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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
24/52

【初めての】

バイト仲間から回って来た“あれ”に…

珍しく交代で入ったコンビニの昼勤。

昼は洗濯物が心配だから早く帰りたいと主張すれば、店長はあっさりと承諾してくれた。

放課後の学生達のビッグウェーブを終え、仕事帰りの社会人の波が来る前に夜勤組と交代だ。


「そだ、田中さん。」


「んー?」


久し振りに一緒に入ったフリーターの彼は、駆け出しのミュージシャンなだけあって、格好良い。

髪色がやんちゃだけど爽やかで良い子だから、いつかテレビに出て欲しいなと真剣に思う。

それはこのコンビニ仲間のみんな同じで、店長さえも時間が合えばライブのチケットを買って応援しに行っている。


「これ、今返って来たんですけど、田中さんも良かったらどうですか?」


「…へ?」


だから、一瞬。

そんな爽やか少年が僕に差し出している物を理解出来なかった。

シャツを脱ぐ為に眼鏡を取ってはいるけど、薄ぼんやりとわかる。

こんなにでかでかとした肌色とけばけばしいピンクのコラボは、大抵あれだ。

だからこそ、爽やかな少年とそれが結び付かなくて、理解が出来ない。


「(この子は何をしているんだ?罰ゲームか?)」


僕が見えない振りをしていると、優しいイケメンはロッカーに掛けていた僕の眼鏡を取って掛けてくれた。


「ありがとう。」


「ははっ!やっぱ田中さんも男ですね。」


「はは。」


今の感謝は眼鏡を掛けてくれた事に対するものだったけど、彼は僕の鞄にそれを突っ込んだ。

ってゆうかやっぱってなんだ。

彼にとって僕は男らしくないのか。


「田中さん、その瓶底眼鏡取ると可愛いのに絶対勿体無いですよ。今日の失礼な女子高生達に見せてやりたかったなあ。」


「…。」


可愛いとか、僕よりも年下の子に言われた。


「良い眼科知ってるんで、一回コンタクト試してみませんか?せめて薄型レンズにしません?」


「いい。」


あ、少し突っぱねた様な言い方になっちゃった。

せっかくのイケメンが、誰もが知ってる顔文字みたいな、怒られた子犬みたいな顔になった。

可哀想で見ていられないし、シャツを着なければいけないので、件の眼鏡を外す。


「この眼鏡、掛け慣れてるし。別に顔なんて気にしてないし、女子高生に興味無いし。知り合いがこの顔を知ってて、気に入ってくれてたらそれで良いし。」


「―――田中さんッ!」


シャツから頭を出したら、何を思ったのかイケメンが思いっきり抱き着いて来た。

狭い控室で折り畳み机の角でお尻を打った。

痛い。


「俺!田中さんと結婚したいっすーッ!」


シャツから手が出せないから、すべすべの頬っぺで頭に頬ずりして来るイケメンを突き離せない。

なんか大っきい犬みたいで可愛いから良いけどね。


「それより時間、大丈夫?」


「ハッ!?あ、これロッカー入れてくれといたら良いですから!」


このイケメンはこれから居酒屋でバイトだ。

急いで身支度を整え、伊達眼鏡を掛け、手を振り、投げキスをして、扉をちゃんと閉めずに駆け出して行った。


「はあ。どうしよう。」


それはイケメンからのプロポーズに対してじゃない。

半開きの扉でも無い。

イケメンが鞄に突っ込んで行ったこれの事だ。




家に帰ってまず洗濯物を取り込み、夕飯の仕込みが済んで暇になった。

この時間はニュースばっかりだし、ニュースに興味無いし、そうなると気になるのが置きっぱなしの鞄の中身だ。


「いやいや。まだ早い。」


そうだ、お風呂掃除をしよう。

カビ取りもして、我ながら良い仕事をした。

夕飯を食べて、お風呂にも入って、また暇になった。

寝るにはまだ早い。


「…う~ん。」


やっと鞄から例のものを取り出し、眼鏡を掛けた状態で改めて見る。

思った通り、あれだ。

女優さんは結構可愛いお姉さんだ。


「皆、どうやって見てるんだろう。」


一人暮らしは勿論、自分の部屋にテレビやパソコンがある男子は簡単だろう。

自分が高校生だった時は、クラスメイトに自分の部屋に映画のスクリーンがあるという奴も居た。

しかし、自分はお年頃の時は我儘が言える様な立場でも無かったし、レベルの高い学校だったから授業について行くので精一杯でそんな暇なかったし、そんな事よりも部活の方が楽しかった。

