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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
18/52

【Aのお願いBの葛藤】

映画を見に行ったは良いが細かい所が見えなかったと嘆くBにAは…


「ねえA。エガンダムオンQ見に行こうよ。」


「んだそれ。」


「知らないの?巨大人造人間ロボの超人気アニメだよ。そのエガンダムオンに中学二年生が乗って宇宙から来る敵と闘うんだ。」


「エヴァン、」


「エガンダムオン。」


そうこうしている内にAはBによって身支度が整えられていく。


「一人で行けよ。」


「ヤダよ。僕みたいなのが一人で行ったらオタクくさいじゃん。」


「アニメ見てる奴ってもうオタクじゃねえの?」


「僕は普通のアニメ好き。身長体重血液型誕生日、台詞や裏話まで全て網羅し、パチンコに興味がなくてもそのアニメの台が出たら足繁く通う。それくらいの愛を持った人達をオタクと言うんだ。彼等に失礼だから一括りにしないでよ。」


「うん、ゴメンナサイ。」


「あ、動かないで。顔切れる。」


「…髭も剃るのか。」


「アニメ映画見に来る瓶底眼鏡と寝ぐせ金髪髭の二人組って見るからにヤバそうじゃん。」


「んなに世間体気にするなら金曜待てば?」


「映画館では臨場感を味わうものだろ?」


「ああ、そう。」


「だから動かないでってば。邪魔されると午前のやつに間に合わない。」


櫛で撫でつけて邪魔な毛を捩じってピンで止める事で、Aの伸ばしっぱなしの癖毛が美しく整えられる。

Bは自分の作品の完成度に自分で驚き、時計を見てまた驚いた。


「わ!もうこんな時間だ!急ごう、Aってば!」


「へいへい。」



無事に映画を見終えたBは暫く興奮冷めやらぬ様子で、それなりに楽しかったAも呆れる程だった。

二大ヒロインのツンデレの方と前作から登場した新キャラの眼鏡っ娘の活躍が嬉しかったと、腹ごしらえに入ったファミレスでも何処が良かったかまだ語るので、Aは無心で聞き流していた。

