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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
32/52

【田中先輩】

都会にあるとあるコンビニで個性豊かなアルバイト達が貴方を待ち構えております。

世間は春休み。

大学三年生の中村の家は、バイト先からそう遠くは無いが、電車を乗り換えなければならない。

しかし、中村の部屋は母屋から離れた場所に建てられたプレハブ小屋で、飲み会には持って来いだ。

定期的にバイト仲間に集られる事になるのだが、成人式の後の同窓会で酒に目覚めた中村にとって苦では無かった。

むしろ、バイト仲間同士仲が良く、自分から「次はいつにする?」と持ちかける程、楽しみにしている。

今夜の参加者はバンドマン佐藤21歳、伝説のフリーター高橋29歳、脱サラして今はただのチャラ男渡辺25歳、そして冴えない眼鏡B23歳の五人だ。

残念な事に、鈴木を初めとするツッコミ要員はシフト、あるいは別の用事で不在だ。

一番年上で太っ腹な高橋はいつも一番出資しながらも、中村の部屋のテレビゲームをツマミにほぼ一人酒。

渡辺は流石元営業、場を盛り上げる話題に事欠かない。

佐藤は自分も楽しみながら、掛持ちのバイトで磨いたツマミや酒の気配りを忘れない。

中村は時々酒を片手に高橋の隣に行っては、ゲーム攻略についてアドバイスと檄を飛ばす。

その度に敬語も持ってけと思うBは、見つけた漫画を一巻から読み続け、気付けば二桁の大台に乗っていた。

その傍で、Bが愛飲する佐藤の作ったアルコール度数が甘酒程度のカクテルが暇そうにしていた。


「ねー?田中さんってばー!聞いてるー?」


中村の陽気な声にグランドラインから呼び戻されたBは、すっかり鼻まで下がった眼鏡の上から飲み会会場を見て、瞬いた。

まさに夢から覚めた状態のBは、笑いを誘った。


「今、自分達の高校の制服がどんなだったか話してたんです。」


「そーそー。小林んとこの制服って小洒落てるじゃねえッスか。似合わねえよなーって話からそうなったんス。」


小林君はBと似たり寄ったりの眼鏡をかけた、高校二年生だ。

決定的にBと違う所は、血の気の有無と眼鏡を外さない方が良い事だ。

Bが眼鏡をかけ直せば、佐藤は紙に絵を描いていて、渡辺は中村の高校のアルバムを捲っていた。

佐藤の母校の制服は学ランで、中村は紺のブレザーだ。


「ちなみに俺は学ランだったべ。詰襟嫌いでニットばっか着てたな。」


「あ、ナベさんもッスか?俺もそれわかるッス。」


「中高ボタン変わるだけだったからマジブレザーとか憧れたよなー。」


「いや、俺は中学はブレザーだったんでむしろそん時は学ランに憧れてたッス。」


二人が楽しそうに盛り上がっているので、Bは息を殺して空気に徹したが、佐藤が見逃す筈が無い。


「田中さんは?」


「それより高橋さんは?ベテラン土建っぽい外見と男らしさで都会のチャラついたブレザーとかだったらヤダなー。」


「安心しろ。中高と学ランだ。おまえは眼鏡外してりゃそういうの似合いそうだよな。」


「そうスか?それより僕にも中村君の卒アル笑わせてよ。」


「え~?田中さんたら笑うの前提ッスか~?ヤダ、見ちゃいや~ん!」


Bは、気持ち悪い中村が高橋に割と痛そうな拳骨を喰らうのを尻目に渡辺に手を伸ばす。

渡辺は笑顔だ。


「で?瓶底眼鏡がクソ残念な田中さんが黙るっつー事は、似合わねえシャレオツなブレザーくせえんスけど?」


「残念ながら瓶底眼鏡と相性抜群の学ランです。」


渡辺はBに中村の卒業アルバムを渡した隙に、佐藤に目配せをする。

正しく受け取った佐藤はBの為の酒を作り始めた。



高橋は、自分以外が寝落ちた後もゲームを続け、独りで朝を迎えた。

夜行性の渡辺と田中はまだ良いだろう。

中村には寝落ちる前に一コマ目は無い事を確認済みだ。


「おい、佐藤。起きろ。」


高橋は佐藤の肩を揺すった。

佐藤は直ぐに目を覚ましたが、愚図った。

抱き枕を抱き直し、二度寝体勢だ。


「バイトあんだろ。遅刻すんな。」


「今、幸せなんスよ。頭痛いっつって休もっかな。」


「これ、1,000円で売ってやるから早く行け。」


「えー?なんスか?」


