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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
39/52

【女子会】

女一人計二人の女子会はいつの間にか毎月恒例となっていた。

仕事を終えたCは、お忍び芸能人の様な格好で指定された飲み屋に向かった。

女子が好みそうな華やかな外装に、小さなブースに区切られ完全にプライベートが守られた、お気に入りの店だ。

掘り炬燵式で窮屈な靴を脱げ、座敷とは違い足を投げ出す事が出来る。

スタッフに案内されたCは扉代わりの花柄のカーテンを潜り、ニット帽を脱いで伊達眼鏡を取った。


「待たせて悪いなあ、姉さん。」


「先に始めてたもの。構わないわ。」


そこで待っていたのは、スーツを脱ぎ、オフショルのトップスにサスペンダー付きのワイドパンツを合わせた恵麻(エマ)が待っていた。

大振りのピアスを揺らし、小首を傾げて微笑む。


「あんたとの月一の女子会が楽しみでね。女に生まれて良かったわ。」


「いや、俺女とちゃうねんけどな。」


Cは向かいに座りとりあえず生を頼めば、残りのカクテルを煽った恵麻も生を追加注文した。


「「乾杯。」」


二人はジョッキをぶつけ合い、半分程一気に飲む。

かくして女子一人計二人の女子会は幕を開けた。


「こないだ分けてあげた化粧水、使ってる?」


「おう。結構調子良くてもう使い切ってもうた。」


「あんた男のくせに油っ気ないし乾燥肌だものね。今度、そのメーカーが新商品出すのよ。」


そのメーカーの商品は量販店には並ばず、通販もしていない。

販売員を通すか、サロンに顔を出す以外では入手出来ない。


「化粧水と乳液と洗顔のセットがトライアル期間限定で1,500円なんだけど、あんたも要る?」


「要る要る。」


「それがまたボトルが魔法の小瓶みたいで可愛いのよ。シトラスの香りのイエローと、ローズのピンク、アクアマリンのブルー、どれが良い?」


「俺がローズのピンクとか使てたらキモいやろ。姉さんの段階で二択にしといてくれへん?」


「じゃあブルー?」


「いや、シトラスで。」


「あ、そ。じゃあ注文しとくわね。消費税は負けとくわ。」


「おおきに。」


「それと、これからの季節の必需品ハンドクリームなんだけど、これまた可愛いのが出るのよ。」


「姉さんはそのメーカーの回し者か。つか可愛いもん勧めて俺をどうしたいねん。」


二人は酒と肴を追加した。


 

―*―*―

 


「姉さん、最近彼氏できた?」


「失礼ね。居る様に見える?」


「“保留”は仰山おるやろ?そん中で彼氏にしたってもええ様な目ぼしいのはまだおらんの?」


「これと言って際立ったのが居ないのよね。我ながらよくもまあ似た様なの集めたわ。」


「まさかまた増えた?見してー。」


枝豆を食べながら乞うCに、恵麻はスマホを見せてやる。

容姿は勿論二重丸、国内外問わず一流企業の出世株や若い企業家等の展示会を終え、恵麻はスマホをテーブルに置いた。

Cの目は半分程座っている。


「選択肢が仰山あるってのも困りもんやな。」


「そうなのよ。その内の一人からしか声が掛からないなら楽なんだけどね。この人と付き合うならあの人と付き合っても大差ないかも、なんて思っちゃうとどうしても先に進めないのよ。」


「モテ過ぎる方のこじらせ女子もええとこやな。」


「他人事の様に言うけど、あんただって似た様なもんでしょ?」


「俺はそん時の気分で好みが変わるからなあ。姉さんとは違う意味で一人に絞れへん。ま、それでも女と違って独りもんの男は困らへんでな。」


本当に高い鼻を「ふふん」と鳴らすCに、恵麻は目を座らせる。


「最低。」


「すっぱり切ったらん姉さんに言われたない。」


「だってこれ以上の男は他に探したって特に居ないんだもの。勿体無いじゃない。」


「姉さんなら大企業の社長とか石油王あたりでも落とせるんとちゃう?」


「爽やか系が好きなの。」


「かぐや姫みたいに無理難題ふっかけて叶えられた奴と付き合うてみたら?」


「かぐや姫ってドSで発想が豊かよね。」


「まあ俺もあんな鬼畜な具体例は思い付かんけどな。」


二人は酒を追加し、恵麻はデザートを注文した。


「もうデザート?早ない?」


「辛い酒飲んでると甘い物が欲しくなるのよ。あんたも食べる?」


「ほな一口だけ。」


甘い物は苦手だが少量なら美味しく感じられるCは、恵麻が差し出す一掬いのアイスに食い付いた。

笑顔のCに恵麻は慌ててアイスを隠す。


「いや、取らへんて。」


男ならこれで落ちるんやろうなとCは思いながら、それをBに当て嵌めてキュンとした所でスマホが震えた。

誰からかと思えば、ボスからだった。


 