ニ時間ぶりの煙草は格別に美味い。


「でも細かい所が良く見えなかったんだよね。これはやっぱりバイトがんばってDVDを買わなくちゃ。」


「度が合ってねえんじゃねえの。先に眼鏡買えよ。」


「こう言う時だけ話聞いてんだね。」


喋り過ぎている自覚のあるBは苦笑った。

Aが乗って来た話の内容を思い出し、眼鏡を外して向かいの席のAを見て、また眼鏡越しにAを見るを繰り返す。

Aは煙草を吸うのを止めて難しい顔でそれを見ていた。


「コンタクトにすれば?」


「却下。目に何か入れっぱなしにするとか僕には恐ろし過ぎて出来ない。」


「今時小学生だってコンタクト入れてる奴いるんじゃねえの?」


「他人は他人。僕は僕。」


「チキン。」


「ゴキブリにビビる奴に言われたくないね。」


やっぱり度が合っていないのかと、眼鏡を翳してあちこち見だしたBの手からAは眼鏡を奪い取る。

それを目の前に翳してみて一瞬で頭が痛くなった。


「Aは狩猟民族並に目が良いんだから覗いちゃ駄目だよ。僕は乱視も入ってるんだし。」


「やっぱりコンタクトにしろ。こんなん眼鏡取られたら一巻の終わりじゃねえか。」


「僕みたいな人畜無害な人間はそんな状況に滅多に陥らないから大丈夫だよ。」


「おまえが喧嘩売らなくても売られるだろ。こないだの事、もう忘れたのか?」


「Aに?悔しいけどAには眼鏡があってもまだ勝てないし、…まだね。いつか絶対圧勝してやるけど。」


「…。」


Bは眼鏡を奪い返そうとAの手元に手を伸ばすが、返す気の無いAが避けずとも乱視の所為で見当違いな場所を何度も掴む。


「ちょっと、いい加減に返してよ。」


「コンタクトにしろ。」


「コンタクトだって落ちる時は落ちるだろ。」


「その確率はかなり低いしそんときゃ眼鏡かけりゃ良い。」


「何、心配してくれてんの?」


「したら悪いのか。」


「は?急にどしたの。」


裸眼ではAの表情が読めず今度こそ的を絞って伸ばしたBの手が、Aに取られる。

机に眼鏡を派手な音が立つ程乱暴に放られ、ムッとしたBの唇に柔らかい何かが当たる。

視界は相変わらず呆けているが、少しだけ明瞭になった先には他人の目。

左右色が違う所為で錯覚を起こしそうになる。

Aの目だ。


「今の、見えてりゃ避けるなり抵抗しようとしただろ。」


実際煙草の味のする言葉に、Bはやっと事態を理解した。

空いてる手で拳を作り向かいの席に伸ばすがそれもAに取られた。


「コンタクトにする気になったか?」


「意地でもしない。」


「そんなに俺にキスされたいのか?」


「今のは犬に噛まれたと思って諦める。今度からは相手の危険度を<非常識>から<非常識過ぎる>にまで引き上げて構え、対応する。」


「やってみろ。」


ここがスタッフ入り口前、端のテーブル席で良かったとBは心底思った。

大の男二人がテーブルを挟んで両手を掴み合い物理的に押し問答している光景は、傍から見れば通報ものだ。

ちなみにテーブルの下では同時進行で仁義なき蹴り合いが続いている。

しかしAが急に手を離し、勢い余ったBは大きく前のめる。


「お待たせしました。」


数多の客を見て来た店員は一つも取り乱さず時給900円の笑顔で注文の品を並べ、“ごゆっくりどうぞ”と言い残して去って行った。

その反面、内心ではこんな怪しい客にはさっさと帰って貰いたいと思ってるんだろうなと、Bは項垂れた。


「ま、眼鏡のままでも良いけど?俺は今後Bがコンタクトにしない限り隙あらば狙って行くから覚悟しとけよ。」


先に食べ始めたAをぼやける視界でBは睨み、テーブルの上の眼鏡を手探る。

近距離で上下を確認し漸く定位置に戻した。

Aの不敵な笑みがハッキリと見え、苛々が増す。


「それってAにとっても辛いんじゃないの?」


「童貞じゃあるまいし今更キスくらいでなんだよ。」


「Aは違うかもしれないけど僕は兄弟以外で男相手は初めてだよ。そしてこれが最後であって欲しい。」


「釣れねえなあ。」


「釣ろうとしてんのか。」


「コンタクトに変えさせようとしてんの。そんなにキスが嫌なら強引に突っ込んでやるけど?」


「それこそ自分でやんのも嫌なのに他人にやらせるか、阿呆。ましてやAにやらせたら視力矯正どころか眼球凹んで失明しそう。」


「飯の最中に止めろよ。」


「僕じゃなく自分への過大評価と自分の信用の無さを責めろ。」


この眼鏡はいざという時に盾になるなと、Bは相棒の新たな価値を知る。

腹が減っている状態だと余計に苛つくので、まだ温かい内に自分の料理を口に運んだ。

反対にAは食べる手を止めて、頬張って美味しそうに食べるBを眺め、頬杖を付いた。


「そんなに眼鏡が好きならかけてても良い。だが、眼鏡が無くても手元くらいは見える様にしろ。」


「だから眼鏡が好きとかそういう事じゃ、」


「B。」


Aの真剣な表情に、Bはフォークを噛んで身を縮める。

コンタクト完全拒否から、少し前向きになった事を知りAも表情を和らげた。


「コンタクトよりキスの方がマシか?」


「コンタクトは恐怖。キスは不快。比較対象にならない。」


「なるだろ。不快が勝れば怖いとか言ってらんなくなる。」


「キスのデメリットだけでコンタクトにするメリットが無ければ釣られない。僕の中で不快と恐怖は均衡を保っている。」


「自分の顔がよく見える。」


「見えてどうすんの。」


「…どうって、」


