【家出少年と家出少女】
バイト帰り、Bは通りかかった公園で家出少女(推定5才)を見かけて… ※脳内解釈をという事でしたので、【AとBの拾い者】の藤丸のりかが書いたB視点のお話です。
「ママと喧嘩して、家を飛び出してきたの」
ヘルプで入った昼勤から帰宅中、通りかかった公園のベンチで独り哀愁を漂わせて座っていた女の子。
「おうちの人は?」という僕の問いにそう答えた。
一人にしておくわけにもいかないし、とりあえず連れて帰ってAに事情を説明し一時保護、…しようとしたらバイト先から着信。
『田中さ~ん、帰って早々悪いんだけどさ。変な奴が絡んで来て困ってんだよ。』
「え?」
『あ、今余裕そうだとか思ったろ。便所に行ってた俺はな。レジに残してった奴が現在進行形で絡まれてんの。俺、痛いのとか血とかマジ無理でさ。ゆとりだし。あんた荒事イケるだろ?』
「…はい。わかりました。すぐに向かいます。」
『あざーっす。』
電話を切ってAに女の子を託す。
凄く心配だったけど、他に頼れる人がいないし溺れる者は藁をも掴む。
女の子の為にも現在進行形で絡まれているバイト仲間の為にも、迅速な問題解決に向けて家を飛び出した。
立ち漕ぎからのドリフト停止。
短時間でも盗られる時は盗られるから急いで自転車を施錠して裏口の暗証番号を入力、入室。
荷物を置いて干しっぱなしの制服をくぐり抜け、店内への扉を開く。
反射的に直ぐ閉めようとして、しかしこれは拙いと間一髪思い留まって勢い良く開けてダイナミック入店。
「みつ、」
「どうもお久し振りです田中太郎です覚えてますか!?」
「「…。」」
僕と似たり寄ったりの冴えない高校生君がはらはらと見守る中、目の前の日本産人工茶髪チンピラ風と目で会話をする。
「うちの店員に何か至らない点でもございましたか?」
「…最初はおまえと間違えたんだよ。んで藤咲巳鶴って奴知らねえかって聞いてただけなのにこいつが勝手にビビりやがってよぉ。こっちも苛々してきてちょっと喧嘩腰になっちまったってわけだ。」
「そりゃビビるだろ。赤の他人なら街中で擦れ違ったら目が合わない様に逸らすレベル。」
「俺は猿か。」
笑顔で睨み合っていると僕の背中に隠れていた高校生君がそのまま黙っていれば良いのにぼそぼそと喋り始めた。
「す、すみません。この人が田中さんのお知り合いとは思わなくて…。」
「あ゛?なんでだよ。」
「すみません!」
このままこの人をここに居させるのは色々不味い。
高校生君のトラウマになりかねないし他のお客さんの目もある。
「お話は別の所で僕が伺います。店の外で待っててください。」
「そう言って逃げんなよ。逃げたらそっちの眼鏡君苛めるからな。」
「ヒィッ!?」
「大丈夫!逃げないから!」
怯える高校生君を必死になだめる。
うちでも外でもどうしてこう僕の周りは面倒臭い奴ばっかりなんだ。
あれ、うちってどっち?
外って、どっちのつもりだったんだろう?
