【仮称千隼自称C】
Aの仲間はAが拾った健全な少年に興味津々、特にCはBを天使と称し…
こにゃにゃちわ。
はじめましての方もおるやろで、改めまして俺は仮称千隼、自称Cや。
よろしゅう。
俺は外出が日光の次に嫌いなインテリやけど、ある日を境に仕事以外でも外出する様になった。
それは夜、荒んだ心に舞い降りたマイエンジェルに会いにコンビニに行く為や。
今日も今日とて下賤な野郎共の視線を浴びながらオアシスへ向かう。
「いらっしゃいませ。」
機械を通さない育ちの良い声に、心が潤う。
盗聴器越しでも癒されるけど、やっぱり生には敵わへん。
とか言いつつ、実はまだ俺は心の天使の素顔を見た事あらへん。
俺も仕事中に愛用しとる様な瓶底眼鏡が天使の顔を覆ってるからや。
それだけが心底残念やけど、俺という究極のべっぴんを見てもそこらの野郎共みたいに欲に薄汚れた目をせえへんのも心の天使たる所以や。
盗撮はマジで玲に殺されかねへんから、いつかこの眼で直接拝むんや。
「♪」
今日はパンを陳列しとる心の天使は、洗濯物を干す時みたいに鼻歌を歌うてる。
予期せず生歌聞けてテンション急上昇、ときめき過ぎて胸が痛とうなって来よった。
まいど隣の天使に覚られん様に平静を保つのも一苦労やけど、そういうのは職業柄得意や。
初めて給料に見合わん職業に感謝したわ。
パンっちゅう繊細な売りもんを気遣う手付きが好き過ぎて、思わず掴もうと手が伸びそうになるんも何とか堪える。
「(あかん。結構経ってもうとったわ。)」
名残惜しいけどそろそろ帰らんと天使に怪しまれてまう。
「すんまへん。それください。」
帰る前に少し接触しとうて天使の腕の中のソーセージパンを指さしてみた。
別に好きやあらへんけど、天使の腕の中にあるだけで美味そうや。
突然話しかけられて天使は驚いたみたいやったけど、俺の顔を見て満面の笑みを浮かべた。
「まいどおおきに。」
しかも関西弁での接客サービス付きや。
萌えー!とか叫んで抱き着きたいのを必死に堪える。
「上手やね。」
パンを受け取って俺より低い位置にある天使の頭を撫でてあげたら照れ笑いをされた。
あかん。
あんまここに長居しとったら心臓が破れる。
さっさと帰ろと、レジ行く前に飲みもん取りに反対向いたところで異変に気付いた。
けど遅かった。
上下、大量生産されてる黒ジャージに目出し帽被った男が、天使じゃない方のバイト君に包丁を突き付けよった。
「金を出せ!」
言わんでもわかるがな。
他に何出せっちゅうねん。
汚いケツ出されても嬉しないやろ。
関西人の血が騒ぐけど、今は笑いをとっとる場合とちゃう。
ビビりまくったバイト君が震える手でレジを操作する。
あんまり目立つわけにもいかへんで誰も傷付かんなら傍観や。
「ちょっとそこのお客様。他のお客様にご迷惑なので止めてもらえませんか?」
「ああ!?」
ああ。
事が動いてしもうた今、止めるべき人間がおった事を完全に忘れとった。
俺の心の天使は天使の名に相応しい綺麗な魂を持つ子やった。
慎重に近付いて行く天使に強盗が包丁を向ける。
これは目立つ目立たんとか言うとる場合やない。
勿論天使の身が心配っちゅうのが一番やけど、もし俺の目の前で天使が掠り傷でもしようもんなら、この天使を捕まえた幸せ者にマジで殺される。
「どんな理由があるのか知りませんけど、他人を巻き込むのはよくありませんよ。」
「うるせえ!餓鬼が偉そうな事言ってんじゃねえ!」
煽ってどないすねん、マイエンジェル!
