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悪役令嬢と呼ばれたがそれより隣のカリスマがこわい【連載版】  作者: 良よしひろ
2.シナリオ探索だがそれよりノート提出である
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学校関係者のソーシャルネットワーク使用は注意が必要です

生きております…

文中不快になる表現などがあります。ご了承ください。


2016.6.5 改変。大筋にはあまり大きな変更はありません。失礼いたしました。

 ツライ。


 調子に乗った。白井の心が広くて態度も友好的で、付き合いも非常勤講師からの三年目に入って、親しくなったつもりになっていた。距離感を間違えた。

 三年前のことに無遠慮に触れようとして、白井に、「関わるな」とダメ押しされた。「お前は部外者だ」と眼前でシャッターを閉じられた。

 まあそうだよね、関係ない大人がしゃしゃり出てああだこうだ言うなんて、そんなダサくてウザいことってないよね…。

 中学生や高校生の頃は、「子ども」と「大人」の一線、その内と外が明確にあった。それは大人が考えている以上に深い溝で、確かで揺らがない壁だった。侵されるのが嫌だった。わかって無いくせに、大人が口挟んでくるのにイラついた。

 昔は私もその中にいて、「ああはなるまい」と思いながら大人を眺めていたような気がするのに。 何やってんだ私は。事情も知らんで。一般のおばさんが訳知り顔で出しゃばるなんて、何をしようとしているんだ、バカみたいだ。その辺の地面ごろごろ転がりまわりたい。切実に。


「聞いていらっしゃるの、あなたは!?」

「あっハイ」


 羞恥でくらくらする頭を、女史の甲高い声が貫く。ツライ。弓道場奥にある控室は狭く、高い声は余計反響する。これも随分ツライが、加えて私は床板に正座して一時間は経っており、更に道場に向けて、すべての扉と窓を開け放ってある。つまり姿は見えなくとも、部活動中の生徒には様子が丸わかりで。


「本当に耳に入っていらっしゃるのかしら、うわの空で締まりのない様子で。無礼極まるわ!」


 あ、これは説教四ループ目決定ですわ。

 再びの己の失敗に軽く絶望していると、ノックと共にクールな美貌が現れる。


「師範、練習内容でお話が…」

「まあああああああ、邦優さん、よろしいわよいらっしゃい」


 青景がちらりと目をよこすのに、内心助かったと歓喜して腰を上げた途端、声が飛んできた。


「あなたはまだ用があります大人しく座って反省なさい」


 青景がまたこちらを、今度はかなり眉を下げて見てきた。私もかすかにうなずいた。


――お役に立てず申し訳ない。

――いえいえ、お気遣いいただきありがとう。


 弓道部の師範は、私のことがキライである。多分正確に言うと、「嫌い」という言葉にもしたくない。私という存在を認識したくないのである。

 女史は、私が部活に行くと途端不機嫌になる。

 まず神聖な道場に粗野で無教養で常識のない私がいるのが何より嫌だ。次にその無粋な草が、弓道界の綺羅星・青景邦優が何故か親し気に――しかも女史よりも親密に――対応するのが何よりも屈辱、らしい。私への「指導」「説諭」の機会を、彼女は虎視眈々と狙って…注意を払って下さっている。

 私は別に、部活の指導に熱心なタイプではない。顧問があれば、弓道に不明な私など添え物だ。しかしそう思ってゆっくり遅刻してきたら、「軽視された」「仕事放棄だ」と激昂された。大体部活のある日は、師範による師範の為の黒瀬先生無限ループ説教地獄である。

 思えば初日二日目と、コーチにご挨拶しなかったのが良くなかった。社会人としての礼儀を守れていなかったのだ。他にも細々、足らぬところがある。ループするお小言には、反省すべきことも多い。高い声も難癖も愚痴も正座もまだ我慢する。

 でもな、もう少し短縮できないかな。この間ちっとも仕事ができない。この時間にどれ程の授業研究ができるか、そのストレスだけで胃がキリキリする。

 

青景が相手してくれたので、女史の気も済んだのか、説教はそこで終わり、生徒だけの練習を残し彼て女はお帰りになった。

 鼻を鳴らし扉の向こうに行く師範に頭を下げ続け、気配が無くなった途端、私はそのまま突っ伏してしまった。長時間の正座で、足の感覚がない。膝だけで四つん這いになり、唸り声すら上げられずに床とお見合いしていると、


「うんもう、大丈夫? 百合先生」


 縹田のふわふわ頭が、裏口からひょっこり飛び出した。服装も言動もゆるい縹田は、私に次ぐ師範のお説教対象である。師範がやってくる日は大体、私が来た後に来てそっと練習し、師範がお戻りになる時はスッと姿を隠している。

 本日彼は、腕には大きな三毛猫と子猫を数匹抱えていた。今までその細長い体をどこに畳んでたのか、うらやま…けしからん!

