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レッドルーム・ナイトメア  作者: NIRALEVA
6/23

#6

 鼓動が、加速していく。



 目の前は真っ黒だが、視界の端には真っ赤なものが入っている。



 目の前のモノから目をそらすように、周囲を確認してみる。



 部屋というよりは、もはや箱のようなサイズの、赤い部屋。



 そして……




 意を決して目の前のソレを見上げる。


 真っ黒い、人影。


 俺は眠ってしまったのか。


 そしてとうとう、コイツが目の前まで来てしまった。




 鼓動が、加速していく。



 だが、いつもならこの距離まで来たら、手を伸ばしてきて、視界を覆われて終わりなのに、今回は様子がおかしい。


 自分の両手を確かめるような仕草。


 周囲を確認するような仕草。


 いつもは単調な動作の繰り返しで近寄ってきて、そのまま視界を覆われて終わりのはずなのに。


 どこか、人間くさい仕草、今の状況を確認している……?



 しばらくそんな仕草を見せた後、ヤツの動きが止まった。

 俺の方を、じっと見ている。

 途端、話の顛末が、俺の脳裏に叩きつけられる。



 ドコカニ ツレテ イカレル



 どこにだ。

 相変わらず体は体育座りで動けない。

 眼球だけが、ぐるぐると動く。

 だがもはや、黒いソレしか目に入らない。


 と、ヤツが動いた。


 俺の足をそっと踏みつけ……踏み抜いた……?


 俺の左足をすり抜けるようにして、ヤツの右足が、俺に重なっていた。



 そのままヤツは、その場に座ろうとしはじめる。


 俺の座っている、その位置に。



 少しずつ、黒い影と、体が重なっていく。


 やめてくれ。

 何してるんだか分かんないけど。

 もう……やめてくれ……怖いんだよ……頼むよ……。


 両足を揃え、腰を下ろし始める。


 俺の頭の位置を、黒い影が通過して、目の前が完全に黒になる。


 腰をおろし終えた影の、後頭部らしきものが、目に映る。



 重なって、何しようってんだよ。

 嫌だよ……まだ死にたくねぇよ……誰か……


 その後頭部が、ゆっくりと迫ってきて、再び視界が完全な黒になる。


 助け






 体をビクッ、と跳ねさせるようにして、目が覚めた。

 パソコンの前に突っ伏した形で、俺は寝てしまっていたらしい。


 窓の外には、朝の気配。


 目の前には、電源が入りっぱなしのパソコン。


 いつも通りの、俺の、部屋。



 ゆっくりと、体を起こす。

 脂汗で張り付いた衣服が、ぺりぺりと皮膚から剥がれていく。


 両手を見てみる。

 特に変化はない、普通に俺の両手だ。


 立ち上がり、鏡を見てみる。

 酷く疲れた様子の、自分の姿が映り込む。


 近寄って、顔をよく確認する。

 多少顔色はすぐれないが、確かに俺だ。


 黒い、アイツじゃない。



「……は、ははっ……」



 そこまで確認して、ようやく訪れる、安堵感。


 そうだよ、そう簡単に死ぬわけないじゃないか。

 そもそも俺が勝手に思い込んでいただけの話じゃないか。

 結局何が何だか分かんないままだったけど、多分あの悪夢はもう、続かない。


 どこかに連れて行かれるどころか、俺と姿を重ね合わせて、それで終わりだった。

 部屋はこれ以上、狭くなる余地もないだろう。

 じゃあ、これ以上の進展もないはずだ。


「夢か……、そうだよな、単なる夢だもんな、そうだよな……ははは……!」


 現実味が徐々に増していき、妙な嬉しさがこみ上げてくる。


「あー! クソが! クソ夢が!! 散々脅かしやがって! あースッキリしたー! よかったー!!」


 俺は鏡の前で伸びをしながら、今まで俺を苦しめ続けていた不快感をひとしきり罵倒し、そのまま風呂場へ向かった。






 いつもの日常が、戻ってきた。

 1日分飛ばされた古文の授業は、余計わからなくなってたけど。

 相田には相変わらず、弁当のおかずを1品持って行かれたけど。

 今日から、きっと、怯える必要はない。


 そうだ、宗介にも伝えておこう。

 弁当を食い終わると、隣の教室へと向かった。



 宗介も、いつも通りにいた。

 声をかけ、手招きする。


「おう、昨日はどうなることかと思ってたが、その様子だと大丈夫だったみたいだな。」

「あー、心配かけたな、終わってみると拍子抜けだったわ。」


 事の顛末を、そのまま廊下で簡単に話す。


「重なって終わりねぇ、ほんと最後まで訳が分からん夢だな。」

「ホントだよ、どっか連れてくんじゃなかったんかーい! ってツッコミ入れたいわ。」

「だな、それで本当に終わりなら、はた迷惑な悪夢だったなぁ。」


 笑い合いながら、件の悪夢を茶化す。

 こんな時がくるなんて、見てる最中は思わなかったな。






 そう、もう怯える必要はないんだ。

 今日からまた日常。

 平穏で平凡な日常。


 携帯の目覚ましをセットし、明日に備えてベッドに潜り込む。

 今日から夢に怯える必要もない。

 ぐっすり眠れそうだ。






 目を開くと、俺は見知らぬ街にいた。

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