自転車を押して表に回り、本当目を逸らしたくなる様な兄に無言で存在を主張する。
熊は鈴の音とかに驚いて逃げて行くっていう。
この人も自転車のベルにビビってどっか行ってくれないものか。
ああ、駄目だ。
この不敵な笑みを浮かべる奴の辞書に退くとか絶対書いてない。
欠陥品だ、返品して来い。
「双葉兄さんにこの辺うろつかれると困るからちょっと遠くに行く。乗って。」
「にけつとかすっげえ懐かしい。」
「僕は学校とかお構いなしに召喚されたあんたのアッシー時代なんて懐かしくもなんともないけどね。」
「あんた?」
「貴方様。」
多分一生覆る事の無い上下関係。
即行で謝って荷台に兄を乗せ、兄の気が変わらない内に大人しく発進した。
「何しに来たの?」
「おまえが昼間に働いてるって俺の世話係から連絡があってちょっとボコりに。」
「脅迫とか傷害未遂とかでこのまま警察行って良い?」
「脅迫はわからなくもねえが障害未遂は結果が発生しねえと故意の存在が目に見えて認められねえから無意味だな。」
「ほんと、双葉兄さんて勉強は出来るのに残念だよな。」
「兄さんには敵わねえよ。」
「…残念具合で?」
「おまえも言う様になったな。…両方でだ。」
さっき女の子を見つけたのと違う公園に差し掛かり、荷台から飛び降りた次兄を置いて帰りたいけど、そうするとこの乱暴な次兄はコンビニに引き返して高校生君を苛める可能性が極めて高い。
だから止まって振り返って、逆手に来い来いと手招くのに黙って従う。
双葉兄さんがベンチに腰掛け高校の時から慣れた手つきで煙草に火を点けるのを、ぐったり自転車に両腕を付いて見守った。
「仮にも医者の息子だろ?」
「俺はおまえみたいに仮じゃなくてマジで医者の息子だっつの。」
「じゃあ煙草止めたら。」
「医者の不養生ってよく言うだろ。」
「あ、やっと大学卒業出来たの?おめで、」
「んなわけねえだろ。俺はいつまでも藤咲家の穀潰しだ。」
「…。」
自覚があるならもう少し何とかしたら良いのに。
しかし優秀過ぎる長男と比べられ過ぎてすっかり拗ねてしまったこの兄は、自分より劣っていてそれ以前に藤咲家の一番の恥、不倫相手の子である三男をすっごく乱暴でかなり歪んではいたけどとても可愛がってくれた。
長男の稀一兄さんは出来過ぎた兄として、更にそれ以上に僕を気に入って可愛がってくれたけど、双葉兄さんは普通の兄弟みたいに喧嘩もしたし悪さもしたし、父さんとは違って母さんが死んでからの付き合いだけど一番家族らしい関係が築けたと思う。
今だって、父さんや稀一兄さんに見つからない様にこっそり家の者に手を回してくれている。
今日はあの高校生君を見間違えたって上手い事言って切り抜けるつもりだと思う。
「さっさと卒業しなよ。春華さんに怒られるでしょ?双葉兄さんなら楽勝だと思うけど。」
「母さんは結構前から俺をおまえ同様見えない事にしたっぽい。兄さんも俺の事はおまえに対する程心配しねえしな。」
「双葉兄さん、なんだかんだ言って要領良いし器用だしね。」
「まあやっと兄さんから解放されたんだ。兄さんだか父さんだかに似て真面目なおまえがやっと手にした自由を満喫したくなんのもわかるけどな。」
相変わらず眉間に皺を寄せて不味そうに煙草を吸う。
そんなに苦いならさっさと家を出てしまえば良いのに、なんて軽々しくは言えない。
拗ねてはいるけどこの人はこの人なりに心の何処かでまだ、父さんや春華さん、稀一兄さんを大事にしている。
「おまえが家で立場を悪くすればするほど、可哀想になればなるほど、正義と真面目の代名詞、藤咲稀一の頭がおかしくなる。家を飛び出たのは正解なんだから見つかる様な事すんじゃねえ、馬鹿。」
「ごめん。今日は仕方なかったんだ。」
「おまえが世話になってる男、…おまえが調べるなっつーから詳しくは知らねえけど。その人にも感謝しとけ。多分、おまえが見つからねえ様に手え打ってくれてるだろうから。」
「あの人、僕の事知ってるの?」
「さあ?知らねえっつってんだろ。まあ流石に家に上げて良いかどうかくらいは調べてるんじゃねえ?」
「う?うーん、いや、あの人の事だしそんなん面倒臭いとかどうでも良いとかハナから気にして無いかも。」
「…大丈夫か?そいつ。」
「うん。たまに心配。」
「「…。」」
用はそれだけだったみたいで、有言不実行ボコる事無くそれきり少し寒いけどのんびりと空を見上げるだけの時間が過ぎる。
Aに負けず劣らずヘビスモの双葉兄さんにしては珍しく煙草を一本吸っただけで立ち上がった。
「わざわざ遠くまで出向かせて悪かったね。」