 師範を見送ってきた青景が道場側の扉から戻ってきた。顔を出すなり縹田を見て眉を顰め、「どこに行っていたんだ」と叱りつけようとして…そのまま口は開けっ放しになった。

 縹田はそんな青景の様子などお構いなしに、手元に可愛らしい毛玉大小を抱え、痺れで口のきけない私に近寄ってくる。


「先生真面目に聞いて、適当にはぐらかして逃げちゃえばいいのに」

「タイ…わか…!」

「あーそうねー、タイミング分からないかー。間違えたら説教延びそうだものねー。先生そういうとこあるよねー、わかりやすくって要領悪いトコ」


 いつもひょうひょうとして、とらえどころはないが勘はいい男・縹田は深くうなずく。

 中2からの付き合いだが縹田は聡い。授業だけでも、チャラけておいて深い洞察に満ちているのが分かる。

 相当足痺れてるね、可哀想。ヒョロ田は表面だけ労わってくれていたが、思いついたと言わんばかりに細い目をきらめかせると、おもむろに手元の子猫の首筋を摘み上げ。

 私の足の上に置いた。


「……――!?」


 足の指先から背筋まで電流が走った。


「どう!? 先生、「許されるならモフりたい学園のレアキャラ」第三位、三毛猫のトラさんとその子猫ちゃんたちのマッサージは!」


 どうもこうもある?

 しかしどうやら、遊び盛りらしい子猫らしきものは私の見えないところで私の足にどかどかぶつかり、爪を立て、上ろうとする。

 必死で青景の方に這いつくばったまま目くばせする。あなたの相棒、どうにかしろ。

 青景は呆然として、言った。


「トラさんだと…ここ数カ月姿を見なかったというのに…!?」


 そうじゃない。


「ふっ…彼女は出産のため姿を隠していたのだよ…!!」

「縹田お前、子猫を連れより一層警戒心の強くなった、孤高の放浪猫トラさんを抱えられたというのか…どんな手を使った!」

「贅沢缶詰を豊富に買えるお小遣い長者のクニちゃんには到底わかるまい…いりこの偉大さを」

「くっ、煮干しさんだと…トラさんは魚介派だったのか…!?」

「トラさんは俺には子猫を抱えさせてくれるんだぜ…? あとクニちゃんたら、煮干しといりこは別物だよっ」

「そ、そうなのか!」


 どうでもいいわ。

 許されるなら縹田だけはハッ倒したい。怒鳴るなら許容範囲だと思う。だがいかんせん、動けない、言葉にならない。

 うめき声が出せるようになると、這いようにやっと子猫から離れた。突っ伏している前に、女生徒が屈みこんでいた。部員の一色(いっしき)が、ドン引きで私を見ていた。


「…何…?」

「むしろ私が聞きたいんですけど…奇声がして中を見たら青景君たちとトラさんと子猫…意味が分かりません」

「あ、ごめんなさい」


 とりあえず謝っておくことにした。

 一色は青景と縹田のクラスメイトでもある。万人に美人と言われる容姿ではない、らしい。個人的には一重のまぶたにお洒落な眼鏡をした可愛い子だと思う。

 流行を熱心に取り入れたり、友人たちとコスメについて話したり、お洒落を頑張っているらしい様子は実に好感が持てる。今日もなかなか頑張ってるなあと思う程度には、化粧に隙が無い。

 一色は再び控室の扉を閉めると、プルプル震える私の顔をのぞき込む。


「…疲れてます?」

「いや、今日の説諭はちょっと長くて、生まれたての小鹿状態なのは致し方ないと…わかってるって。就任し始めは何だって不慣れだからね、そりゃ疲れているさ」

「まぜっかえそうとするんだから。でも、今日も大変そうでしたね」

「まあね。でも顧問だし、顔出しはしておかないと」

「頑張って下さいね。師範の対応間違えると、本当に機嫌悪いんですよ? 部員たちも委縮しちゃうし」

「あらまあ」

「青景君と縹田君独占されて、指導もあったもんじゃないんですから。土日も大変なんです」

「お、おお…」


 釘刺された。これ休日無くなるフラグですかね。採点もあるし出張もあるのにな。もともと弓道部大会や練習で土日もよく潰れるんだけどさ。まあ教員に休日なんてなかったんや、知ってた。


