#22
「でも、13日間逃げ延びるのを目指した方がいいんじゃないのか?」
「相当に運がよくないと、それは不可能だ。 俺は高速バスの中から始まった時に左足をやられたし、宗介は電車の中から始まった時に即アウトだった。 相田もそうならないと言い切れるか?」
結局のところ、宗介と話し合って決めた、半分ずつ体を白くしていく手段に落ち着いた。
恐らく宗介と俺が、交互に赤い部屋に連れて行かれたのは、それぞれの会話が原因だ。
悪夢の最中に、赤い部屋の夢の噂について質問、の条件を満たすと、その時の悪夢が終わってからすぐにルールが適用されるのだろう。
知らず知らずのうちに、俺たちは禁句を口にしていた事になる。
君が悪い。
あの画面を埋めた文字が、脳裏をよぎる。
クソッ、もっと早くに相田に聞いておくべきだった。
そうすればもしかしたら、宗介は。
「これから5日間、赤い部屋の夢を見る事になるだろう。 俺は黒側で、相田は座ってる状態で。 4日間、俺は俺なりに何とか出来ないか試してみる。 例の禁句について、相田が俺に話すのはそれからだ。 それでいいな?」
「わ、わかったけど、それを話すとまた透が白い街に行く事になるんじゃないのか?」
「それでいいんだ。 こうなってしまった責任は、俺にもある。 それに相田が白い街で黒くなれたとして、禁句に触れていなければ、赤い部屋に続く確証もない。 そして、俺は宗介の仇を討ちたい。 だから、白い街から13日間、俺が逃げ切って、それで終わらせてやる。」
それが、俺が行き着いた仇討ちの方法だ。
「だから絶対、白い街で黒になる事を諦めるな。 なってしまえば、相田はもう解放されるはずだ。」
「う、うん……」
戸惑い気味の相田の返事を聞くと、俺は自宅へと帰った。
また、始まる。
始まってしまう。
終わったと思っていた、悪夢が。
何とか出来ないか試すとは言ったものの、赤い部屋に対しては、今のところ何も手段が思い浮かばない。
明日、宗介の親父さんにも相談してみよう。
もしかしたら、連日の検査や測定で、何か手がかりが掴めているかもしれない。
今から聞くには、もう遅い。
だって、もう睡魔が来ているから。
抗うことが、出来ない。
案の定、俺は赤い部屋の隅に立っていた。
反対側に座っているあの人影は、相田だろう。
やはり、始まってしまった。
俺は必死に体を動かそうと試みる。
だが、やはりビクともしない。
そうこうしているうちに、足が勝手に歩き始めた。
その歩みも、止めることが出来ない。
やはり、この状態に抗うことも、出来ないのか。
そう思っていると、急に自分の動きが止まった。
何だ? 何が起こった?
よく見ると、相田の姿が見えたり、消えたりしている。
いや、消えているわけじゃない。
目の前に、誰かいる……?
部屋よりも少し濃い、赤い人影が、俺の進行を押さえ込んでいた。
と、少し後ろに押し倒されるような形で、肩の部分を支えられたまま、俺はずるずると運ばれ始めた。
なんだコイツは!?
今までこんなヤツいなかっただろ!
俺をどこに連れて行くつもりだ!?
俺の足は、間抜けにも歩く動作を勝手に続けている。
赤い部屋の横の壁、中央辺りまで連れて来られると、赤い人影が壁をグっと押した。
ドアのように、壁が開く。
その向こう側には、真っ黒い空間が広がっていた。
赤い人影は、俺をその空間に押し込むようにして、赤い部屋から押し出した。
まるで無重力空間に放り出されたように、ゆっくりと赤い部屋の外側が見えてくる。
赤い箱状。
その中央に開くドア部分と、そこから覗く赤い人影。
そして赤い人影が……力強く、バネ敬礼を放った。
宗介!?
お前なんでこんなとこに!?
まさかあの時赤くなって、そのままこの部屋に居続けているのか!?
徐々に部屋が遠くなっていく。
間抜けな歩行動作を繰り返しながら、視界に入ってくる光景に、目を疑う。
上下左右、均等な間隔で、黒い空間に整然と並んでいる、赤い箱状の物体。
何十、いや何百と並んでいる。
これ全部、赤い部屋なのか……?
赤い人影の姿が、だんだん見えない距離になっていく。
敬礼したままの姿が。
俺の体は、黒い空間に沈んでいく。
宗介! 待ってくれ、宗介!!
「宗介ぇ!!」
自分の声で、目が覚める。
窓から差し込む光。
いつも通りの、俺の部屋。
俺は慌てて相田の携帯に電話を入れる。
コール数回で、すぐに相田が出た。
「相田、今起きたのか? さっきの夢って……」
「う、うん……、俺からも見えてたけど、最後のあの仕草って……」
赤い人影が放った、力強いバネ敬礼を思い出す。
「あぁ、宗介だよ、間違いない……あいつ赤くなって、現実では死んじゃったけど、まだずっとあそこにいたんだ……」
「それで、透が外に押し出されてたけど、どうなっちゃうんだ……?」
「今はまだ、分からない。 けど……」
宗介がいて、宗介がそうして、宗介が、あの動作をした。
「きっと、俺たちはもう、大丈夫なんだと思う。 ……あの禁句を口にしない限りは。」
俺の予想通り、それから赤い部屋の夢を見ることは、二人ともなかった。
きっと宗介は、あの部屋で一人、あの部屋に来た人を救う方法を、ずっと探していたんだろう。
その結果が、あのドアなんだろう。
理屈は分からないけど、黒い人影を部屋の外に放り出してしまえば、悪夢の続きは続けられない。
そういう事なんだろう。
宗介は一度のみならず、二度も俺を守ってくれた。
その恩を、忘れないようにしよう。
そう、心に誓う。




