぐにバイト仲間達と合流した。


「次はきりんさん見たいです!その次はぞうさん、白鳥さんも見たいです!ね!?小林君!」


「は?はあ。」


「動物園楽しい!全力で楽しむぞーっ!」


すっかりいつもの元気を取り戻し、戸惑う小林を引き摺って行くBを渡辺と中村は顔を見合わせて見送り、ダブル眼鏡が角を曲がって見えなくなってから吹き出した。


「「きりん“さん”…ッ!?」」


「来れなくて悔しがってた佐藤に良い土産が出来たッスね。」


「鈴木さん!?いつの間に!?」


「おまえ、ちょっと見ない間に肌艶良くなったな。」


「あざッス。」


田中は帰り際、佐藤へのお土産にリアルぞうさんのトランクスを買い、Aへのお土産にたてがみと尻尾が生えたファンシーなライオンのトランクスを買った。


「(何の仕事してんのかと思ったら、危ないっちゃ危ないけど、人の気も知らないで楽しそうじゃないか。)」


それから数日しても帰って来ないAに、Bの苛々は募る。


「(僕だって楽しんでやるんだから。)」


クリスマス早朝、集合数時間前。

バイトから帰って来たBは宅配ボックスに届いていたスノボウェアに顔を突っ込んで決意を新たにした。


「(…あんたはドラ○もんじゃなくて、ジャイアンだろ。調子狂うんだよ、阿呆。)」


抱き締めれば圧迫された綿からほんの少し、煙草の臭いがした気がした。




ア゛ーッ、超癒されるーッ! by A

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