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会えない悲しみ、再開の喜び

作者: 海風 波伊良

 この世界は言うなればファンタジーと現代が合わさったような世界。普通に勉強するための学校はあるし、武器があれば魔法が使える。一人一人得意属性もある。この世界はそういう世界。

「シアンちゃん。今日一緒に帰らない?」

「あー。すみません。今日は少し用事があるので……」

 この世界の首都と言われている千鳥の中心街、(うぐいす)町。この世界の街は全て鳥の名前で呼ばれていた。

 この世界の現代部分は学校と服装、名前に漢字がある事。それくらいしかなかった。魔法が使えたり、乗り物が魔法で動かせたり、いろいろ要素があった。

(でも街の名前とか駅名は現代要素……かもしれませんね)

 この16歳の少女の名は「日暮(ひぐらし) シアン」。水瓶高校一年二組。薄紫色で肩まであり一つ結びにしてる髪に同じく薄紫の目。

 外見もファンタジーが含まれていると言えた。シアンの特徴はこれと言ってなかった。ただ一つ、あえて言うとしたら彼女は誰であろうと敬語で話している事。ーーいや、昔は普通に話していた。中学二年生の夏までは。



 シアンにはもしかしたら初恋だと言える少年がいた。「氷雨(ひさめ) ユウヤ」。シアンの幼馴染みで何時も登下校は一緒だったりたくさん遊んだ、二文字の方が言いやすいためみんなからは「ユウ」と省略されて呼ばれていた。彼は「一緒にいると楽しい存在」だった。

『ユウ、また部屋片付けしてないの? お母さん困ってるよ、中学二年生になってまだ部屋が散らかってるって』

『んじゃ、ちゃっちゃとシアンが片付けてくれよ。そしたら遊ぼうぜ!』

『はいはい』

 彼は片付けが大の嫌いで一週間に一度点検と片付けをかねてシアンが片付けていた。

『大変だシアン! 今日提出の数学の宿題やってねぇ!』

『また? もう……ほら、見せて。どんな宿題なの?』

 彼は宿題が(と言うか勉強が)苦手ではなく大嫌い。いつもシアンの手助けがないと乗りきれないくらいだった。

 でも喧嘩、または格闘ゲームが得意だった。でもその強さは悪い事には使わず、いつも誰かを守るために使っていた。そのほとんどがシアン絡みだった。シアンは今度は自分がユウヤを守りたいと思い特訓を始めた。

 魔法を使うには武器と呪文を詠唱すればいい。人それぞれ使える魔法の属性がある。シアンは闇属性、ユウヤは炎属性だ。武器は何でもアリだ。シアンは大きな鎌でユウヤは剣。

 彼女は必死に練習した。だけど事件が起こった。いつまでも強くなれないと感じたシアンは雨の日、一人で特訓していた。魔法の修行だった。

『雨の日は危ないから特訓はナシな。特訓に使ってるこの場所、雨の日はスッゴいぬかるんでてよく崖崩れが起こるスポットなんだ。だから、雨の日はナシ。覚えとけよ?』

(そう“ユウさん”に言われた……のに。私は破ってしまった。強くなれない焦りと不安、そのせいで……)

 ユウヤの言葉通り地面が崩れシアンは落ちていった。シアンの意識はそこでなくなり、気がついた時には病院のベッドだった。母から聞いたのはもしかしたらと思ったらしいユウヤが地面が崩れ落ちていくシアンを助け重症をおった、という事。運よく命に別状はなかったが怪我が酷すぎてもっと設備が整った病院に運ばれたらしい。それからユウヤの家族は今の家からその病院の近くに引っ越し、あれから二年。ユウヤは無事、という連絡を彼の母から聞いた時以外ユウヤの家族とは会っていないし会話もしてなかった。

 それからだった。シアンが敬語で話すようになったのは。

 最初はクラスメイトも疑問に思ったがユウの事を知ったのか気にもしなくなった。シアンにとってはむしろありがたい事だった。





「魔法体育祭……ですか?」

「そう! ウチの学校は体育祭は魔法で争うトーナメント! ウチの高校の体育祭って結構有名なんだって。えーっと確か別名……」

「……“水瓶高校マジックトーナメントカップ”」

「そうそれ! って何で知ってるの? シアンちゃんはそういうの興味なさそうだと思ったけど」

「……私の、初恋だった人の。夢でしたから」

 小さい頃、よくユウヤの家に遊びに行っていたシアン。行くたびにユウヤの夢を聞かされた。「水瓶高校マジックトーナメントカップ」に出て優勝する事。これが夢だといつも語っていた。

