どうやら、プロローグは終わらないらしい
よし乃とは、そのあと゛おすすめ゛料理を食べては、ありふれた会話をし、会計を済ましては、明日も仕事だということで、その場でわかれ家に戻った。
家に着いたのは22時過ぎ。今日は色々とあったお陰で、精神も体力も使い果たした。
「あーほわー、、、」
意味もない声をだし、服を着替えては布団に潜り、いつの間にか眠りについた。
目覚まし時計が鳴り響く音で目が覚めた。朝日が顔を照らしてくる。目覚まし時計を左手で消し、上体を起こしては腕を上げて体を伸ばし、意識的にため息を吐いた。「今日も1日頑張るかいっ」と口に出して、自らを奮い立たす。
厚ぼったい浮腫んだ顔を洗い、黒ずんだ頬を触っては昨日のことを思い返す。
「柏田のやつ、なんなんだいったい、今日会ったら問い詰めてやる」
タオルで顔を拭きながら、どうしてやろうかと、考える。
いつも通りの時間に家を出て、いつものように仕事場へ向かう。通いなれた駅で電車に乗っては最寄り駅で降りる。いつもと同じ通勤だが、今日はいつもと違う。柏田に全てを聞き出してやる。と、熱い気持ちを持っている。
「おはようございます」
僕の横を通り過ぎながら、軽く会釈して挨拶してくる。
「ん?おはよう、おっ今日は早いんだねえ」
挨拶を返す相手は、よし乃だ。紅いチェックのストールを肩から掛けては、淡いデニムの膝長けスカートの装いで、笑いかけてくる。
「えー、そんなことないですよ」
手に持ってるバックを放り投げるように大きく腕を振り、クルッと回転して僕の顔を見ては、照れるような仕草をしては、また前を向き歩きだす。朝のダルさも、どこへやら。「若さって」と、よし乃を見ては痛感する。
「あっ昨日は、ご馳走さまでした。また、その、良かったらまた行きませんか?今度は私が払いますから」
振り向きながら顔を近くに、勢いよく目を輝かせて話してくる。振り向く勢いで、紅いストールが微かになびいている。
「ん?そうだね、また行こうか」
「本当ですか?やった、約束ですよ」
満面な笑顔をしながら、両手を大きく振りスキップするような足取りで前を向き、軽快に歩くよし乃を見ては、少し頬が緩んでくる。
「なんだか、可愛いな」そんな思いが、込み上げてくる。気のせいだと思いながら、柏田に対する気持ちは悲しくも失せていた。
「珍しい組み合わせだね」
声から先に除き込むように隣に並び、話かけてくるのは、少し疲れた顔のあずみだ。
「あっあずみ、えっあっ、そっ、そう、さっきたまたま会ったんだよ」
いきなりの挨拶に、しどろもどろに慌てふためいた。
「昨日何か合った?」
「えつ??なっ何かって?」
まだ、安定していない心を見透かされてるような気がした。昨日については色々と思い当たることが多くて、何を意図してることなのかと変に考えた。
「なんかね、昨日休んでたんだけど、会社から、社内連絡が入ってて、なんなんだろうって」
隣で歩きながら、考え込むように右手を頬に添えてはこちらを見てくる。
「それで、何か知ってるかなって」
僕の顔を見ては、疑うような顔をして、知らないのなら仕方がないと小さく息を吐き「では、お先に」と、僕を見ては足早に歩いていった。
「社内連絡か、あっ、まだ見てないメール沢山あったなぁ」
思い出すように携帯を取りだし、メールアプリに指を触れる。何気に全てを後回しにしてしまう困ったクセを治そうとは思っているのだが、なかなか難しい。。。
「さっきの、あずみさんですよね?何かあったんですか?」
メール検索してる最中に、よし乃が話かけてくる。僕は、そうだよって軽く受け流すように返事をしてはメールの検索を続けた。
「あの、、失礼とは思いますが、あずみさんとは、どんな関係なんですか?」
僕の携帯の画面を隠すように手で押さえ、前屈みな姿勢で真面目な顔をして聞いてくる。
「えっ?只の同僚、サブリーダーとその他大勢、そう、只の同僚、部署仲間だよ」
これでは見れないなと、よし乃の手から携帯をずらし、画面を閉じてポケットにしまった。よし乃の顔を見ながら頭をポンと叩き軽く笑みをこぼしながら歩きだした。
