#9
ここは……川沿い?
その日のスタート地点は、河川敷だった。
道の上以外からでも開始されるのか。
だが、ここは線路沿いにある川のはず。
という事は、このまま道に戻って下流に向かえば、すぐ踏切のはずだ。
土手を見渡すと、上に続く階段が目に入る。
あそこから道にいけばすぐだろう。
しかし、本当にスタート地点はランダムのようだ。
道以外からでも開始されるとしたら、建物の中から始まる場合もあるかもしれないな。
いきなり川の中とか……は、流石にないと信じたい。
川沿いの道を歩きながら、ふと空を見上げる。
真っ白だ。
だが、一面雲ってわけでもない。
本当に、真っ白だ。
何もない真っ白な空間が、頭上に広がっている。
太陽らしきものも見当たらないが、街全体は昼間のような明るさで照らされている。
光源がどこなのか分からないが、影の傾きがある以上、あの真っ白な空間のどこかにあるんだろう。
最初は真っ赤で、次は真っ黒で、その次は真っ白か。
ちょっと共通点がありそうな気はするが、重要な手がかりになるとも思えないのが歯痒い所だな。
そんな事を考えながら歩いていたら、もう踏切が見えてきた。
時間にして5分もかかっていない気がする。
そういや当たり前のように街を歩いてきていたけども、夢の中の自分の格好ってどんな服装してるんだ?
今更ながらそんな事を思い立ち、視線をおろしてみる。
全裸だった! とか、自分が真っ黒い影だった! とか、2、3予測はしてみたが、結果はありきたりなものだった。
寝る前の姿そのままだ。
寝巻用にしているTシャツと、ハーフパンツ、んで裸足。
感覚がないから、足の裏が痛いとか感じないけども、もしかしたら今まで何か踏みつけていたりしたかもなぁ。
寝る前の姿そのままなら、もしかしたら服装も選べるのか?
と、考えたところで、その発想を自分で鼻で笑った。
夢の中に出かけるために服装選んでどうすんだ。
靴でも履いたまま寝るか? 別の意味で寝覚めが悪くなりそうだ。
そうこう考えてるうちに、もう上り坂の青い標識が見えてきた。
今回は10分かかったかどうか、って程度の距離だった。
夢の中で経過した時間と、現実で眠っている時間は比例したりするんだろうか。
目覚めたら、それも確認してみるか。
随分と余裕を持って、俺は青い標識の地点をまたいだ。
窓の外から、雀の鳴き声が聞こえる。
平穏無事に目が覚めた。
携帯を手に取り、時間を確認する。
アラーム設定の数分前。
毎回朝7時に設定しているが、大体その2~3分前に目が覚めているようだ。
赤い部屋の時も同じような時間帯だったし、やはり関連性があると考えた方が自然なのかな。
そして、夢の中で過ごした時間と、睡眠時間は比例しない、と。
寝ぼけた頭でそんな事を考えつつ、アラームを切っておいた。
さて、月曜日かー……、かったりいなぁ……。
俺はあくびをしながら、学校への身支度を始めた。
奇妙な夢を見る以外、特に変わった事はない。
また平穏な日常。
平凡な日々。
そして、それが俺は大好きだ。
願わくば、フツーの夢を見て、こういう日々を過ごしたいもんだけども。
学校も、放課後も、特に変わった事はなく。
月曜のテレビはどこもサスペンスばっかりやっててつまんなくて。
んで、今日もまた、あの街のどこかに放り出されるんだろうな。
でもって、またあの上り坂の標識のところまで歩いて、翌朝がくる。
白い空の街の夢が、日常の中に織り込まれただけで、別に他に問題も実害もない。
目覚ましを仕掛け、ベッドに潜り込み、今日という一日が終わる。
眠りについた俺の、その日のスタート地点は、そんなゆるい考えを一瞬で打ち砕いた。