強盗が天使目がけて包丁を振り被りよったで動いたけど、次の瞬間には足が止まってもうた。
「せいッ!」
天使は強盗の包丁を交わし、その腕を掴んで背負い投げ床に叩き付けた。
「冴えない眼鏡君だからって嘗めないでよね。」
決め台詞まで付けて惚れてまうやろー!とか思てる場合やない。
一瞬制服が捲れて見えた白い細腰と腹筋に生唾飲み込んでる場合やない。
その制服、素肌の上に着てんのや、なんかやらしいね、とか思てる場合でもない。
何食わぬ顔で周りの客に混じって天使に拍手を送る。
「警察呼ばなくちゃ。」
「流石ッス!田中さん!!」
もう一人のバイト君がカウンターを乗り越えて天使に抱き着きよった。
何くそ俺みたいなべっぴん差し置いて何おんどれみたいな不細工が天使に抱き着いとんねん。
天使嫌がっとるやろ、そこ代われ。
とか悔しがっとる場合でもなかった。
「ド畜生が!」
悪態とともに強盗が立ち上がり、咄嗟にバイト君を庇う天使をナイフで威嚇して出口に向かって走り出した。
これはこれでもう誰も傷付かんでええかと思てたら、出口付近でATMで金を下ろそうとしとった客から丸出しの財布を奪い取って出て行った。
最後まで胸糞悪いやっちゃな。
街中にある防犯カメラにハッキングしてでも警察より先に犯人特定したる。
ほんで掲示板で晒したる。
そんで俺はまた忘れとった。
事が動いてしもうた今、止めるべき人間がおった事を。
「コラびぃ…ッ、田中君!」
天使が呼んだくらいで止まるわけがない。
本名呼んだろかいな、いやいや天使にそんないけずしたらあかん。
強盗を追いかけて行った天使を追いかけた。
天使の背中にリアルに羽が見える。
天使も速いけど強盗も早い。
勿論俺も速いけどスタートの時間差でまだ追い付かれへん。
夜行性のくせにそれ以外は健康で健全な俺の天使は見た目に反してスタミナもあるみたいで、強盗は次第にバテて失速、逃げるのを諦めて倒れ込んだ。
直ぐに追い付いた天使は強盗の手から抜け落ちた財布を拾い、安堵の溜め息を吐いた。
「お財布取り返せて良かったあ。」
「ようあらへん。」
「…え?」
ようやっと追い付いて天使の柔らかいほっぺを両手で左右に引っ張る。
お仕置きや。
「うぃ~~~ッ!?」
「素人さんが危ないやん。強盗追い出す所まではまだええとして、深追いしたらあかんやろ。聞いとる?」
「ひゃい~~~ッ!!」
「ほんまにもー。悪を許せんのは立派やけど自分の身ィも大事にせんと。」
内緒にしといたるつもりやったけど、今後の為にも深追いした事は玲に叱ってもらわなあかへんな。
つねって赤なったほっぺたを撫でてあげてたら天使が瓶底眼鏡の隙間から上目で見上げて来た。
あかん、これは破壊力抜群や。
天使は実は心臓破壊兵器か何かか。
てか天使、目え悪いからレンズ通さんと俺の顔見えへんやろ。
「もしかして、あなたは、僕を心配して追いかけて来てくれたんですか?」
「当たり前田のクラ○カーや。」
「…ごめんなさい。」
天使がしょんぼり俯いてしまった。
ああ、なんて可愛い生き物なんや。
なんで先に俺が拾わへんだんやろ。
なんであの阿呆に拾わせたんやろ。
いや、この天使があの野生動物を放っておけへんだっていうのが正解か。
俺はあそこまで阿呆やない。
「くっそおお!!」
天使の後ろ、俺の心の声を代弁した強盗未遂が立ち上がり天使目がけてナイフを振り下ろす。
おったまげて動けへん天使を抱き寄せナイフをかわし、強盗未遂の鳩尾に長い脚をブチ込む。
吹っ飛んだ強盗未遂は嗚咽と涎、直に悪態も吐き散らかしながら地面をのた打ち回る。
インテリ走らせた罰じゃボケ。
ええ気味や。
そういえばなんちゅう役得や。
緊急とはいえ、天使を両腕に収めるという念願が叶ってしもた。
爽やかな汗と清潔な天使のええ匂いがする。
「大丈夫ですか!?怪我は無いですか!?」
「大丈夫に決まってるやろ。」
ズレた眼鏡がまた可愛いわ、マイエンジェル。
それ狙ろてやってんの?
せやったらお兄さん撃ち殺されてもええわ。
折角やでズレた眼鏡を外してあげて、調子に乗って前髪を縛ってる飾りゴムを取ってあげる。
想像以上の天使っぷりにおったまげてたら、天使もおったまげてた。
「急にどないしたん?」
「あなた、男だったんですか?」
「そやけど。」
ああ、お気に入りのポンチョに隠れてて見た目じゃわかりにくいけど勿論俺に胸はあらへんからね。
あからさまに混乱する天使にピンと来た。
「俺が男でガッカリした?」
「え!?」
「図星やね。」
「…すみません。」
「構へんよ。慣れてるし。」
もじもじ、しどろもどろな天使は可愛過ぎやろ。
これはいくらノンケでもあかん。
室内やったらほんまにあかんかった。
あの阿呆もノンケやけど、ようこんな子と健全な精神で一緒に暮らせるわ。
「いえ、本当にすみません。女性と間違えるどころか、勝手にガッカリして。」
「ええて。俺に魅力感じてくれたんやろ。」
「………はい、すみません。」
「せやからええって。君みたいに可愛い子なら大歓迎や。」
「え?」
目の悪い天使が俺の顔色を窺おうと目を眇める。
何その顔、めっちゃ可愛いやん、キス待ち?
