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どうやら、プロローグは終わらないらしい

朝の忙しい時間帯も過ぎ、昼休憩も半ば、ビルの屋上で一人柵に手を掛け、ブラックコーヒーを飲む。閉鎖的な世論を敵に挑むヒーローのように、この混沌と建ち並ぶビル群の隙間を、針で縫うように、空を飛べたなら、、なんて、妄想をしては、一人にやけている。年甲斐もなく中学生のような、心持ちだ。


「おう、そこにいたのか、、、」

一人佇んでいると、後ろから聞きなれた声が聞こえた。柵から、手を離さずに上半身を反転させて振り返った。


「、、あー、なんだ、柏田か」

気にはなってはいたが、余り会いたくはなかった。今朝、意味もわからず、殴られたからだ。気分が一気に落っこちた。


「朝は、、悪かった、その、なんだ、まぁ、悪かった」

ばつの悪そうに頭をかきながら、パンツスーツのポケットに手を突っ込みながら、申し訳なさそうに、それでいて、照れくさそうに謝ってきた。

「別に、いいけど、、、」

体を戻し、外景色を眺めながら、柏田に返事を返した。柏田は、コツコツと靴を鳴らしながら隣に来ては、同じ格好をして、外を眺めては一つため息をはき、肩を落とした。

「で、なんだったんだ?」

会話が途切れるのがなんとなく気まずくそれとなしに顔を見ずに切り出した。

柏田は、少し躊躇うように口を尖らせてはへの字口に、そしてまた尖らせてはと、繰返しながら、顔を下にうつぶせ、少しづつ話はじめた。


「、、あぁ、その、なんだ、お前も知ってると思うけどよ、会いに行ったんだよ、この前さ」

言葉を選びながらゆっくりと話す柏田の方に体を向け、片ひじを柵にかけて耳をかたむけた。多分、ママ関係かなんかだと容易に想像はつく。

柏田は、体を反転させ、柵にもたれ掛かるような姿勢になった。

「でよ、互いに初対面だから、いきなり突っ掛かる訳にもいかねぇし、始めは相手に合わせてたんだよ、、」


「、、おう」

初対面と言う言葉に、予想とは違う話なのかと、疑問符をいだきながら、吐息混じりの声をだし相槌をうった。


「んで、段々とらちがあかなくなってきたから、二人で、話そうかと言ったら、いきなり、こうだよ」

そう話ながら、柏田は僕の方に体を向けて右手で襟首を掴んでは、すぐに離して、また外に体を向けた。


「まぁ、解ってはいたんだけどな、そうなることぐらいはさ、だってそうだろ?」

顔を斜めにし、同意を求めるように聞いてきた。僕は、柏田の気迫に押され、首を縦に2回頷いた。


「だけどよ、オレも納得いかねぇし、あいつのことだから、誰かがやんねぇと泣き崩しで終わりだろ?そう思ってやったんだけどよ、、ただよ、オレも大人げなかったとは思うけど、、な」

空を見上げては、深いため息をつき、自分を落ち着かせるように少し頷き、「うん」と声をだしては、「ま、そんなんだからよ、、朝は、悪かったな」と言っては、柵から体を離し右手をあげながら、階段の方へ戻っていった。


「なんの話だ?」と、聞き返そうとしたが、なんとなく声がでなく、歩いてく柏田を見ることしかできなかった。

階段入口の前で、柏田は立ち止まり、振り返りながら、右手で僕を指して声を張り上げた。


「その後はお前の知ってる通り、こうなっちまったけど、、、オレの役目はここまでだ、後はお前次第だ、」

そう言ってはまた、右手をあげながら階段を降りていった。


「だから、なんの話なんだ?」

柵から体を離し、前のめりになりながら聞き返したが、柏田の耳には、届かなかった。

「なんなんだいったい、、」独り言のように呟いては、また、外に体を向けて柵に寄りかかった。


「ブッブーブーブー、、」

外を眺めていると、携帯のバイブが鳴り響く。胸ポケットから携帯を取りだし画面をのぞくと、メールの連絡だった。


「19時に、メガネ様の前で待ってます、よしよし。」

よし乃からのメールだ。


メガネ様は、仕事場のある街の名物の地荒神様だ。元々、お地蔵様だったのが、誰かがやったのかわからないが、メガネをつけてるような顔姿に変化して、それ以来地元民達から、メガネ様と慕いを込めて呼ばれている。


