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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
25/52

【Aの立場】

Bが忘年会に行ってしまいAは…

Bは何時まで経っても電話に出ない相手に怒る事無く、諦め、電源ボタンを軽く押した。

メール画面を開き、両手打ちで一瞬にして要件を済ませた。


“今晩は忘年会で帰らない。もし家に帰って来るならご飯食べて来て。お風呂掃除はしてあるから入るなら自分でお湯張って。”

携帯を閉じ、鼻を啜ってマフラーを巻く。

戸締りを指さし確認し、指先も冷たいなと思い至り、手袋を装備して部屋を出た。

勿論、温度差で眼鏡が曇る。

裸眼でも視界は大して変わらない。

いつの間にか慣れ親しんだ鍵は、見なくても閉める事が出来る様になっていた。



目的地周辺になり、遠目からでもわかる仲良しこよしなバイト仲間達を見つけ、Bは駆け寄った。

イケメンは遅れて来るし、バイト仲間が今は野郎ばっかで絵面が何ともむさ苦しいけれども、女がいない飲み会って言うのは気が楽で楽しいものだ。


「ごめん、待った?」


「お、田中さんお疲れでーす。」


「お疲れー。」


「全然大丈夫っすよ。まだイケメン君が来てないんで。」


「バイトが終わってから来るんだっけ?」


「ギリ間に合うって、今メールが来ました。」


「そう。じゃあ先入ろうよ。寒いー。」


Bはバイト仲間の内、一番大きくて無口な年下の大学生に飛び付いた。

サークルで柔道をやっているらしい彼にとって、そんなの痛くも痒くも無いが、あまりシフトが重ならない為それ程親しくも無い。

固まってしまった彼を動かしたのは、間一髪間に合ったイケメンだった。


「狡いぞ鈴木!俺だって田中さんに抱き着かれたい!田中さん!Come on!」


「…佐藤。」


「佐藤君と鈴木君って同じ高校出身だっけ?」


「いえ、大学です。佐藤は中退しました。」


「そっか。佐藤君はボーカルなだけあって発音良いね。」


「一応、帰国子女ですからね。」


「へえ。コンビニバイトに無駄なスペックだね。」


「いえ、割と外国のお客さんが多いんで重宝してますよ。」


「そういう時は特別手当、出して貰うんだよ?時給900円で良い様に使われるには勿体無いスペックだから。」


「わかりました!だからほら早く田中さん!Hug me!」


「もうお店入ったから良いよ。」


また眼鏡が曇ったBは、イケメンによる残念なショボーン顔を見ずに済んだ。



Bから受信したメールを漸く開けたAは、肩越しに覗き込んで来るCの顎を肩で打ち、スマホをポケットに仕舞った。


「折角仕事終わったのにB君家におらへんで寂しいやろ。」


「別に。あいつ結構誰それと遊ぶっつって家に居ねえし。」


顎を打たれて尚、Cはニヤニヤしたままだ。


「今の、家に居て欲しいみたいに聞こえたで?」


「耳鼻科行けば?」


「阿呆言え、今年の健診でもあまりの健康っぷりに医者が感極まってたで。」


Aが晩飯何処で食うかな、なんて悩んでいる時だった。


「うちも忘年会する?」


「「「却下。」」」


恵麻(エマ)の冗談に、答えたのはAとCだけでない。

ボスも賛同した。


「なんで年末にこんなむっさい野郎共と飲まなあかんねん。姐さんと二人きりならええで?つかその前に俺もう美女と遊ぶ予定あんねん。」


「俺も同じくだ。」


「俺は真っ直ぐ家に帰る。」


最後に答えたAを、Cとボス、恵麻も凝視した。

Aは鬱陶しいと手を振る。


「Bが飲み会の日は開けてなきゃなんねえんだよ。」


「…ああ、そうやったな。」


Aの発言を理解したのはCだけだ。

ボスと恵麻は首を傾げる。

Aが事務所から出る前に、スマホが着信を知らせた。

直ぐに出たAは扉を閉め、本当に直帰した。

当然、Cに視線が集まる。


「マイエンジェル、本気と書いてマジでアルコールに弱いねん。」


「あら。(アキラ)ったら意外と良いお兄さんしてるんじゃない。」