「あの、これに出るには?」

「あー。生徒会室に行って生徒会の誰かに言っておけばエントリー登録完了らしいよ」

 シアンはお礼を言って昼休みに生徒会室に向かった。


「やあ、シアン。久しぶりだね」

「……どうも生徒会長。体育祭のエントリーしたいのですけど」

「つれないねえ。昔みたいにソルトって呼んでくれていいじゃないか」

「それは昔の話です。それに、一応貴方は先輩ですので」

 シアンが険悪な雰囲気を出して向けているのは水瓶高校生徒会長「朽木(くちき) ソルト」。灰色の髪に赤い目のいかにもミステリアスな雰囲気を醸し出している。こんな性格だが意外にいろんな生徒達から慕われているようだ。

「先輩は何か卑怯な事でも?」

「いやいや、そんな事はしてないさ。ほら、もう終わったよ。日暮シアン。エントリー完了だ。期待しているよ」

 シアンはそんなソルトの言葉を無視して「失礼しました」と言い教室へと戻って行った。

「そう言えば……彼がこの高校にいる事って知ってるのかな? ……ま、いっか」

 ソルトのそんな言葉も聞く人はいなかった。



 水瓶高校マジックトーナメントカップとは水瓶高校の生徒達が魔法で一番を競い会う、言わば激しい体育祭だ。相手が気絶するか降参するまで続くトーナメント方式で行われる。各学年魔法自慢が集まり予選を行い残った八人で本選で戦う。

 予選は〈魔法人形(マジックドール)〉との戦闘時間で決まる。レベル一からレベル十までありレベル十になると高校の先生でさえ倒せるかどうかわからないくらいの強さだ。だがレベル上位と戦い尚且つ戦闘時間が短いと本選の時に下位の人と当たるため全員上位と戦おうとする。それで負ける。これの繰り返しだ。

【一年二組、日暮シアンさん。どのレベルに挑戦しますか?】

(他の人は高くて五。ですがこの程度ではあの醜い生徒会長様にどや顔を向けられない……となったらやっぱりこれしかないようですね)

 シアンは冷静に、だが闘志がメラメラと燃えてるような声で静かに言った。

「レベル十。お願いします」

 当然ざわつきが起こる。

「おいおい。他の人と差をつけときたいからって、レベル十は自殺行為だろ」

「かっこつけてるんじゃね?」

(誰がなんと言おうと構いません。私は彼に、ユウさんにいつか顔向け出来るよう強くなればいいだけです)


 戦闘終了後。最初は野次をとばしてた人も唖然としていた。

【終了……タイムは。え!? 一分!? 日暮シアンさん。ダントツの一位です!】

(なかなかやりますね、この〈魔法人形(マジックドール)〉。一分も(、、、)かかってしまいました)

 いや、何故か生徒会長のソルトは目を輝かせていたが。

「流石だ! 流石だよシアン! 君が彼を思う気持ちが君を強くするんだね! ああ、君は面白い。僕ははじめて生徒会長になってよかったと思ってるよ。……だけどねぇ。君は彼には会えない、断言しよう」

 この生徒会長の叫びの意味は、すぐにわかる事となった。

 本選、一位となったシアンは予選最下位の人と当たり難なく突破。続いて二回戦目。

「さぁ。ここで負けたら彼に会おうなんて戯れ言、止めたらって進めてあげよう。君はもし勝った時の対戦相手なんて気にしちゃあいないだろうけど、まー 僕にとっては好都合……か」