―*―*―

 


「何や?急ぎの仕事でも出来たん?」


『テメエ、誰の許可を得て恵麻と馴れ馴れしく飲んでやがる。』


Cは一旦スマホを耳から離し、狭いブースに目を走らせた。


「何処で見とんねん、キモ親父。姉さん可愛がるんも程々にせんとそろそろセクハラで極刑やぞ。姉さん直々のな。」


『アルコールの入ったテメエみたいな女ったらしが、直ぐそこの美人に手ぇ出さねえ訳がねえだろ。わかってると思うが社内不純異性交遊並びに社内恋愛は禁止だぞ。』


「発想が古いしキモいわ!流石の俺でも姉さんに手ぇ出すかいな!もしその気になっても後が怖くて色々萎えるわ!」


『あ?恵麻に魅力がねえって言いたいのか?コラ。』


「あーもーめんどくさ!このおっさん超めんどくさ!そろそろ姉さんもキレそうやで切るで?」


『待て!必ず10時までには解散すると約束、』


「飲み足りるかクソ親父。〆は屋台のラーメンって決まってんのよ。」


最後の台詞はCの物では無い。

Cからスマホを強奪し、言いたい事を言い切った恵麻は電源ごと通話を切った。

そして先手を打って自分のスマホの電源も落とした。


「いや、ガチで仕事の連絡があったらどうするん?」


「あら。仕事を取って私を置いて帰るの?」


「それは姉さんの補欠men’バーに使ったってくれる?」


「確かに。それは良いアイデアね。」


Cがボスと会話をしている間にアイスを食べ終わった恵麻は、今度はガトーショコラを注文した。


「姉さん、やっぱそれ全部乳に行っとんの?」


「来る食糧危機に備えてんのよ。」


「ラクダか。」


Cは少し酔いが回って暑くなり、胸元を緩めた。


「そういえば、B君ってハンドクリーム使ってるのかしら。」


「何でまた急に?」


「こないだ撮り溜めした韓流ドラマ消化してたら先にビールを消化しちゃって、夜中に買い出しに行ったのよ。ほら、韓流ドラマ見た後に残念な物を見たくなくて、間違いないB君の所にね。」


「まあ確かに俺の天使は間違いないけど、俺の天使やでね?」


「あの子、家事をきちんとする子だし、色も白くてどっちかというと繊細な感じの子じゃない?もう既に少し荒れてたし、今からお手入れしておかないとこれからの季節大変だと思って。」


「男の子やし、市販のでええんちゃう?」


「私服を見るに可愛いのも絶対好きよ。」


「その新しいハンドクリームってどんなん?」


「みかんの香りのくまパッケージと、さくらんぼのうさぎ、ローズマリーの青い小鳥。蓋は香りのイメージカラーと同色のキラキラビジューよ。」


「うん、あの子は多分くまさんが好きやと思うわ。キラキラも喜ぶと思う。」


「あんたは小鳥?」


「俺がくまとかうさぎ使てたらキモいやろって。小鳥もギリや。」


「良かった。三色セットだと少し安いのよ。」


「姉さん、うさぎなん?」


「化粧水のトライアル、ピンク頼むもの。同じバラ科なら匂いが喧嘩しないでしょ?」


そこでスマホが着信を告げる。

恵麻は自分の着信音とは違うのでCを見れば、Cは嬉々として尻ポケットからもう一台のスマホを取り出した。


 