Aは胡散臭げなBの顔から頭の中で瓶底眼鏡を取り上げ、どう考えてもメリットだろと思ったところで気付いた。


「おまえ最後に自分の顔をまともに見たの、いつ。」


「うーん?小学校低学年かな。気付いたら眼鏡は顔の一部だった。」


「眼鏡かけた時に女子が騒がなかったか?プールの授業で女子が騒がなかったか?」


「知らない。女の子は大抵目が合うと逃げて行くから友達少なかったし、高校は男子校だったし。」


「…。」


こいつ人の目ガン見して話聞くもんな、とAにしては珍しく女心を察してかつては少女達に同情した。

そして周りの男子はBが鈍い事を良い事にどうせ余計な事は言わないでおこう等と口裏を合わせたに違いない。

全く以て残念な野郎だと、Aは溜め息を吐いた。


「じゃあ今まで付き合ってきた彼女の誰かに眼鏡止めろとか言われなかったか?」


「言われたけど、外したら何も見えなくなって誰かわからなくなるからヤダって言ったら、もう良いって言われた。」


「…。」


彼女への愛ですらコンタクトの恐怖に打ち勝てないのならば成る程。

犬に噛まれた程度ではへこたれないわけだ。


「A、何が言いたいの?」


「おまえ、眼鏡外した方がモテるぞ。」


「男にね。女の子には眼鏡をかけてから前よりモテる様になったよ。」


「絶、対、嘘だろ。」


「本当だって。皆、話しかけてくれるようになったんだ。眼鏡萌えってやつだね。」


「…ああ。」


近寄りやすくなったのね、とAは納得。

そして同時にこれは説得が面倒臭くなったと下唇を出して目を据わらせる。

先に平らげたBは、そんなAを見てまた眼鏡を外した。


「僕は身嗜みレベル3のおっさんの隣を歩くのは嫌だけど、Aは瓶底眼鏡の隣を歩くのは嫌?」


「前半は置いといて、後半それが理由ならもう既に薄給のアルバイト君に超薄型レンズの眼鏡を買ってやってる。」


「そっか。」


何故か嬉しそうなBの笑顔にAは首を傾げる。

しかしBが直ぐに眼鏡をかけ直してしまい、疑問より残念の方が勝りどうでも良くなった。

Aは冷えてしまった残りの料理を黙々と口に運ぶ。


「わかった。じゃあもう少しコンタクトについて前向きに考えてみる。でもその結果、コンタクトにするかどうかはまだわからない。今はそれで良い?」


「んなに怖いか?」


「怖いね。」


「ああそう。じゃあ今はそれで良いって事にしてやる。」


「交渉成立。次、キスしたらマジで急所を突いて悶絶させるからな。その一撃に全てを賭けて僕の本気の拒絶と執念を伝える。」


「ゴホッ、…ッ。」


咽たAは恨みがましくBを睨む。


「んなに嫌か。」


「嫌に決まっている。さっきはああ言ったけど、犬に噛まれて心穏やかでいられる奴は真正のドMだ。普通の人間は再発防止に努める。」


Aに水を差し出すBの顔はAが未だかつて見た事も無い真面目な表情だ。

眼鏡が伊達では無い事を証明するかの様に頭を回転させ始めた眼鏡キャラの如き眼光を放っている。

水を受け取ったAはそんなに嫌かともう一度問いたくなったが、聞かれる前にBはどんなに嫌か声音に乗せる。


「例え犬でも雄ならおっさんに煙草味のキスをされたら唾を吐き捨てるね。」


「成る程。それで前に飼ってたハスキーも逃げやがったんだな?」


Bは慌てて首を振る。


「いや違う。絶対それだけじゃない。もっと他にも色々ある。」


「犬の気持ちがよくわかるんだな。」


「Aに巻き込まれる生きとし生けるものの気持ちは皆一緒だ。」


「…ああ、そう。」


キス云々は置いておいて、Aはコンタクトの件が前進したのでとりあえずここでの会話は良しとする。

眼鏡に固執しているBがいつかコンタクトにする事になっても、その上に眼鏡をかけてくれるだろう。

それはAにとってもありがたい。


「んだけ視力が悪くなけりゃ俺もしつこくうるさく言わねえよ。」


「そこはAにしてはまともな意見だと思っている。ただ行動が非常識過ぎるんだ。他に無かったのか。」


「叱る時に叩くのは逆効果だって本に書いてあったぞ。」


「本に書いてなくてもそれくらい実地で理解しろ。処世の初級編だ。もう頼むから人付き合いに犬の飼い方かなんかの本で得た知識を応用しないでくれない?そう言うのが非常識って言うんだ、阿呆。」


咥えた煙草よりも先にAの怒りに火が付く。


「いい加減殴らせろ。表ぇ出やがれ。」


「Aは人と付き合うにあたりいちいち六法捲って確認してから言動しろ。ポケットタイプでも良い。刑法の頁が擦り切れるまで読め。足りない時は判例集で補え。」


「…なあ、俺ってそんなに人間終わってる?」


「だから非常識だって言ってるでしょ。いっつもいっつも思うんだけど、Aは女性には言わずもがな、恋人では断じてない男に対するスキンシップがナチュラルに度を超してるんだよ。この事に関して僕は僕だけでなく僕以外の被害者の為にもAに対し断固奮起しなければならない。」


「…そういやハスキーが逃げた時も知り合いに『おまえの愛は重いねん。』って言われたな。禿げた時も構い過ぎのストレスだって言われたし、」


「ちょっと止めてよ!」


自分の髪を押さえてドン引くBにAはしてやったりと笑う。


「禿げたら喜べ。」


「何でだよ!」


「それはこの俺様の愛の証だ。」


「~~~~ッ!!」


Bは歯を食い縛って悔しげに頭を掻き乱した。



くっそう!この人素でこれだから憎み切れないんだ! by B

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