「あと、部員の何人かもまだ部費と器具が揃ってないから請求しないと…それに、この前の子、道場に来てた」

「ああ、あの時…」


 先日A子嬢が奇襲を仕掛けてきた時だ。あの後師範も荒れて荒れて大変で、縹田ですら、弓道場でA子嬢のことを口に出したがらないほど。ちなみにA子嬢はその後、部活に一度も顔を出していない。というか、学期が始まってから師範が間を空けず部活に来るので、これを避けているようである。そういう意味では、師範サマサマだ。


「そうそう、桜井ってコ! 同じクラスなんですけど、意味わかんないですよ。一年の中でもおかしいってなってて。「わたし、誰が人気とかカッコイイとかそういうの、全然わかんなくってぇ」とか言うくせに、青景君とか縹田にはベタベタ近づいていくんですよ。掃除も委員会活動も自分で勝手にやってて」

「いいことじゃないか…?」

「女子の風紀委員の仕事を勝手にやってるんですよ、青景君の目の前でわざわざ。「わたし気が付くと体が勝手に動いちゃうの」とか言って。じゃあ委員になればいいのに、「生徒会に誘われる予定だからできない」って! 生徒会選挙は秋で、しかも立候補か推薦でしょ」

「そ、そうなの…」

「誰もあんたに清き一票なんて入れませんっての!」


 A子嬢に怒り心頭の態である。どちらかと言えば忍耐型努力系女子の彼女がこれとは。つつけばまだまだ不平不満が出てきそうだ。


「それで、弓道場にきてこの前来てさらに迷惑したか」

「部内は荒れるし、クラスも学校も騒がしくって! 指導してくださいよ。教員でしょ」


 あ、やばい。強烈に面倒くさくなってきた。


「いやあ、まあ、前向きに検討し、善処いたします…?」


 煮え切らない私の返答に、一色は一つ眉を顰め、「もう!」といきなり私の袖をひっつかんでさらに部屋の端に寄せる。戸惑っている私を前に、懐からスマホを取り出しスクロールさせ始めた。


「…校内ではケータイの使用は禁止だったと思うんですがね…」

「これなんですけど」


 向けられた画面に、一言断ってのぞき込む。ずらずらと、通信画面一面に並んだ吹き出し。


――今日も黄葉くんになれなれしくってムカつくんですけど黒瀬。

――ポイント稼ぎごくろーさん。

――なんか勘違いしてるよな。お前の話なんか聞く価値ねえっつーの。

――ホントウザいんですけど。

――ツマンねーな授業。マジ死ねばいいのにあの女。


 悪罵、嘲笑、侮蔑。彼女がスクロールする先にも、「死ね」「ウザい」「キモい」「クズ」「消えろ」の羅列。


「――…いつから?」


 人間、咄嗟の言葉というのは、平凡なものしか出てこなくなるらしい。国語の教員が、これしか聞けなかった。


「このやりとり、ずっと続いているのかい?」

「ここ数週間…四月の末辺りからです。最初は小さな愚痴だったんですけど、だんだん「ムカつく」とか、「ウザい」「死ね」とか増えてきて…昨日は日をまたいで朝方まで続いてたみたい」


 呆れた。寝りゃいいのに。

 知っていてたか、と尋ねられて、私は首を振った。私自身は筆無精で、ごく一部の友人・家族との通信と、新聞・オンライン小説を読むくらいしか使わない。

 昨今、ネット上の問題にはどの教育機関も苦慮している。これまでの大人のノウハウは利かない、ネットに一度情報が挙げられたら、完全に抹消するのはほぼ不可能だ。

 瑠守良実の場合、万全のセキュリティが売りである。個人情報が生徒の端末から流出してはよろしくない。赤宗財閥の情報管理部門が、警察へのコネクションすら使って、常時ネットを監視して注意しているという。生徒側も、世界の大財閥にケンカを売る気は毛頭ないので、決して軽挙は侵さない。姑息ともいえる知恵はあるのだ。

 少なくともこの学園の教員は、生徒たちに電話番号やアドレス、SNSを教えるのも、安全と機密の問題から控えるよう注意を受けている。

 だが、こちらはグループ内限定で、公にはされない。だから、学園側にも気づかれなかったのか、それとも「お目こぼし」か。


「参加人数三ケタって、このアプリ制限超えてない?…少なくとも高1だけじゃないなあ…」

「学校全体のグループで、先生や職員も少なくないみたいです…」


 おいおい、教職員何やってるんだよ、注意しなさいよ、大人でしょう。


「だから、校内荒れてるんです…どうします?」


 SNSの「不用意な」利用は生活指導の範疇だ。教員への悪口もある程度は、子どものガス抜き感覚なのかもしれないが、立派な人権侵害である。これが生徒相手なら一発で教員に報告するのだが。


