【持つべきものは】
Bは同居人の煙草を買いに行ったはいいが…
梅雨に入り、晴れの日は珍しい。
Bは久し振りの青空を堪能しながら、本屋の帰り ふと テーブルの上を思い出した。
ヘビースモーカーである同居人は残り丸々一箱持って出掛けたが、帰る頃には空っぽだ。
ニコチン切れで理不尽に怒られる前に、右向け右でたまたまそこにあったコンビニに入った。
「いらっしゃいませ。」
「すみません。アークロイヤルありますか?」
Aご愛用の煙草、アークロイヤルを置いているコンビニは少ない。
Bは入店直後、眼鏡を掛けた中年男性に尋ねた。
よく見ると、中年男性の名札の上半分には店長と書かれていた。
最初は笑顔だった店長は眼鏡を押し上げ、眉間に皺を寄せた。
「あるよ。」
「良かった。じゃあ、」
「でも君に売る事は出来ない。」
「へ?」
早速ボディバッグから財布を取り出そうとしたBは、ぽかんと店長を見上げる。
その表情に、店長は眉間に皺を増やした。
「君、年齢は?二十歳以上である事を証明出来るかい?」
「えっと、どう見ても二十歳以上だし僕が吸うんじゃないんですけど。」
「皆そう言うが、例えお使いであっても未成年に煙草を売る事は出来ない。」
店長はレジの横のPOPを指さし、腕を組んだ。
Bは保険証を持っていなければ、免許も持っていない。
諦めて帰る事にした。
「じゃあ良いです。」
「待ちなさい。」
「え?」
Bはカウンター越しに店長に腕を掴まれ驚いた。
「君、どこの学校の生徒だい?」
「僕もう社会人です。」
「社会人だからと言って成人とは限らない。何処で働いているんだい?」
「だから成人ですし、コンビニですけど。」
「学生アルバイトだろう?何が社会人だ。」
店長はBの腕を掴む力を強くし、店の奥を見た。
「丁度良い。今日はお客も少ないし、もう直ぐ警察の人が巡回に来る。今回は未遂だが、裏を貸してあげるからしっかり叱って貰いなさい。」
「え゛!?」
それは拙い。
もし万が一アルバイトで使っている名前が偽名である事がバレたら、色々拙い。
本名を名乗れば親に連絡されてそれこそ拙い。
「もうしませんから!」
「ほうら、やっぱり。君は未成年だ。」
「え、いや、違いますってばーッ!」
半泣きのBは身を捩って何とか店長の捕縛を振り払ったが、運悪く警察官が到着した。
「その子を捕まえて下さい!」
店長が大声を出した時、Bは既に警察官の横を通り過ぎ、走り出していた。
時間があれば夜中だろうと走って体力を付けている真面目なBの足は速い。
しかし、警察官だって負けてはいない。
「僕が何をしたって言うんだ!」
理由はわからないが逃げ出した一般人に振り切られたとあっては恥なのか、警察官が応援を呼ばなかった事だけが救いだった。
Bは逃げながら思い付く人物に電話を掛けた。
誰かが来てくれれば無実を証明出来る筈だ。
Aは論外だ。
現れた瞬間、警察官はAの極悪面に対して条件反射で発砲してしまうかもしれない。
Cも論外だ。
迷惑は掛けたくない。
鈴木も中村も学校だろう。
高橋と佐藤は多分仕事で、渡辺はよくわからないけど出ない。
掛け続け、三巡目で一人と繋がった。
「どうしました?」
「助けて佐藤君!今、警察に追われてるんだ!」
そんな呼び出しに二つ返事で応じた佐藤を、後で話を聞いたAは感嘆の溜め息を吐く程尊敬した。
佐藤がBを見つけた時、Bは警察官に捕獲され、寂れた通りの植え込みの淵に座って怒られていた。
「はい、はい。詳しい事はまた今日入った時に話します。ありがとうございました。」
佐藤は警察官に追われて余程怖かったのか抱き着いて離れないBの頭を撫でながら、自分達の店長との通話を切った。
Bが立ち寄ったコンビニの方の店長と自分達の店長が電話で話し合い、事情とBの素性に納得した警察官は、Bに逃げた事を叱ってからさっさと帰って行った。
「もー、最初から店に掛ければこんなに怖い思いをせずに済んだのに。」
「…。」
Bは佐藤の胸で頬を膨らませて不貞腐れた。
偽名を使ってさえいなければ直ぐにそうした。
煙草は自分のコンビニかいつもの店以外ではもう買わない。
Bは硬く決意した。
その頭上で佐藤はまた電話を掛ける。
「心配を掛けてすみません。大丈夫でした。」
『良いって、良いって。今日暇だし、そのまま帰って良いよ。』
「あざーす。」
他のバイト先との連絡も短く済ませた佐藤は、Bの視線を感じて苦笑った。
Bは今更恥ずかしくなって佐藤から離れた。
「ごめんね。バイト中に、しかも変な事で呼び出したりして。」
「構いませんよ。今回は特に人生においてそうそう無い大ピンチでしたしね。」
「うん。23歳にもなってガチ泣きしそうだった。」
「あはは!半分泣いてたじゃないですか。田中さんは本当にかーわいースねえ。」
可笑しそうに笑う佐藤に、Bは顔に熱が集まるのを自覚した。
「ふん。バイト代には満たないだろうけど、先輩がお礼にちょっと良いご飯おごってあげるよ。」
「今それ言うんスか!?今さっき俺より年下に見られてたのに!やべえ、超ウケる!田中さん、ナイスギャグ!」
ついに腹を抱えて笑い出した佐藤の頬を抓ろうとした時、Bと佐藤の元に団体様が到着した。
パニックになったBが掛けまくった、コンビニ仲間達だ。
「来る途中ラインでやりとりしてたんスけどね。とにかく何事だって心配してたんでさっき簡潔に無事だったって送ったんスけど、皆もう飛び出してたんスね。」
息せき切って駆け付けた彼らは、無事なBを見て ほっ と溜め息を吐き、今度は嬉し涙で半泣きになるBに文句どころか渡辺と中村に至っては物理的に身体もぶつけた。
「あーあ。田中さん今日のランチで破産確定ッスねー。」
佐藤は皆に愛されるBを微笑ましく見守りながら、諸悪の根源にほんの少し腹を立てていた。
ぎゃっははは!何それ超ウケる!! by 諸悪の根源




