#1
試験的に書いてみている小説です。
連載は初めてなので、最後まで書けるかどうか、少々不安です。
「なぁ透、赤い部屋の夢の噂、知ってるか?」
昼休みに弁当を頬張っていると、隣の席で同様にサンドイッチを食っていた友人が、突然そんな話題をふってきた。
「なんだ唐突に。 聞いたことねえよ。」
「マジで? 今ネットで割と話題になってんのに。」
ここは別に語る程でもない、平凡な高校の教室のひとつ。
絶賛昼休み中。
俺はそこの平凡な生徒の一人、斎藤 透。
貴重な昼食タイムに割って入ろうとしてきているコイツは、隣の席の友人、相田 忠彦。
アイツは隣のクラスのあの子に告白してフラれたらしい、とか、あの先生はヅラらしい、とか、出所不明の噂話をどこからか仕入れてきては、ちょくちょく話題に出してくる、噂話が大好物なヤツだ。
「ネットでも見たことねえよ。 だからいきなり何の話よ?」
またいつものノリか、と思いながら、ペットボトルのお茶を一口飲む。
「おっ、気になる? 聞きたい? しゃーねーなぁ、ミートボール1個で手を打とうじゃないか。」
「別に聞きたくねえから自分で食うわ。」
「ちょっ、まっ、殺生な! せめてどっちかに興味持てよ!」
「噂はともかく、お前がミートボール食いたい事に興味沸くかアホ。」
やっぱりいつものノリだったので、俺は躊躇なくミートボールに箸先をぶっ刺す。
「ウェイト! ウェイト! 落ち着けって! これには深い訳がだな!」
視線が箸先のミートボールに固定された相田が、それを食さんとする俺の手を必死で阻止する。
「ほうミートボールに深い訳が、話してみろ。」
「いやー、俺サンドイッチだけじゃ足りそうにないなと思って。」
俺の腕をがっしり掴んでいた相田の手を振り払い、ミートボールを頬張る。
「ぬおあああー!! 薄情な! だがまだ希望は2つ残っている……!」
相田の視線は、早くも俺の弁当箱に2個残されたミートボールに移されていた。
「人の弁当に勝手に希望を抱くなよ……。」
「頼む! 1個でいいから! 大事に味わって食うから! 食レポするから!」
必死に拝み倒してくる相田。その間も視線はミートボールに固定されていたが。
軽くため息をはき、再びお茶を一口。
「食いたきゃ素直に食いたいっつえよ。 ヘンな噂話で俺を釣ろうとすんな。」
割り箸の袋に入っていた爪楊枝を取り出し、ミートボールを突き刺して、ほらよ、と突き出す。
「うおおおお! 透さんマジ神! あざーっす!!」
両手で爪楊枝を大事そうに持ち、オーバーリアクション気味に頭を下げる相田。
こんなノリで俺の弁当のおかずが1つ、犠牲となるのもいつもの流れだ。
「この挽肉と絡む濃厚なソースの絶妙な」
「食レポいらねえから。 んで何の話よ?」
ミートボールを頬張りながら語り始めた相田の言葉を、即座に中断させる。
「折角この感動をお前と共有しようと」
「そもそも俺の弁当だから味知ってるし、冷凍食品で大層な感想述べられても反応に困るわ。」
連続で発言を中断させられて、そのまま黙ってミートボールを飲み込む相田。
「いやまぁ食いたかったのも事実なんだが、面白い話持ってきたのも事実なのよ。 ネットで見たんだけどな。」
「赤い……なんつったっけ?」
「赤い部屋の夢の噂、ね。 なんか真っ赤な部屋の隅で膝抱えたまま動けなくて、反対側の隅に黒い人影がいるらしい。その人影が徐々にこっちに近寄って来る。 コッチは目だけ動かせるけど体はビクとも動かない。 んで目の前まで辿り着くと、ゆっくり手を伸ばしてきて……」
話半分に聞きながら、ペットボトルのお茶を口に含み。
「そこで目が覚めるらしい。」
盛大に吹き出した。
「うっわきたねえ!大丈夫か?」
笑いながら相田が俺と距離を取る。
この野郎、不意打ちしやがって……。
「オチがねえじゃねえか! 夢見て夢でしたとか当たり前すぎるわ!!」
「違うって! ちゃんと続きがあるんだって!」
「くっそ鼻に入った……、続きまでしょーもなかったら承知せんぞお前。」
「その夢を見たらな、毎日同じ夢を見続けるようになるらしいんだが、徐々に部屋の広さが狭くなっていくんだってさ。」
お茶まみれになった口元を拭いながら、話半分に耳を傾ける。
「んで、黒い人影との距離も徐々に短くなっていって、最終的には超狭い部屋になって、人影も目の前までくんの。そこまできたらソイツにどっか連れて行かれるんだとさ。」
「お前……、そういうオカルトめいた話のオチをサラっと話しちゃあかんだろ……。 もっと怖がらせるように引っ張って話せよ……。」
どうせくだらねえ内容だと思ってたら、本当にくだらなかった上に、話下手すぎてどこで盛り上がるかすらわからなかった。
こんな話題のために、俺のミートボールとお茶は犠牲になったのか。
「いやー、怪談じゃなくて単なる噂話だし、こんなもんじゃね?」
「お、おう、弁当食っていいか?」
「んだよーそっけないなー。」
「うっせー、お茶とミートボール返せ。」
俺は残り少なくなった弁当を、再び頬張りはじめる。
「おわ! くっそまじかよ!?」
と、隣から相葉の悲鳴が聞こえる。
「さっきのお茶で、俺のカツサンドが被害受けてるんすけどぉ……。」
「因果応報ってヤツだな。」
そのまま食うべきか葛藤している相田は見なかった事にしよう。
その日の夜、俺はネットで「赤い部屋の夢の噂」について検索してみた。
が、検索の仕方が悪かったのか、件の噂については全く情報が出てこなかった。
別に大して興味深かった訳でもなかったので、そのままベッドに潜り込み、眠りについた。
翌日目が覚めれば、またいつもの日常が訪れる、はずだった。