「…様子見かな。これ以上内容が酷くなれば、上に相談するしかないけど」


 一色は、さほど身長の変わらない私を、どこか胡乱げに見た。


「…ずいぶん、のんびりしてるんですね」

「そうかなあ」

「私が伝えたって、内緒ですよ。ばれたら無視られるし」

「若いって大変だねえ」

「自分も若いくせして…わかってます?」

「わかったわかった、ちゃんと内緒にします。ハズレあさりの様な固いお口です。安心なさい。

 …一色はどうして、このグループのこと教えてくれたの?」


 決して、彼女の得にはならないだろうに。

 言外の意を汲んだのか、彼女は少し、ためらうように目を泳がせ、肩にかかる自分の髪をいじる。


「…友達に誘われて入ったけど、こういうの、やっぱり、知ったら気分良くないでしょ?」


 「やさしいね」と返すと、一色はにっこり笑った。イマドキに色を抜いた髪は流行の髪型で、今日は邪魔にならないようサイドに流しているのが、指先ではじかれ揺れた。


――これを褒めるのも、「ポイント稼ぎ」の内なんだろうか。


 ふと先程の画面が頭によぎる。…考えても詮無いことだ。

 「今日も髪型センス磨いてるね」というと「黄葉のお姉さんが雑誌で紹介していたのだ」「先生もいかがですか」と誘われる。そのまま断る理由もなく、簡単ヘアアレンジ講座を粛々と受けることになった。女子力の死んでいる私が受けてどれ程身になる物か。


 しかし、例年と比べて嫌われ具合がアップしていると思ったら、SNSでもストレスのはけ口になっているとは、考えていなかった。

 気になるのは、赤宗陛下の反応だ。一色も気づくほどの校内の悪感情、赤宗も気づいているのか。しかし私が非常勤の時とは違い、特定の誰かが攻撃しているのでもないから、手をこまねいている?

 文面はギリギリ、「ストレス解消の一環で悪いこととは思わなかった」で流されてしまいそうなものだった。実際、悪いと思っていないだろう。悪口を言っていい、どんな酷いことを言っても許される、そういう存在に見えているんだろう。きっと注意しても、数週間後に、過熱した形で復活する。それぐらい、私は今一番下っ端で、庶民で、攻撃しやすいのだ。

 余計に手出しすると長引くときもある。幸い悪口対象は私自身だし。最悪一年間、気にしなければいいのだ。

 …赤宗には私から言っておくべきかな、陛下ったらシモジモの教育に余念と容赦がなくて困る。ああ胃が痛い。


「ちょっとー、何の話?」


 縹田はひょろりと顔を突っ込んできた。手持ちのいりこを、全部青景にとられたらしい。


「一色に髪型のオシャレの話聞いてる」

「へえ、仲良いんだね。百合先生は珍しいこと聞いてるのね」

「聞いてるけどよくわかんない。スカーフ巻きつけるってどうすんの? 三角巾の付け方と何が違うんです?」

「三角巾って久しぶりに聞いたわ…」


「私、先に道場の片付けに行きますね」と、一色は裏口から、一足先に外に出た。青景は…メロメロだった。実に真剣にいりこをトラさんなる猫に献上している。子猫たちは唯無邪気に、ぴょこぴょこトラさんのしっぽにじゃれついている。成程あの元気さで私の痺れる足にタックルかましてきたわけか…しかし許す、可愛いから。


「…で? 何の話してたの?」

「だから、髪型可愛いねー、あさりの味噌汁美味しいよねーって話」

「関係性がまるでないじゃないの」

「青景さん、部長さんと次回の部活動の相談なんだけど…」

「ハイ残念、もう俺が組んできましたー青景も了承済みですー。新入生歓迎のためのプログラムを続行ですー。でも大体本気ではまった奴が残ってきたから、ちょっとレベルアップします、準備が変わってくるから先生、道場に早めに来てちょ」

「なん…だと…?」


 提示された紙をひったくると、ゆるい筆跡ながらきちんと内容が組んである。弓道に関しては無知非才極まる我が身では、適切な内容かわからないが、青景もゴーサインを出したということは大丈夫なのだろう。

 余談であるが、部長は人の良い笑顔の似合う高3男子である。


「ではそうなると部長の役割とはいったい…」

「部長はこういう、練習メニュー組むのより、新入生歓迎の方に集中してほしいんだよね。青景が前面に出ると面倒じゃない?」

「お、おう…」


 そういえば、天下に恥じぬ眼鏡美人青景と、愛嬌イケメン縹田がいるのに、今新学期が始まって一カ月半、残った新入部員は少ない。


「先生は師範にかかりきりだもんね、でも対応一手に引き受けてくれて助かるよー。俺が組んでるのばれると、ネチネチ言ってくるのよ。主に髪型について」

「また髪の毛の話してる…」

「髪型は意地だ!絶対変えない!

