どうやら、プロローグは終わらないらしい
中から返事が聞こえ、「失礼します」と声と同時にドアを開けては、会釈をしてから部屋の中へと足を踏み入れた。部屋の中では、さっきから聞こえる声がより大きく聞こえてきた。
「だから、さっきからいってるじゃないですか、これとそれは違うんですって」
声を張る男性は、両手を開きながら書類を持っては、懸命に話をしている。男性がだす声のトーンとは裏腹に小柄な体系をしている。体に併せたスリムなスーツで髪の毛をショートに刈り上げては爽やかな印象を出している。割と若い感じが見てとれる。
「あっ、どうもどうも、、それと君は、もういいから、」
声を張る男性の前で、椅子にもたれ掛かりながら話を聞いている人が、声を張る男性の話を遮って、僕らを手招きをしながら呼んできた。
声を張る男性は、諦めがつかない様子で、僕らの方をチラッと見ては、前に座る人に言い寄っている。
「まだ、終わってないっすよ、、、」
「わかった、わかった。また、あとで聞くから、今日は、帰った。帰った」
前に座る人は、声を張る男性の話を切るように体を椅子から離しては、僕らを部屋の角に置かれたテーブル席へと手招きしてきた。
声を張る男性は、納得出来ない様子をしては、しぶしぶと部屋を後にした。
「いやーすいませんね、お見苦しいとこみせてしまって、、ま、どうそどうぞ」
椅子に座っていた人が、頭を何回か下げながら低姿勢に僕らを席にと手招きしてくる。
僕らは会釈をしながら、手を招いて指し示す席へと歩を進めた。
僕らを見ながら頭を下げて、手で頭を触りながら席につく男性は、ここの会社の社長なのか、見るからに幹部以上の風格をしている。一介の平社員では無いことは確かだ。
「いやいや今日は、足を運んでもらい、すいませんね」
男性はそう言いながら、机の上に置いてあるケースに入った名刺を手にとっては、一枚ずつ僕らに渡してきた。
「いえいえ、連絡を頂きまして、ありがとうございます」
名刺を受け取りながら、社交辞令的な言葉を交わしながら、僕らも名刺を差し出し交換をした。
“広告エージェンシー、取締役 榊 恵”
名刺には、会社名と、名前が書かれていたその男性は、“榊”という名前の社長だった。
「あの、連絡を頂いたのですが、今日はどのような事なのでしょうか?」
椅子のひじ掛けに寄りかかりながら、僕らを見る社長に、あずみは膝に手を置き真剣な眼差しで社長に話しかけた。
「あーはいはい。、、、あっ、その前にいいかな? さっきまで“あんなん”だったから、ちょっとね、、、」
社長は右手で今まで話をしていた机を指しては、むず痒い顔をしながら左手でタバコを吸う仕草をしては、断りを入れてきた。
「あ、はい。どうぞ」
僕らは断る事はせずに、社長のする行動を見つめていた。火をつけふかす煙が、目の前でゆらゆらと揺らいでいる。
「ふー。でと、今日来てもらったのは、そんな急な事じゃなくてね、ちょっと気になる噂がね、、、」
社長はタバコの煙を吐きながら、僕らを疑うように顔を眺めてきた。
「あの、それはどのような件でしょうか?もし良ければお聞かせ願えませんか?」
タバコを吹かす社長に、あずみは体を前に出しては社長に訪ね返した。
部屋の観葉植物が、太陽の光で薄輝いている。
揺れる煙に光が踊るなか、社長は火のついたタバコを灰皿に押し込むように火種をけし、僕ら二人を順番に見ては、椅子の背にもたれ掛かかるようにしては口を開いた。
「あー、そのなんだ、柏田くんのことなんだがね、、、」
僕は社長の話す声に、一瞬体が寒気を感じた。「やはり、柏田のことか」頭の中で繰り返しこの前の“事件”が、走り回る。眉間に皺がよりはじめてくる。
隣に座るあずみは、眉一つ動かさず、社長の話に耳を傾けている。流石は“場馴れ”しているといった感じだ。
社長は、一つ息をはき、目を細めては頬をあげ、唾を飲み込み一呼吸あけては口を開いた。
「柏田くんはだっけ、、、、、良いよね、彼。入ったばかりだって言ってたけど、なんのなんの、肝が座ってるというか物怖じしないというかね、」
「はー、あっ、はい。ありがとうございます」
僕は、社長の思いもよらない言葉に唖然とし、旨く言葉がだせなかった。あずみは、社長の言葉に一瞬呆気に取られたが、直ぐ礼の言葉を口にした。
「でだ、その柏田くんのことだけど、」
社長は真剣な眼差しを作り、体を前に押し出して、あずみの顔近くまで寄っては、笑みを浮かべて体を起こした。
「こんな世の中だから、嫌と言うほど色々と話は耳に入ってくるよ。」
社長は、足をくみ右手で耳を触りながら声を抑えて話してくる。
「それは、色々とすみません」