 ソルトがそう呟く。シアンの二回戦目、相手は「篠宮(しのみや) アヅチ」。生徒会副会長だ。

「さぁ。やろうか」

 黒髪のボサボサとした髪型に黒の少し目付きが悪そうな目。のんびりとした口調の彼はシアンにとってよくわからなかった存在だった。



 戦闘は総合たとシアンが有利かと思われたが意外にもアヅチが優勢だった。

「はぁ、はぁ。くっ、〈ブラックフレイム〉!」

 シアンは黒の炎(ブラックフレイム)を弾丸のように飛ばした。だが全て防がれてしまう。それも全て彼の持っている武器、「魔導書」のせいだった。

「無駄だって事、わかった? 俺は別にこんな大会興味はないけどさ、会長のソルトから勝てって言われてるからな」

(確か会長と副会長は同級生だって以前友達に聞いたおぼえ……ありましたね)

 それでもシアンは魔法を連発させる。珍しく焦っているシアン、彼女には彼が語ってくれた夢を叶える事しか考えてなかった。

「……はぁ、ちょっと飽きた。今度はこっちからいかせてもらう」

 さっきまで床に座っていたアヅチが立った。途端に「近づいてはいけない」という嫌な感じが頭の中で警報を鳴らしているようだった。シアンはいけないと思いアヅチから離れた。

「無駄だ、〈雷の裁きサンダー・ジャッジメント〉っ」

 シアンの頭上から雷が勢いよく降ってきた。

「ぐうっ……!」

「へぇ、耐えるんだ。その電流はしばらく体内に残るから結構キツいぜ?」

 アヅチの言った通りに電流はシアンの体内にい続けた。目をつぶっていたが電流が少しだけ弱まったのを確認し、目を少し開けると彼が手を銃の形にしてその手をこちらに向けていた。

(まさか……!)

「きっと、まさか。とか考えてるんだろうな。答えてやる、そのまさかだ(、、、、)。死にはしないから、安心しろよ? 〈サンダーショット〉っ」

 雷の弾丸がいまだに動けずにいるシアンに向かってかなりのスピードで襲いかかった。

「ーー!!」

 直撃してしまい横向きで倒れてしまった。だがまだ試合は終わった事に扱われない。相手が気絶、または降参しなければ終わらないのだ。シアンはまだ気絶してないし、降参する気もない。試合は続行だ。

「ま……だ……終われ、ません」

「会長から聞いてる。アンタの初恋相手の夢なんだって? 今はソイツは引っ越していない、と。どうせソイツ忘れてるぜ? そんな下らねぇ夢」

「くだらなくない!!」

 滅多に大きい声を出さないシアンが大きい声を出した。アヅチは一瞬驚いた。だが彼にとってもっと驚いた事がある。体内に電流が残ってるハズなのに、電気弾で撃たれたハズなのに。

ーー何で、何で立ってるんだ!? 攻撃なんて聞かない、とうせ防がれる。当の本人はもう体内に電流、電気弾で撃たれ。ボロボロのハズだろ……。

 その本人、シアンでさえもわからなかった。本気でユウヤの夢を叶えたかったのか。もしくはこれで優勝すれば彼が帰ってくると信じてるからなのか。とにかく、今一番思った事は「篠宮アヅチに勝って決勝戦いかないと」、これしかなかった。

「副会長、確かに引っ越した人の夢を叶えるのはあまりにも可笑しいのはわかります。正直、自分でもどうしてこんなにも久しぶりに感情的なのかわかりませんから。ですが、これだけはわかります」

 そう言うなり鎌を構えて突進して行った。そしてそのままアヅチの防御盾を……壊した。

「やっぱり、よくよく考えてみたらその防御。魔法攻撃しか効果ないんですね。話の続きです」

 鎌を横に構え言葉と同時に振った。

「貴方が……ユウさんの事を悪く言わないでください!」

「ぐわぁぁぁぁっ!」

 その瞬間、会場からものスゴい歓声があがった。

「そうですね……ユウさんの事を悪く言っていいのは私とユウさんのご両親に、会長のソルトさんですかねっ」

 そんなシアンの呟きは歓声に飲まれて消えていった。がソルトだけは口の動きでなんとなくわかった。





 決勝戦、シアンとは別の人の控え室。そこにもう一人、ソルトがいた。

「まさかアヅチ君を倒して決勝にいっちゃうなんて思わなかったよ! 流石だ! 流石だよシアン!」

「珍しいな。お前がそこまで楽しそうな笑顔だなんて」

「あぁ。僕にもわからないくらい何故か楽しいんだ。それもこれも、君がシアンの前から消えてくれたお陰さ。さぁ、そろそろシアンにドッキリのネタばらしの時間だ。ゆっくり楽しんでくるといい」

