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レッドルーム・ナイトメア  作者: NIRALEVA
8/23

#8

 ここは……、昨日の始まりとは場所が違うが、またあの街か……?


 俺は、どうやら夢の中限定らしい謎の土地勘を確認すべく、少し歩き、路地に入る。

 ゲームセンターらしき場所の横に、ドーナツ屋らしき店。

 うん、やはり土地勘はある。

 という事は、この路地を突っ切れば。


 大通りまで歩くと、右手に赤い看板のデパートが見えた。

 しかし、ここから上り坂までは少し遠いな。


 そうだ、この街の交通機関は利用できるんだろうか?



 昨日の車の挙動を見る限り、俺の存在は認識されているはずだ。

 街としての機能にも問題がないなら、その交通機関が利用出来てもおかしくはない。


 試しに、タクシーらしき車に向かって、何度か手を上げてみる。

 だが、その全てが俺をスルーしていった。

 乗車拒否かよ、いやまぁそもそも乗れたところで運転手がいねえか。


 ならば、と、バス停と思われる場所に向かう。

 時刻表や行き先は読めないので分からないが、バスが向かう方向さえ分かれば、大体の目的地付近には向かえるかもしれない。


 しばらく待ってみると、バスが1台到着し、自動ドアを開けた。

 早速、乗り込んでみようとする、と。

 目の前で即座に自動ドアが閉じられ、そのまま走り去って行ってしまった。


 認識はされているが、避けられている……?


 姿が見えないので存在するのかすら分からないが、この街の住人達の目には、俺はどのように映っているんだろう。

 ともあれ、どうやら交通機関を利用する手段は使えなさそうだ。

 仕方ない、歩いて行くか。



 しばらく歩いていると、細い路地の方に倒れている自転車があるのが目に入った。

 近寄って確認してみると、鍵はかかっていない。

 放置自転車か……? 交通機関は無理でも、これは利用出来るかもしれない。


 乗ってみると、問題なく使えた。

 これなら少しは楽が出来そうだ。


 自転車は変速ギア付きで、結構速度も出せそうだ。

 折角だし、徐々に加速をつけて最大ギアまであげて、かっとばした。

 ここでは痛みを感じない。

 つまり、いくら無理な運動をしようが、息が上がろうが、苦しくなる事はないのだ。


 いくら自転車をとばしても苦しくない。

 気分はアスリートだ、結構悪くないぞこれ。


 と、調子に乗って飛ばしていると、歩道の縁石に前輪が乗り上げた。


 盛大にずっこける。



 いってー……、いや痛くはないけど流石にびびった。

 咄嗟に痛え、とか考えちゃうんだな、やっぱり。


 体を確認すると、結構酷くあちこち擦りむいて、血が滲んでいた。

 そこでハっと気がつく。


 痛みはないが、怪我をした。

 という事は、この街の中で大怪我をして、身動きとれなくなったら?

 もしかしたら、走りすぎて酸欠に陥ったとしても、苦痛が感じられないなら気付けないのでは?


 この街から逃げなきゃいけない、という焦燥感は、時間が経てば経つほどに強くなっていく。

 その正体を確かめるような事はしたくないし、確かめたとして、リスクの方が大きい気がする。


 転んだのは失敗だったが、苦痛を感じないという事は、利点でもあり欠点でもある事に気が付けたのは収穫だった。

 これからは慌てず、急ごう。


 自転車を起こすと、再び上り坂に向けて走り出した。



 踏切に差し掛かる。

 と、警報が鳴って遮断器が降りている。


 しばらく待っていると、電車が通過していって、踏切が開放された。

 多分、あの電車にも乗れないんだろうな。

 といっても、そもそも切符を買う事すら出来ないか。


 自転車の変速ギアを落とし、立ちこぎで坂を一気に駆け上る。

 青い標識、見えてきた。

 ゴール!!