あずみは、テーブルに頭をつけるように体を倒しては、社長に頭を下げた。僕は、そのあずみの行動を見ては同じように頭を下げた。
「いやいや、そうじゃなくて、変な噂も沢山入ってくるけど、僕は全面的にそちらさんに付き合おうと思っているよ」
頭を下げるあずみに対して、右手で煙を払うように横に振っては、満面な笑みで1度頷いた。
「ありがとうございます」
僕らは、社長の言葉を胸に何度も頭を下げた。
「わははは、いいよいいよ頭なんか下げなくて、こちらからも、お願いしますよ」
含みを持った笑い方をしながら、社長は僕らにそう言うと、足を戻し、膝に手を置き頭を下げてきた。
「ありがとうございます」
そうする社長に対して、僕らも1度深く頭を下げた。
揺れる観葉植物の葉に光がうつり、壁に掛けられている時計が、カチカチと音出しては、12時を指していた。
「あと、これからのことなんだけど、、」
社長は話を切り上げて、今後の方針やら工程といった仕事の話をしては、あずみと話し合いをし始めた。僕は、何をするでもなく愛想笑いをしては、その二人のやり取りを眺めていた。時折、ビルの外からは、車のクラクションが鳴り響き、人の話す声が聞こえてくる。
「、、、では、この感じでお願いしますね」
「はい。ありがとうございます。」
社長は、あずみに笑みを浮かべながら席をたち、部屋のドアを開ける仕草をした。僕らは、席を立つ前に頭を下げては、鞄と荷物を持ち部屋の出口まで足を運んでは、もう一度社長に頭を下げた。
「また、何かございましたらご連絡のほど御待ちしています。」
「はい。わかってますよ。あと、それと、柏田くんにお礼言っといてださい。“この前”はどうもって」
「はい。わかりました。伝えときます」
「お願いしますね」
社長は柏田にお礼をと言葉を残しては、仕事机の方へと戻っていった。
僕らは部屋を出て、部屋を目にして椅子に座る社長を見ては、頭を下げてドアを閉めた。
閉めるドアの前で一つ深呼吸をしては、ビルの入口まで歩を進めた。
エントランスの前で、受付の女性に会釈をしてはビルの外に出た。
「はーとりあえずは、よしだね」
僕は一息入れてはあずみに声をかけた。あずみは「そうですね」と言葉を返しては、さっきまでしていた真剣な表情を一気に崩しては、鞄から携帯を取りだし仕事場へと電話をかけはじめた。
あずみは陰沌とした影のおりた路地先で、携帯を耳に仕事場へと話をしている。僕は持っている荷物を地面に置いては、軽く背を伸ばした。
「ちょいとあんた。いいかい?」
背を伸ばしている横から、体を触るように声をかけてくる男性がいる。さっきまで社長と話をしていた男性だ。
「ん?はい。えっと、、、」
僕は何がなんだかわからないまま、その男性の顔を見た。背伸びする腕を下ろし男性の方へと体を向けた。
「俺、こういう所で働いてるんですけど、、」
男性はいきなり左手で自分の名刺を僕の胸辺りまで持ってきては見せるように渡してきた。
「あ、いや、これはどうも」
僕は右手で差し出された名刺を受け取り、胸ポケットに差しては、鞄から名刺を取りだし、その男性に見せて渡した。
「、、、ん?この会社って」
その男性は、僕の名刺を受け取り見ながら、何やら思い当たる節でもあるような顔をしては、指を僕に指しては、言葉をはいた。
「あー、あんた、よしよしの会社の人か」
その男性は驚いた表情をしては、2、3度 頷いて名刺と僕の顔を交互に見ては、納得したといった顔をしている。
「で、何かごようですか?」
僕はその男性に、少し嫌みにもとれるニュアンスで声をだした。
「あーいや、べつに、後からきたヤツが誰なのかって気になっただけすよ」
「はぁー」
ふてぶてしい顔をしながら言葉を発する男性を見ては、“なんだかな”と心の中でつぶやいた。
影のおりた路地では、どこからともなく猫の鳴き声が聞こえてくる。
少し時間をあけて、その男性が僕を舐めるように目線を動かし「ふーん」といった顔をしては、一人言のように呟いた。
「ここの会社か、、、、、んー、よしよしに付きまとってる男って、、違うよな」
「はい?なんですか?」
その男性の言葉が、聞こえてはいるのだが、聞こえてない振りをしてとぼけるふりをした。
「いや、別に、、あ、そうだ、因みに、よし乃、吉川よし乃って知ってる?」
男性は、一人言のように呟いていた言葉をそのまま声にして訪ねてきた。
「はあ、まぁ、同じ会社ですから、知ってると言えば知ってますけど」
僕は、当たり障りの無い言葉をだしては、余り“知りませんよ”といった口調で男性に答えた。