 新入生は俺たちが指導すると練習にならないから、師範がまた怒るし、クニちゃんが目立つことするときゃあきゃあ黄色い悲鳴するし。部長は新入生指導、上手いから」

「だから最近、大ぴらに青景見ないのか…何してんの、縹田?」

「クニちゃんはちゃんと自主練してるし次の大会も大丈夫だお!…いや、一色がこの道場へ続くドアを使わないということは…」


 縹田は静かにするようジェスチャーをすると、道場へ続く扉に身を寄せ、いきなり開け放った。途端、小さな悲鳴がいくつもあがる。


「顧問の先生が師範の対応してくれてんのに、皆は、なあにしてるのかなあ?」


 見れば男も女も、部員が群がってしどろもどろ、右往左往である。私の姿を見ると、気まずそうに、だが確かに奥の方を見ようとしていた。


「え、何事?」

「ナニゴトでしょうねー、先輩後輩も片付けもせず群がってどうしたのかな? 一色は何してんの?」

「いや、だって、扉が途中で閉じて、その、声が…」


 誰が言ったのか、零れてきた言葉に縹田の眉が寄る。と、「どうした?」うしろからいりこを抱えた青景が首を突っ込んできた。


「あっ…お、かげさん!…と、あ! トラさん!」


 青景や私たちの足の間から、退屈そうにあくびする猫の姿が見えたらしい。部員の一部のテンションが明らかに跳ね上がり、次いで、子猫もいる、と喜びが溢れた。


「本当に有名人、じゃなくて有名猫だったのか、トラ…」


 縹田が、「ほら、わかったろ、いままでクニちゃんと俺はトラちゃんにいりこ献上してたの、なーんにもありませんでした、部長に片付けさせてないでさっさと行くー!」と手をひらひらさせていくと、何人かは着替えも済ませていたのか、控室に入って、トラへと近づいていく。他は慌てて、更衣室やら道場奥やらに片付けに消えていった。

 どうやら生徒たちは皆青景、縹田、私がいる控室の様子を、息を飲んで窺っていたらしい。ということは。


「つまり私が、青景達に、密室で陰で八つ当たりをしていると心配されてしまったのか…悪いことをした、今度から扉は全開にしておこう」

「……」

「不信しかない顧問…ただでさえ存在感ないのに、いじめで存在感アピールとか、ないな…また再びどうした、縹田」

「…いや、うん、わかった。しゃーないなー、この先生はって感じだから」


 何やら得心した表情で、縹田は笑った。


「しゃーないから、一肌脱いであげるよ」


 一人で首を縦に振る縹田。ふわふわの頭が細長い体格の上で愉快に揺れる。結局、彼の頭の中で一人完結してしまった。

 相手は生徒であるが、それでも私は、胡散臭いものを見る態度で眺めてしまった。

 ネコを抱えて、先生の痺れる足にけしかけて、ひとしきり遊んで、メニュー広げて、部員追っ払って。


「結局あなた、何がしたかったの?」


 縹田は細い目で、不思議そうに見返した。


「トラさんとの仲を自慢したかっただけだけど?」


 なぜこいつをハッ倒してはならないのだろう。

 唸ってやると、ヒョロ田はまた飄々と笑った。


弓道や弓道場に関しては、浅い知識しかありません。

不勉強ゆえの矛盾点あれば、お教え願えたらと思っております。

友人に早く連絡とらねば…。

師範についても、「こんな人いないだろうに…」とは思いつつ書いております。

不快に思われましたら申し訳ありません。


2020.3.22 改訂

また、ブックマーク、プレビュー、感想等、いつもありがとうございます。

返信は出来ておりませんが、すべて拝見しており、楽しみでもあります。

ご恩返しとして、リクエストとしてかえせたらとは思っています。

ヒマが出来たら…出来たら…リクエスト…いただこうかと思っておりますので…

それはそれ。

今後ともよろしくお願いいたします。


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