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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
30/52

【何か用かい】

Cと遊ぶ約束をしたBは一応家主に許可を取る。

てぃりてぃりてぃりん♪

てぃりてぃりてぃん♪


入店の音楽を聞き、Bは今度このコンビニで開催されるスイーツキャンペーンのポップ作りから顔を上げ、神様お客様を迎えた。


「あ、」


「久し振り。」


白髪に、良く見ると紫色の瞳が神秘的な超絶美形の男に笑顔で手を振られ、夜行性のBの白い頬が薄桃に染まる。

他の客の手前、美形ことCは、直ぐに目的の昼食選びに向かい、Bも慌てて内職に戻った。


「580円になります。」


「ほな600円で。」


「はい。20万円のお返しです。」


「ふふっ。相変わらず田中君は可愛えなあ。」


Cさんこそ相変わらず良い声だなあ、なんてBの思考が会話中に飛ぶ。

CはBの頭を撫でて我に返らせた。


「最近、見かけませんでしたが、お忙しいんですか?Aは暇そうですけど。」


「んー、あいつと俺は同じ職場で働いとるけど、仕事が全然ちゃうでなあ。」


「身体に気を付けてくださいね?」


「あはは。それは上司に言ってや。」


レジ袋の中のサンドイッチとドリンクとデザートを見ながらのBの気遣いに、Cは渇いた笑みを浮かべる。

Bは俯いたままだ。

訝しがって顔を覗き込むまでも無い。

Bの耳は真っ赤だ。


「れ、連絡をくれれば、…その、Cさんの分も、僕で良ければ、ご飯、作るので、また、お時間があれば、僕んちじゃないけど、遊びに、来て下さい。」


「…。」


「!」


ぽん。

無言でBの肩に手を置いたCは、自分の身体の震えを止められない。

それは別の物を必死に止めている震えだからだ。

恐る恐る上げられたBの顔には「余計なお世話でごめんなさい。」と書いてあり、Cは胸キュンで崩れた顔を慌てて整える。


「Aもおる時に行くわ。」


「はい。勿論です。僕だけじゃ間が持つかどうか。」


「その間に魔が差すかもしへんからな。」


「…え?」


Cは幸い聞こえていなかったBの肩から手を退け、その手でレジ袋を掴んで慌ててコンビニを出て行った。

Bは、人目を集める程動きすら格好良いCが見えなくなるまで見送り、肩を落とした。


「(あんなに急いで。忙しいのに長い事引き止めて、悪い事しちゃったな。)」


頭を振る。

前向きなのが取り柄だ。


「(よし!美味しいご飯で挽回だ!)」


拳を握って顔を上げた。


「…あのう、」


「ハッ!?すみませんでした!」


そこで漸く、申し訳無さそうに弁当を差し出すサラリーマンが目に入り、また真っ赤になった顔を慌てて下げた。




Bはリビングのソファに膝を抱えて座り、スマホを眺め数分。

何度目になるかわからない溜め息を吐いた。


「…A、帰って来ないなあ。」


Aがいつ帰って来るかわからないなんて、いつもの事だ。

いつも、全然、全くこれっぽっちも気にならない。

でも、今日は違った。


「例え知り合いでも、居候が勝手にひとを家に上げたら良い気がしないだろうし、あんまりCさんと仲良くなさそうだし。…電話やメールで聞くのも、なんっかなあ。」


この独り言がC本人に盗聴されている事を、Bは全く知らない。

そのCが、スマホの向こうで「萌えー!」と叫ぶのを堪え、奇妙な笑顔をしている事もだ。

何故タイミング良く電話がかかって来たのかも、わかる訳がなかった。

思わず宙に放り投げてしまったスマホを慌てて受け取り、震える手で何度も押し損じてやっとかっと電話に出た。


「もしも、」


『とっとと寝ろ。』


ドキドキしていたBの表情が、一瞬で冷める。


「もしかしてその為に電話して来たの?」


『おう。子どもはもう寝る時間だろ。』


「大体この時間はバイト入ってるだろ。今週は違うけど。」


『今週は違うんだろ?さっさと寝ろ。』


「…。」


Bが携帯を持つ手に力を込める。

それは受話口からAに伝わった。

Aは携帯から顔を背けた。


「はあ!?僕もう子どもじゃないし!!何でAに今更そんな心配されなきゃいけない訳!?」


『一人じゃ寂しくて寝れねえか?』


「今Aが帰って来たらバッチリ目が覚めそうだよ!僕の闘争本能も目覚めそうだよ!」


『喜べ。俺はあと2、3日は帰らねえ。』


「やったね!」


『何か用があるなら今の内、言っとけ。』


「Aに用なんて無いよ!」


Bは勢いで電話を切ろうとして、慌てて踏み止まった。


「今、喋って良いの?」


『ああ。』


Bはテーブルに突っ伏し、声がする方を一瞬見て、それがスマホである事に気付いて目を閉じた。


「2、3日帰んないの?」


『ああ。何か困んのか?』


「別に。ただ、2、3日もかかる仕事なんだなーって。」


『まあな。』


「Aもまともに働いてるんだなーって。」


『まともかどうかはわかんねえけどな。』


「ふぅん?」


なんだかうとうとして来たBの声は間延びしている。

Aは小さく笑った。


『早く寝ろ。』


「うん。そうする。」


それでもBはまだスマホを耳から離さない。

Aはまだそこにいる。

でもまだ仕事中だ。

Bは薄ら目を開けて、ハッキリと口を開いた。


「気を付けてね。」


『…おう。』


「ここはAの家なんだから帰って来なくちゃ。」 


『おまえの家でもあるんだぞ?』


「そっか。でもやっぱりここはAの家だよ。七三くらいの割合で。」


『何だ、そのだせえ割合。いっそおまえにくれてやるよ。』


「Aの家のままで良い。じゃ、おやすみ。」


『おう?じゃあな。』


AはBが通話を切るまで待ち、ポケットに仕舞った。

壁にもたれるその隣で、Cは少し不貞腐れていた。


「俺を遊びに誘ってくれる話とちゃってん?」


「あいつ、何かよくわかんねえ所で遠慮すんだよ。別に家にまずいもん置いてねえし、構やしねえのに。」


「じゃあ俺んち誘うかな。」


「…おまえんちってどっちだ。」


「勿論。機材が無い方。ゲームくらいあったら楽しんでくれるやろか。」


Cはスマホを操作しネット検索を始める。

Aは呆れて溜め息を吐いた。


「おまえ別に飢えてるわけでもねえのに、何であんな男の餓鬼に構うんだよ。」


「本能に忠実過ぎて色恋に興味の無いおまえと一緒にするな。」


「ならまあ、仕方ねえか。」


何がだ。

Cがスマホから顔を上げれば、AはCの横に片手を付いてCを見下ろした。



「間違っても泣かすなよ?」



「はっ!よう泣かしとる奴に言われとうないわ。」


「…。」


Cはスマホから目を離さない。

Aは鼻を鳴らしてCから離れた。


「(…おお、怖。)」


Aの視線も離れた時、Cは気付かれない様に顔色を窺い、肩を竦める様に眉を上げた。



ま、それぐらいで怯む奴が欲しいもん手に入れられる程世の中甘くないっちゅーこっちゃ by C

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