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曖昧な僕ら。  作者: 藤丸のりか
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【Aの由来はアホのA】友人執筆

普段と大して変わらない日常的な雨の日、走って帰って来たのは… ※こちらは藤丸のりかの友人の作品です。


「お疲れさまでしたー」

「あのっ、先輩!」

「ん?あれ、ナオミちゃんどうしたの?」


バイトの契約内容を大幅に越えた低賃金の残業を終え、やっと帰路に着こうとドアを開けかけた時。

不意に後ろから呼び止められて振り返ると、そこには僕と同期のナオミちゃんの姿があった。

彼女とは一時期同じ勤務時間だったので仲良くなったんだけど、僕が人手不足な深夜組に回されてしまい会う機会もほとんどなくなった。


気配り上手ないい子で、僕より2つ年下の学生さん。

僕の話相手は専ら彼女だったので、深夜に回ってからは暇で仕方なかった。


だけどある日、彼女まで深夜組になると店長から聞いた時は驚いた。

深夜組には僕が先に回っていたので、客足の少ない深夜に3人もいらない。

だから僕と交替で入ることになったんだけど、噂では深夜勤務を申し出たのは彼女かららしい。

何でわざわざ日勤から夜勤に変えたのかはわからないけど。


でもお陰で、少しの時間だったけど久しぶりに話せて今日は楽しかった。

そういえば彼女に、「先輩大人っぽくなりましたね」なんて言われた。うーん、そうかな?

自分の顔は毎日見てる所為でちょっとした変化なんて感じられない。

あ、でも。Aの所為で苦労してるのが顔に滲み出てるのかな。…だとしたら大問題だ。

この年で老け顔になるなんて絶対嫌だ。

あぁ、Aの存在を思い出したらなんか腹立ってきた。


「あの、えっと…明日、…空いてませんか?」

「え、明日?うん、空いてるよ?」

「じゃあ、い、一緒に映画観ませんか?」


今の彼女には、いつも僕と話しているときの明るさがなかった。

凄く不安そうで、その声も少し震えてて。


だから僕は彼女の堅く握りしめられた手を取り、両手で挟み込むように握って微笑んだ。


「うん、いいよ。丁度明日の予定を考えてたんだ。映画館で映画観るのも久しぶりだから楽しみだな」

「先輩…。ありがとうございます」

「え?ううん、こっちこそありがとう。暇を持て余さなくて済んだし」

「いえ…先輩と行けるなんて嬉しいです」


彼女がようやくいつも通りの笑顔を見せてくれたので、握っていた手を離し再び裏口のドアノブに手を掛ける。


「明日の時間とかはメールでいいよね?他にも行きたい所あったら言って。じゃあ帰るね、お疲れさま!」

「はい、お疲れさまでしたっ」


彼女の笑顔に見送られ、僕はバイト先であるコンビニを出た。


愛車のチャリンコで帰宅中、家に着いてからの予定を頭の中で組み立てる。

街灯の下を通り過ぎる際、腕時計をチラ見して時刻を確認する。


まだ2時過ぎかぁ。

お腹すいたな。でも朝飯にするにはまだ早すぎるし。

あぁでも今から寝たら朝飯食う時間に起きないんだし同じか。


深夜のひんやりした空気を切り裂いて爽快に走る僕の相棒、もといチャリンコ。

今までは勤務先のコンビニまで徒歩片道40分かけて通勤していたけど、ある日Aが「誕生日祝い」だとか言って僕にくれたのがこのチャリンコだった。


どういう風の吹き回しなのかと不気味に思って聞いてみたがAは答えてくれなかった。

「いらねーなら俺が乗る」とか言うもんだから思わずチャリンコに乗ったAを想像して思いっきり吹いた。

その後もれなく手の甲に煙草押し付けられたけど。まだ痕残ってるよAのアホ。


でもAはどうしてあんなに庶民的なものが似合わないんだろう。

気品溢れる要素なんて微塵も感じられないのに。


チャリンコのお陰で10分足らずの通勤時間に短縮されたため、あっという間に自宅のマンションに着いた。

まあ、自宅と言っても僕は居候の身だけれど。

自転車置き場に相棒を止め鍵を掛ける。

こんな時間に僕以外使う人など滅多にいないエレベーターに乗り5Fに上がる。

鍵を開けて扉を開くと、薄暗い室内が続く。


「ただいまー」


静まり返った部屋。返事もなければ物音もしない。

リビングに上がって電気を点け荷物を降ろす。


「まだ帰ってないのか」


気配からして室内には僕一人しかいない。

Aがわざわざ気配を消して隠れてるなんて面倒なことはしないので間違いない。

同居人であるAは昨日から不在。

Aは月に数回、忽然といなくなり、かと思えば前触れなくひょっこり帰ってくる。


前に何をしているのかと興味本位で尋ねてみたが、Aは「ガキにはわからねー仕事」としか教えてくれなかった。

…いつもいつも僕をガキ扱いして。あぁもう、腹立ってきた。

だいたい、なんで僕があんなヤツ気に掛けなきゃなんないんだ。

Aがいない方が僕の生活は平和じゃないか。


「…はぁ。フレンチトーストでも作ろ」


苛々するのは糖分が足りてない所為だ。いや違う、カルシウムだったか。

とにかく早々にAのことなんか忘れて、僕はだいぶ早めの朝飯を作り始めた。

パンを液に浸している間、明日の約束をしたナオミちゃんにメールを送る。


“バイト7時までだよね?

 18時に○○でいいかな?”