「本当に、只の同僚なんですか?本当にですか“それだけ”ですか?」
「うん、本当だよ、只の同僚、只の、、、ね」
「本当なんですね? 信じますからね」
僕は、よし乃に言った言葉を何回も口にしては、苦虫を噛む思いをした。よし乃が、発した最後の言葉は、耳に入ってこなかった。また、メールを見損なってしまった。よし乃は、独り言を呟いてはゆっくりと後ろを着いてくる。
仕事場につくと、いつもと違う光景が目に飛び込んできた。慌ただしく人が騒いでいる。「誰に」「マジで」と至るところから声がでてくる。部署がある部屋まで、行くことがままならない程、通路に溢れかえっている。
「なんだ?」
「なんでしょうね?」
僕とよし乃は、互いに顔を合わせては「なんだろう」と首を傾げた。
「何かあったんですか?どうしたんですか?」
騒いでいる人達に向かって、今の現状を、状況を聞こうと、目の前の人達に声をかけた。その中の一人が忙しなく、慌ただしく話してくれた。
「あー、柏田って奴知ってるか?そいつ宛にファックスが届いてるとかで、かなりの量が届いているとかないとか、俺もよくわからねえけど、、、、」
「はい?!?!」
驚愕というか、唖然とした。僕は声を失いそうになり、頭が真っ白になっていく中で声を絞り出した。
「えっ?どうゆうことですか?」
理解しがたい状況に、何回も聞いては繰り返した。
「何がどうなってるんですか?」
「柏田にってなんですか?」
いくら聞いても明確な答えはなく、ファックスが届いた。ファックスで送られてきた。それ以外何もわからない。
「はい。はい。仕事場に戻って、仕事やる、はい、戻った戻ったー」
手でパンパンと叩きながら、騒ぐ人達を誘導するかのように声を荒げては、騒ぐ人の体をポンポンと押して仕事場に誘う人がいる。
「あっ、かずっさん、柁原さーん」
誘導するかずっさんの姿を見つけては、何か解るんじゃないかと、詰め寄るごとく近くに寄った。
「かずっさん、柏田にファックスってなんですか?どうゆうことですか?」
「あーあー、何でもないなんでもない、後でわかるから、はやく仕事場はいれー」
かずっさんは、そう言うと通路の端から端へ立ち往生する人達の体を叩きながら誘導し続けた。
「後で解るって、なんだ、、」
何がなんだかわからないまま、言われるがまま、仕事場へ向かった。
「なんですかね?柏田さんって確か、隣の人ですよね?」
僕の後から着いてきたよし乃が、首を傾げて聞いてきた。
「うーん、本当になんなんだろ、気になるよね」
よし乃にそう言っては、自分の席についた。よし乃も、自分の席については、隣の人と何か話をしている。
僕の前にいるはずのあずみの席は、誰も座ってはいない。あずみが居たのなら、何か聞き出せるかと思ったのだが、まだ仕事場には来ていない。かずっさんは、まだ入ってこない。
「うーん、何か大変だな、、、よりによって柏田か、、、」
心配という気持ちもあるが、まず、状況を整理したいという気持ちで一杯だ。ここにいる全員が同じ気持ちだろう。
始業時間になり、いつものように仕事に入る。いつもと同じなのだか、皆の心は穏やかではない。こういった時は必ずと言っていいほどミスが出る。ミスが出ないように慎重にって思っていると、やはりミスがでる。
「あーもー、、、何でだよー、、、」
折角作成していた書類を消してしまった。また一からやり直しだ。肩を落とし深いため息が漏れる。
「何ため息ついてるんですかー?しっかりしてくださいよー」
会議が終わったのか、あずみは自分の席の椅子に手をかけながら、ため息をつく僕を見ては虐げるような目と口調で話かけては、笑みを作って微笑んだ。
「あ、、あずみかぁ」
前の席に鞄を置いて席につくあずみの顔は、笑顔を作ってはいるが目元が少し腫れている。
「あっあずみ、社内連絡ってなんだったの?」
柏田のことや、目が腫れてること、その他もろもろと聞きたいことは沢山あったが、ストレートに聞くのなんだしと言葉を選んで話をふった。