「そっか、まぁ、あんたじゃないだろうから言うけど、アイツの言葉鵜呑みにするなよ」
男性は意味ありげに言葉投げかけてきた。
「あの、吉川さんとは、どういったお知り合いで?」
僕は頭よりも先に口が開き、思ってもいないことを口走った。
「ん?俺?、、まぁ、元カレってやつ?」
「元カレ?」
「そっ、元カレ。お付き合いしていた男ですよ」
男性は、僕の顔を近くに自分の顔を指で指しながら、威圧的に訴えてきた。僕はなんとも言えない顔をしては、「そうなんですか」と答えるのにいっぱいいっぱいだった。
「ま、いいや、ここの会社のことは、うちらも同じようなことやってるんで、互いに頑張りましょうや」
男性は、僕から離れては後ろに振り向き駅の方へと歩きながら左手で手を振り、言葉を置いて歩いていった。
僕はその男性の歩く姿を目で追っていった。
「っと、誰だったんですか?今の?」
仕事場へと電話をかけていたあずみが、携帯を右手に持ちながら僕の横に立っては歩き去る男性を眺めて話を振ってきた。
「あー、よし乃の元カレみたい。って電話終わったの?」
「終わりましたよ。っえ?よしよしの元カレ?本当に?へー」
あずみは、目を丸くして興味ありげにその男性を見つめている。僕は、なんとも言えない表情をしては、胸ポケットに差した名刺をとりだした。
“フラワーエスピード FSD 営業課 美畑 和美”
「あーここ知ってますよ。結構手広くやってる会社ですよ」
あずみは手に持つ名刺を覗き混むように見ては、指で名刺を指しながら僕の顔を見て言葉をだした 。
「へーそうなんだ」
僕は、余りそういう類いの話には“疎い”方で、何とも言えない感じだった。
「見た目は可愛い感じなのに、性格に難ありですね」
あずみは、男性の容姿を思い出しながら、女性ならではの目線で分析を始めていた。
「いやいや、、」
僕は何とも言えない思いをしながら、あずみの話に合わせて鞄を持ち上げた。
駅前の方では、車のクラクションが鳴り響いている。
「さてと、戻りますか?」
僕はあずみにそう聞くと、あずみは、腕にはめた時計を見ては、「そうですね」と答えては駅の方へと歩きだした。
僕は、「まったくこれだから」と、男の勝手な思考で少しため息をはき、手に持った名刺を胸のポケットへとしまいこんだ。
緊張感も解れ顔の固さも無くなっては、肩の荷が降りた。来るときはどうなるものかと不安で固められた心も次第になくなっては、何時もの穏やかさに戻っていく。
「あ、そう言えば、何で僕だったの?」
駅のホームまで来ては、荷物を地面に置き、隣に立つあずみに問いかけた。
あずみは、ホームから見える街を眺めては口を開いた。
「それはですね、“女”ってだけで始めから相手にされない事もあるからですよ。“女だから”“女じゃ話にならん”って、」
「だから、“男”ってことで?」
あずみは、僕の顔を見ては“それもあるけど”と言っては、足元に置いた紙袋持ち上げては、中身を見せてきた。
「ん?あ、これって在庫一覧表?」
「はい。ほぼ全部の簡易一覧表です」
僕の答えに満面な笑みを見せては、1度頷いて続きを話してきた。
「“男”って事もあるんですけど、何かしらの“不備”が有ったとき、直ぐに対処できるようにです」
「へーあの短時間で、よくここまで」
僕はあずみの用意周到な術に驚きと関心を抱いていた。
「それに、私よりも、在庫に関しては、プロでしょ?」
あずみは、僕の顔を覗き混むよに見上げては、左手で紙袋を抑え右手で僕の鼻辺りを指しては微笑んできた。
「おそれいりました」
僕は、あずみに頭を下げては関心の念入りの準備に肝を抜かれた感じがした。
あずみは右手でブイサインを見せては、白線の内側へと体を寄せた。
「、、、行き、電車が参ります、、」
駅員のアナウンスとともに電車が入ってくる。ドアが開き乗り降りする人を避けながら電車に乗り、仕事場へと戻っていった。
仕事場へ戻ると、あずみは荷物も置かずにかずっさんの元へと足を運び、僕は紙袋を持っては自分の席へと戻っていった。
自分の席へと向かって歩いてると、この件にもなった電話を担当した男性と目があった。
「あ、お疲れ様です。どうでした?」
男性は、余程気になったのか目があうと同時に席をたち歩み寄ってきた。
僕は荷物を机の上に置きながら「大丈夫でしたよ」と、深くは説明しなかった。
「そうですか、、」と安心しながら、「それだけですか?」と煽るように顔を強張らせては、腑に落ちないような息をはき、自分の席に戻っていった。
“何かあった方がよかったのか”と、眉間に皺を寄せては、“ま、いいか”と少し頬をあげては、自分の机の上で荷物を整理した。