ピッと送信ボタンを押す。

ほどなくして返ってくるメールを開く。


“はい、OKです。

 じゃあおやすみなさい”


ナオミちゃんから返ってきたのは質素なメール文。

僕も"おやすみ"とだけ入力したメールを送信し携帯を閉じた。


深夜は酷く静かだ。虫や車の走る音がよく聞こえる。

ふと耳を澄ませると、虫でも車でもない他に聞き慣れた音が耳に届いて窓から外を見た。


「雨か・・・明日は晴れるかなぁ」


絶え間なく水面を揺らす水溜まりをじーっと眺めていると、みるみる雨足が強まり激しい雨音を響かせる。


通り雨だといいな。

空に浮かぶ真っ黒な雨雲を一目見てカーテンを閉め、浸しておいたパンを見にキッチンへ行く。


「そろそろいいか」


いい具合に浸ったパンを熱したフライパンに乗せて焼く。いい香り。

両面こんがり焼いたパンを半分に切って皿に盛り付け、その上にバターとシロップを掛ける。

甘い香りはすぐにキッチンいっぱいに広がって、苛立っていた気持ちを忘れさせてくれた。


「いただきま…、」


バタン!ドタン!

「――!」



両手を合わせてさぁ頂こうとナイフとフォークを手に取ったと同時だった。

玄関の方からこの時間帯には相応しくない騒音が聞こえて、慌ててリビングを出る。


「…あれ、A?」


「よぉ、ただいま」


「よぉ、って…。おかえり?」



玄関に行くと全身びしょ濡れになったAが息を切らして立っていた。

Aは僕を見るなり悪戯っぽく笑って、僕の頭を撫でた。


「どうしたの、そんな濡れて」

「帰りの途中で雨に降られてよ。傘なんかねーから走ってきた」

「そうなんだ。まぁ、とりあえず着替えてシャワー浴びなよ。風邪引くから」

「おう。…ん、何かいい匂いすんな」

「あぁ、今フレンチトースト食おうとしてたとこ」

「ほう。いいな、フレンチトースト。俺の分も頼む」

「えー。はいはい」


恐らくパンツまでびしょ濡れなんだと思う。

自分の服が物凄い水分を含んでいることなどお構いなしに、Aはそのまんまの格好で浴室へ歩いて行った。


「……」


残された僕は、Aが今しがた置いていった小さな水溜まりの跡を目で追って溜め息を吐く。

Aが掃除するわけもないので渋々拭き取り、びしょ濡れの服も洗濯機に回した。


着替えも用意して脱衣室に置いておく。

それからAが出てくる前に、もしかしたらと思って余分に付けておいたパンを焼き始めた。

我ながら僕ってお節介だなと思う。


丁度焼き上がった頃にAが出てきて、リビングに来るなり僕が食べようとしていたフレンチトーストに手を付けた。


「んー!うめぇなこれ」

「ちょ、それ僕の…」

「いいだろ、同じなんだしよ」

「でもそっち冷めてるじゃん」

「いいんだよ、俺は腹減って待てねーの」

「……せっかち」


僕が食べ始める頃には既に食い終わっていたAが食後の煙草をふかす。


「ねぇ。なんで走って帰ってきたの?」

「あ?だから雨降ってきたって言っただろ」

「じゃなくてさ。別に雨ん中家帰って来なくてもいいじゃん。雨宿りならAは女性の知り合いがたくさんいるでしょ」

「んー?いやな、2日もいねーとお前が淋しがってっかなーと思ってよ」

「…なんで僕が」

「最近深夜勤務になったんだろ?帰り道が怖くて帰れねーとか、夜中のトイレ行けねーとか、バイト中に変な輩に絡まれてねーかとか気になってな」


僕の顔に向かって煙を吹きかけながらAは言う。

こんな変態にそんな心配をされていたのかと、また腹立たしさが込み上げてきた。

せっかく糖分を取ったのに、Aといると摂取が追い付かないらしい。


「だから、僕はそんなガキじゃないって言ってるだろ!それに変な輩ってA以上に変なヤツはどこにもいないよ!」

「あ、そう」


しれっと返すAの態度が益々腹立たしい。


「そう怒るな。怒ってもいいことないぞ。ほらスマイルスマイル」

「……」


見本を見せているつもりなのだろうか。

Aの不気味な微笑みに怒る気が失せた。


「だいたい、僕はもう22だよ?いつまでガキ扱いするわけ?」


Aは短くなったタバコを灰皿に押しつけて、今度は普通に笑って答えた。


「ガキはいつまでもガキだ。子どもがどんなに大きくなっても、親はずっと子どもの親だろ。立場が変わることはねぇ。それと同じだ」

「………ねぇ、何。それって僕はAといる限りずっとガキだって事?」

「そうだな」

「はぁ?嫌だ!てかあんた何なの、え、じゃあAが僕の親の立場ってこと?」

「大正解ー!そーゆーことー」

「やだやだ!ぜーったい嫌だ!Aが親とか死んだほうがマシ!」

「はいはい、そーですか」


Aは僕の言葉にちっとも耳を貸さず、2、3回人の頭を撫でて「おやすみ」と寝室へ行ってしまった。


………何だよもう。

僕が淋しがってるから?

意味わかんない。僕はAなんかいなくたって平気なのに。

Aのせいでこんなにも苦労してるのに。


なのにそういうこと言わないでよ。

いつも突き放すくせにそんなときだけ優しくしないでよ。

じゃあ何、僕のために雨宿りもしないで真っすぐ帰ってきたの?…あー何かもうすんごい腹立つ。


後片付けを終えた僕はAの寝室を通る時、「おやすみ」の代わりに部屋の扉に向かって言った。


「Aのアホ!」


自分の寝室に戻る際、小さく笑い声が漏れ聞こえてきたのは気のせいにしておく。


(一々気にしてたら僕はきっと苛々死する)



Aの由来はAHOのA

(あぁもう!Aなんて、Aなんてー!)(あ?大好き?)

(・・・もういい)(何だよ照れんなって)

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