―*―*―



「噂をすれば天使!」


「…。」


焼酎を飲む恵麻の視線の先、Cは両手でスマホを持ち、腕を伸ばして持ち上げまずは喜び、次に胸に押し抱いてから本文を読んだ。

そして暫く床を転がり、また戻って一瞬で返信を終えた。

ガワだけはイケメンの奇行にうんざりとした恵麻は、表情と同じトーンでまだ軽くトリップしているCに声を掛けた。


「内容の割に短い返信ね?」


「え?ああ。俺ようサンドイッチ買うで「来週からセールなので良かったら来て下さい」って連絡やってん。「おおきに。また行くわ^^」って返すだけでええやろ?」


「は?そんな内容であんなに喜んだの?」


「うん。天使めっちゃ可愛えやん。姉さんもキュンキュンしたやろ?」


「…ボスは一体私の何を心配したのかしらね。」


恵麻は「心配すべきはうちのインテリ枠の頭の中身だろ」と後でメールを送っておく事にした。


「B君、今日はもうバイト終わったの?呼んだら?」


「うーん。姉さんがええならいつかそうしたいけど、B君酒弱いしな。」


「飲ませなきゃ良いじゃない。たまにはご飯奢ってあげたら?」


「今日はあかんねん。(アキラ)が家におるで飯作ったらなあかんやろ。」


「あの子はあの天パ無精髭のお母さんか。」


「間違いない。玲は携帯に“おかん”って登録しとる。」


恵麻のグラスが空になり、Cはスタッフ呼び出し釦を押した。

Cに差し出されたメニューを引っ手繰った恵麻は、それでCを指した。


「奪っちゃえば?」


「姉さん、意外と酔っとるやろ。」


Cは顔を背けて避けるが、恵麻はメニューの角でそれを追う。


「B君ってそういうのに偏見ないと思うの。」


「偏見あらへんやろけど、自分がそうなろうとは思ってへんやろ。B君は黒髪ロングな年下が好きなんやで?」


「何それ同居人に対する当て付け?」


「同居人が凄過ぎるで自然と相反する物を好む様になったんやな。」


スタッフが到着し、酒を追加した恵麻からCはメニューを取り上げた。

恵麻は少し唇を尖らせる。


「B君がどうってのも大事だと思うけど、あんたはB君の事をどう思ってんのよ?」


「天使。」


「ばっかじゃないの?」


恵麻は新しい酒を煽り、物言いたげなCに指を突き付ける。


「「天使を穢したらあかん」とか、言い訳しようとしたわね?」


「言い訳やないし。」


「言い訳よ。あの子が本物の天使なら「それもそうね」って流してあげても良いけど、勿論あの子は人間なんだから、あんたが手を出さなくてもあんた以外の男に穢される可能性は無きにしも非ずよ。」


「その為に俺が見守もっとんのやないかい。」


「一生残念なストーカーで居る気?」


「別に、あの子がもし魔が差して男を選んだらそいつに任せりゃええ話や。」


「それこそあんた程顔が良くてB君の運動神経に付いて行ける様な金持ちの男なんて居ないでしょうよ。」


「…そうかなあ。」


Cは頬杖を付き、明後日を見る。

恵麻はその肘を思いっきり払った。


「ふうん?天使とか何とか言って騒いでるけど、実はB君なんてどうでも良いのね。」


「見守っとれば何事も無く済むのに、わざわざ荒波立てる様な事したくないだけや。」


「あらやだ。あの千隼も歳を取ったわねえ。」


「“も”って何処に掛かるん?」


「私以外の何かよ。」


少し酔って来ている恵麻は、古臭い仕種でバリアを張った。

Cは頬杖を払われたまま、テーブルに突っ伏した。


 

―*―*―

 


「勿論、B君は可愛くて格好ええし、B君が俺でええなら嬉しいけど、俺は普通の幸せに疎いし、仕事もこんなんやからなあ。」


「こじらせてんのはどっちよ。」


「それであの子が離れて行くならまだええけど、あの子は絶対ぐいぐい来るで?普通の幸せでなくてもこの人って決めたら一生付いて来ると思うし、どんな危険な目に遭うても絶対めげへんで?」


「そうね。話を聞いてる限りじゃ今時の男にしては珍しいド根性の持ち主よね。」


「天使の守護天使としては今度こそ普通に幸せになって、平和に暮らして欲しいねん。」


「金曜日、巨大人造人間ロボット映画の公式ホモ君が似た様な事言ってたわ。」


「姉さんもアニメとか見るんや。」


「テレビを点けっぱなしにしてたらいつの間にかやってたのよ。」


10時はとっくに過ぎ、二人は会計を済ませて外へ出た。

都会はまだまだ明るい。

次の目的地までは歩いて行き、到着までに少し酔いを醒ます。


「おっと、姉さん転ばんといてや?」


「失礼ね。私がそんな鈍臭い訳ないでしょ?」


ヒールと割れたアスファルトの所為で少しよろけた恵麻をCは肩を抱いて受け止めた。

その前方からチャリが現れ、Cはそのまま道を譲り、固まった。


「…こんばんは。」


「こ、こんばんは。」


チャリに乗った子は左手にレジ袋を引っ掛けていて、その中にはAの愛用の煙草がカートンで入っていた。

その子は頭を下げ、さらりと二人の横を通り過ぎて行った。

Cはその場に膝を付き、恵麻はその子が見えなくなってからも見送り続けた。


「何かごめんなさいね、千隼(チハヤ)。飲み直す?」


「是非。」


この日ラーメン屋に辿り着くまで物凄く長い道のりだったと、後に恵麻は風雅に語った。



なんであんな時間に天使に買い物行かせんねんあほんだらー! by C

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