 窓から光が差し込んでいる。

 今日も天気はよさそうだ。


 体を起こし、軽く伸びをする。

 一瞬、嫌な予感がし、怪我をした箇所を慌てて確認する。


 が、別に変化はなかった。

 夢の中で怪我したとして、現実でも怪我してるなんて事はなさそうだ。


 しかし、何だろうこの街の夢は。

 悪夢、とはあまり言えそうにない。

 それも赤い部屋と比べれば、という話になるかもしれないが。


 だが、理由の分からない焦燥感がある事が気にかかる。

 赤い部屋のときは、相談が遅れて結局話が出来なかったが、宗介のツテにあらかじめ頼っておくのもよさそうだ。


 そうだ、今日は宗介を誘って映画を観に行ってみるか。

 そのときに少し話してみよう。






「おいーっす、今日なんか予定ある? ヒマだったりしない?」


 朝食を終えると、俺は早速宗介に電話してみた。


「ん、別に予定はないから、ヒマっちゃーヒマだな。 どしたん?」

「いや、映画でも観に行かねえかなーってさ。 ほら、たまにテレビで予告やってるSFモノのやつあるじゃん。」

「あーアレね、俺も気になってたんだよな。 いいね、いってみっか。」

「おっし、んじゃ街の方には宗介ん家の方が近いし、準備出来たらそっち向かうわ。」

「おうよー。 俺も今から準備だし慌てないでええぞー。」


 携帯を閉じる。

 さて、ああは言ってたものの手早く準備済ませるか。



 手際よく身だしなみを整え、着替えを済ませて家を出る。

 うん、なかなかいい天気だ。


 こうして歩いていると、自分の住んでる街とはいえ、土地勘があるといっても、隅々まで知ってるワケではないんだよな。

 入った事のない路地なんか沢山あるし、むしろ知らない道の方が多いわけで。


 そう考えると、あの夢の中での土地勘は凄いもんがあるな。

 タクシーの運転手にでもなったら、カーナビいらずでどこへでも行けるんじゃなかろうか。

 つっても乗せる客が見えねえか。


 そんな事を考えながら歩いていると、もう宗介の家の前まで着いていた。

 相変わらず立派な家だよなーここ。

 インターホンを鳴らす。


 ピーンポーン


「はーい。」


 この声は、宗介のお母さんか。


「あ、斎藤ですけど、宗介いますか?」

「あーはいはい聞いてるわよ、ちょっと待ってねー。」


 しばらく待ってると、玄関から宗介が出てきて、例のバネ敬礼を放った。

 俺も合わせて軽く敬礼の仕草をする。


「おいーっす、結構早かったな。 ゆっくりでいいつったのに。」

「んなこと言っても、野郎の準備なんざそんなに手間取らんだろ?」

「それもそうか。 んで、映画って何時からなんだ?」


 知りません。

 やべえ、ノープラン過ぎたか。


「あ……、わり、調べてねえわ。」

「んなこったろうと思ったよ。 今からだと13時からの上映になら間に合うし、時間潰して昼飯食ってからにしようぜ。」

「流石宗介、助かるわ!」

「誘っておいて時間すら調べてないのもどうかと思うぞ?」


 意地悪そうに苦笑いする宗介。

 返す言葉も御座いません。



 道すがら、宗介に例の夢の話を切り出してみる。


「そういや、また夢の話になるんだけどさ。」

「ん、なんだ、続きでもあったん?」

「いや、続いてるのか、終わってて別の夢なのかはわかんないんだけどさ。」


 2日連続で見た、見知らぬ街の夢の事と、土地勘や焦燥感、怪我や交通機関の反応なんかを、歩きながら全て話した。


「んー……、前の赤い部屋の時の話でさ、どこかに連れて行かれる、っての、その街の事なんかね?」

「まだ2日目だから断言は出来ねえけど、これからも続くならそういう事になる、かなあ……?」

「もしそうだとするなら、その何故か焦りを感じるってのが気になるな。」

「正体不明すぎて今回も訳分かんねえけどな。 もしよかったらこないだの親父さんづての話、聞いておいてくんない?」

「そうだな、俺もちょっと気になるし、明日には親父も出張から帰ってくるだろうから、その時話してみるわ。」


 そうこう話してるうちに、街まで着いた。






 野郎二人の行動なんて、詳しく話しても仕方ないか。


 適当にぶらついて時間を潰し、ハンバーガー屋で飯を済ませた後、目的の映画を観て終わった。

 映画はまぁ、そこそこ面白かったけど、全米が震える程の内容だったかは実感がわかなかった。

 あとは現地解散でおしまい。



 最近は赤い部屋で神経すり減らしてたからなぁ。

 いい具合にリフレッシュ出来たと思う。

 また新たに見始めた夢については、やはり少々気になるが。


 今のところは寝覚めが悪いわけでもないし、実害は全くない。

 そこまで神経質になる問題でもないだろう。

 宗介からの情報待ち、といったところか。



 俺は明日に備えて携帯のアラーム設定を済ませ、ベッドに潜り込んだ。






 気がつくと、やはり例の街に立っていた。

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