表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

 ぐっしょりと汗ばんだ寝巻きは、不愉快というに相応しく、私は半身を起こすとすぐに脱いだ。顕になった上半身に、つけたばかりの扇風機の風を当てるが、部屋中が蒸し暑く、当然、ぬるかった。

 冷たいシャワーを頭から被る。何か途方も無い夢を見ていたような、そんな残り香だけが、頭を刺激する。しかし一瞬あとには、身体を伝い流れていく水に乗って、全ての情念は消えた。

 窓をいくつか開ける。通り道を作ってやると、纏わり付く重厚な熱気も、少しは和らいだ。

 換気扇の下に椅子を移動し煙草を吹かす。ゆるゆると立ち上る煙をぼんやりと眺めていた。

 ちりんちりん。

 風に、風鈴が揺れる。すっかり、夏らしくなった。外では蝉がわんわんと鳴き、存在を誇示している。

 煙草を灰皿に押し付けると、ゆっくりと立ち上がった。ベランダのほうへ歩いていく。

 眼下の往来を眺める。日傘を差した女性のハイヒールの音が、七階のこの部屋まで、ツンと貫くように届いてくる。夏休みを迎えた子どもたちがばたばたと走り回り、時折、車のクラクションが鳴った。

 向かいに聳え立つ高層マンションの、ちょうど目線の位置に、主婦が洗濯物を干している姿が見えた。無防備に薄着なのも、この暑さでは仕方がない。まさか、見られているとは思いもしない。

 ちりんちりん。

 その部屋かどうか、定かではない。ただ、前方から、風鈴の音が飛んできた。ああ、私は、行かなくてはならない。この音の示すほうへ、逸れないように、向かわなくてはならない。遮るものを乗り越えると、私の身体は唐突に重力を意識し、間もなく、パン、と音がした。僅かな酸素を食い繋ぎ、どうして私の身体は沈まないのであろうか、と考えた。

 視界は、薄闇。頼りは無かった。


 ちりんちりん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