それに、部屋には定期的にメイドさん達が入って掃除やら片付けやらをしていたし、隠し持つ名案が思い浮かばなかったし、クラスメイトに「どうしてる?」なんて聞く程興味も無かった。

そして自由になった暁には、色々開放的過ぎて、電子機器類すら身近に無く、例えこれが手元にあったとしても再生する事が出来なかった。

だから初めてだ。


「なんか、すっごい、嫌だなあ~。」


内容に興味が無いわけでは無い。

童貞でも無い。

それでも躊躇われるのは、このDVDプレイヤーは自分よりも先にこの家にあった、完全なるAの物だ。

それで再生するのが、どうも頂けない。

テレビの下にあるプレイヤーの、開けた取り出し口の上でディスクを人差し指に引っ掛けたまま、数分。

濡れたままの髪が乾き始めた。


「まあ、いっか。僕も男だし、Aは揶揄うくらいで何とも思わないだろ。」


ぽと。

人差し指を伸ばしてディスクを落とす。

言い訳がまだ伝わっていないのか、震える指先で閉じる釦を押した。

飲み込まれて行くディスクを、唾を飲み込んで見送った。


「何それ、買ったの?」


「!?」


まさか、そんな筈が。

慌てて後ろを振り返るまでも無い。

まだ黒い画面に、ソファに踏ん反り返り、火の点いて無い煙草を咥えたAが映っていた。





「ベッドの下にしょうもねえエロ本隠し持ってんのは知ってたけど、ついに動画にも手を出したか。オニーサンはBの成長が意外と嬉しい。赤飯ってどう炊きゃいいんだ?」


たまたま自宅前を通りかかったら電気が点いていて、時間もあるし一時帰宅したら同居人が面白そうな事になっていた。

気配を消したまま観察し、ここぞと言う時に声を掛けた。

さあ、この愉快な同居人は今回はどう笑わせてくれるのだろうと期待していたが、煙草に火を点け、2、3回楽しんでも動く気配が無い。

再生釦を押してねえから画面は黒いまま。

しかし、俯いたBの顔は映らず見えない。


「?」


いや、もう既に面白いのかもしれない。

そう思って立ち上がり、Bの傍でしゃがんで顔を覗き込めば、Bは瓶底眼鏡に涙を零していた。

流石にたじろぐ。


「何、泣いてんだ?」


「なんでAはいっつもいっつも僕の嫌がる事ばっかりするんだ阿呆ーッ!!」


「嫌がる事?」


急にキレたBに問えば、Bは政治家の様な目力で答えた。


「親に隠れてこっそりAV気分を味わいたかったのに!!」


「…。」


あれ、おかしい。

日本語なのに、結構付き合いの長い同居人が何言ってるのかわかんねえ。


「僕の青春を返せーッ!!」


「知らねえよ。」


ガツンと一発、剥き出しのデコに頭突きをかましてやったら、Bは床を転がり回った。


「(まあ、こいつも普通の子どもじゃねえしな。)」


俺から見たらBは普通の育ちの良い子どもだ。

だが、ズレてる自覚のある本人や、世間一般の普通の育ちの良い子どもに言わせれば、そうでも無いんだろう。


「(そりゃ悪い事したな。)」


と言う事で、リモコン操作でAVを再生させる。


「ええ゛ッ!?」


身構えていなかったBが真っ赤な顔で画面と俺を見比べて来る。

意地悪なオニーサンに下ネタで揶揄われるのも、普通の子どもにとってはお約束だ。

そんなに楽しみたいなら手伝ってやろう。


「初めてのAV観賞が無精髭の天パと二人でなんて嫌だぁーッ!」


「…。」


こいついつか絶対もっぺん泣かす。

早送りして例のシーンに飛ばしてやった。



「あ、田中さんもこれ見ますか?俺のじゃないんですけど、皆で回してるし。」


「…同居人が面倒臭いからもういい。」


「え!?田中さん、彼女居たんスか!?おめでとうございます!な様な悲しい様な…。」


「…はは。」



あいつ、絶対いつか泣かせてやる by B

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