異失(いしつ)
『モノでも大切にすると命が生まれる』
魂を得て髪が伸びる人形、付喪神、これは全て人の思いが成した事。
愛着という名の想い。
しかしそれは、行き過ぎると歪なモノになる。
執着。
けど、そこに明確な差なんてあるんだろうか?
「あなたもそう思うわよね?」
私の言葉に、彼は答えをくれなかった。
「いつも、そうなんだから……」
彼はいつでもそう、私の話す言葉を黙って聞いてくれていた。
「和子、結婚するらしいよ」
彼はいつでも、ただ私の話す言葉を黙って聞いていた。
「優華の所、今度子供が生まれるんだって」
彼はいつでも、ただ私の話す言葉を黙って聞いていた。
けど、私の気持ちに気づいているんでしょ?
「いつ、結婚してくれるの?」
「私はいつでもいいんだよ」
「あなたの子供が、欲しいの……」
彼は私に優しく微笑んで、頷いてくれた。
ささやかだけど、大切で、何よりも大事なヒト。
それが、あなた。
けど。
サイレンの音、心電図が刻むリズムが止まる、友達の鳴き声、彼の両親の嗚咽、そして長いクラクションの音。
彼が、燃える。
「あなたは、あの子の事を忘れていい人を見つけてね」
彼のお母さんは、そう言った。
「はい」
私は嘘をついた。
だって彼は。
彼は、私の手の中に居るのだから。
「これからは一生離れないからね」
彼はいつものように、無言で私の話を聞いていた。
私の手の中にある『モノ』になってしまった彼は、私のこの思いを受け止めてくれるのだろうか。
『彼』の入った小瓶の栓を開ける。
――私の中で、彼があふれた。
※
「おめでとうございます」
数ヶ月後、私は受胎した。
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