俺的にめっちゃええ雰囲気やけど、パンダのサイレンが聞こえる。
そろそろお暇しやんと職業柄、変装してへん素の顔見られるんはいざという時に拙い。
そん時は一緒におる天使も巻き込んでしまうかも知れへん。
この辺に防犯カメラが無くて良かった。
「ごめんやけど俺、用事思い出したでもう帰るわ。もう直ぐ警察来るやろでそれまで大人しゅうしとってね。」
「あ、はい。お忙しいのにこんな所まですみませんでした。」
礼儀正しく頭を下げる天使に眼鏡を掛けてあげて飾りゴムを返してあげる。
「あと俺の事は二人だけの秘密や。誰にも話さんとってね。仕事の関係であんまり目立ったらあかんねん。」
特に君んとこの阿呆に知られたら俺何も悪なくてもしばかれかねへんでな。
「やっぱり芸能人だったんですね。わかりました。お仕事頑張って下さい。」
最後にもっかい胸糞悪い強盗未遂を蹴っ飛ばしとく。
手を振る天使に投げキスで返す。
天使が笑ってくれたから上機嫌で帰れた。
「今日は幸せやったわ~。」
そう言えば持ち出してしもたパン代を払いにコンビニに引き返す事になったのは格好悪かったけど、天使との接触による幸福感のが余裕で上回る。
思い出しては枕を抱いて身悶えてしまう。
しかし、不本意にも保護者に天使を叱る様に言っといたから、少し心配や。
そろそろ事情聴取を終えて天使も帰って来とるやろ。
寝っ転がりながら愛用のパソコンを片手で操作し、盗聴器からの音声を再生させる。
酒と煙草で嗄れた玲の声が聞こえるかと思ったら、上機嫌な天使の声が聞こえて軽くおったまげる。
「でね、その白髪イケメンが僕を強盗から守ってくれたんだ!その時知ったんだけど、彼、芸能人だったみたいで、事件に関わるとややこしいから内緒やでって言われちゃって、警察の人に話せなかったのは残念だな~。本当に表彰されるべきは彼なのにね!」
そっか、表彰される事になったんやね、それにしても可愛い声や、やなくて!
おーい、マイエンジェル。
誰にも話したあかんてゆうたやん。
折角玲には先に「店の防犯カメラで見とったんやけど」って前置いて話しといたのに台無しやん。
「いや、それはどうかな。」
「何?もしかしてAってば心身ともにイケメンの存在に妬いてんの?」
「んなわけねえだろ。そいつは阿呆か馬鹿だ。」
「そんな事ない!もう!どうしてそんな事言うんだよ!」
ぼすぼすと、クッションか何かで玲を殴る音が聞こえる。
五,六発でピタッと止んだで、玲が止めたんかな。
音だけやと何しとんのかもどんな顔しとんのかもわからへん。
やっぱり今度盗撮カメラをリビングに一台くらい設置しとこ。
「…おまえ、もしかしてそいつに惚れちまったんじゃねえだろうな。」
「ちょっとだけね。彼、常連さんでいっつも綺麗だなって見てた人だから、話してみたら格好良くて優しくて関西弁で、男だけどちょっとだけときめいちゃった。」
「……へえ。」
あかん、死ぬ。
俺死ぬ。
天使の告白による聖なる衝撃が強くて精神的に死ぬ。
あと玲に妬かれて物理的にも死ぬ。
「あ~あ。名前くらい聞いておけば良かったな~。」
改めまして俺は仮称千隼、自称Cや。
よろしゅう。
「誰かわかったら絶対応援しよーっと。」
是非、俺がAに勝てる様に応援してください。
「あ。これはAと僕と彼の、三人だけの内緒だよ。」
だから煽ってどないすねん、マイエンジェル!
やっぱり盗撮カメラを設置するのは止めや。
世の中には知らん方がええ事もある。
今の玲の表情とかな。
まあ、あのものぐさが夜中にわざわざ他人んちに憂さを晴らしに来たりはせんで、今晩はまだ平和や。
ええ思い出だけ反芻してさっさと寝よ。
パソコンをスリープモードにして閉じる。
脳内スピーカーに天使の「ちょっとだけときめいちゃった」をエンドレスリピートさせて、瞼も閉じる。
色々目頭が熱いのは気のせいやろ。
「俺が生きとったら今度はゆっくりお茶でもしよな、B君。」
翌日、恵麻姉さんが今後コンビニに行く時は変装する事を提案して仲裁に入るまで、俺と玲の仁義なき殴り合いは続いた。
ってゆうか玲の奴、天使が可愛過ぎて結局叱らんだな? by C