「了解です」

よし乃からのメールにそのまま返送した。他のメールボックスに未読のメールがあるのに気づき、ボックスを開いた。


「テリンテリンテンテーン」

メールを見ようと操作してる最中に、電話がかかってきた。

「はい、、あっすいません、すぐ戻ります、はい、」

上司からの連絡だ。朝渡された書類の不備が合ったらしく、忙ぎで訂正してほしいとの事だ。

携帯を切り、胸ポケットにしまっては、足早に部署へ戻った。未読のメールは、そのままだ。


「これをこうして、ここにこれを、、んでもってと、、」

カタカタとパソコンに打っては消してを繰返し、もらった書類を訂正していく。

「かずっさん、ここに置いときますねぇ」

「はい、お疲れんこんサラダ」

オヤジギャグ好きの上司こと、かずっさん。柁原リーダー。勤続20年のフワフワした人だ。噂では、会社内の全てを知り尽くしてる情報通らしい。

書類を机に置いて、自分の席に戻り仕事に取りかかった。


就業時間も終わりに差し掛かり、パソコンの前でトントンと机を指で叩きながら、定刻時間まで時間をつぶす。今日はさほど忙しくはなかった。むしろ、仕事以外のことの方が頭を悩ませる。

「柏田は、何を言ってるんだ?何かを知ってる体で、言ってきたからなぁ、まぁ、そう言っても、身内な話なんだろうな、っと、その前に、よし乃と、会わないとな」

柏田の様子に対しては、よくわからないか、破天荒な奴だってのは知っている。それだけ知っていれば、疑問を浮かぶことはあっても、さほど流せる範囲だ。それよりも、よし乃の方が、心を踊らせる。変な期待をしないように心がけてはいるが、やはり期待してしまう。


終業時間になり、我先にとタイムカードを押して、メガネ様の所へ走っていった。


時刻18:50 。待ち合わせの時間より少し早いが、メガネ様の前で待つことにした。

定刻で終われるのは、気分が良い。仕事に追われる程嫌なことはないからだ。些細なことでも、多大な時間を使ってしまうのは、ダメなやり方だ。とは、言っても、僕は、そうゆうタイプだ。小さいことでも慎重になりすぎて、同じことを何回もしてしまう。効率の悪さは、天下一品だ。

「デキル男は、時間を有効に使って、仕事終わりに゛シゴト゛するんだろうなぁ」

行き交う人を見ては妙にオッサン的なことを考えながら、携帯の時計を気にしては、メガネ様の前でよし乃が来るのを待っている。


時間は、19:13。待ち合わせ時間は、過ぎていた。

「どうしたんだろ?残業かな?」

同じ部署であっても、仕事内容はバラバラだ。書類全般を扱う人もいれば、全てのスケジュール管理をする人もいる。アポイントを取る人、出先で営業する人と、様々な作業が分担されている。僕は、その中でもよりシンプルな、在庫管理及び、書類作成をしている。自己発信するような仕事ではないぶん、残業は余りすることはない。慎重になりすぎて、在庫を確認するのに時間をかけすぎてしまうことは多々あるが、他の作業よりは、至ってやり易い。

