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レッドルーム・ナイトメア  作者: NIRALEVA
5/23

#5

 近っ!?


 そう叫びそうになったけど、残念ながら声にはならなかった。

 毎度のごとく、強制体育座りで、赤い部屋の隅。


 だが、黒い人影の位置が、あからさまに昨日よりも近づいている。

 距離にして、昨日の位置からすると半分程度の距離を、一気に近寄ってきていた。



 ちょっと待て、いくらなんでも反則だろ!

 今までじわじわとしか近寄ってきてなかったじゃねえか!!


 距離にすると、大体4~5m程しかないその距離を、黒い人影はいつものペースで近寄ってくる。

 ゆっくりと、手を伸ばし、視界を覆われる。


 心の準備すら、まだ出来てないのに






ピピピピピピ ピピピピピピ


 目が、覚めた。

 例によって、脂汗まみれの不快感。

 携帯の目覚ましが、けたたましくアラームを鳴らし続けている。


 手に取り、アラームをとめ、時間を確認する。

 1時間早く設定したはずだが、今の時間はその1時間後だ。

 つまり、1時間ずっと目覚ましは鳴り続けていたのに、俺は目覚めなかった事になる。


 もしかしたら、と思ったが、アラームで先に起きる手段は使えない、という事か……。



 深く、ため息をつく。



 黒い人影の位置は、先日のそれよりも明らかに大幅に近寄って来ていた。

 最初は変化に気付く事すら、注意しないと難しかったのに。

 と、いう事は、最初はゆっくり、日が経つほど大きく近寄ってくるのか?

 このペースでいけば、もしかしたら明日には初期位置が目の前に至ってしまうかもしれない。


 という事は、もしかしたら明日には、俺は。



 途端、喉の奥に酸っぱいものがこみ上げてくる。


 慌ててトイレに駆け込み、便器にそれをぶちまけた。

 手の震えが、止まらない。

 情けねえ、クソッ、怖え、イヤだ、もうあんな夢見たくない。

 どこかに連れて行かれるってなんだよ、どこにだよ、何でこんな怖えんだよ。

 もうちょっと位はなんとかなるかと思ってたのに。


 もう、明日にはその時がくるかもしれない。

 イヤだ、もう寝たくない。


 再び、酸っぱいものがこみ上げる。

 便器に胃液をぶちまける。


 その様子を母親に気づかれ、俺はその日、学校を休んだ。






「熱……は、ない、みたいね……。」


 母が俺の額に手を当て、心配そうに顔を覗き込む。


「どうしたの? 何か気分悪そうだったけど。 何かあったの?」

「……うん、いや、実はヘンな話なんだけど、最近ずっと同じ悪夢を見ててさ。」

「悪夢? どんな?」

「真っ赤な部屋で身動きとれなくて、黒い人影が寄ってきて、顔掴まれて目が覚める。」

「ふーん……。」


 しばし考える母。

 厳密に言えば同じ悪夢でもないし、部屋のサイズが小さくなってるのが問題なんだが、今はそこまで詳細に話す余裕もないし、話したところでどうにかなる問題でもない。


「透、最近プレッシャーとか、ストレスとかあったりしない?」


 まぁ、そういう質問になっちゃうよな。


「いや、全然心当たりない。」

「うーん、じゃあ深層心理とかいうヤツかしらねえ、母さん詳しくは分からないけど。」


 まぁ、そういう答えになっちゃうよな。


「とにかく、自分でも気付かないうちに疲れてるのよ。 今日はゆっくり体を休めておきなさい。」


 まぁ、そういう結論になっちゃうよな。



 母は部屋から出ていったが、当然ベッドに潜り込むような気は起きない。


 俺はもう一度、パソコンを起動させ、件の悪夢について必死で検索しまくった。


 だが、いくら赤い部屋だの黒い人影だので検索しても、似たようなオカルト話か、よくある脱出ゲームのサイトがひっかかるだけだ。

 相田の言っていた事を思い出し、俺は大型掲示板のオカルト板を閲覧しにいった。


 よくもこれだけの話があるな、と感心するほどの量のオカルト話はあるが、相田の言っていたようなスレッドは見当たらない。

 赤い部屋、というだけなら、血まみれの部屋がー、とか、赤い手形がびっしりとー、みたいな話が見つかるが、肝心な夢の話は全く見つからない。


 となると、スレッドの中に書き込まれたレスの1つだったんだろうか。

 この膨大な量のスレッドから、たった1つのそのレスを探し当てろと?

 何か手段はあるのかもしれないけども、ちょっと俺の知識ではそんな事は無理くさい。






 昼食もそこそこに、必死で噂話の出処を探しているうちに、日が暮れてきた。

 と、不意に携帯の着信音が鳴り響く。

 宗介からだ。


「お、もしもーし、今日学校休んでたみたいだったけど大丈夫か?」

「ん、んー……、あんまり大丈夫じゃないかも……はは……」


 力なくそう答えると、宗介は少し間を置いて。


「風邪……とかじゃなさそうだな。 もしかして昨日の話と関係あるのか?」


 ……ほんと、察しが良いよなコイツは。


「あぁ……、情けないんだけど、実はな……」


 俺は今日見た悪夢の内容を打ち明けた。

 同時に、次の悪夢が最後になるかもしれない事も。

 宗介は時折相槌を入れながら、最後まで聞いてくれた。


「思ったより展開が早かったな……、もうちょい早く話聞いてれば、親父づての話も聞けたかもなんだが、親父今出張してて忙しいみたいで話せないんだよ……。」

「いや、単に俺の夢見が悪いってだけの話だし、忙しいんなら仕方ないよ。」

「そうは言ってもさー、学校休むくらいに体調崩すような悪夢なんてそうそうないだろ?」


 心配そうな声が、俺の心の緊張感を、少しずつほぐしていってくれるのが分かる。

 本当に、本当に宗介は。


「いいヤツだな、お前。」


 涙声混じりで、思わず声が出た。


「いや、そりゃ心配するだろうが。 どんだけ長い付き合いだと思ってんだよ。」


 泣けてくるが、流石にそんなとこまで悟られちゃ気恥ずかしい。

 俺もしっかり気を持ち直さなきゃだな。


「ありがとな。 もし俺が明日死んだら、俺のパソコンのエロフォルダをお前が消しといてくれよ。」

「縁起でもねえ遺言残すんじゃねえよ! だが万が一があったら任せろ!」


 そこまでマジメかよ。






 いつもなら、もうベッドに入る頃合いの時間だ。

 だが今日は、眠りたくない。

 あの夢の続きを見ちゃ、いけない気がする。


 眠気を紛らわせるために、俺はパソコンでゲームをしたり、サイトを閲覧してまわったり、動画を見たり。

 ……件の悪夢の情報を探してみたり。


 そうして時間を過ごしていた。


 眠気が凄い。


 思わずウトウトと寝てしまいそうになるたびに、ハっと目を覚まし、頬に平手打ちを入れる。


 くっそ、寝たく、ない、のに、眠い……。


 眠気を紛らわそうと、パソコンの音楽ファイルを適当に開こうとする。



 眠い。



 どの曲を再生しようか。






 ふと気がつくと、目の前が真っ黒だった。

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