現
ぐっしょりと汗ばんだ寝巻きは、不愉快というに相応しく、私は半身を起こすとすぐに脱いだ。顕になった上半身に、つけたばかりの扇風機の風を当てるが、部屋中が蒸し暑く、当然、ぬるかった。
冷たいシャワーを頭から被る。何か途方も無い夢を見ていたような、そんな残り香だけが、頭を刺激する。しかし一瞬あとには、身体を伝い流れていく水に乗って、全ての情念は消えた。
窓をいくつか開ける。通り道を作ってやると、纏わり付く重厚な熱気も、少しは和らいだ。
換気扇の下に椅子を移動し煙草を吹かす。ゆるゆると立ち上る煙をぼんやりと眺めていた。
ちりんちりん。
風に、風鈴が揺れる。すっかり、夏らしくなった。外では蝉がわんわんと鳴き、存在を誇示している。
煙草を灰皿に押し付けると、ゆっくりと立ち上がった。ベランダのほうへ歩いていく。
眼下の往来を眺める。日傘を差した女性のハイヒールの音が、七階のこの部屋まで、ツンと貫くように届いてくる。夏休みを迎えた子どもたちがばたばたと走り回り、時折、車のクラクションが鳴った。
向かいに聳え立つ高層マンションの、ちょうど目線の位置に、主婦が洗濯物を干している姿が見えた。無防備に薄着なのも、この暑さでは仕方がない。まさか、見られているとは思いもしない。
ちりんちりん。
その部屋かどうか、定かではない。ただ、前方から、風鈴の音が飛んできた。ああ、私は、行かなくてはならない。この音の示すほうへ、逸れないように、向かわなくてはならない。遮るものを乗り越えると、私の身体は唐突に重力を意識し、間もなく、パン、と音がした。僅かな酸素を食い繋ぎ、どうして私の身体は沈まないのであろうか、と考えた。
視界は、薄闇。頼りは無かった。
ちりんちりん。