「20分かぁ、30分まで待って来なかったら、今日は帰ろう」

携帯の時計を見ては、小さく息を吐き、目の前の行き交う人通りを眺めていると、見覚えのある姿が奥の方で見える。

「柏田か?ん?その隣にいるのは、、」

右手で眼鏡の柄を押さえて目を細めながら、ピントをあわせた。

「?!あ、ずみ?!」

柏田の隣を歩いているのは、あずみだ。仕事に来ないと思ったら、柏田と、一緒だとは予想もしていなかった。

「あの話は、この事か??」

屋上で聞いた話を思いだし、怒りにも似た感情が、沸き上がってくる。

「一体どうゆことだ?」

焦る気持ちと、震え出す感情が体全体を覆い被る。咄嗟に、走り出そうと体を前に倒しながら、地面を蹴りあげる。

「痛っ」

蹴りあげた足で地面の小石がとび、後ろの人に当たったらしく、声が聞こえた。

「っ。すいません」

走り出そうとする足を止め、後ろを振り返り頭をさげた。

「だ、大丈夫ですよ、それよりもどこに行こうとしてるんですか?」

頭をあげ、話かける相手の顔を見た。

「よし乃、よし乃かぁ」

少し、安心したような声が漏れた。

「何をそんなに、逃げるように走ろうとしてはるんですか?」

よし乃は、少しムッとした顔をして、僕を見てくる。

「いや、あの、その、、、」

声を詰まらせ、何て返せば良いのかわからずに、あたふたと手をばたつかせた。

「もう、、、、遅れたのは申しわけありませんが、そう逃げなくたっていいじゃないですか」

バックを前に両手でつかみ、口を尖らせて顔を困らせている。

「うん、うん、そう、そうなんだよ、逃げた訳じゃないんだよ、、、そ、それよりも、今日は何の話なんだい?」

誤魔化す事よりも話を切り替えようと、言葉を巧みにまくしたてた。

「えっ、あの、その、ここじゃなんですから、どこか入りません?」

よし乃は、顔を赤らめながら僕に委ねてきた。

「う、うん、そうだね、そうしようか」

僕は、よし乃の意見を取り得れ、その場しのぎのようにその場を後に歩きだした。 さっき見た柏田とあずみの姿は、もう見えなくなっていた。


メガネ様を後に、建ち並ぶビルの一角のコジャレた店の前で立ち止まった。

「そうだ、よし乃は何か好きなものはある?」

余り店を知らない僕にとっては、店選びはか なり重要だ。変な店に案内すれば何て言われるか知れたもんじゃない。ましてや、学生上がりの女の子では、どうしたら良いのかわからない。

「え?何でも平気ですよ。あっ、しいていえば、湯豆腐ですかね」

顔を上に向けて、口元に人指しを立てて思い出すかのように、話してきた。

「湯豆腐??」

「はい。湯豆腐です。私、出身京都なんですよ。余り見えないって言われるんですけどね、でも、何でも大丈夫です、任せます」

よし乃は、僕の前に立ち上目遣いをしながらアヒル口をしては、目を見つめて話をしてきた。

「そ、そうなんだ、京都なんだ、へー」

当たり障りのない返事を返して、少しぎこちなく歩きだした。心が少し、ときめきかけた。滅多に上目遣いをされたことがないから、恥ずかしさと照れが同時にやってくる。

「あっ、ここなんかどう?」

店先で指をさして、よし乃に聞いてみた。

「えー、、、良いですよ」

始めは、ひきつった顔をしては、反応を楽しむように、笑顔でかえしてきた。

余り綺麗とは言えないが、店に入る客層が、周りよりも落ち着いている感じがしたから、大丈夫だろうと思ったのだが、はずしたかもしれないと、不安感が漂ってくる。


「いらっしやいませ。二名様ですね。ご案内します」

落ち着いた口調で、確かなる接客スタイル。モノトーンで統一された店内の雰囲気に、見事なまでにはまる店員。

「落ち着いてますね」

僕の隣で小さい声で話すよし乃は、少し緊張している感じた。

「そうだね。流石って感じだね」

よし乃の話すトーンに合わせて、僕も、小さく声をだした。

「こちらの席になります。」

そう言うと、店員は僕らの椅子をずらして、よし乃から順に座らせてくれた。

「スゴいですねぇ」

よし乃は、前屈みになりながら僕の顔近くで言ってきた。僕は、小さく頷き「だね」と、軽く答えた。

「本日の、おすすめは、、、」

メニューを開き見せながら話す店員を横目に、何を頼んで良いのかわからない。

よし乃も、どうして良いかわからないと、いった感じだ。

「おすすめで、任せます」

店員が説明終わると同時に、あたかも素人ですと言わんばかりに、お願いした。

「かしこまりました」

そう言うと、メニューをたたみ、軽くお辞儀をして席を離れていった。

周りを見渡しても、落ち着いた人達しか見当たらない。見た目も綺麗に、マナーの行き届いた店内、接客する方もされる方も、「一流」と、いった感じだ。

「そうだ、今日は、なんだったの?」

周りの雰囲気に呑まれながら、緊張するよし乃に、話を向けた。

「えっ、別に対したことではないんですけど、、、」

何かを隠すように、口をモゴモゴとさせている。

「そっか、そうだよね、誘ってきたから、何か相談かなんかだと思ったんだけど、違ったか」

「はい、相談ではない、、、、です」

よし乃は、少し困り顔をしては、チラチラと僕の顔を覗いてはうつむいている。

「違ったかぁ」

僕は、右手で頭を触りながら、期待していた自分を隠すように誤魔化しながらこの場の空気を変えようと話を続けた。

「それはそうと、京都出身なんだ?いいねぇ、京都。京都かあ」

的外れな話だったのかわからないが、よし乃は、僕を見て笑っている。

「はい、京都出身です。見えません?」

「うん?見える見える、見えるよ」

「嘘つきー」

他愛もない会話でも、なんとなく広がるんだなと、よし乃の顔を見ては笑顔になる。

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