「私もA以外のイケメンに迎えに来て欲しいわ~。」なんてほざく恵麻に、「要らへんやろ、ザル。」とCは冷ややかに突っ込んだ。


「それにしても、あんだけ可愛え子が酔っとんのに手え出さんAを尊敬するわ。俺やったら即行で美味しく頂くで。あいつマジでノンケやったんやなあ。」


「珍しく同意。あの助平が下心無しで誰かを養うなんて思っても見なかったわ。」


「なあ?」


二人の会話にボスは入って来ない。

カウンターに両肘を付き、冷や汗を垂らし、組んだ両手に額を当て、俯いていた。



宴もたけなわ、一人静かなBを尻目に会計を済ませた皆は店の外に出た。

鈴木が背負うBに手を伸ばす佐藤を、残りのメンバーが羽交い絞めにして止める。


「俺、一人暮らしだし大丈夫だって!ちゃんと面倒看るから!」


「はいはい。おまえはこれから高校生君と交代の俺等と一緒に帰ろうな。」


「俺も彼女さえいなけりゃ田中さん連れて帰っても良かったんだけどな。」


「眼鏡外した田中さん連れて帰ったら100%おまえの彼女じゃなくなるな。」


「俺もそう思う。鈴木、頼んだぜ?」


無言で頷いた鈴木はやはり無言で騒がしい一行を見送った。


「スズキくんだっけ?寒みいのに悪いな。」


「…いえ。」


それと入れ替わりに現れた男に、鈴木は頭を下げた。

その男は、先程彼女がいなければと話していたバイト仲間が、勝手知ったるBの携帯を拝借し呼び出した人物、ただ「保護者A」とだけ登録されていた男だ。

鈴木が勝手に描いていた田中の保護者とは雲泥の差で、改めてまじまじとその男を見てしまった。

朝梳いたのかすら怪しい伸ばしっぱなしの金髪に、朝剃ったのかも怪しい無精髭。

だらしなく羽織っている皺だらけのミリタリーコートのフードと袖には、人工では無い動物の毛がふんだんに使われていて、上等である事を主張している。

しかし、このご時世に歩き煙草をしているのが、どうしても頂けない。

常識を疑う。

鈴木はその男を測りかねたが、田中が保護者としているのだから、自分がどうこう考える事も無いだろうと、Bを直ぐに背から下ろし、その男に引き渡した。

その男は煙草を咥えBを軽々と横に抱き、鈴木に笑って見せた。


「楽しそうにしてたか?」


「はい。薄っすいカクテル三杯目にはその辺に転がってましたけど。」


「ぶははッ!おまえ等も良い子だなあ?俺ならそんな馬鹿が転がってたら絶対悪戯してやっけど。」


「田中さんはいつも俺達に良くしてくれますから。…それに、」


Bの額に「肉」が書かれてない事を心底不思議がり、その額をまじまじと見つめる男に、鈴木は呆れた。


「冗談でそういう話が上がった事もありましたが、親しい奴等が“貴方”に怒られるから止めておこうと、直ぐに話を終わらせました。」


「はあ?そんな事で怒ったりしねえよ。テメエ等俺がどんだけ狭量だと思ってんだ。」


「男なら誰だって、貴方の立場なら怒るからです。」


鈴木は頭を下げ、踵を返した。

その、広く大きな背を、Aは呆気に取られて無言で見送った。


「何だってんだ?」


Aの腕の中、Bは寒いのかAに擦り寄った。

AはBに落ちそうになった煙草の灰を、首を伸ばして遠ざけ上下に振り、路上に落とした。

その間にBは薄らと目を開け、不細工に目を顰め、そして力を抜いてまた眠りに落ちた。

愛する眼鏡は頭に乗せられている。

裸眼では良く見えないが、煙草の匂いと色彩で大体誰かわかったのだろう。

Aは煙草の煙と共に溜め息を吐き、もう雑踏に紛れた鈴木辺りを見た。


「こいつに手え出して良い気がしねえのは俺じゃなくてテメエ等だろうが。」


「貴方の立場になりたい」と聞こえたAは「尻の青いガキ共が百年早い」と鼻で笑い、少し跳ねて大きな子どもを抱き直して、鈴木とは反対方向に歩き始めた。



(そういやあいつ、直帰したけど晩飯どうするんや?)

(何の話?)

(いや、こっちの話。)



よしよし、外で食えって割に冷蔵庫にちゃんと日持ちのするもん入ってんだよなー by A

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