 試合会場に向かう青年はそんなソルトの言葉にため息をついて言葉を返す。

「俺は別にドッキリのつもりじゃないんだけどな」


「これに勝てばユウさんの夢が……」

 シアンは目線を下から前に戻すと「嘘……」と呟く。

「まったく、誰かさんのせいで一ヶ月半くらい魔法修行出来なかったし、いつのまにかソイツは強くなってし。俺の夢を代わりに叶える? バカな事言ってんじゃねぇよ。それは俺を倒してから言うんだな」

「ユウ、さん?」

 目の前にいたのは二年前から会っていないし話してもいない、あの「氷雨ユウヤ」だった。外見は相変わらず変わっておらず、武器も変わらず剣だった。

「もしかしてさ、その敬語俺のせい……?」

 シアンは涙を流しながら答える。ほぼ聞こえなかったが、かなりの文句みたいなのを言っていた。

「そう……ですよ。ユウさんのせいです!」

「悪かったな。んじゃ「ただいま」。試合、手ェ抜かねぇぜ!」

「「おかえりなさい」。もちろん、私も抜く気はないですよ、“ユウ”!」





 「水瓶高校マジックトーナメントカップ」は氷雨ユウヤの優勝、日暮シアン、準優勝。篠宮アヅチ、三位の結果で終わった。

 帰り道ーー二年ぶりに二人で帰る事にした。

「もしかして入学式の時からこの高校に?」

「そうだぜ、この前お前の姿がチラッと見えたんだけどよ。何かどう再開すればいいのかわかんなくてな」

 ……会話が続かなかった。シアンは言うべきか迷っていた。ユウヤの事が好きなのか、をだ。そして勇気を出して呼んだ。

「ユウ!」

「シアン!」

 まさかの同時呼び。先にユウヤが言うことになった。

「あの……いつも一緒にいてくれてありがとう、な。その、俺と付き合ってくれないか?」

「ーー!」

 自分が言おうとした事を先に言われてしまった喪失感。ではなく驚きが強かった。そして答えはもちろんーー。

「こちらこそ、これからもお願いしますよ!」


 教室にて。

「シアン! ヤバイ宿題やってない! やって!」

「はぁ。どういうのですか?」

 ユウヤは一枚のプリントをシアンに渡した。

「この前の水瓶高校マジックトーナメントカップで優勝した気持ちを書けだとよ!」

「それ私にも出されたけどすぐに書けましたよ?」

「嘘だぁ! ……ってかまだ名前以外は敬語か」

「別にいいじゃありませんか。私、今とっても幸せです!」


 生徒会室。

「やっぱり二人はお似合いだねぇ。それと同じくらい……“平和”という言葉が大っ嫌いなんだよね」

 そんなソルトの発言を軽く返したアヅチ。

「俺はどうでもいい。つかあんなめんどくさい大会に出すなよ。自分でいけ、自分で」

「僕がいったら相手にならないだろ?」

 アヅチは少し考えたあと「そっか」と言って部屋を出た。ソルトは机に出されていたクッキーを頬張って何かを言った。

「日暮シアン、氷雨ユウヤ。いずれ、二人と戦ってみたいなぁ」





【昨日まで一緒にいた人ともう会えない、と言われたらとても悲しい。だけどそこから奇跡が起きるかもしれない。ーー再開、と言う奇跡と喜びが。その時は、奇跡が起こった街を称え、その街に住んでいる人間に感謝しよう。私はきっと、ずっと。この町の人間を好きでいて、この鴬町を聖地だと崇めるだろう。だが、やっぱり私はーー偶然、それに平和、日常が大嫌いだ。だけど……魔法が使える時点で、この世界の全ての街と人間は日常を過ごす事はないだろう。大きな非日常が起こった時、私の好きな鴬町の人間はどうするのだろうか。とても楽しみだ】

 これは数日後の朽木ソルトの日記に書かれていたものだ。ソルト自身がシアンやユウヤに見せたのだ。だけど、こんなのを見せられても二人はきっと乗り越えていくだろう。それを思ってこその、ソルトの嫌がらせだったのだから。

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