「えっ?うん、まぁ、、、ね」
目を反らし、うつ向いては唇を軽く噛んでいる。
「そっそんなことより、仕事、仕事しましょ」
話を逸らすかのごとく、机を叩いては顔を上げパソコンを立ち上げた。
「う、うん、そうだね、そうそう、仕事しよ、仕事」
聞き出すのは今は無理だと、あずみの態度から伝わってくる。僕らには、ほとぼり覚めてからってことなんだろうが、直ぐにでも知りたい心境だ。
「あー、あずみくん、ちょっといいかな?」
さっきまで、通路の人だかりを注意していたかずっさんが、部屋に入るなりあずみを手招きして呼んでいる。
あずみはキーボードを打つ手を止め、顔を上に息を吐き、「はい」と声を出してはかずっさんの方へ歩いていった。あずみは、かずっさんと一言二言話をしては二人で部屋を出ていった。
歩く二人の姿を見ては「やっぱり、すごいことになってるんだな」と、パソコンの打つ手が止まる。
二人が出ていった後、残った人達はざわざわと話しだしはじめた。
「どうなんだこれ?」
「これって警察沙汰になるのか?」
「いや、その前に仕事なんねえよ」
「これは、何かの陰謀であるぞ、、」
「あー今日休みたかったー」
人それぞれ言いたい放題だ。誰も自分のことではないから、それほど落ち込むようなことはない。心配してる人なんて、数えるぐらいだろう。そんな僕も、勿論心配しているのだが、少なからず他人事として捉えている部分が無いと言えば嘘になる。
椅子の背にもたれ掛かり、グラグラと体を前後に揺らしながらぼーっと天井を眺めていると、上から除くようによし乃が話かけてきた。
「どうなってしまうんですかね?」
「どうなるんだろうね?まぁ、今日か明日かわからないけど、何らかのアクションはあるだろうね」
「只のイタズラとか、遊び心でやってしまったとかなら、いいですけどね」
「遊び心って、、いいおっさんがそれをやったら、遊びですまないよー」
「それも、そうですよね」
よし乃は、自分で言った言葉に少し笑っては「ふざけすぎました」と頭をさげた。
「どっちにしろ、何らかのアクションが来ないかぎり、僕等は知ることが出来ないのは確かだけどね、、、」
腕を首の後ろで組では、「本当のことは、わからないんだろうな」と心の中で呟いた。
よし乃は、そんな僕を見ては、部屋を覆うもどかしい空気を変えようと胸の前で手をあわせ話をしてきた。
「あ、あの、今日も仕事の後、その、御飯に行きませんか?」
「えっ?!この状況で御飯のお誘い?」
「えっあっそのっ、すいません、ごめんなさい」
僕の言葉に、よし乃は泣きそうな顔をしては頭を何回も下げて逃げるように自分の席に戻っていった。
よし乃が戻った後、「多分、この状況だからこそ、気分を変えようと気を使ってくれたのか?」と思い、よし乃の席の方へと体を動かした。
書類に目を通し、ペンでチェックしているよし乃の肩に手を乗せては、「ありがと、メガネ様の前で待ってるよ」と声をかけては、自分の席に戻った。よし乃は、振り返り僕を見ては、小さく会釈して、両手で書類を持ちながら赤くなった顔を隠している。
時間は無情にも平等に流れるもので、僕らをよそに終業時間になりかかる。あずみとかずっさんは、朝出ていったきり戻って来なかった。僕は、タイムカードをきり、部屋から出ようとしたら、かずっさんとあずみが前からやって来るのが見えた。僕は二人に会釈をして通り過ぎるのを待っている。かずっさんとあずみは、いつにもなく真剣な顔をしている。部屋に入る二人を前に「お疲れさまでした」と挨拶をし、歩き出そうとしたら、あずみが通りすがりに左手で僕のジャケットのポケットに何かを入れては、右手でバイバイするように挨拶して、かずっさんの後を歩いて戻っていった。僕は、仕事場から出てから“何か”を取り出そうと、知らぬ顔して歩きだした。
仕事場を出てから、メガネ様の所まで歩いて10分弱。何かを考えたり、気分を変えるには丁度良い。僕は、歩きながら少し推理というか予測というものを踏まえて、最近までの柏田の行動と言動を思い返した。