「全くだ。何か奢れって言いたい所だがコンビニバイト君にたかる程ドラ息子は金に不自由して無いんでね。」
「あはは!」
手を振ったら鼻で笑われた。
「香苗さんから貰ったもん、もう名前くらいしか残ってねえんだから大事にしろよ。ばあちゃんも生きてたら絶対そう言う。」
「…お墓参りする時に言っといて。大事にしてるからあんまり使わないんだよって。」
「消耗品じゃねえだろ。ったく、少し見ねえ間に逞しく育ちやがって。」
後ろ手を振って去って行く双葉兄さんの背を見送っていて、ほんの少し感情が過去へ戻った。
改めて味わうあの時の僕の感情は、あの女の子から感じたものとはやっぱりまるで別だった事に安心する。
それと同時、後先考えず家を飛び出した見ず知らずの女の子を気安く託せられた様に、ふらりと素性不明の自分を受け入れてくれた存在の有難味が沁みる。
「でも、君にはまだAは早いから、そろそろお母さんの所に帰ろうね。」
そのおっさんは色んな意味で18禁だから。
そして君が大きくなってまた辛くなった時、そういえば昔そんな酔狂な人がいたなって事を思い出すと良い。
その人は身嗜みは一応服着てるから2点、気遣い-10点、清潔感0点、ムカつく100点満点のおっさんだけど、その人との短い間の思い出は、世の中捨てたもんじゃないって思えるくらいには元気をくれるはずだから。
一先ずコンビニに戻って高校生君に“もう大丈夫だから”って伝えて、ついでに二人分の子守り代に煙草とAの好きなプリンを買いに近くのスーパーへ向かう。
その帰りに曲がり角で美男美女カップルの彼氏さんの方にぶつかった。
結構怖そうな人だったけどそうでも無かったみたいで、逆に謝られてしまった。
少し呆気にとられたけど、そんな事をしている暇は無い。
女の子の為にも急いで帰った。
「ただいま!」
「遅い。」
ソファに深く座ったまま後ろに首を捻って僕を迎えるAに両手を合わせる。
「ごめん、思ったより長引いちゃって…。これでも急いで帰ってきたんだけど、」
「良いから煙草くれ。煙草切らしてもう二時間吸ってねえから死にそう。」
「え?何で買ってこなかったの?」
「お前が買ってたから。」
「え?」
「いや、何でもねえ。良いから早く寄越せ。」
「はいはい。」
Aが意味不明なのはいつもの事だ。
煙草と一緒にプリンも渡してそういえば女の子の姿が無い事に気付く。
「あれ?あの女の子は…?」
「さあ?気が変わって家に帰ったんじゃねえ?」
「帰ったんじゃねえ、って…。そんな無責任なこと言わないでよ。Aに任せたでしょ。」
「良いじゃねえか。あの子が自分の意思で帰る気になったんならよ。引き留める必要なんかねえだろ?」
「……。」
この人は僕が出て行ってもそんな感じなのだろうか。
そう思うとなんか解せない。
Aの隣に荒っぽく座ってテーブルの上に置いてあったプリンを食べ始めた。
「…おい。」
「何?」
「それ俺のだろ。」
「僕が買ってきたんだから僕にも食べる権利はあるよ。」
「礼じゃなかったのかよ。」
「だってA何もしてないんでしょ。」
「……。」
もくもくとプリンを食べる僕をAは横目に見て口元を緩める。
何考えてるのかわかんないけど気持ちが悪い事この上ない。
横目で睨んでやると人がプリンを食べるのを見るのが楽しいらしい変態がやっと言葉を発する。
「何もしてねえよ」
「じゃあ何してたの?」
「んー…イメチェン?」
「は?どこをイメチェ……」
Aの顔を改めて見てぽろっと手の中からプリンが抜け落ちた。
ひっくり返るのを寸でのところでAが受け止めてくれたから僕がいつも綺麗にしてる床が汚れずに済んだ。
「……髭、どこに落としてきたの。」
「さあ?」
「……プッ、くっくっく…あはははははは!」
「殴るぞ。」
「だって、Aの髭がない…ッ!ぶくく!違和感あり過ぎて!ははははぅあっつ!!」
笑っていたら腕に煙草の灰が落とされ強制終了。
残りのプリンを平らげるAを睨んだけど、甘い物を食べてご機嫌な甘党はちっとも応えていない。
「おい。」
「何だよ。」
「嬢ちゃんが、ありがとうってさ。」
「…そう。」
そうか。
あの女の子は僕にもお礼を言うのか。
僕にもあの女の子にお礼を言われる様な事が出来たのか。
僕は、あの公園から連れ出して居場所をくれた人に、何時になったらお礼が言えるのかな。
そういえば、Aはその事についてどう思っているんだろう。
「何、急に熱心に見つめやがって。俺の顔に何か付いてる?」
「いやだからむしろ髭が付いて無い。」
「…そうだった。」
ま、面倒臭いしどうでもいっか。 by B