高橋はスマホを取り出し、データフォルダを開いた。

佐藤は億劫そうにそれを見上げ、跳ね起きた。


「高橋さん、流石ッス!一枚1,000円ッスか!?」


「一枚500円だ。」


「あざーっす!」


一枚目はBの寝顔。

二枚目はそれを抱き締めて眠る自分とのツーショットだ。


「それ、口止め料込みッスからね。」


「それじゃあ安いだろ。」


「たった添付画像一、二枚の送信料がいくらだと思ってんですか。」


佐藤は先払いで高橋からデータを貰い、Bの為に高橋が自分のフォルダから削除したのを見届けてから帰宅。

高橋はまたゲームに戻った。



佐藤は信号に捕まり、バイクを止めた。


「(薄い黒、…チャコールグレーの事かな?の生地に黒の縁取りがされたジャケット。黒のチェックのズボン。夏は薄い紺に白の縁取りのジャケットに、濃紺の無地ズボン。ネクタイは学年ごとに色が違って、一般生徒は無地。特進クラスは斜めストライプ入り。って、間違いないよな。)」


この辺で見る事は無いが、親が国内外問わず転勤族だった佐藤には見覚えがあった。


「(確かに卒業した時は学ラン着てたけど、入学した時は同じ制服だったんだよなあ。うわー、残念。半年しか居なかったもんな。俺が黄色だったから田中さんは、赤、青色か。せめてあともう半年は粘っとけよ、親父。何が本社でトラブルだ。)」


交差する道路の信号が赤になり、佐藤はギアをローに落とした。

アクセルを回し、信号が青になる頃にギアをセカンドに入れ、徐々に加速し、ギアを上げた。


「(親が金持ってるってバレたら大変だし、隠そうとするのはわかるけど、学校側が徹底して画像が流出しない様に気を配ってるし、安全の為にこないだ制服変えたみたいだし、どうしてそんなに頑ななんだろう。昔話に花を咲かせたら怒るかな。懐かしくなったし、かなりしたいんだけどなあ。)」


自宅に着き、風呂に入る前にスマホを操作。

Bの寝顔を見て癒されてから服を脱いだ。


「(そんな金持ちの子が、どうしてコンビニバイトしてて、赤の他人に養われてんだろ。何か遭ったのかな。)」


湯を浴び、薄ら生えた無精髭を撫でる。

ジェルを塗り、剃刀を滑らせる。


「(何でも良いか。)」


今度友達経由で知り合いの先輩に卒業アルバムを見せて貰おう。

風呂を出た佐藤は、また写真を表示した。


「(困った事が遭ったらいつでも言って下さいね、田中先輩。)」


そしてこの瞬間、また一人スマホに笑いかける残念なイケメンが誕生した。



目を覚ましたBは、中村の部屋なのに高橋の部屋であるかの様に黙々とゲームをしている背を裸眼で見てから眼鏡を掛けた。


「今、何時ですか?」


「昼だ。佐藤はバイト、ナベは帰って二度寝、中村は大学だ。」


「高橋さん、バイトは良いんですか?」


「今日は夜まで入ってねえ。」


「そう、ですか。」


高橋はゲームをポーズにし、Bを振り返った。

Bは青い顔をしている。

原因は二日酔いだけではない。


「安心しろ。あの後おまえもナベも寝落ちた。中村なんてほぼ最後まで騒いでたのに、飲み会序盤から記憶がねえってさ。」


「佐藤君は?」


「佐藤はおまえの寝顔を肴に、心底幸せそうだった。」


「…ああ、そうですか。」


ちょっと微妙だが ほっ としたBはまた眼鏡を外し、目を擦った。

高橋はゲームに戻り、Bにわからない様に溜め息を吐いた。


「(悪い、田中。口止め料貰っちまったんでな。)」


これはまだまだクリア出来そうにない。

高橋は本体ごと借りて行こうと、コンセントに手を伸ばした。

相手は中村だ。

事後承諾で充分だ。

そこでふと、慌てて飛び出して行った中村の汚い髭面を思い出した。


「そういやおまえ、髭生えねえの?」


「生えますよ。」


「…人間だしな。」


あの綺麗な顔の佐藤でさえ生えたのに、どうしてこいつには生えないんだ。


「(ああ。これがあの、同僚の女子が恐れ慄く噂の田中の女子力か。)」


今度は温泉旅行でも計画するかと、その辺にあった中村の鞄を適当に拾い、ゲームを詰め込んだ。



ねえ、飲み会の度に僕のおでこチェックするの止めてくれる?そんな子どもみたいな事するの、Aくらいだからね? by B


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